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仙台地方裁判所 昭和58年(ワ)574号 判決 1988年2月25日

原告

遠藤明暉

原告

瀬川光雄

右両名訴訟代理人弁護士

青木正芳

山田伸男

秋山幹男

被告

日本国有鉄道承継人日本国有鉄道清算事業団

右代表者理事長

杉浦喬也

右訴訟代理人弁護士

秋山昭八

平井二郎

同指定代理人

天野安彦

外三名

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  申立

一  請求の趣旨

1  原告らが被告に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2  被告は、昭和五八年二月一日以降毎月二〇日限り、原告遠藤明暉に対し金二一万九八〇〇円づつを、原告瀬川光雄に対し金三〇万四一〇〇円づつを各支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  2につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  主張

一  請求原因

1  被告は、日本国有鉄道清算事業団法(昭和六一年法律第九〇号)に基づき、日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)の各種承継法人に承継されない資産、債務等を処理するための業務等を行う目的で設立された法人であり、昭和六二年四月一日、国鉄の本件訴訟の当事者たる地位を承継した。

2  原告遠藤明暉(以下「原告遠藤」という。)は昭和三二年四月一日に、原告瀬川光雄(以下「原告瀬川」という。)は昭和二〇年四月二五日にそれぞれ国鉄に雇用され、国鉄職員(以下単に「職員」ということもある。)たる地位を取得した。

3  原告遠藤は、昭和五八年一月当時国鉄の仙台鉄道管理局小牛田駅構内指導係の職にあって、月額金二一万九八〇〇円の賃金の支給を受けていた。

4  原告瀬川は、右の当時同駅保線区事務係(主任)の職にあって、月額金三〇万四一〇〇円の賃金の支給を受けていた。

5  国鉄及びその承継人たる被告は昭和五八年一月二三日以降、原告らが職員たる地位を失ったものとして取扱っている。

6  よって、原告らは被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と、昭和五八年二月一日以降毎月二〇日限り、原告遠藤に対し金二一万九八〇〇円、原告瀬川に対し金三〇万四一〇〇円の未払賃金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1ないし5の事実を全部認める。

三  抗弁

1  原告らは、昭和五八年一月二三日実施された宮城県遠田郡小牛田町議会議員の選挙に立候補の届出をし、同日小牛田町選挙管理委員会から当選人決定の告知を受けた。

2  日本国有鉄道法(以下「国鉄法」という。同法は昭和六二年四月一日廃止された。)二六条二項、二〇条一号は、職員は国鉄総裁(以下「総裁」ということもある。)の承認を得たものでない限り、市(特別区を含む。以下同じ。)町村議会の議員を兼ねて職員であることができない旨規定しているところ、原告らは、右記載の当選の告知の際総裁の承認を得たものでなかったから、法律上町議会議員を兼ねて職員であることができないものであった。公職選挙法(昭和五七年法律第八一号による改正後のもの。以下「公選法」という。)一〇三条一項は、「当選人で、法律の定めるところにより当該選挙にかかる議員または長と兼ねることができない職に在る者が、一〇一条二項(当選人決定の告知)又は一〇一条の二第二項(名簿届出政党等に係る当選人の数及び当選人の決定の告知)の規定により当選の告知を受けたときは、その告知を受けた日にその職を辞したものとみなす。」と規定しているから、原告らは、右記載の当選の告知を受けた日に職員を辞したものとみなされることとなったものである。

四  抗弁に対する認否

原告らが、昭和五八年一月二三日実施された小牛田町議会議員の選挙に立候補の届出をし、小牛田町選挙管理委員会から当選人決定の告知を受けたこと並びに国鉄法二六条二項、二〇条一号及び公選法一〇三条一項に被告主張の規定が置かれていることは認めるが、その余は争う。

五  原告らの主張

1  公選法一〇三条による失職の効果の不発生

国鉄法二六条二項は、以下に述べるとおり、労働基準法(以下「労基法」という。)七条の趣旨、国鉄法の改正経過、立法趣旨、被告の従来の解釈、運用、民間企業労働者や他の公共企業体労働者の議員兼職に関する規定や取扱との比較のうえで解釈されるべきであり、右を合理的に解釈するならば、市町村議会の議員に当選した者は、国鉄法二六条二項による総裁の「承認」が存在しないことの故に公選法一〇三条一項の適用を受けて当然に職員の職を辞したものとみなされるものではなく、逆に、当該職員からの当選告知後における兼職申出に対して総裁の適法な「不承認」の意思表示がなされたときに始めて、職員としての職を辞したものと解すべきである。

(一) 労基法七条との関係

労基法七条は、「使用者は、労働者が労働時間中に選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。但し、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができる。」と定めている。同条は、主権在民主義、民主主義を宣言し、できる限り広く、かつ平等に国民の参政権を保障しようとする憲法の基本理念を体して設けられたものであって、労基法の諸規定の中でも労働憲章的な意義を有するといわれている。しかして、国又は地方公共団体の議会の議員の職に就くことが、右労基法七条の「公の職務の執行」に含まれることはいうまでもなく、また、労働者が公職に就いたことを理由に使用者から雇用関係を解消することは、実質において公職の執行を拒否するに等しいから原則として許されず、例外的に当該公職の執行が使用者の業務に著しい支障を生ずる場合に限り同条に違反しないと解する余地があるにとどまる。

国鉄その他の公共企業体とその職員の関係は、私的労働契約関係とされ、労基法の適用のあることはいうまでもない。したがって、国鉄法二六条二項は労基法七条と調和的に解釈しなければならない。また、公共企業体の少なくとも一般の職員については、公務員のような政治的行為に対する厳格な制限はなく、したがって、これに基づき一般的に議員との兼職を禁止すべき根拠も格別存在しない。

(二) 国鉄法二六条二項の改正経過及び立法趣旨

国鉄法は、昭和二九年一二月の改正以前(これを「旧国鉄法」という。)は、少なくとも町村議会議員との兼職は無条件に認めていたのであるが、右改正により、市議会議員についても兼職禁止を緩和する措置をとるのと引換えに、兼職の可否を総裁の承認にかかわらしめるという改正法二六条二項但書が付加されるに至った。右改正法案の審議経過等を見ても、総裁の承認という条件を付した理由は、国鉄業務の性質上、当該職員の地位ないし職務内容によっては議員兼職が業務に支障をきたす場合もありうるとの懸念に尽きるのであって、業務上支障のない場合には総裁は兼職を承認すべきであることが当然の前提とされていたことは明白である。即ち、そもそも国鉄の一般職員に対する議員兼職制限の目的は、専らこれによる著しい業務上の支障の防止(職員としての職務専念の確保)といういわば使用者としての国鉄の利益確保にあり、公務等の政治的中立性確保、議員としての公的職務専念の確保、議員と矛盾する職を兼ねることの排除等の公序的要請に基づくもの(被告においても、国会議員、都道府県議会議員との兼職はこの観点から当然に禁止されている。)ではなかったところ、旧国鉄法二六条二項が町村議会の議員以外の地方議会の議員との兼職を一律に禁止しているのは実状に沿っておらず公民権を不当に侵害するものであるとの立場から、市町村議会議員との兼職を一律に許容するとの改正案が提案され、これに対して、駅長や助役などの管理職の多くが議員を兼職した場合には被告の業務に支障が生じることがありうるという例外的な場合について議論がなされ、そして昭和二九年の第二〇回国会において、職務の遂行に著しく支障を及ぼすおそれがある場合を除き総裁は承認しなければならないことを当然の前提として改正がなされ、その際、法文に右業務阻害性を要件とする旨明記するまでもなく、解釈運用上その趣旨は十分達成可能であり、また達成すべきものとされていたのである。以上の経緯からすると、国鉄法二六条二項但書は兼職禁止制度ではなく兼職承認制度を定めたものであるということができる。

このように、国鉄法二六条二項但書はいわゆる兼職禁止法理に基づくものではなく、国鉄の業務遂行の確保の見地から、国鉄と職員との労働契約関係について定めたものであり、職員が市町村議会議員となった場合に、国鉄の業務遂行に著しい支障があると認めるときには総裁は当該職員に対して職員たる地位を失わせることができることを定めたものである。そして、解雇(少なくとも解雇の実質を有するもの)には正当な理由が必要であり、合理的理由のない解雇は無効となるのであるが、国鉄の昭和三九年一二月一〇日総秘達第三号「公職との兼職基準規程」(以下「兼職基準規程」という。)六条が「・・・・業務遂行に著しい支障があると認めたとき、その承認をしてはならない」と定めているのは、解雇の基準を定めたものと理解することができ、同規程は実質上労基法八九条所定の就業規則に該当するものということができる(もともと、国鉄においては労働条件に関する数々の規定や通達の類いを就業規則に相当するものとして取扱っている。)。従って、総裁は国鉄の業務遂行に著しい支障があると認めるときでなければ市町村議会議員との兼職を承認しなければならず、そうでないのに不承認(=解雇)とした場合には、不承認(=解雇)は無効となる。

(三) 民間労働者又は他公社職員との不合理な差別

民間企業の従業員、とりわけ国鉄と同様の鉄道輸送業務を担当する私鉄労働者を例にとれば、地方議会議員への就任ということだけを理由として、その労働者を無給の休職処分とすることも違法であり、いわんや業務支障の有無について慎重な検討も経ずに解雇することなどはとうてい許されないのである。これに対し、仮に、国鉄法二六条二項につき、当選告知日現在総裁の承認のない限り絶対的に失職の効果が生ずるとする被告の見解(以下「自動失職説」という。)をとるとすれば、職員は、単に地方議会議員に就任したというだけで他に何等の理由なくして失職し(解雇予告手当を要しないだけ解雇以上に労働者にとって不利益である。)、それを争い是正する手段を全く奪われてしまうこととなる。両者の不均衡は余りにも著しく、まさに不合理な差別といわなければならない。

また、民営化前の日本専売公社職員については、日本専売公社法上、地方議会議員はもとより国会議員との兼職も禁止されておらず、同じく日本電信電話公社職員の場合は、市町村議会議員まで法律上の兼職禁止の範囲から除外されているが、これに対し、自動失職説がとられた場合の国鉄職員は、旧国鉄法時代は就任を妨げなかった町村議会議員との兼職さえも国鉄総裁の胸三寸により許否が決せられ、多くの場合失職という、刑罰にたとえれば死刑に等しい制裁を受ける危険にさらされることになる。これを右に述べた他公社職員の地位と比較すれば、その不平等は明らかであり、三公社の事業の性質の差異を考慮したとしても余りにも極端な不合理な差別といわざるをえない。

(四) 国鉄の従来の解釈・運用

国鉄職員であって市町村議会議員である者に関しては、国鉄自ら長きにわたり、国鉄法二六条二項の規定を「総裁が不承認としたときは職を失う。」(併せて公選法一〇三条一項により「その職を辞したものとみな」される。)との趣旨に解してその運用を行ってきた。

国鉄の兼職基準規程は、一方で市町村議会議員以外の公職の候補者として立候補し公選法一〇一条二項の規定により当選の告知を受けたときは兼職することはできないものと定めているが(四条)、他方、市町村議会議員に当選した職員のうち兼職を希望する者は、直ちに所属長に兼職の承認願を提出し、その承認を受けなければならないとし(五条)、右承認の基準として、所属長は、現場長その他これに準ずる一人一職の職にある者又は業務遂行に著しい支障があると認められる者については、その承認をしてはならない(六条)と定めていた。国鉄当局も、国鉄法二六条二項は議員当選後に承認手続を行うことを定めたものと理解し、現実に右定めに従って当選の告知後に承認願を提出させて承認、不承認を決定して告知していた。しかも、承認願の提出がなされてから右の決定、告知までかなりの日時を要していた。事前承認、不承認の制度は存在していなかった。

国鉄当局の公定的解釈を示したとみられる日本国有鉄道法研究会(国鉄総裁室法務課内)発行「日本国有鉄道法解説」(以下「国鉄法解説」という。)九八ページもまた、市町村議会議員以外の公職の候補者が当選告知を受けた場合には当然失職するとしつつ、「市(区)町村議会の議員については、当選の告知があっても当然失職とはならず、総裁が兼職の申出を承認しないか、あるいは、その他の理由による本人からの退職申出により、退職の発令をして始めて失職するものと解される。」としている。

このように、国鉄も従来から市町村議会の議員については当選告知があっても当然には失職せず、当選後になされる承認願に対して業務上の著しい支障等の理由により右願の拒否がなされて始めて失職するとの解釈をし、そのように実務を運用してきたのである。

(五) 文理解釈

(1) 公選法一〇三条一項は、法律上兼職が無条件に禁止されている場合を前提とするものであり、国鉄法二六条二項但書該当の場合においては、当選の告知を受けた後であっても総裁の承認がなされれば職を失わないことが規定上明らかであるから、公選法一〇三条一項はそもそも適用の余地がなく、当然に失職するとの効果は発生しない。

(2) 国鉄法二六条二項但書の場合に公選法一〇三条一項を適用しようとすると、解決しがたい困難な矛盾が発生する。即ち、同条項但書は、総裁の承認を得る対象者は市町村議会の議員に当選した者となっているが、当選告知の時点では承認の有無が未確定であるから、公選法一〇三条一項にいう当選告知の日に兼職ができない職にある者であるか未確定であり、当選告知の日に失職とみなす旨の同項の規定は実際上適用できないことになってしまう。のちに、不承認が確定してから当選告知日に遡って失職すると解するのはあまりに便宜的解釈にすぎるし、その場合でも告知日から承認・不承認がなされる日までの間は身分が不確定となり、議員たる地位と他の公職との兼職を一律に禁止し、当選告知日に失職を明確にする旨の公選法一〇三条一項の趣旨に反する状態が発生してしまう。

(3) 自動失職説によっても、国鉄職員であって市町村議会議員の選挙に関して繰上補充の当選の告知を受けた者は、繰上補充の当選の告知を受けてから五日以内に総裁の承認を得れば、法律による兼職の禁止が解除されたことになり、辞職届出をしなくとも当選を失わないとの結論になると思われる。そうだとすれば、ことは当選の効力にかかわる問題である以上、総裁の承認のあったことを明瞭に確認する手段を定めておく必要があるにもかかわらず、公選法一〇三条二項がこの点について何等の規定もおいていないのは、立法者が国鉄法二六条二項但書のケースに対する同条の適用をおよそ予定していないことを端的に示すものである。

(六) 仮に、公選法一〇三条一項が国鉄法二六条二項の場合に適用されるとしても、以下のとおり当選告知後も総裁の承認を求めている間は職員の身分を失わず、承認しないことが明らかになって始めて国鉄法二六条二項及び公選法一〇三条一項による失職の効果が生じると解するほかはない。

(1) 国鉄法二六条二項の文理解釈

国鉄法二六条二項但書が「市町村の議会の議員であるもの」との表現を用い、「議員となるもの」とはしていないことから、右但書自体当選の告知により議員の地位を取得した後、つまり、「議員であるもの」となってから、次いで総裁の承認を受けるという手順を踏むことを予定していると解される。そもそも、当選の告知があるまでは議員としての地位を取得するかどうか法律的には全くの浮動状態にあるから、論理的にも、また実際上も時系列的には承認は当選の告知後とならざるをえない。

自動失職説をとれば、当選の告知により国鉄法二六条二項但書の「議員であるもの」となると同時に、公選法一〇三条一項の「みなし辞職」の効果が発生し、右但書による総裁の承認の余地は一切失われてしまうこととなり、極度に不合理である。したがって、国鉄法二六条二項の文理と実態とを併せ考えれば、当選の告知後も総裁の承認を求めている間は職員の身分を失わず、承認しないことが明らかとなって、つまり、不承認の意思表示があって始めて国鉄法二六条二項及び公選法一〇三条一項による失職の効果が生ずると解する以外にはない。そのように解さないと、総裁が恣意的に何等の意思表示をせずに放置するだけで、議員に当選した職員を失職させうることになる。

(2) 議員と職員との地位の並存

公選法一〇三条二項は、当選人の更正決定や繰上補充等の場合に、当選人と定められた者が議員等との兼職禁止の職にあるときは、「前項の規定にかかわらず、当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会(略)に対し、その告知を受けた日から五日以内にその職を辞した旨の届出をしないときは、その当選を失う。」と定め、一定期間は議員と職員との地位の並存を認めている。公選法自身、公務等の政治的中立性確保等の公序的要請から兼職の禁止されている職についてさえ、地位の並存は一瞬たりとも許されないとの考え方は採っていないのである。

(3) 公選法一〇三条一項の法意

公選法一〇三条一項は、候補者の中にその就いている職が兼職禁止に該当するか気がつかないまま、うっかりして当選を失うような者があっては気の毒であるとの配慮に基づき、同時に、立候補する以上は両立しえない他の職を辞しても当選人となることの方を選ぶ意思であるのが通常であるとの経験則を前提としている規定であるといわれている。しかし、国鉄職員のように総裁の兼職承認があることを期待し、あるいは承認すべきであるとの考えに基づいて候補者になった場合には、右の経験則が必ずしも当てはまらないことは明らかである。

2  本件不承認処分の違法

(一) 原告らの被告職員としての勤務と議員としての活動の実態

(1) 原告遠藤は、左記のとおり過去四回宮城県遠田郡小牛田町議会議員選挙に立候補して当選し、国鉄法二六条二項但書による総裁の承認を受けて左記の期間右議会議員を兼職してきた。

(選挙)    (任期)

①四二年一月一四日 同年二月一日から四六年一月三一日

②四六年一月二四日 同年二月一日から五〇年一月三一日

③五〇年一月二六日 同年二月一日から五四年一月三一日

④五四年一月二八日 同年二月一日から五八年一月三一日

右の間、原告遠藤は、昭和四七年六月までは仙台鉄道管理局小牛田駅構内作業係として、貨車、客車の連結、解放作業及び車両の入換作業に従事し、同年七月からは構内作業指導係(のち構内指導係と改称)として転轍器の取扱作業及び車両の入換作業に従事してきた。そして、公休、代休、非番休等の休日や非番日を利用して議会活動の多くを行っており、いわゆる「公職休」を取って議会活動を行った日数は一年間に僅か一〇日ないし二〇日にすぎないし、公職休を取る場合にも、病気による欠勤等とは異なり、あらかじめ議会の日程は決まっており、予定を組んだうえで同職種の同僚が入替わって勤務についていたのであって、右議員活動によって職員としての勤務に特段の支障が生じたことはなかった。

(2) 原告瀬川は、本件兼職不承認がなされた当時以前から仙台鉄道管理局小牛田保線区事務係の職にあって、契約、会計の事務に従事していた。原告瀬川は、町議会議員に初当選した際に兼職不承認となったものであるが、原告遠藤の実績が示しているのと同様、原告瀬川についても、議員としての活動が被告の職員としての勤務に支障をもたらすとは予想されなかった。

(二) 総裁は業務遂行に著しい支障があるとは認められないとして兼職を承認してきたし、公務を理由とする欠勤が頻回にわたるなど業務支障があった場合には、所属長は勤務の改善を求めるものとし、改善の実があがらないときは承認期間を更新しない取扱とされていたところ、原告遠藤はかつて右改善請求を受けたことも全くなかった。原告らの担当業務、勤務実態及び議会議員としての公務に要する日数、時間等からして、過去において国鉄業務に格別の支障を生じたことはなく、また、今後ともその虞は認められないのであり、この点においても本件兼職不承認は違法である。

(三) しかるに、本件不承認は、原告らの兼職が職員としての業務遂行に具体的に支障があるとして行われたものではなく、「昭和五七年一一月一日以降、新たに又は改選により、公職の議席を得た者に対しては兼職の承認は行わない」との一般的方針(昭和五七年九月一三日総秘達第六六六号「公職との兼職に係る取扱いについて」)に基づき、当該議員としての公務の執行が職員としての業務遂行上支障をきたすと否とに一切かかわりなく、一律機械的になされたことにおいて違法たるを免れない。

しかも国鉄は右一律禁止の理由をその経営状態の逼迫に求めているようであるが、市町村議会議員との兼職を禁止したからといって、何等国鉄の経営状態の改善にはつながらないので、右は兼職禁止の合理的理由とはならない。即ち、原告らの市町村議会議員との兼職は、休暇及び勤務時間外を利用して議員としての活動を行ってきたものであって、被告職員としての職務に何等支障は生じていないし、まれに公職休を取ることがあったとしても、賃金はカットされるのである。また臨時行政調査会の答申及び閣議決定がなされたことは本件不承認の効力に影響を及ぼすものではないし、法律がこれらに優先することも明らかである。結局国鉄は、右一律禁止は現行法上違法であることを充分認識していたものであるが、政府・自由民主党の圧力に屈し、国鉄自らが国鉄法の下で長年採用されてきた兼職の承認願に対する個別審査方法を放棄し、敢えて兼職の一律禁止という違法な措置を断行したものといえるのであって、本件不承認は、国鉄法二六条二項但書及び兼職基準規程六条に違反し無効である。

そして、前述のとおり国鉄法二六条二項但書は国鉄内部の職員の雇用関係について定め、解雇が許される場合を法定したにすぎないといえるので、職員である原告らが市町村議会議員に当選し兼職の承認を願い出た場合に、総裁の承認がなければそれだけで職員としての身分を失うと解することはできず、右のとおり承認しないことが違法・無効であれば、解雇が違法・無効である場合と同様、原告らは職員としての身分を失わないというべきである。

六  原告らの主張に対する認否及び被告の反論

1  原告らの主張1(公選法一〇三条による失職の効果の不発生)について

原告らの主張は明文の規定に反する。国鉄法二六条二項をみれば、職員は承認を受けない限り議員又は長と兼ねることができないものとしているのは明らかであるから、同法が公選法一〇三条一項にいう法律の定めであることに疑問の余地はないし、右国鉄法の規定をもって、職員は不承認とされた場合に初めて職員たる地位を失うと解する余地のないことも文言上明らかである。したがって、職員は、総裁の承認がない限り、市町村議会の議員に当選した旨の告知を受けたときは、法律上当然にその告知を受けた日にその職を辞したものとみなされる効果が発生するのである。

(一) 労基法七条との関係について

国鉄法二六条二項は、原告らの主張にかかる労基法の規定の存在を前提としつつ、職員の地位や職務の特殊性を考慮し、特別法として市町村議会の議員との兼職を総裁の承認にかからせたのであるから、被告職員については国鉄法が優先して適用されるのは当然であり、労基法七条との抵触問題の生ずることはない。

(二) 国鉄法二六条二項の改正経過及び立法趣旨について

原告らは改正法の立法趣旨を誤解している。同改正案の審議に際して議員兼職と職務に与える影響などについて質疑されたことはあるものの、断片的な議論にとどまり、総裁の承認に関する具体的基準についてまで審議されてはいないのである。結局、右改正の趣旨は、職員について市議会議員との兼職を禁止していた従来の立法措置を改めることとしたものの、職員が無条件に市町村議会議員を兼職できるものとすることは国鉄の業務運営上妥当性を欠くこと等から、特に総裁の承認を得た者についてのみ兼職を認めることとし、その承認については総裁の裁量に委ねることとしたものである。もっとも、総裁が承認・不承認を全く恣意的に決定してよいということになるものではなく、法律によって職員の身分に関する決定につき権限を付与された以上はその決定について合理的な裁量判断をすべきは当然であるが、総裁は諸般の事情を考慮して承認をすべきか否かを決することができるのである。

国鉄法二六条二項但書が解雇について定めたものであり、業務遂行に著しい支障がある場合以外の不承認(=解雇)が違法との主張は争う。規定上明らかなように、職員たる地位と原則として両立しえない地位を積極的に取得したことによって当然に失職するという事態が生ずるのであって、総裁の不承認によって始めて職員たる地位を失うのではない。

(三) 民間労働者又は他公社職員との不合理な差別について

民間企業においても、市町村議会議員に就任することを直接または間接の理由として懲戒解雇とすることは許されないが、通常解雇とすることは許されると解されている。また、公選法一〇三条による失職は法律上当然に生ずるものであり、職員はかかる事態を立候補の際に当然予期できるものであるところ、国鉄当局はあらかじめ原告らに対し、当選した場合には総裁の承認を得ることはできず、失職することとなる旨通知していたのであるから、解雇以上に不利益とされることはない。

民営化される前の国鉄、日本電信電話公社及び日本専売公社が三公社と称されてはいたが、その職務内容、公共性等は一律ではないから、その職員に対する取扱いがすべて同一でなければならない理由はなく、その間で差が生じたとしてもそれは政策上の選択の問題である。現に、例えば、超過勤務を命ずる場合についての国鉄法三三条の規定と類似する規定は他の公社法にはないなど、その取扱いは必ずしも同一ではないのであって、兼職の取扱についてそれぞれ差があるとしても不合理な差別ではない。

(四) 国鉄の従来の解釈・運用について

兼職基準規程は、兼職承認に関する国鉄内部の事務手続を定めたものに過ぎず、もとより公選法一〇三条一項及び国鉄法二六条二項の解釈を左右するものではない。国鉄における右規程の運用は、立候補した職員について事実上選挙前に承認するか否かについて意思決定がなされていて立候補者も事前に承認されるか否かを了知していることを前提とし、右規程で定める当選後の承認願と承認は、後日これを手続上明確にしておくものにすぎない。すなわち、立候補した職員について兼職を承認すべきか否かは職員が当選しなければ判断しえない事項ではなく、その一方で、立候補した職員としても当選の暁に自らが職員と兼任できるかどうかを予め承知していなければ将来の身分が不安定なままで選挙活動をせざるをえないという不利益を被るのであるから、職員にとっては、選挙前に、当選の際には兼職の承認を得られるか否かを承知しておくことの方がはるかに有利であって、事前に条件付で承認をするという取扱の方が職員の立場を十分尊重した考え方に立っているというべく、国鉄の兼職承認に関するこれまでの運用実態も右のような考え方を前提としてきたものである。従来、国鉄においては、承認の難しい職員については、選挙前に当該職員にその旨を告知しており(その旨の告知がない場合は、暗黙の承認があったことになる。)、右職員はその時点で職員として留まるか、議員となるかを選択したうえで選挙に臨んでいたのである。これまで、市町村議会議員選挙において公選法一〇三条一項によって失職した職員はなかったが、それは、右に述べたような事前の告知によって立候補予定者が選挙前にいずれかを選択したことによるものなのである。

また、国鉄法解説は、国鉄法研究会の見解であって国鉄の公式見解でないことは明らかである。

(五) 「文理解釈」について

原告らの指摘する「矛盾」は、国鉄法二六条二項但書について、その規定とは全く逆に、総裁の不承認があって始めて兼職が禁止されるとの独自の解釈に立ってのことであり、むしろ、公選法も国鉄法も、その規定するままに解釈すれば何等の矛盾も生じない。しかも、その論ずるところは議員となった後、日を経て総裁の承認がなされるとの前提に立ってのものである。

しかし、既に述べたように、総裁の承認は、事実上事前に条件付で与えられていたのであり、兼職基準規程に基づく手続は、事務手続上の整理にすぎない。また、原告らは国鉄法二六条二項但書をもって「議員となった者」で「その後」総裁の承認を得たものと読もうとするのであるが、そもそも同項但書は職員の欠格条項につき、市町村議会の議員である者は職員であることができないという原則に対して、総裁の承認を得たものはこの限りではないとする例外を規定したものに過ぎない。

右但書の「市町村の議会の議員である者で総裁の承認を得たもの」との表現をもって、議員となる者は、議員となった後に総裁の承認を得るという手順を踏むべきことを意味していると読むのは、条文にその本来有する意味以上のものを持込もうとするものであって、解釈としてこれをとりえないことは明らかである。

原告らのいう矛盾は事前に条件付で承認を与えることによって解決されるところであり、このことは、何等例外規定を設けていない公選法一〇三条一項の規定と、国鉄法二六条二項との規定とが並存することを前提に、これを整合的かつ合理的に解釈しようとする以上、当然の事柄である。

また、公選法一〇三条二項の繰上補充当選の場合は、当該選挙に際し、予め前記の事実上の承認があれば、既にその時点で議員との兼職禁止が解除され当該議員は「法律の定めるところにより当該選挙にかかる議員・・・・と兼ねることができない職に在るもの」に該当せず、同条項の適用の余地がないのであるから、原告の指摘するような確認手段はそもそも必要がないし、また、職員を辞職しない限り当選の効力が発生しないとか、議員の資格を取得できないという矛盾も生じない。

(六) 原告らの仮定主張について

原告らは、国鉄法二六条二項但書の「市町村の議会の議員である者で総裁の承認を得たもの」との表現をもって、議員となる者は議員となった後に総裁の承認を得るという手順を踏むべきことを意味しているというのであるが、かかる解釈は条文にその本来有する意味以上のものを持込もうとするものである。職員は当選の告知があるまでは議員ではないのであるが、だからといって承認が当選の告知ないし告示後とならざるをえないということにはならない。けだし、承認はあらかじめ条件付で与えておくことも可能であるからである。

原告らの指摘する「矛盾撞着」は、議員となった後、日を経て総裁の承認がなされるとの前提に立ってのものであるが、総裁の承認は事前に条件付で与えられていたのであるから、右矛盾撞着は解決される。このことは、何等例外規定を設けていない公選法一〇三条の規定と国鉄法二六条二項の規定とが並存することを前提に、これを整合的かつ合理的に解釈しようとする以上当然の事柄である。

また原告らは、公選法一〇三条二項につき、一定期間議員と職員との並存を認めた規定であると解している。しかし、同条項は、五日以内に従前の職を辞した旨の届出をしない限り当選そのものを失い議員たりえないとともに、かかる届出をするまでは議員ではなく、届出をまって議員としての資格を取得するものとして、地位の並存は認めていないのである。したがって、当選人が例外的に兼職を許容される可能性のある職にある場合に同法一〇三条一項を適用するについても、その兼職が許容されるか否かは、当選の告知の日現在において決すべく、同日において兼職が許容されていなければ同日限り当該職を辞したものとみなされたものとして処理すべきである。

2  原告らの主張2について

国鉄総裁が昭和五七年九月一三日総秘達第六六六号「公職との兼職に係る取扱いについて」の通達に基づき、原告らに対し兼職を承認しないこととしたこと及び原告遠藤が過去一六年にわたり小牛田町議会議員の地位にあったものであり、その間同総裁が兼職の承認をしてきたことは認める。

国鉄はその経営状態が極めて逼迫し、早急にその再建が図られるべく各種の方策がとられていたところ、昭和五七年七月三〇日の臨時行政調査会第三次答申は、「国鉄の膨大な赤字はいずれ国民の負担となることから、国鉄経営の健全化を図ることは、今日、国家的急務である。」との認識の下に、緊急にとるべき措置として一一項目の提案をし、その一として、「兼職議員については、今後、認めないこと」を挙げている。この答申を受けて昭和五七年九月二四日に出された「日本国有鉄道の事業の再建を図るために当面緊急に講ずべき対策について」と題する閣議決定においても、国鉄経営の危機的状況に鑑み国鉄が取組むべき緊急対策の一として、兼職議員の承認の見直しをして、議員兼職については当面認めないこととすべきことが掲げられている。この様な国鉄の置かれていた極めて厳しい経営状況下にあっては、前記昭和五七年九月一三日付総秘達第六六六号による取扱の如く、爾後当分の間、議員との兼職の承認は行わないとした国鉄の措置は、適切かつ妥当なものである。

したがって、原告らは当選の告知を受けた際に総裁の承認を受けていなかったのであるから、その時点で被告の職員たる地位を確定的に失ったのである。

第三  証拠関係<省略>

理由

請求原因事実は全部当事者間に争いがないので、直ちに抗弁について判断する。

一抗弁事実のうち、原告らが昭和五八年一月二三日実施された小牛田町議会議員の選挙に立候補の届出をし、同日小牛田町選挙管理委員会から当選人決定の告知を受けたことは当事者間に争いがない。

二公選法一〇三条一項による失職の効果について

1  <証拠>を総合すれば、国鉄法二六条二項の制定経緯並びに同項に基づく兼職承認の取扱に関し、以下の各事実を認めることができる。

(一)  昭和二九年改正前の国鉄法二六条二項は、町村議会議員を除き地方公共団体の議会の議員は国鉄の職員であることができないとしていたが、昭和二八年七月二九日の第一六回国会参議院運輸委員会において、市議会議員についても国鉄職員との兼職を認めるべきである旨の改正案が議員から発議提出され、審議の中で市町村議会議員すべてにつき兼職を認める代わりに、総裁の承認をその条件とする旨の修正案が提出され、結局、昭和二九年に、同条二項本文で地方公共団体の議会の議員は職員であることができないとの規定を置きつつ、同項但書で「市(特別区を含む。)町村の議会の議員である者で総裁の承認を得たものについては、この限りでない。」との改正案が成立、施行されるに至った。

(二)  国鉄は、昭和三九年一二月一〇日総秘達第三号をもって、「公職との兼職基準規程」を定めた。同規程三条には、「職員が公職の候補者に立候補した場合は、すみやかに立候補届を所属長に提出しなければならない。」との、五条には、「市町村の議会の議員に当選した職員のうち、兼職を希望する者は、直ちに所属長に兼職の承認願を提出し、その承認を受けなければならない。」との、六条には、「前条に規定する承認願の提出を受けた所属長は、現場長その他これに準ずる一人一職の職にある者又は業務遂行に著しい支障があると認めたときは、その承認をしてはならない。」との各定めがある。

(三)  国鉄は、昭和五一年四月七日付事務連絡(総裁室秘書課作成)を発し、公職との兼職の取扱については、兼職基準規程五条の手続に加えて、「今後当分の間、兼職の承認の可否についてその都度総裁室秘書課長と合議をしたうえで決定」することとした。さらに昭和五五年一二月一一日、総秘達第七三九号により、昭和五五年一二月一日以降、兼職の承認は原則として一年を限って行うこととし、その間公務を理由とする欠勤が頻回にわたるなど業務支障があった場合には、所属長は勤務の改善を求めるものとし、改善の実があがらないときは承認期間を更新しない取扱とした。

(四)  臨時行政調査会は昭和五七年七月三〇日「行政改革に関する第三次答申」を出した。同答申は国鉄に関する基本的考え方として、「国鉄は・・・・昭和三九年度に欠損を生じて以来、その経営は悪化の一途をたどり、昭和五五年度にはついに一兆円を超える欠損となった。この間、国からの助成は年々増大し、国家財政の大きな負担となっている。今後とも欠損が増大していくことは確実視されており、今や国鉄の経営状況は危機的状況を通り越して破産状況にある。・・・・国鉄の膨大な赤字はいずれ国民の負担となることから、国鉄経営の健全化を図ることは、今日、国家的急務である。・・・・現在の国鉄にとって最も必要なことは、(1) 経営者が、経営責任を自覚し、それにふさわしい経営権限を確保し、企業意識に徹し、難局の打開に立ち向かうこと、(2) 職場規律を確立し、個々の職員が経営の現状を認識し、最大限の生産性を上げること、(3) 政治や地域住民の過大な要求等外部の介入を排除すること、である。これらのことは、単なる現行公社制度の手直しとか個別の合理化計画では実現できない。公社制度そのものを抜本的に改め、責任ある経営、効率的経営を行い得る仕組みを早急に導入するとともに、労使双方が国鉄の現状を深く認識し、政府と国民の支持の下に、一体となって再建に当たらなければならない。・・・・新しい仕組みについての当調査会の結論は、現在の国鉄を分割しこれを民営化することである。・・・・」との立場をとり、分割民営化による新形態移行までの間緊急にとるべき措置として一一項目を示し、その一項目として兼職議員については今後認めないこととすることを挙げた。

右答申の趣旨に沿って、昭和五七年九月二四日「日本国有鉄道の再建を図るために当面緊急に講ずべき対策について」と題する閣議決定がなされ、「国鉄経営の危機的状況に鑑み、臨時行政調査会の第三次答申の趣旨に沿って、当面、以下により緊急に講ずべき対策に取組むこととする。」として掲げられた一〇項目のうちの一つに「兼職議員については、当面認めないこととする。」ことが挙げられた。

(五)  国鉄は、このような経緯に鑑み、右閣議決定に先立つ昭和五七年九月一三日、総秘達第六六六号をもって「公職との兼職に係る取扱いについて」との通達を発し、昭和五七年一一月一日以降、新たに又は改選により、公職の議席を得た者に対しては兼職の承認は行わないこととした。

2  <証拠>によれば、原告らの議員との兼職に関し、前記争いのない事実を中核とする以下の各事実を認めることができる。

(一)  原告遠藤は、過去昭和四二年一月一四日、四六年一月二四日、五〇年一月二六日及び五四年一月二八日に各実施された小牛田町議会議員選挙に立候補して当選し、国鉄法二六条二項但書が定める国鉄総裁の兼職承認を受けて、昭和四二年二月一日より昭和五八年一月三一日までの間、四期にわたり小牛田町議会議員を兼職してきた。

(二)  原告らは、昭和五八年一月二三日に実施された小牛田町議会議員の選挙に立候補しその旨届出たところ、国鉄は前記第六六六号に基づき、原告らに対し仙台鉄道管理局長名による同年一月一七日付文書をもって、議員兼職の承認はできず原告らが右選挙に当選した場合には職員の地位を失う旨通知した。

(三)  原告らは、昭和五八年一月二三日小牛田町選挙管理委員会から当選人決定の告知を受けた後、議員との承認願を仙台鉄道管理局長宛提出したが、国鉄当局は右承認願の受領を拒否し、公選法一〇三条一項の規定により同年一月二三日以降原告らは職員たる地位を失ったものとして取扱っている。

3(一)  公選法一〇三条一項は、当選人で法律の定めるところにより当該選挙にかかる議員又は長と兼ねることができない職に在る者が当選の告知を受けたときは、その告知を受けた日にその職を辞したものとみなす旨規定しているが、右規定は、各個の法律の規定により兼職を禁止される職にある者について、当選の告知を受けたときは、当該当選人の個別的な意思を問題とすることなく、兼ねることのできない他の職を辞したものとみなすことによって、選挙の結果を優先させることを目的としているものと解される。

他方、前記1で認定したとおり、昭和二九年に改正された国鉄法二六条二項は、本文で、国鉄職員は地方公共団体の議会の議員と兼職することができないとの原則を掲げ、但書において例外的に総裁の承認を得た者は、市町村議会の議員と兼職することができる旨定めている。

そして公選法一〇三条一項と国鉄法二六条二項との関係については、右法条の文言を字義に従って解釈するならば、後者は、前者にいう「法律の定めるところにより・・・・議員・・・・と兼ねることができない職に在る者」を定める法律の一つであるというべきである。

(二)(1) この点につき原告らは、公選法一〇三条一項は、兼職を禁止される議員等の範囲が法律上明確であって兼職が無条件に禁止されている場合を前提とするものであり、国鉄法二六条二項但書該当の場合においては当選の告知を受けた後であっても総裁の承認がなされれば職を失わないことが規定上明らかであるから、公選法一〇三条一項はそもそも適用の余地がない旨主張するが、国鉄法二六条二項は、国鉄職員は承認を受けない限り当該選挙にかかる議員又は長と兼ねることができない旨明確に定めているのであって、後に詳述するとおり、右規定をもって、国鉄職員は不承認とされた場合に始めて職員としての地位を失うと解することができないことも明らかであるから、同法が公選法一〇三条一項にいう「法律の定め」に該当することに疑問の余地はない。したがって、原告らの右主張は採用することができない。

(2) また、原告らは、国鉄法二六条二項の場合に公選法一〇三条一項を適用しようとすると解決しがたい困難な矛盾が発生する旨主張するが、原告らの解釈は、兼職についての承認或いは不承認の決定が当選後日を経て行われるとの前提に立つものであって、実際の承認不承認の決定が右前提のとおりであったと解する必要のないことは後述のとおりであり、また原告らの主張は総裁の不承認があって始めて兼職が禁止されるとの見解に立ったもので、これまた採用することができないことも後に説示するとおりである。したがって、原告らの右主張は到底採用することができない。

(3) さらに、原告らは、繰上補充当選(公選法一〇三条二項)の場合について主張するが、そもそも繰上補充当選という例外的な場合についての規定、しかもかかる予期しない事態につき五日という極く短かい選択考慮期間を付与しただけの規定を根拠として一般論を引き出すという解釈自体相当ではない。また当該選挙に際し、予め国鉄総裁の承認が条件付で得られていれば、その時点で兼職禁止が解除され、当該議員は、「兼職することができない職にある者」には該当せず、同条項が適用される余地はないから、原告らの主張のような確認手段は不必要であるといわなければならない。原告らの主張は、これまた独自の見解であって採用することができない。

(三) 原告らは、国鉄法二六条二項の改正趣旨は、その経緯からすると、むしろ兼職承認制度を定めたものであって、公選法一〇三条一項の趣旨であるところのいわゆる兼職禁止法理に基づくものではなく、国鉄の業務遂行確保の見地から、国鉄と職員との労働契約関係について定めたものであり、職員が市町村議会議員となった場合に、国鉄の業務遂行に著しい支障があると認めるときには総裁は当該職員に対して職員たる地位を失わせることができることを定めたものであって、実質的には解雇の基準を定めたものであるから、国鉄職員の場合には公選法一〇三条一項の適用が排除される旨主張する。しかしながら、前記1の認定事実及び前掲各証拠によれば、国鉄法二六条二項の改正の趣旨は、国鉄職員について町村議会議員との兼職を許容しながら市議会議員との兼職を禁止していたそれまでの原則を改めることを目的としたものであり、ただ無条件に兼職を可能とすると国鉄の業務運営上相当でない結果を招来する可能性があることから、国鉄総裁の承認を得た者に限って兼職を認めることとしたものであって、原告ら主張のように右改正の趣旨を兼職承認制度を定めたものと評価することは相当でないし、また後述のとおり、兼職の承認については、国鉄総裁の裁量に委ねられていると解されるから、同条項が解雇の基準を定めたものであるとの主張もその明文の規定に反する解釈であって、採用することができない。

(四) 民間労働者及び他公社職員との差異に不合理性があるかについて判断すると、国鉄の営業形態が私鉄のそれと類似する面があったにしても、全国にわたって国民全体の交通体系を総合策定し、運行するという国鉄の公的任務及び国営企業として国家財政と緊密に関連している特殊性を無視することは許されず、国鉄職員の議会議員との兼職に公選法一〇三条一項を適用することの合理性は認められるところである。又、同じ公社制度をとっていても、「三公社」の使命、目的、公共性等は一律ではなく、国鉄の業務が他の公社と異なり国民の生命・身体の安全に直結するものである点から言っても、そこに自ずから異なった取扱を必要とする契機が生じ、この点に着目して個々につきどのような取扱をするかは立法政策上の選択の問題であり、その選択に不合理な点があるということはできない。

(五) そうすると、国鉄職員は、国鉄法二六条二項によって市町村議会議員との兼職が原則として禁止されているから、当選の告知前に国鉄総裁の承認を得ていない限りは、公選法一〇三条一項に規定する兼職の禁止されている職にある者と解することができる。

4(一) 以上説示の如く、国鉄職員が市町村議会の議員に当選した場合につき公選法一〇三条一項の適用があると解すべきであるが、同条項所定の失職の効果が具体的に何時発生するかについて検討するに、右条項及び国鉄法二六条二項の文言に則して解釈すれば、国鉄総裁の承認がない限り議員との兼職は認められず、兼職承認がない以上「法律の定めるところにより・・・・議員・・・・と兼ねることができない職に在る者」に該当するというほかないのであるから、職員は市町村議会議員の当選の告知前に総裁の承認を得ていない限り、告知を受けた日に当然職を失うものと解すべきである。

(二) この点につき、国鉄法二六条二項但書は「議員である者」という表現を用いており、「議員となる者」とはしていないが、これは、既に議員となっているという時制や状態を表すものではなく、同項本文の「第二〇条一号に該当する者」の中から市町村議会の議員を特定するための表現であるにすぎないと解すべきであって、原告らのような立場は、右の文理解釈上採用することができない。

(三) また、原告らは、国鉄の従来の運用は、職員が当選の告知を受けた後に総裁に兼職承認願を提出するというものであった旨主張する。たしかに、前記1(二)認定のとおり、昭和三九年一二月一〇日に発せられた国鉄の内部通達である「公職との兼職基準規程」五条、六条は、当選後に兼職を承認する旨定めており、また成立に争いのない甲第二号証によれば、国鉄総裁室法務課有志を中心とする日本国有鉄道法研究会による「日本国有鉄道法解説」には、「市(区)町村議会の議員については、当選の告知をもって、当然失職とはならず、総裁が兼職の申出を不承認としたためとか、あるいは、その他の理由で本人の退職の申出により、退職の発令をしてはじめて失職するものと解される。」との記述が存するところからすると、従前の国鉄における運用は、原告ら主張のような内容のものであったと考えられる。かかる運用からすると、国鉄自らが議員兼職につき公選法一〇三条一項の適用を予定していなかったのではないかと考える余地もないではないが、他方、前記兼職基準規程四条のとおり職員が市町村議会議員に立候補したときはその旨を所属長に届出ることとする国鉄の前記取扱及び弁論の全趣旨によれば、兼職承認に問題のある職員については不承認を示唆するなどして事前に対策を取り、問題のない職員に対しては、当選の告知前に当選を停止条件とする明示ないし黙示の承認を与えていた事実を推認することができる。したがって、当選後に兼職承認願を提出させるのは、停止条件付の兼職承認がなされていた事実を手続上明確にするためのものにすぎないという被告の説明は首肯しうるものである。このように、国鉄の従前の運用を調査してみても、公選法一〇三条一項、国鉄法二六条二項についての当裁判所の前示の解釈が左右されるものではないというべきである。

5 そして、兼職申出に対する承認について、国鉄法の上で、総裁の判断を覊束するような条項は存在しないので、当選人からの兼職申出に対し国鉄総裁がこれを承認するか否かは、総裁の自由裁量に委ねられているものと解すべきである。もとより、その判断に当たり、労働基準法その他の労働関係法規を尊重し、慎重に検討するのが望ましいことはいうまでもないが、そうだからといって、原告ら主張のように、業務遂行に著しい支障のない限り承認すべきであるとの解釈は、公選法と前記3(四)で判示したとおりの政策判断の下に立法された国鉄法の各条文の解釈を逸脱したものといわざるをえない。そして、右の判断に当たっては、国鉄の経営状態、社会情勢等をも広く斟酌することも許されると解すべきである。

6 右のとおり、国鉄総裁は兼職承認に関する判断において諸般の事情を総合考慮して決することができるものとされるところ、当時における国鉄の厳しい経営状況及び国鉄に対する厳しい批判の中で、国鉄が再生を図るために兼職の一律禁止を含めた緊急措置を取ったことには合理性があるというべきである。

7 原告らは、仮に、当選の告知により当然に失職するとしても、当選人の申出に対する国鉄総裁の承認が得られれば、国鉄職員の地位は失わないものであるところ、原告らのした兼職申出に対し、国鉄総裁が承認を与えなかったのは違法かつ無効なものである旨主張する。

しかし、兼職の一律禁止という緊急措置をとったことに合理性があるのは右に判示したとおりであるから、右不承認措置に違法無効の廉はないというべきであり、仮に違法無効であるとしても、そのことから直ちに承認の効果が生ずるものでもないから、結局、当選の告知を受けたことにより国鉄職員を辞したものとみなされるという効果は、何ら否定されないと解すべきである。したがって、原告らにおいてなお国鉄職員の地位にあることの確認を求め、賃金の支払を請求することはできないものといわなければならない。

三以上のとおりであって、本件において、原告らが小牛田町選挙管理委員会から当選人決定の告知を受けた昭和五八年一月二三日までには原告らが国鉄総裁から兼職の承認を受けた事実はないのであるから、右同日をもって原告らが国鉄職員の地位を失ったとする被告の抗弁は理由があり、原告らの請求はいずれも理由がないことに帰する。

よって、原告らの請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官小林啓二 裁判官吉野孝義 裁判官岩井隆義)

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