仙台家庭裁判所 昭和54年(少)679号 決定 1979年5月01日
少年 T・I(昭三四・五・一三生)
主文
少年を中等少年院(交通短期)に送致する。
理由
(犯罪事実)
当裁判所の認定した犯罪事実は司法警察員作成の昭和五四年四月八日付少年事件送致書記載の犯罪事実と同一であるから、それをここに引用する。
(適条)
業務上過失傷害につき刑法二一一条前段
道路交通法違反につき道路交通法一一七条。一一九条一項一〇号。七二条一項
(処遇理由)
少年は、高校一年の一二月頃シンナー遊びを覚え、高校中退後就業してからはしばしばシンナーを吸うようになり、その後度々補導されたり、父親から厳しい注意を受けたにも拘わらず一向に改めようとはせず、昭和五三年一二月二二日シンナー吸引を理由に保護観察処分を受けるに至つた。
しかるに、翌五四年一月頃からボンドを吸つたうえで車を運転することに快感を覚えるようになり、同種行為を繰り返した挙句今回の事故に至つたもので、この他にも同年三月二日飲酒運転によるあて逃げ事件も起している(現在未送致)。
このように少年の法規軽視傾向は甚しく、今後も同種非行の恐れは極めて強い。但しシンナー・ボンド吸引については、単独で吸うことは比較的少なく、地縁的つながりのある同年輩者との集団吸引が多いという特徴があり、心理的身体的依存度はそれほど深くないと認められる。その他一般非行はこれまで見当たらない。
少年の資質面における問題点については鑑別結果通知書に詳しく記載されているところであつて、自主性に乏しいため付和雷同しやすい反面自己顕示傾向も強く、また不平不満を内在しやすいことが指摘でき、このような性格と地域性が結びついて本件非行に至つているものと考えられる。
少年の家庭は両親健在ではあるが、これまで度々注意してきたにも拘わらず非行が反覆されてきたことに自信を失い、また現在二度に亘る交通事故による賠償問題で頭を痛め、少年を指導する余裕も失なつている。
これらの諸事情に、これまでシンナー・ボント・交通違反のほかこれといつた一般非行のないこと、シンナー・ボンド吸引が車両運転の手段化しつつあること、間もなく成人を迎え、今後はシンナー・ボンド吸引よりも車両運転に関する非行が問題視されるべきだと考えられること等を考慮すれば、今回は交通教育を専門に行なう施設に収容して法規遵守の心構えを身につけさせることが望ましいと思料される。
よつて、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項を適用して主立のとおり決定する。
(裁判官 廣澤哲郎)
犯罪事実
一、被疑者は自動車運転の業務に従事する者であるが昭和五四年四月五日午後七時二五分ごろ、刈田都○○町大字○○字○○××番地道路において、普通乗用車○××り××××号)を運転して○○町○面から○○○方向に進行するにあたり、同所付近は、民家、商店等が密集し、自転車・歩行者の通行も多く、さらには、公安委員会による規制速度が最高・時速四〇キロと指定されており、街路灯もなく、暗かつたのであるから、自動車運転者としては指定速度に減速し、自車の前方を注視して進行すべき、業務上の注意業務があるのにこれをおこたり、特速約六十キロメートルで助手席の同乗者と雑談しながら、前方に対する注視を欠いたまま漫然進行した結果、自車前方左側を自転車に乗つて進行中のA子(五三歳)を、前方五、一メートルの至近距離において発見、減速措置をしないまま、自車前部を被害自転車の後部に追突させ、転倒させて、同被害者に対し、加療三ヶ月間を要する頭部挫創、左恥骨骨折等の傷害を負わせ、さらに
二、被疑者は、前記、犯罪事実の交通事故を起し被害者を負傷させたのにこれを救護せず逃走し、さらに
三、被疑者は前記事故発生について、道路交通法にもとづく事故の届出をしなかつたものである。
〔参考〕処遇勧告書<省略>