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仙台地方裁判所 昭和60年(ワ)1223号 判決 1992年7月16日

仙台市<以下省略>

原告

右訴訟代理人弁護士

吉岡和弘

東京都中央区<以下省略>

被告

西友商事株式会社

右代表者代表取締役

東京都渋谷区<以下省略>

被告

Y1

岐阜市<以下省略>

被告

Y2

右三名訴訟代理人弁護士

北野昭式

建入則久

同(復)

稲澤宏一

同(復)

小嶋千城

同(復)

片岡剛

主文

一  被告らは原告に対し連帯して二九〇万一〇〇〇円及びこれに対する昭和六〇年一〇月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項について、仮に執行することができる。

事実

第一原告の請求

被告らは原告に対し連帯して六七七万円及びこれに対する昭和六〇年一〇月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二双方の主張

【請求原因】

一  当事者

1 被告西友商事株式会社(以下「被告会社」という。)は、東京穀物商品取引所に加入する商品取引員であり、肩書地に本店を、東京都内の日本橋及び赤坂、大阪並びに仙台に支店をそれぞれ置き、顧客の委託を受けて、大豆等の農産物商品についての先物取引を受託することを業とする会社である。

2 被告Y2(以下「被告Y2」という。)は、昭和五九年一二月当時、被告会社の仙台支店第二営業部課長であり、被告Y1(以下「被告Y1」という。)は、右当時、被告会社の仙台支店第二営業部の社員である。

3 原告は、昭和○年○月に生まれ、昭和○年○月a工業専門学校電気通信本科を卒業した後、b社(後にb1公社、現在はb1株式会社)に勤務し、昭和五九年三月山形県酒田市にあるc所長を最後に退職し、同年四月からd株式会社のc支店(以下にいう原告の勤務先とは同社の同支店を指称する。)に入社し、調査役に任ぜられ、今日に至っている者である。

二  被告らの行為の不法性

1 被告らの行った違法な勧誘・取引等

▲昭和五九年一二月二六日午前九時五〇分ころ

被告Y1は、原告に、電話を入れ、原告に対し、「e会(原告の勤務していたb1公社の幹部らが集う私的親睦会)の方から紹介を受けた」、「商品取引について説明したい」、「空いている時間はないか」、「昼休みはいるか」、「ちょっと伺う」などといって、勧誘した。

原告は、「その気はない」、「余裕の金もない」と一応は断ったが、同僚ないし上司の紹介であるといわれたため、明確には断れずにいた。

▲同日午後零時三〇分ころ

被告Y1は、原告の勤務先を訪れ、原告に対し「酒田に行ってきた、e会の方の紹介だ」、「米国産大豆を買わないか、間違いなく値が上がる」、「今、大豆の値段が最低で、必ず利益がある、実績をみて他の方にも紹介してほしい」などと、出資元本を保証し、かつ、短期間で利益が生じるとの断定的判断を用いた勧誘をした。

原告は、商品先物取引について、何らの知識、経験、また興味もなかったこともあり、「金もないし、今のところその意思もない。今社内の事故処理に追われて忙しいので、そのうち余裕が出たら考える」と答えた。

▲同月二七日九時三〇分ころ

被告Y1は、原告に電話を入れ、原告に対し、「今三七〇〇円で、チャンスだ」、「間違いなく利益が出る、元金はすぐに戻せる」、「とにかくやってみてくれ、昼休みに行くが、いるか」などと話した。

原告は、これに対し、「金がないし、忙しい」、「昼休みはいる」と答えた。

▲同月同日午後一二時一五分ころ

被告Y1は、原告を勤務先に訪ね、「どこか喫茶店はないか」と近くのホテルニュー東北のロビー喫茶室に誘い出し、原告に対し、突然、「三七七〇円で二〇枚買った」、「保証金として一四〇万円必要だ」、「既に買ってしまったから、今さら取り消せない」、「金がないなら、株券でも証券でもよい」、「元金はすぐに返せるから、何の心配もいらない」などと、あたかも、既に建玉をして原告が委託証拠金を支払わざるを得ない状況にあるかのごとく述べ、原告に対し契約締結を迫った。

原告が「勝手にそんなことをしては困る、私は知らない」と抗議したところ、被告Y1は、原告に対し「手を打った、今さら取り消せない」と繰り返すばかりであった。このため、原告は、既に原告のために買建玉をしたとのことばを信じて、委託証拠金を支払わざるを得ないと判断し、被告Y1に対し「半分の一〇枚分であれば、私の小遣い分として何とかなる」、「女房に預金を下ろさせて持って来させるから、明日の一二時三〇分がいい」、「現金か、小切手か」と述べた。

そうすると、被告Y1は、「現金がよい、明日一二時三〇分ころ取りに行く」と答えた。

ここにおいて、原告は、被告会社との間で、右同日、米国産大豆一〇枚について先物取引委託契約を締結した。ちなみに、実際には、被告会社は、昭和六〇年一月四日に至ってはじめて右一〇枚の買玉をしている。

▲同月二八日一二時三〇分

被告Y1は、原告の勤務先を訪ねた。原告は、被告Y1に対し、妻に届けさせた現金七〇万円を委託証拠金として預託し(以下「委託証拠金①」という。)、被告Y1から預かり証を受領した。

▲昭和六〇年一月五日午前一〇時四〇分ころ

被告Y1は、原告に電話を入れ、原告に対し、早口で「急なドル高で、一〇枚の売りが必要になった、七〇万円を都合してくれ」、「一時的に損を歯止めする措置だ」、「現金はすぐ戻る」、「今、手を打たないと、先の七〇万円もふいになってしまう」、「もう時間がない、詳しくは後で説明する」などといった。

原告は、これに対し、「金の都合はつかない」、「だめだ」、「知らんぞ」と終始応諾できない趣旨のことばをいった。

▲同日午後零時三〇分ころ

被告Y1は、再び原告に電話を入れ、原告に対し「手を打った、月曜日(七日)に説明に行く」などと原告に無断で売建玉をした旨を報告し、原告が「そんなことは知らん、話が違う」と抗議したところ、原告に対し「午後五時に、先日会ったホテルニュー東北で会って欲しい、そこで説明するから」といって、電話を切った。

原告は、これに対し、「金は出せない」、「勝手なことをしても、知らんぞ」と述べた。

▲同月七日午後五時ころ

被告Y1は、ホテルニュー東北において、原告が同被告に対し「こちらの資金も考えずに、勝手に対応されても困る」と強く抗議すると、「専門家に任せておけばよい」、「とにかく対処したのだから、金が必要だ、すぐに作ってくれ」などといって、委託証拠金七〇万円の支払いを迫った。

原告は、これに対し、「仕方ない、金策してみるが、どうなるか分からない、約束できない」と述べた。

▲同月八日午前八時三〇分ころ

被告Y1は、原告に電話を入れ、「今日の昼に会社へ金を取りにいく」などと更に迫った。

原告は、借金して、七〇万円をなんとか工面した。

▲同日午後一二時二〇分ころ

被告Y1は、原告の勤務先を訪ね、原告に対し「一月末までには間違いなく返せる」と述べた。 原告は、「今度このようなことをしては困る」、「友達から借金した、一月末までに返済できるのか」と述べたうえ、被告Y1の「間違いなく返せる」とのことばを信じ、七〇万円を委託保証金として支払った(以下「委託証拠金②」という。)。

なお、右一〇枚の売玉は、実際には、昭和六〇年一月五日に建てられている。

▲同月一〇日

被告Y1は、原告に電話を入れ、原告に対し「買いの一〇枚が高値となった、処分して売りに回す、利益が出る」と述べた。

原告は、これに対し、「金はもうないぞ」などと答えた。

▲同月一一日一〇時二〇分ころ

被告Y2は、原告に電話を入れ、原告に対し、「一〇月限の買玉については一〇万円の利益が出たが、売りの方の差金が大となった」、「今、手を打たないと、一四〇万円がなくなり問題だ」、「一四〇万円を守るため、二〇枚の買いを入れる必要がある」などと述べた。

原告は、これに対し、「またか、もう金はない、Y1にも話してある」、「もう対処できない」と抗議した。

被告Y2は、すると、「今、Y1は不在で、急を要するから、電話した」、「歯止めだ、一時的に止めておかねば、大変だ、金はどうにでもなる」、「私も課長をやっている、責任をもって客を守りたい、資金はいますぐ出なくてもよい」、「今手を打たなければ、一四〇万円も保証できなくなる」、「勤務先に伺って説明する」などと迫った。

原告は、「だめだ、対応できない、どうにもならない」、「先日の金も戻ってこない」と答えた。

▲同日午後二時三〇分ころ

被告Y2は、原告に電話を入れ、「近くまで来ている、会社はどこか」と聞いた。原告は、「会社は○○の裏で、国鉄線側だ」と教えた。

▲同日午後四〇分ころ

被告Y2は、原告の勤務先を訪れ、休憩室で説明を始めたが、原告の出席する会議が始まったため、説明を打ち切り、翌日に原告方で原告の妻の同席のもとに説明を聞くことになった。

▲同月一二日午前一〇時ころ

被告Y2は、原告に電話を入れ、原告に対し「今日は、都合で原告方に行けなくなったので、被告会社に来てもらえないか」と申し入れてきた。

しかし、原告も時間的に都合がつかなかったため、結局、被告Y2が同月一四日夕方原告方に来ることになった。

▲同月一四日

被告Y2は、原告に電話を入れ、原告に対し「今晩急に行けなくなった、明日一〇時ころに会社に来てもらえないか」と申し入れてきた。

原告は、妻Bと連絡をとり、同日午後五時ころに、了解する旨の連絡をした。

▲同月一五日午前九時ころ

被告Y2は、原告に電話を入れ、「急に会議があり、都合が悪くなった」、「午後四時ころ被告Y1を説明にやる、よろしく頼む」といって来た。

原告は、これに対し、「仕方がないな」と答えた。

▲同日午後四時三〇分ころ

被告Y1は、原告方を訪れ、原告に説明をした。

▲同月一六日午前一〇時ころ

原告は、被告Y1に電話を入れ、「郵便局から金ができた」と連絡した。

原告は、右同日、右二〇枚に対する委託保証金一四〇万円を支払った(以下「委託証拠金③」という。)。

▲同月二三日

原告が被告Y1に電話を入れて「三八三〇円の買い二〇枚を処分してくれ」と依頼したところ、被告Y1は、「処分だけではだめだ。売った利益で買い増すのだ」といい張った。原告は、「だめだ」といったが、その後は沈黙した。

▲同日午後二時三〇分ころ

被告Y1は、原告に電話を入れ、「三八三〇円二〇枚売り、一二月の三九〇〇枚を買った」といった。これに対し、原告は、「そんなことは依頼していない、処分するだけと頼んだはずだ、勝手なことをしては困る」と抗議した。

そこで、原告は、同日午後二時五〇分ころ、被告Y2に電話を入れ、「先程Y1から電話で依頼していないことを勝手に処理したので、異議を申し立てる」と申し入れたところ、被告Y2は、「私もよくわからない、Y1に聞いて対処する」と答えた。

▲同日午後三時三〇分ころ

そして、被告Y2は、原告に電話を入れ、「何か手違いがあったようだ、今日の話しは全部なかったことにした、Y1を外し、今後は私が責任をもって対処する」といってきた。原告は、「Y1は信用できない、彼の担当は困る、よろしく頼む」と述べた。

▲同年二月八日

被告Y2は、原告に対し、「チャンスだ、絶対上がる、買いを七枚入れる」と申し入れ、原告からの「買いは止めてくれ」とのことばを無視して、買建玉一〇枚を入れた。

▲同月一三日

被告Y2は、原告に対し、「大暴落となった、追証が必要だ、売建玉三八枚を入れて歯止めが必要だ」といって、無断で売建玉三八枚を建てた。

▲同年六月二八日

被告会社の社員Cは、原告に対し、「売りを全部外し、買いを全部入れろ」と持ちかけ、「売り一〇枚を外し、買い一〇枚を入れてくれ」との原告の注文を無視して、買建玉二〇枚を建てた。

2 原告は、被告Y1及び同Y2の前述したような方法により、被告会社に対し、既述した委託証拠金①ないし③のほか、次のとおり委託保証金を要求され、これを支払った。

(一) 昭和六〇年二月一五日 一八六万円(以下「委託証拠金④」という。)

(二) 昭和六〇年二月一六日 八〇万円(以下「委託証拠金⑤」という。)

(三) 昭和六〇年六月二四日 二一万円(以下「委託証拠金⑥」という。)

3 原告は、次のとおり、被告会社の担当者に対し、仕切り要求をし、かつ、委託証拠金返還の催促などをしたが、被告会社の担当者はこれを拒絶した。

(一) 昭和六〇年一月一一日 被告Y1に対し 仕切り要求、委託証拠金の返還を催促

(二) 同年一月二一日 被告Y1に対し 仕切り要求、一月中に一四〇万円の返還を催促

(三) 同年一月二三日 被告Y2・Y1に対し 仕切り要求、一月中に一四〇万円の返還を催促

(四) 同年二月七日 被告Y2・Y1に対し 仕切り要求、今月中に金が必要と返還を催促

(五) 同年三月八日 被告Y2・Y1に対し 仕切り要求、返金できず、困っていると催促

(六) 同年四月一六日 訴外Dに対し 仕切り要求、事情を説明し、困っていると催促

5 原告は、以上のとおり、委託証拠金名下に合計五六七万円を支払った。

三  取引の違法性

被告会社は、後述するとおり、商品取引員として遵守すべき商品取引所法及びその関連諸法令に違反する商行為を行っただけでなく、商品取引員としてあるまじき詐欺的手法を用い、顧客から委託保証金名下に金員を騙取しており、その違法性は重大である。

すなわち、

1 本件各取引については、被告会社の従業員である被告Y1及び同Y2は、原告がもともと先物取引についての知識・経験を有せず、しかも、まだ原告が取引に参画する意思が全くないにもかかわらず、先物取引について形式的説明をしただけで、投機性等の危険性につき十分な説明を行わなかった。

2 被告Y1及び同Y2は、「これから必ず値が上がる」などと断定的判断を述べる等の方法により、出資元本を保証したうえ、確実に利益が得られるかのような断定的判断を提供して勧誘した。

3 被告Y1及び同Y2は、原告に対し、あたかも既に原告の注文を取引所につないだかのごとく嘘をつき、委託証拠金名下に金員を支払わせ、しかも、原告に全く無断で売買を行った。

4 その他、無差別電話勧誘、新規委託者に対する配慮の欠如、手仕舞いの拒否・引き延ばし、両建て等、商品取引において遵守すべき法、取引所指示事項等の各種規則違反の勧誘及び取引行為が存し、これらの行為は、社会通念上商品取引における外務員の行為として許容され得る範囲を逸脱した違法な行為である。

5 また、被告会社の取引高、顧客からの手数料収入等に鑑みれば、被告会社は、向かい玉、ないしはいわゆるノミ行為による客殺しの疑いさえ存する。

四  責任

1 被告Y1及び同Y2は、以上のような違法な勧誘行為、違法な売買取引等を継続的・組織的に行い、原告に対して故意又は過失により、後述の損害を発生させたのであるから、被告Y1及び同Y2には、それぞれ民法七〇九条の不法行為責任がある。

2(一) また、被告会社は、被告Y1及び同Y2が被告会社の事業の執行につき違法な勧誘行為、売買取引を行って、原告に対し不法行為により損害を与えたのであるから、民法七一五条一項により、使用者として原告の損害を賠償する責任がある。

(二) 被告会社は、先物取引委託契約に基づき、原告に対し、契約上要求されるべき注意義務を負っており、これに違反して原告に与えた損害を賠償する責任がある。

五  損害

1 委託保証金分(①ないし⑥) 五六七万円

2 精神的損害 五〇万円

原告は、被告らの前記違法行為により多大の精神的苦痛を被った。

3 弁護士費用 六〇万円

五  よって、原告は、被告会社に対しては民法七一五条一項又は債務不履行責任に基づき、被告Y1及び同Y2に対しては同法七〇九条に基づき、原告に生じた損害合計六七七万円及びこれに対する訴状送達の日(昭和六〇年一〇月二三日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払いを求める。

【請求原因に対する答弁】

一  請求原因一の事実(当事者)について

1 同一1の事実は認める。

2 同一2の事実は認める。

3 同一3の事実は認める。

二  請求原因二の事実(被告らの責任原因)について

1 同二1の事実(被告らの行った違法な勧誘・取引等の行為)について

▲昭和五九年一二月二六日午前九時五〇分ころ

被告Y1が原告に原告主張の日時のころ電話を入れ、原告に対し商品先物取引の説明のために訪問したいと申し入れ、e会の構成員に商品先物取引の紹介をしていると述べたことは認める。その余の事実は否認。

被告Y1は、右電話の際、原告から同日午後零時ころ面談することについて了解を得た。

▲同日午後零時三〇分ころ

被告Y1が原告の勤務先を訪れ、米国産大豆の先物取引の勧誘をしたことは認める。その余の事実は否認。

(被告らの主張)

被告Y1は、右訪問の際、自己紹介をし、被告会社の会社案内書《乙一》を示し、被告会社の説明をし、商品先物取引の説明に入った。

被告Y1は、原告に対し、商品先物取引の仕組み、商品先物取引が投機であり、短期間で大きな利益が出ることもあるが、逆に大きな損を出すこともあること、米国産大豆の相場の変動要因をメモ用紙に手書きしながら説明し、この説明にあわせて、予め持参した商品先物取引の入門的な説明書《乙二》、大豆のパンフレット《乙三》、相場の状況等の資料がファイルされているファイルブックを開きながら、一時間ほど説明をした。その間、原告は、被告Y1の右説明を興味深く聞いていたのであり、被告Y1は、原告に対し、契約の締結を希望して、手書のメモ、右の会社案内、商品先物取引入門、パンフレットを手渡し、その場を辞去したが、原告は、その際、考えておくとのことであった。

被告Y1は、右説明の中で、米国産大豆の相場状況について、見通しとして、今までの実績からみて、その当時は非常に安く、その後は値上がりし、値上がりすれば買建玉は利益が出ると述べているが、原告主張のような元本保証や断定的判断を示しての説明はしていない。

▲同年同月二七日

被告Y1が再び原告の勤務先を訪ね、原告との間で米国産大豆についての先物取引委託契約を締結したこと、原告が初回買建玉を一〇枚で建てることを了解したことは認める。その余の事実は否認。

(被告らの主張)

被告Y1は、前日訪問した際、原告が先物取引に興味がありそうなようすであったため、翌二七日午前九時ころ、原告に電話を入れ、「値が上がりそうだから、どうですか」と先物取引を勧誘したところ、原告は、約定値段六〇kg当たり三九〇〇円以下で買えるようならば、二〇枚(一枚は六〇kgの二五〇倍、すなわち一万五〇〇〇kg)を買ってもよい、と応諾した。そこで、被告Y1は、相場が急騰して、三九〇〇円を超える心配がないか否かを確認すべく、一旦電話を切り、一〇分後急騰材料が特に見当たらないことを確認したうえで、再度、原告に電話を入れて、約定値段三九〇〇円以下で買える見通しであると告げ、併わせて、先物取引委託契約を締結するため、原告を訪問したいと申し入れたところ、原告から翌二七日午後零時に勤務先に来るよう指示された。

そこで、被告Y1は、商品取引ガイド《乙四》、契約書類《乙五》、商品取引委託のしおり《乙六》を準備し、同月二七日、原告の勤務先を訪ねた。

原告は、商談の場所を勤務先近くのホテル内にある喫茶室に移し、同所で、午後零時一〇分から一時間余、被告Y1と商談した。

右商談の初めころ、原告は、二〇枚の買建玉の委託証拠金として必要な一四〇万円(取引単位一枚あたり七万円)をすぐに工面できないことから、先物取引に応ずるか否か態度が不明確になっていた。そこで、被告Y1は、初回買建玉は一〇枚で始めることを勧め、併わせて、先程の電話で二〇枚買うということであったため、「契約書類一式の準備段取りまでしたのであるから、今さらそういわれても困る、何とか契約していただきたい」と頼んだところ、原告は、「初回買建玉を一〇枚とするなら契約に応ずる」とのことになった。

そこで、被告Y1は、原告に対し商品取引委託のしおり《乙六》を示し、主に、一一頁、一〇頁、九頁の「5」の売買取引に係る禁止事項などを説明したうえで、「更によく読んで下さい」と注意して、右しおりを手渡し、しおりの受領書《乙七》を原告から受け取った。

そのうえで、被告Y1は、原告に対し、先物取引委託契約書《乙五》を交付し、受託契約準則(特に七条と八条)の説明をし、先物取引委託契約の承諾書《乙八の一》、通知書《乙八の二》に原告の署名捺印をもらい、これを受領した。

右商談中、被告Y1は、一二月二七日で商品取引所は大納会になっており売買の注文を取り次ぐことはできないこと、新年(昭和六〇年)の一月四日に商品取引所の立会が再開され、売買の注文を取り継げることを説明しており、原告は、昭和六〇年一月四日前場二節に六〇kg約定値段三九〇〇円以下であれば買玉一〇枚を建てることを納得していた。

右のような経緯があって、原告と被告会社との間で、先物取引委託契約及び初回買建玉一〇枚の買建について合意された後、必要な委託証拠金七〇万円を翌二八日午後零時ころ入金するとの段取りとなった。

▲同年同月二八日

原告が被告会社に対し委託証拠金として七〇万円(委託証拠金①)を預託したことは認める。

▲昭和六〇年一月四日

被告会社は、前場二節に原告の初回建玉一〇枚を六〇kg、約定値段三七七〇円で買建てし(①の取引)、被告Y1は、同日午前一一時一〇分ころ、原告に電話でその旨を報告し、原告から異議なく承諾を得た。

▲同月五日午前一〇時四〇分

被告Y1が原告におおむね原告主張の日時のころ電話を入れ、原告に対し、一二月限、売建玉一〇枚を勧め、それに必要な証拠金七〇万円について相談したことは認める。その余の事実は否認。

(被告らの主張)

被告Y1は、右の電話で、原告に対し、予想に反して米国産大豆が値下がりし、カナダ産大豆も値下がりし、このままでは前日建てた買建玉が損を拡大しそうであること、損金の拡大防止のため早めに売建玉を建て、実質的に両建てした方がよいとアドバイスしたところ、原告は、必要な証拠金七〇万円を工面できないという返答であったが、被告Y1は、証拠金七〇万円の入金は後日にして、一〇枚の売建玉を建てることを勧めたところ、原告は、これに応じて、右同日前場三節に一二月限米国産大豆一〇枚を約定値段三七三〇円で建てることにした。

▲同日午後零時三〇分ころ

被告Y1が再び原告に対し原告主張の日時のころ電話を入れ、売建玉一〇枚を約定値段三七三〇円で建てたことを報告したこと、同月七日ホテルニュー東北で面談することになったことは認める。その余の事実は否認。

(被告らの主張)

被告Y1は、右の電話で、原告に対し、売建玉を建てた相場状況、すなわち、契約勧誘時には値上がり見込みであったのが急に値下がりし始めたことを説明したが、原告は、被告Y1に対し「そんなことは知らん、話しが違う」と抗議した。

そこで、被告Y1は、右の相場状況についての更なる説明と証拠金七〇万円の入金の段取りのために、一月七日に面談することになった。

▲同月七日午後五時ころ

被告Y1が原告とホテルニュー東北で面談したことは認める。その余の事実は否認。

(被告らの主張)

被告Y1は、相場状況が値上がりから値下がりになったことについて更なる説明をし、一二月限売建玉一〇枚を一月五日前場三節に建てたことについて報告をし、売建玉一〇枚分の証拠金七〇万円の入金が取引後三日以内に入金されることが必要であると述べたところ、原告は、「こちらの資金も考えずに、勝手に対応されても困る」などと、すぐには支払えない趣旨のことをいったので、結局、一月八日中に入金することになり、その時間については、被告Y1が原告に電話を入れることとなった。

▲同月八日午前八時三〇分ころ

被告Y1が原告に対し右日時のころ入金の段取りのため電話を入れたことは認める。その余の事実は否認。

(被告らの主張)

被告Y1は、原告に対し、右電話で、委託証拠金をいつどこに受け取りに行くのか聞いたところ、原告から、同日午後一二時三〇分に勤務先に取りに来るように指示された。

▲同日午後一二時三〇分ころ

原告が被告会社に対し七〇万円の委託保証金(委託証拠金②)を支払ったことは認める。その余の事実は否認。

右委託証拠金は、被告Y1が原告の勤務先を訪問して、そこで受領したものである。

▲同月一一日

午前九時一五分ころ、被告Y2が原告に電話を入れ、一月一〇日に一月四日付けで買建玉を約定値段三八四〇円で売り仕切り、売買手数料七万円控除後の利益が一〇万五〇〇〇円発生していると述べたこと、一月五日付けの売建玉一〇枚と一月一〇付けの売建玉一〇枚の値洗いが損計算となっていること、売建玉の損失拡大防止のため二〇枚の買建玉を勧めたこと、それに対して原告が「またか、もう金はない」といったこと、被告Y2が入金は後でよいと答えたことは認める。その余の事実は否認。

(被告らの主張)

被告Y2は、右の電話で、原告に対し、一月五日付けの一〇枚及び同月一〇日付けの一〇枚の各売建玉が既に損勘定になっていたため、原告にこれ以上の損を出させないように、買建玉を二〇枚を建てさせて両建てすることを助言した。

原告は、被告Y2の右助言を聞いて、入金は後日ということで、一〇月限二〇枚を前場二節で成行で買い建て、実質的に両建てとすることを承諾した。被告Y2は、その後、右電話で、右買建玉二〇枚の委託証拠金一四〇万円の入金について、同日午後二時三〇分に原告の勤務先で面談することについて原告の了解を得た。

同月一一日午後二時三〇分、被告Y2は、原告の勤務先を訪ね、原告に対し、委託証拠金一四〇万円の入金時期を説明した。原告は、これに対し、買建玉二〇枚が無断でされたとは抗議せずに、右委託証拠金一四〇万円を同月一六日に入金すると明言した。

▲同月一四日

被告Y2が原告に電話を入れたことは認める。その余の事実は否認。

(被告らの主張)

被告Y2は、右電話で、原告から、妻に対する説明のため原告方に来てくれといわれたので、これを応諾した。

▲同月一五日

被告Y2が被告Y1を原告方に伺わせたことは認める。その余の事実は否認。

▲同月一六日

原告が右同日被告Y1に対し右二〇枚に対する委託保証金一四〇万円(委託証拠金③)を支払ったことは認める。

▲同月二三日

原告が被告Y1に電話を入れ同月一一日付けの買建玉二〇枚を売り仕切る指示を出したことは認める。

▲同日午後二時三〇分ころ

被告Y1が原告に電話を入れ、同月一一日付けの買建玉二〇枚を仕切り、一二月限買建玉二三枚を後場一節に三九〇〇円で買い建てたことを報告したことは認める。その余の事実は否認。

▲同日二時五〇分ころ

原告が被告Y2に電話を入れ厳重な抗議をしたことは認める。

▲同日午後三時三〇ころ

被告Y2が原告に電話を入れ、被告Y1の手違いを詫びたことは認める。その余の事実は否認。

(被告らの主張)

被告Y2は、原告から無断売買の抗議が出たことを重視し、原告のためにした売建玉すべてを撤回することが急務であると判断し、被告Y1からの事情聴取をしないで、とりあえず撤回の手続をしたのである。そのうえで、被告Y2が被告Y1に事情を聞いたところ、被告Y1は原告の承諾を得たと述べ、真相は水掛け論となり、不明であったので、原告に対しては被告Y1の言い分を伝えずに、手違いがあったことで処理をしたにすぎない。

▲同年二月八日

被告Y2が原告の意向を無視して買建玉一〇枚を入れたとの事実は否認。被告会社ないしその担当者は、すべて、原告と協議のうえ、限月、枚数、約定日、場節、約定値段を決めて、建玉をした。

▲同月一三日

被告Y2が原告に無断で売建玉三八枚を建てたとの事実は否認。

▲同年六月二八日

被告会社の社員Cが原告の注文を無視して買建玉二〇枚を建てたとの事実は否認。

2 同二2の事実(委託証拠金の支払い)について

原告が原告主張の日に原告主張のような委託証拠金を支払ったことは認める。その余の事実は否認。

3 同二3の事実(仕切り拒否)について

同二3の(三)の仕切り要求があったことは認める。その余の事実は否認。

三  請求原因三の事実(取引の違法性)について

請求原因三の柱書部分の主張は争う。

1 同三1の事実は否認し、主張は争う。

2 同三2の事実は否認し、主張は争う。

3 同三3の事実は否認し、主張は争う。

4 同三4の事実は否認し、主張は争う。

5 同三5の事実は否認し、主張は争う。

四  請求原因四の主張(責任)は争う。

五  請求原因五の事実(損害)は否認。

【抗弁】

一  一部弁済

被告会社は、原告に対し、昭和六〇年七月二六日、原告訴訟代理人弁護士吉岡和弘を介して、八〇万一〇〇〇円を返済した。

二  過失相殺

1 原告は、本件先物取引委託契約を締結した当時○歳であり、昭和五九年三月三一日まではb1株式会社のc所長という要職をつとめ、同社を退職後もd株式会社のc支店に入社し、調査役をしていた者であり、社会的経験・能力に富んでいた。

2 被告Y1は、昭和三二年○月生まれで、本件先物取引委託契約締結当時二七歳であった。

3 被告Y1は、原告に対する勧誘の際、先物取引を初めて行う者が理解しておくべき事項(先物取引の危険性等)をメモ書きながら説明し、併せて会社案内書《乙一》、商品先物取引の入門的説明書《乙二》、大豆のパンフレット《乙三》、商品取引ガイド《乙四》、受託契約準則《乙五》を交付し、各書類に基づいて必要な説明をした。

4 したがって、原告は、被告Y1の右説明を十分理解したうえで、本件先物取引委託契約を締結したものであり、個々の売買注文を自らの意思で行う能力と機会を十二分に有していた。

原告は、先物取引について無知であった旨主張しているが、それが被告Y1の先物取引についての説明後も無知であったとすれば、原告が自ら理解すべき先物取引の危険性等についてその努力を怠り、漫然と本件先物取引委託契約を締結したというべきであり、しかも、原告に交付された右の各書類を読めば、利益保証・断定的判断の提供などが投機の本質上ありえないことを極めて容易に理解できたはずであるのに、それを怠り、外務員のアドバイスに盲従したものであり、原告の過失は重大である。

5 原告の社会的経験が豊かであり、その意思が強固であることは、昭和六〇年一月二三日、原告の注文を取り違えた被告Y1及び被告Y2に対する原告の抗議行動に端的に現れている。すなわち、原告は、被告Y1では埓があかないとみるや、上司である被告Y2に異議を申し立て、被告Y2を通して、自己の意思を貫いている。

6 先物取引委託契約はいつでも解約(手仕舞い)できるものである。原告の社会的経験の豊かさ、意思の強さからみて、損勘定で手仕舞うことは十分できたはずである。にもかかわらず、原告が手仕舞いすることなく継続的に本件先物取引を行ったのは、原告自身損金を挽回したいと考えたからにほかならず、損金の拡大は、原告自身の右取引姿勢に起因するものである。

7 以上の諸事情からみて、被告らに損害賠償責任が認められたとしても、原告の過失は極めて大きく、過失相殺として、原告の損害の八割が減額されるべきである。

【抗弁に対する認否】

一  抗弁一の事実(一部弁済)は認める。

二  抗弁二の事実(過失相殺)について

被告らの本件違法行為は、故意による不法行為であり、過失相殺の法理を適用することは相当ではない。

商品先物取引委託において、外務員の故意による違法な勧誘によって誘発された顧客側の過失は、過失相殺の過失として斟酌することは、商品取引員に違法な利益の残存を容認する結果を招来することになるから、公平の見地からいっても、また解釈論上も許されるものではない。

理由

一  当事者について

請求原因一1ないし3の事実(当事者)は、当事者間(原告と各被告との間の意、以下同じ)に争いがない。

二  先物取引委託契約の成立及び原告の委託証拠金の支払いについて

原告と被告会社との間で、昭和五九年一二月二七日、先物取引委託契約が締結されたことは、当事者間に争いがない。また、請求原因二2の事実(委託証拠金の支払い)についても、原告主張のとおり、原告から被告会社に対し委託証拠金①ないし⑥合計五六七万円が支払われたことは、当事者間に争いがない。

三  被告会社の担当者の行為の違法性について

1  原告が主張する日時のころ(若干の許容すべき時間差を含むが)に、被告Y1及び同Y2らが、原告に電話を入れ(一部は原告から被告会社に電話を入れたものもある。)、あるいは、原告の勤務先に出向いて同所ないしその付近において、原告に対し先物取引委託契約の勧誘をし、同契約締結後は、米国産大豆の先物取引に関して、現在の相場状況ないし将来の予想、売建玉ないし買建玉をすべきか否か、新たな建玉のために必要な委託証拠金の支払いなどについて、会話を取り交したことは、当事者間に争いがない。

2  右の会話の具体的な内容については、原告の主張にそう証拠としては原告本人の供述があり、被告らの主張にそう証拠としては被告Y1及び同Y2の各本人の供述があり、そのかなりの部分において先鋭に対立しており、その詳細な事実関係を細大もらさず再現するように認定することはもとより不可能であるといわざるを得ないが、右各本人の供述の信用できる部分とそうではない部分について、甲三二、三三、五三の1、2、五六、六一をその証拠価値を十分吟味して参考にしながら、慎重に選別して判断すると、本件の事実関係は、詳細なところはともかくとして、基本的なところは、当事者間に争いのない事実を含めて、次のとおりであったと認定するのが相当である。

(一)  昭和五九年一二月二六日、被告Y1は、原告が商品先物取引について全く経験も、知識もないのを知りながら、原告に先物取引委託契約を締結させ、被告会社を介して先物取引をさせようとして、電話を入れ、とにかく面談することを了承させようとした。原告は、先物取引について特に興味を抱くこともなかったが、さりとて、被告Y1の申入れを無下に断ることもできず、結局、被告Y1の勢いやことばに流されて、同日中に、面談することを了承した。

被告Y1は、右の了解に基づき、同日中に原告の勤務先を訪ね、米国産大豆の値段について、間違いなく上がり、必ず利益が出るなどと、利益保証的な説明をして、原告を説得したが、原告は、必ずしも食指を動かす気にはならないまま終わった。

(二)  同月二七日、被告Y1は、原告に電話を入れ、間違いなく利益が出て、委託証拠金はすぐ戻せる趣旨の説明をして、更に勧誘をし、昼休みに面談することについて了解を得て、同日の昼休みに原告の勤務先を訪ね、近くの喫茶店に誘い出し、既に原告のために三七七〇円で二〇枚買い、もはや取り消せないと事実に反する説明をし、原告がそれに見合う委託証拠金を支払わざるを得ない状況にあるとの錯誤に陥らせて、契約締結を迫った。原告は、当初は、契約に応じられないとの態度を堅持していたが、次第に抗し切れなくなり、右の錯誤もあって、結局のところ、半分の一〇枚分の委託証拠金七〇万円を支払うことで妥協的な合意をした。

(三)  同月二八日、原告は、被告Y1に対し、委託証拠金①の七〇万円を支払い、被告Y1は、被告会社の手続に従い預かり証を発行交付した。

(四)  昭和六〇年一月五日、被告Y1は、原告に電話を入れ、急なドル高のため、一〇枚の売りをしなくてはならなくなり、それには七〇万円の委託証拠金が必要になったが、これに応じないと、先の七〇万円(委託証拠金①)がふいになってしまうこと、これは一時的に損を歯止めするための措置であることなどを述べた。これに対し、原告は、終始応諾することはできない趣旨の答えをした。

被告Y1は、同日中に、再び原告に電話を入れ、既に建玉を建てたと報告した。原告は、これに対し、承諾していない建玉であると抗議したが、面談することを了解した。

(五)  同月七日、被告Y1は、勤務先付近のホテルのロビーの喫茶室で、原告と面談し、原告に対し、既にした建玉に見合う委託証拠金七〇万円の支払いを要求した。原告は、これに対し、困惑の情を示すなどし、追認する趣旨の発言はしなかったが、最後までは抵抗し得ず、金策することを渋々ながも了承し、七〇万円を工面することを約諾した。

(六)  同月八日、被告Y1は、右委託証拠金を受領するために、原告の勤務先を訪ねた。原告は、被告Y1の同月末までには必ず返せるとのことばを信じ、委託証拠金②の七〇万円を支払った。

(七)  同月一一日、被告Y2は、原告に電話を入れ、委託証拠金①②の合計一四〇万円を守るため、二〇枚の買いを建てる必要があると縷々説明をした。原告は、これに対し、拒絶する趣旨の返事をした。

(八)  右の二〇枚の買いについては、その後しばらく被告Y2と原告との間でやりとりがあったが、結局、原告が承諾したこととなり、同月一六日、原告は、右の二〇枚に対する委託証拠金③の一四〇万円を支払った。

(九)  同月二三日、原告は、被告Y1に電話を入れ、買い二〇枚を処分してくれるように依頼したところ、被告Y1は、処分するだけではなく、売った資金で買い増しすべきであるとして、これに応ぜず、原告の右の明示的に示された意向を無視して、三八三〇円で二〇枚売り、一二月限三九〇〇円を買い、これを電話で原告に報告したため、原告と論争になり、原告は、被告Y1の代わりに出た被告Y2に対しても、強く異議を申入れ、原告が被告側を押さえ込んだ形で、紛議は収束した。

(一〇)  その後も、原告は、被告Y2、担当者Cらから、右と同様な状況で先物取引の委託に関するやり取りを続けさせられ、原告は、同年七月一六日本件訴訟代理人である吉岡弁護士を紹介され、右翌日同弁護士に本件を依頼し、同日以降は同弁護士が被告会社との対応に当たり、取引終了を迎えた。

3  右判示の事実関係によって検討するに、確かに、個々の取引についてみると、たとえば昭和六〇年一月二三日の原告と被告Y1ないし被告Y2とのやり取りのように、原告がしたたかに対応し、その意向がほとんど抑圧されずに十分に反映されているものもあり、また、委託証拠金の支払いについても、多数回にわたっており、その中には原告が何度も熟慮検討する機会も時間もある状況のもとでその判断に基づいて支払っているものと評価すべきものもあり、いずれの委託証拠金も被告Y1ないし被告Y2が原告から騙取したといえるような状況ではなかったというべきである。

しかしながら、被告会社の担当者である被告Y1、被告Y2、Cらの原告に対する取引開始の勧誘、建玉注文の取り方、建玉の勧め方には、買建玉を建てていないのに既に建てたと殊更に事実に反する説明をしたこと、元本保証及び利益保証について何度も言明したことは否定し得ないこと、原告が先物取引につき経験も知識もないことを知りながら、必ずしも理解の容易ではない種々のことばを尽くして、被告会社側の意向にそうように原告を誘導し、時には原告の意向を無視する建玉をし、安易に両立てを勧め、その他強引ともいえる方法で取引を続けたことに鑑みると、被告会社の担当者が原告との間で先物取引委託契約名下に行った行為は、その全体を通じて違法性を帯びており、不法行為を構成するといわざるを得ない。

そして、被告Y1や同Y2らの以上の行為は、前掲各甲号証によって認められる被告会社が各地でトラブルを続発されている事情、被告会社の仙台支店の規模(被告Y1本人の供述によれば二〇人程度の小規模の組織であることが認められる。)からいって、同被告らの個人的な考え方に基づくものではなく、被告会社の全体か、少なくとも仙台支店の営業方針によるものと推認されるから、被告Y1又は同Y2は、被告会社の他の担当者の行為によって原告に生じた損害についても、不法行為責任を免れることはできない。

したがって、被告Y1及び同Y2は民法七〇九条に基づき、被告会社は同法七一五条に基づき、原告の被った損害を賠償する責任があるもというべきである。

四1  そこで、原告の被った損害についてみるに、原告が被告会社に支払った委託証拠金は、被告Y1ないし同Y2らが騙取したものということはできないものの、原告が被告会社との違法な本件先物取引委託に関する行為により被った損害と評価することができる。

2  なお、原告は、慰藉料の請求をするが、原告の右の委託証拠金の支払ったことによる財産的損害の発生のほかに、被告Y1や同Y2らの行為によって、精神的な苦痛を被ったことについての主張立証はないから、慰藉料の請求は理由がない。

3  弁護士費用相当損害については、原告は、本件を吉岡弁護士に委任するのでなければ、一人では解決し得なかったことは明らかであるから、原告が弁護士費用として要した費用は、相当な範囲で、その賠償を求めることができるものというべきである。その損害額については、後述のとおりである。

五  過失相殺について

原告は、被告らの行為は故意によるものであるなどとして、過失相殺の法理を適用することはできないと主張するが、前述したように、被告らの行為は、個々の行為自体が詐欺行為のような形態で不法行為として成立するものではなく、その全体を通じて、被告会社の担当者の行為が主因となり、原告のこれに対応する行為と相俟って、原告の損害が発生したものというべきであるから、過失相殺の法理の適用を否定すべき理由はない。

原告は、商品先物取引がどんなものであるかについて、少なくとも、被告Y1から交付された小冊子類を後日の機会に十分な時間をかけて見ることで、おおよその認識は得たはずであり《乙一ないし六、被告Y1本人の供述》、少なくとも被告らが指摘する原告のような経歴を有する社会的経験に富んだ者が元本保証・利益保証の取引が全く投機性もなくて存在することがあり得ないことは知り得たはずである。また、被告らが指摘するように、原告は、被告Y1ないし同Y2らとしたたかにやり取りしている局面もあり、社会的経験を十分に積んだ原告が約六か月もの長きにわたって、被告Y1や同Y2らの言動によりその判断を全面的に抑圧され続けたと観念することは困難であり、原告もまた、部分的にせよ、自らの損得の計算に基づき、被告会社との取引をした部分のあることも否定し去ることはできない。

右のような事情、その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、原告の損害は、前記損害五六七万円からその四割相当額(二二六万八〇〇〇円)を過失相殺として控除した三四〇万二〇〇〇円とするのが相当である。

六  一部弁済

被告会社が原告に対し八〇万一〇〇〇円を支払ったことは、当事者間に争いがない。

そうすると、原告の損害は、右一部填補後は二六〇万一〇〇〇円である。

七  弁護士費用相当損害について

本件事案の性質(本件事案が特殊な商取引の分野を対象とするもので、弁護士として専門的な知見・資質を要すべきものであったことなど)、原告の認容されるべき損害額、その他本件に現れた事情によれば、弁護士費用として填補されるべき相当な額は、三〇万円が相当である。

七  結語

したがって、原告の請求は、一部弁済後の損害二六〇万一〇〇〇円と弁護士費用三〇万円との合計二九〇万一〇〇〇円及びこれに対する不法行為の後の日である昭和六〇年一〇月二三日から支払済みまで民法年五分の割合による遅延損害金の連帯支払いを求める部分については理由があり、その余の部分については理由がない。

(裁判官 塚原朋一)

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