仙台地方裁判所 昭和59年(ヨ)275号 決定 1984年5月29日
債権者
有限会社金松堂
右代表者
伊勢久治
債権者
伊勢久治
債権者
伊勢龍夫
債権者
伊勢しづ子
債権者四名代理人
佐藤興治郎
長沢由紀子
債務者
後藤洋志
債務者
株式会社遠藤組
右代表者
遠藤文吾
債務者両名代理人
川原悟
川原眞也
新里宏二
主文
債務者らは別紙目録(一)記載の土地上に建築中の同目録(二)記載の建物のうち、二階部分の建築工事を中止し、これを続行してはならない。
(戸舘正憲)
(別紙)
目録
(一)宮城県宮城郡松島町字仙随二四番地一
公園 一、四五五平方メートル
(所有者 宮城県・県立都市公園の一部)
右のうち、分筆前の二四番地四の土地で、同地上にある債務者後藤洋志所有の家屋番号一六九番二・木造瓦葺平家建店舗を解体した跡地67.53平方メートル。
(二)木造二階建店舗(飲食店)
高さ 7.4メートル
建築面積 44.29平方メートル
延床面積 83.41平方メートル
建築確認番号 第松一三〇号
仮処分申請書
〔申請の趣旨〕
債務者らは別紙目録(一)記載の土地上に建設中の同目録(二)記載の建物のうち、二階部分の建築工事を中止し、これを続行してはならない。
との仮処分の裁判を求めます。
〔申請の理由〕
一、当事者の関係
(1)債権者有限会社金松堂(以下単に金松堂という)は、債権者伊勢久治、同伊勢龍夫、同伊勢しづ子の同族が取締役となつており、名勝松島海岸において料理飲食店ならびに土産物販売店を営んでいる会社である。そして、右同族の三名は、別紙目録(一)の土地の北西側にある同目録(三)記載の建物を共有し、これを金松堂に賃貸し、金松堂は、同建物一階を店舗、二、三階を食堂、四階を従業員室その他の居室に使用している。
(2)債務者後藤洋志は、宮城県公園管理事務所が管理する県立自然公園松島の遊覧船船着場兼駐車場の県有地のうち、海岸に面する別紙目録(一)記載の土地を賃借して同地上に左記建物(以下旧建物という)を所有して「サントリ茶屋」の名称で飲食店を経営していたものであり、今般旧建物を解体し、同地上に別紙目録(二)記載の建物(以下本件建物という)を建築着工するに至つた者である。
記
同町松島字仙随二四番地四所在
家屋番号一六九番二
木造瓦葺平家建店舗
床面積 43.80平方メートル
(3)債務者菱和ハウス株式会社、同株式会社遠藤組は、債務者後藤から本件建物建築工事を請負い、これに着手して工事を開始した業者である。
二、名勝松島の眺望と法規制
本件建物および債権者建物の所在地は、自然公園法第四一条および宮城県自然公園条例により県立自然公園「松島」として指定を受けた地域内にあり、同法第四二条、第一七条、同条例第一〇条などにより、現状を変更する工作物を新築し、改築し、または増築をするには県知事の許可を要し、また、文化財保護法第六九条に基づき、同地域は文部大臣が「特別名勝」地域に指定しており、同法第八〇条により、現状を変更する建物の新築改築等には文化庁長官またはその権限の委任を受けた宮城県教育委員会の許可を要することとなつている。とりわけ、本件建物所在地は、前記のとおり名勝松島海岸のなかでも史跡として著名な瑞厳寺、五大堂、福浦橋、福浦島が集中する地域の最重要地点に位置し、宮城県松島公園管理事務所が管理する県有地である。そしてそれは、海岸に面して遊覧船の発着場に近く背後には公営駐車場があり、また国道四五号線やこれに並んで建つホテル、レストラン等からの観望を確保するために開けた平地のなかに、旧建物が平家の茶屋として存在していたのである。債権者らの金松堂建物は、海岸からみて旧建物の背後に四メートルの公道を隔てて存在し、二階、三階のレストラン食堂から名勝の名高い松島湾の景観を広く観望することができるのである。
三、本件建物の及ぼす影響
(1)債務者後藤は、旧建物を解体して二階建の本件建物を新築するため、前記法令等による現状変更の許可を受けて最近着工し、債務者らは基礎工事を終えて現在柱の組立て作業に入つたところである。これが完成すると、建物の高さは、地上7.4メートルとなり、金松堂の二階、三階から松島海岸と松島湾の島々をめぐる美しい眺望は全く阻害され、この眺望を生命とする債権者らの営業利益は甚大な被害をこうむることになるのである。
(2)のみならず、海岸に接する公園地内に本件建物が建築完成すると、背後にある国道やこれに並ぶホテル等からの眺望も著しく阻害され、点在する松島やヨット、観光船などの美しい景観は二階建の本件建物にかくれてしまうことになり、公益上も著しい打撃をこうむる。そして、宮城県自身が自ら公園管理事務所として管理する土地にこのような建築許可を与えるのは明らかに不当であると考えざるをえない。
四、保全の必要性
債務者らの工事は木造建築のため、急ピッチで進行し、本件建物の完成は遠くない状況にある。債権者らの眺望権は、これに害され、本案判決をまつていては回復しがたい損害を受ける。よつて債権者らは取り急ぎ本件建物の二階部分の建築工事の禁止を求めるため、仮処分申請におよんだ次第である。<以下、省略>
答弁書
債権者 (有) 金松堂 外三名
債務者 後藤洋志 外二名
右当事者間の御庁昭和五九年(ヨ)第二七五号仮処分命令申請事件について、債務者後藤、同遠藤組は左記のとおり答弁する。
昭和五九年五月一七日
右債務者後藤、同遠藤組
代理人 川原悟
同 川原眞也
同 新里宏二
仙台地方裁判所民事部御中
記
第一、申請の趣旨に対する答弁
一、債権者らの申立を却下する。
との裁判を求める。
第二、申請の理由に対する答弁
一、第一項中、
(1)認める。
(2)中、一行目から二行目にかけて「県立自然公園」とあるのは「県立都市公園」の誤りである。
その余は認める。
(3)中、債務者菱和ハウス株式会社が本件建物建築工事を請負つたとの事実は否認。
その余は認める。
二、第二項中、
(一)本件建物及び債権者建物の所在地が、自然公園法第四一条および宮城県自然公園条例により県立自然公園「松島」として指定された地域内にあること、自然公園法四二条、第一七条、右条例第一〇条により新築、増改築につき、知事の許可を受ける必要があることは否認。
(二)本件建物所在地が「地域の最重要地点」に位置するとの事実は否認。
(三)国道四五号線やこれに並んで建つホテル・レストラン等からの観望を確保するために開けられた平地のなかに旧建物が建つていたとの事実は否認。
(四)債権者ら建物と本件建物を隔てる公道が四メートルであることは否認。
(五)その余は認める。
三、第三項中、
(1)中、債権者建物の二、三階からの眺望が全く阻害されるとの事実は否認。
債権者らの営業利益に被害をこうむるとの事実は否認。
その余は認める。
(2)否認。
四、第四項
争う。
第三、債務者らの主張
一、債務者後藤は、昭和四九年以来旧建物において、サントリ茶屋なる屋号で飲食業を営んできた。
しかし、旧建物は建築以来、三〇年以上も経た老朽化した建物で、遅かれ早かれ建替をせまられており、また旧建物は客席数も少なく、同債務者はこれらによる営業利益の漸減、経営不振に対処すべく本件建物の新築を思い立つた。
二、そこで債務者後藤は、本件建物の工事を昭和五九年六月二〇日完成引渡の約で債務者(株)遠藤組に請負わせ、(株)遠藤組は昭和五九年四月一一日着工し、現在、二階床工事及び屋根工事が進行中である。
三、本件建物は、本件旧建物の跡地を利用して建てられるものであり、債権者ら建物のほぼ東側に位置する。
ところで、旧建物は高さ少くとも五メートル以上はあつたものであり、新築により約二メートル程高さが増すにすぎない。また、債権者ら建物とは公道を隔てて約七メートルも離れている。
よつて、この程度では、債権者ら建物からの眺望は、三階ではほとんど影響がなく、二階でも窓の一部がさえぎられるにすぎないのである。
結局、債権者ら建物に与える影響は僅少といわなければならない。
四、他方、債務者後藤は旧建物の老朽化や経営内容の改善のため、どうしても二階建にして客席数を増さなければならない状況におかれており、新築が仮処分により一時なりとも差し止められるとすれば、倒産という事態を招くおそれもある。
五、なお、本件建物は、県立都市公園、公園施設として都市公園法五条により設置許可を受けており、文化財保護法八〇条による許可も受けているものである。
また、債権者ら建物以外の付近のホテルやレストラン等からの観望を害する可能性はまつたくない。
六、よつて、債権者らの申請は失当である。