仙台地方裁判所大河原支部 平成17年(ワ)53号 判決 2006年3月09日
主文
一 被告は、原告X1に対し、五〇〇万円及びこれに対する平成一七年九月一五日から支払済みまで年六パーセントの割合による金員を支払え。
二 被告は、原告X2、同X3、同X4に対し、それぞれ一六六万六六六六円及びこれに対する平成一七年九月一五日から支払済みまで年六パーセントの割合による金員を支払え。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
(1) 事故の発生
ア 日時
平成一四年一二月一八日午後九時五〇分ころ
イ 場所
宮城県柴田郡村田町大字村田字平郡一六番地 東北道上り三一二・六KP付近道路
ウ 事故車両
普通乗用自動車(<番号省略>)(以下「本件車両」という。)
運転者 A(以下「亡A」という。)
エ 事故態様
亡Aが上記場所を本件車両で走行中、中央分離帯に衝突、本件車両が大破して走行車線上に停止したことから、亡Aが危険回避のため本件車両を降りて路肩に移動しようとしたところ、後続の大型貨物自動車と衝突、さらに後続してきた大型貨物自動車に轢過され死亡したもの
(2) 自動車保険契約
亡Aが死亡時に勤務していたa社は、被告との間で、本件車両につき、搭乗者一名につき損害保険金額一〇〇〇万円などとする自家用自動車保険契約(証券番号<省略>以下「本件保険契約」という。)を締結していた。
(3) 被告の保険金支払義務
ア 本件保険契約の約款である自家用自動車保険契約普通保険約款(以下「本件約款」という。)の搭乗者傷害条項一条一項には、
「第一条(当会社の支払責任)
<1> 当会社は、被保険者が次の各号のいずれかに該当する急激かつ偶然な外来の事故により身体に傷害(ガス中毒を含みます。以下同様とします。)を被った場合は、この搭乗者傷害条項および一般条項に従い、保険金(死亡保険金、座席ベルト装着者特別保険金、後遺障害保険金、重度後遺障害特別保険金、重度後遺障害介護費用保険金および医療保険金をいいます。以下同様とします。)を支払います。
(1) 保険証券記載の自動車(原動機付自転車を含みます。以下「被保険自動車」といいます。)の運行に起因する事故」
との定めがあり、さらに五条には、
「第五条(死亡保険金)
<1> 当会社は、被保険者が第一条(当会社の支払責任)の傷害を被り、その直接の結果として、事故の発生の日からその日を含めて一八〇日以内に死亡した場合は、被保険者一名ごとの保険証券記載の保険金額(以下「保険金額」といいます。)の全額を死亡保険金として被保険者の法定相続人に支払います。
<2> 前項の被保険者の法定相続人が二名以上である場合は、当会社は、法定相続分の割合により同項の死亡保険金を被保険者の法定相続人に支払います。」
と定めている。
イ 本件事故は、亡Aが、高速道路を走行中、中央分離帯に激突して負傷し(本件車両の破損状況から相当な傷害を負ったことは容易に推認できる。)、本件車両が走行車線と追越車線の双方にまたがる形で停車したことから、後続車両による追突の危険を回避するため、路肩に避難しようとした際、後続のB及びC運転の大型貨物自動車に順次轢過されて死亡したものであって、このように、夜間の高速道路において、自損事故を起こして傷害を負った運転者が路肩に避難しようとする際、後続の自動車運転者の発見が遅れ自損事故を起こした運転者を轢過することがあり得ることは容易に予見し得ることであるから、自損事故と後続車による轢過による死亡との間に因果関係があることは明白であり、本件約款の搭乗者傷害条項一条一項、五条の要件を充たす。
ウ 原告らは亡Aの妻及び子らである(法定相続分は原告X1が二分の一、その余の原告らが各六分の一)。
(4) よって、原告らは、被告に対し、保険金として、原告X1に五〇〇万円、原告X2、同X3及び同X4に各一六六万六六六六円のほか、上記各金員に対する平成一七年九月一五日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年六パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
(1) 請求原因(1)ア、イ、ウは認める。
同(1)エのうち、亡Aが東北自動車道上り線を本件車両で走行中、中央分離帯に衝突し、本件車両が大破して停止したこと、亡Aが自動車に衝突されて死亡したことは認め、その余は知らない。
(2) 請求原因(2)は認める。
(3) 請求原因(3)イは争う。
亡Aが自損事故により傷害を負ったとの立証はない上、仮に何らかの傷害を負っていたとしても、少なくとも死亡原因となるほどの傷害ではなく(本件車両内の調査によると、亡Aが重傷を負ったと認められる資料は見付かっていない。)、亡Aの死亡はその傷害の「直接の結果」ではない。
すなわち、本件車両は自損事故により路上中央付近に停止したが、亡Aは、その約一分後、徒歩で道路端へ移動しようとして、後から走行してきたB運転車両に衝突され、さらにその後C運転車両に轢過され、その轢過が原因で死亡したと見られる。したがって、亡Aの本件車両搭乗中の自損事故による「傷害」と「(避難行為とその後の)轢過による死亡」との間には相当因果関係が認められない(なお、原告らは、自損事故と亡Aの死亡との間の因果関係を問題にするが、本件で争点とすべきは「傷害」と「轢過による死亡」との間の因果関係である。)。
第三当裁判所の判断
一 請求原因(1)(事故の発生)について
請求原因(1)ア、イ、ウの事実、同(1)エのうち、亡Aが東北自動車道上り線を本件車両で走行中、中央分離帯に衝突し、本件車両が大破して停止したこと、亡Aが自動車に衝突されて死亡したことは当事者間に争いがないところ、これら争いのない事実に加えて、証拠(甲一、二、七、八、一〇ないし一四、一六)及び弁論の全趣旨に照らすと、以下の事実が認められる。
(1) 本件事故現場は、宮城県柴田郡村田町大字村田字平郡一六番地先の東北縦貫自動車道弘前線上り三一二・六キロポスト付近道路である。現場付近の道路は、南北に走る片側二車線道路で、ガードレールの中央分離帯により上下線が完全に分離されている。道路構造は、進路左側から、幅〇・五メートルのコンクリート基礎部分に設置された路面高一・〇メートルのガードレール(ガードレールから路肩境界部分まで〇・四メートル)、幅一・五メートルの路肩、幅三・六メートルの走行車線、幅三・六メートルの追越車線、幅〇・四メートルの中央分離帯余地部分、幅〇・六メートルの中央分離帯コンクリート基礎部分、高さ〇・六メートルのガードレールとなっている。道路規制は、最高速度八〇キロメートル毎時(終日)である。
現場付近に街路灯等はなく、夜間ということもあって、当時、暗かったほか、交通は閑散としていて交通量はまばらであった。
(2) 亡Aは、平成一四年一二月一八日午後九時五〇分ころ、本件車両(普通乗用自動車、<番号省略>、車幅一・六六メートル)を運転して本件現場付近に至ったが、何らかの原因により運転操作を誤って、三一二・六キロポストの手前約六八・九メートルで中央分離帯のガードレールに衝突した。本件車両は、回転しながら約三七・三メートル先の路肩側のガードレールに後部を接触させ、更に約八・七メートル進んだところで、前部を進路と逆側に向け、前部を走行車線に、後部を追越車線にまたいだ形で、斜めに停止した(以下「本件自損事故」という。)。
本件車両は、本件自損事故により、前部バンパーがナンバープレートごと脱落して、上記中央分離帯のガードレールに挟まった状態のまま取り残され、また、運転席及び助手席のエアバックが作動するなどし、停止した時点では大破して走行不能となっていた。
亡Aは、本件自損事故後すぐに、本件車両を降りて、小走りで路肩の方に避難しようとした(なお、本件自損事故によって亡Aが重篤な傷害を負ったと認めるに足りる証拠はない。)。
(3) Bは、同日午後九時五一分ころ、大型貨物自動車(<番号省略>、車幅二・四九メートル)を、前照灯を下向きにしたまま(照射距離二九・三メートル)、時速約一一〇キロメートルの速度で運転して本件現場付近に至った。Bは、本件自損事故により本件車両が停止している位置の前方五〇・二メートルの地点に至って、進路前方に車らしき物体(本件車両)があるのに気づき、左側に避けて通過しようとしてブレーキをかけつつ左転把しながら同車両を約四一・一メートル走行させたところ、前方約一一・七メートルの地点を人影(亡A)が小走りで進路前方を右から左に横断するのを認め、これを避けるため、右転把した。この結果、B運転車両は、同車両前部を本件車両前部に衝突させ、さらに約一三一・一メートル走行したところで停止した。
亡Aは、B運転車両の前を横断した後、路肩側のガードレールのすぐそばで、中央分離帯の方に顔を向けて片足立ちになり、両手を左右に広げるようにして、同車両をやり過ごそうとしたが、上記右転把によって左に振られた同車両の左後部に接触衝突し、その衝撃により転倒した。
(4) Cは、同日午後九時五一分ころ、大型貨物自動車(<番号省略>、車幅二・四九メートル)を運転し、B運転車両の約三七・五メートル後ろを、時速約一一〇キロメートルの速度で追走して本件現場付近に至った。Cは、本件自損事故により本件車両が停止している位置の前方約六三・七メートルの地点に至って、進路前方に何か物体のようなもの(本件車両)があるのに気づき、左側に避けて通過しようとブレーキをかけつつ左転把したところ、上記(3)のとおり、B運転車両との接触により転倒していた亡Aに同車両前部左側のバンパーを衝突させ(なお、Cは、亡Aが転倒しているのに気づいていなかった。)、その後、同人を車両の下部に巻き込み、引きずり回転させながら車両後方に至らせ、左後輪で轢過した上、車両後部から放出させた。この結果、亡Aは轢死した。Cは、さらに約一四三・三メートル走行し、B運転車両の前方で停止した。
二 請求原因(2)(自動車保険契約)の事実は当事者間に争いがない。
三 請求原因(3)(被告の保険金支払義務)について
(1) 請求原因(3)アの事実は、甲第六号証により認められる。
(2) 請求原因(3)イについて検討する。
本件約款の搭乗者傷害条項一条一項には、前記のとおり、被保険自動車の運行に起因する事故により、被保険者(搭乗者)が身体に傷害を被ったときは保険金が支払われることが、同五条には、被保険者が上記傷害の直接の結果として死亡した場合には死亡保険金が支払われることがそれぞれ規定されている。
この点、同規定の文言のみによれば、死亡保険金が支払われるためには、事故と被保険者の傷害との間に因果関係を要するほか、上記傷害と死亡との間にも因果関係を要するかのようにも見える。
しかしながら、本件約款の搭乗者傷害条項五条が事故による傷害と死亡との間に「直接の結果」を求めているのは、事故と無関係に死亡の結果を生じた場合を除外するためであると考えられ、他に被保険者の事故による傷害と死亡との間の因果関係を厳格に要求すべき合理的な根拠は見当たらない。
そうすると、被保険自動車の運行に起因する事故と被保険者の死亡との間に相当因果関係が認められる限り、本件約款の搭乗者傷害条項五条の要件(「直接の結果」)を充たすというべきであり、保険会社は、同条の死亡保険金の支払義務を免れない。
(3) そこで本件についてみると、事故の状況は前記一で認定したとおりであるが、これらの事実によれば、亡Aは、本件車両搭乗中の本件自損事故により、本件車両が高速道路の中央付近で逆向きに停止したまま走行不能となったことから、後続車による追突の危険等を避けるため、本件車両を降りて路肩の方へ移動しようと考え、高速度で走行してきたB運転車両の進路直前を横断して路肩側のガードレール付近まで避難したが、亡Aを直前で認め同人を避けるために右転把したB運転車両をやり過ごすことができず、これに接触して転倒したところを、同車両のすぐ後ろを高速度で追走していたC運転車両に轢過されて死亡したと認められる。そして、本件自損事故から亡Aの轢過による死亡までの出来事は、わずか一分程度の間に起こったものである上、本件自損事故により本件車両が停止した位置(走行車線と追越車線の境界付近)と亡Aが転倒し轢過された位置(路肩側ガードレール付近)とはせいぜい五、六メートルくらいしか離れていない。
このように、本件自損事故と亡Aの轢過による死亡は、時間的・場所的に極めて近接して起きた瞬時の出来事といえる上、高速道路上で事故を起こして走行不能となった車両の搭乗者が当面の危険を避けるため、他の車両がかなりの速度で走行する中を横断して路肩の方に避難することや、本件事故当時のように交通が閑散としていた場合、これに気を許した車両運転者が法定速度を上回る高速度で高速道路を走行し、事故現場が暗いことともあいまって、時に上記のような経緯で高速道路を横断している者を発見するのが遅れて、衝突轢過してしまうことは容易に予見し得るところであることにも照らせば、本件自損事故と亡Aの轢過による死亡との間には相当因果関係を認めることができる。
したがって、被告は、亡Aの死亡に関し、死亡保険金を支払う義務がある。
(4) 甲第三、四号証によれば、原告X1が亡Aの妻であること、原告X2、同X3及び同X4が亡Aの子らであること(請求原因(3)ウ)が認められる。
(5) 以上より、被告は、本件約款の搭乗者傷害条項五条に基づき、亡Aの法定相続人である原告らに対し、その法定相続分に応じて保険金(一〇〇〇万円)を支払う義務がある。
四 結論
よって、原告らの各請求は理由があるから認容する。なお、仮執行宣言は相当でないから付さないこととする。
(裁判官 兒島光夫)