仙台高等裁判所 平成10年(ネ)341号 判決 1999年7月23日
東京都中央区<以下省略>
控訴人
(附帯被控訴人。以下「控訴人」という。)
豊商事株式会社
右代表者代表取締役
A
右訴訟代理人弁護士
吉田訓康
宮城県宮城郡<以下省略>
被控訴人
(附帯控訴人。以下「被控訴人」という。)
X1
宮城県宮城郡<以下省略>
被控訴人
(附帯控訴人。以下「被控訴人」という。)
X2
宮城県多賀城市<以下省略>
被控訴人
(附帯控訴人。以下「被控訴人」という。)
X3
右三名訴訟代理人弁護士
吉岡和弘
同
小野寺信一
同
齋藤拓生
主文
一 本件控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
二1 控訴人は、被控訴人X1に対し、七四三七万五〇〇〇円及びこれに対する平成七年一一月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 控訴人は、被控訴人X2に対し、五四一二万五〇〇〇円及びこれに対する平成七年一一月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 控訴人は、被控訴人X3に対し、八〇〇万円及びこれに対する平成七年一一月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 本件各附帯控訴を棄却する。
四 訴訟費用は、附帯控訴費用を除き、第一、二審を通じて二分し、その一を控訴人の負担とし、その余を被控訴人らの負担とし、附帯控訴費用は被控訴人らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 控訴の趣旨
(一) 原判決中、控訴人敗訴の部分を取り消す。
(二) 被控訴人らの請求を棄却する。
(三) 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
2 附帯控訴の趣旨に対する答弁
(一) 本件各附帯控訴を棄却する。
(二) 附帯控訴費用は被控訴人らの負担とする。
二 被控訴人ら
1 附帯控訴の趣旨
(一) 原判決を次のとおり変更する。
(二) 控訴人は、被控訴人X1(以下「被控訴人X1」という。)に対し、一億八七〇〇万円及びこれに対する平成七年一一月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(三) 控訴人は、被控訴人X2(以下「被控訴人X2」という。)に対し、一億二八〇〇万円及びこれに対する平成七年一一月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(四) 控訴人は、被控訴人X3(以下「被控訴人X3」という。)に対し、一七〇〇万円及びこれに対する平成七年一一月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(五) 訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。
(六) 仮執行宣言
2 控訴の趣旨に対する答弁
(一) 本件控訴を棄却する。
(二) 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二当事者の主張
当事者の主張は、原判決「事実」欄の「第二 当事者の主張」記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決一〇頁一一行目の「三一〇万円」の次に「、七月一二日、三四五万円」を、一九頁一一行目の次に、行を改め「(三)」として「同(三)は争う。」を加える。
第三証拠関係
原審及び当審記録中の各書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 本件の判断の前提となる事実関係(本件取引の経過)は、原判決二三頁五行目から四一頁三行目まで説示のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決二三頁八行目の「七二号証」を「七三号証」に改め、三七頁末行の「角印」の次に「(いずれも正規のものではなく、Bの偽造に係るもの)」を、三八頁一行目の「発行した」の次に「(なお、その多くには、控訴人仙台支店の別の従業員も発行に関与していることを装うべく、「C」なる印鑑で割印をしていた。)」を加える。
二 当裁判所も、被控訴人らの本訴各委託証拠金返還請求は、いずれも理由がないものと判断する。その理由は、原判決四一頁五行目から四二頁三行目まで説示のとおりであるから、これを引用する。
三 被控訴人らの本訴各損害賠償請求に関する当裁判所の判断は、次に訂正、付加するほか、原判決四二頁四行目から五八頁一一行目まで説示のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決四二頁八行目の「入れること」の次に、「、若しくは、これに類似する方法」を加え、四三頁三行目の冒頭から四四頁二行目の末尾までを左のとおり改める。
「Bの行為は、実際には、控訴人の了解、承認の下に、控訴人から付与された権限の範囲内で行われたものではない。しかし、前示の事実関係によれば、Bは、控訴人の仙台支店長という地位にあることを前提として、まず、被控訴人X1に対し、正規の先物取引を勧めた上、いずれにしても、控訴人の先物取引上の取引操作の話をもち出して、自己の右支店長としての権限により、そのような取引操作が可能である旨、言葉巧みに、かつ、種々のそれらしき事実関係を作出して、同被控訴人から本件出資金を交付させ、さらに、同被控訴人を介して、同様の前提、方法により、被控訴人X2、同X3からも本件出資金を交付させるに至ったと認められるのであって、かかるBの行為は、Bの仙台支店長としての本来の権限に密接に関連し、その権限を前提として、これを直接的に利用することにより行われたものと評価することができ、したがって、Bの行為は、客観的、外形的には、控訴人の事業の執行についてされたものと判断するのが相当である。」
2 同四四頁七行目の「適法に」を「控訴人の了解、承認の下に」に改め、八行目の末尾に左のとおり加える。
「もっとも、前示の事実関係のうち、Bが平成七年一一月三〇日付けで作成した「預り証」(甲一、三、五号証)中に、利回りについて、それまでの出資金元金の五パーセントとの話と異なり、突如として「出資金元金の二パーセント」なる記載がされていること(この点について、被控訴人らは、Bの方で言いだしたと供述するだけで、その他の説明をしていないが、かえって、被控訴人X1作成に係る右預り証の下書きと解されるメモ(乙三二号証の1)が存在することからすると、むしろ、被控訴人ら側から、右のような記載をするように指示したことがうかがわれる。)、さらに、被控訴人らが、当初、控訴人に対し、本件出資金の返還を求めた際、右出資金の交付経過について、前示の事実関係とは全く異なり、右預り証を根拠として、一一月三〇日に被控訴人らがそれぞれ右預り証記載の金額の出資金を一括してBに交付したとの主張を展開したこと(乙一号証)などの事情からすると、被控訴人らは、Bに右預り証を作成させたころには、既にBがなかなか思うように出資金の返還をしない経過から、Bの言動に疑問を抱き、あらかじめ、控訴人に対する請求をも視野に入れた対応をとり始めていたとの疑いが強いといわなければならない。しかし、仮に、そうであるとしても、その段階では、既に、実際の被控訴人らからBに対する本件出資金の交付はすべて終わっていたのであり、本件損害賠償請求との関係において、被控訴人らに途中から悪意が生じたと解する余地はないというべきである。」
3 同四八頁六行目の「六号証」の次に「。なお、甲四九ないし五二号証のように、Bが発行したその他の領収証もほとんど同様の体裁であったと認められる。」を加え、五〇頁一一行目の「無理からぬものがあった」を「、その点は、なお、相当大きな過失があったというにとどまるもの」に改め、末行から五二頁八行目までの「(3)」の全文を左のとおり改める。
「なお、前記のとおり、残高照合通知書に本件出資金に関する記載が何ら存しなかった点については、そもそも、被控訴人らにおいても、Bがもち出した本件取引の話が控訴人の正規の先物取引自体ではないことは認識していたのであって、そのことを前提とすれば、むしろ、右残高照合通知書の記載内容をもって、被控訴人らがBの話に不審を抱く重要なきっかけになり得るものであったとは認め難い。」
4 同五二頁九行目の「考慮すれば」を「考慮し、さらに、一般に、損害賠償請求自体を否定する結果となる重過失の認定には、公平の見地からしても、相当に慎重にならざるを得ないことなどをも勘案すれば」に改め、五三頁一行目の次に、行を改め「5」として左のとおり加える。
「ところで、控訴人の主張には、被控訴人らの本訴損害賠償請求が民法七〇八条の趣旨に照らし許されないとの主張を含むものとも解されないではないので、念のため、この点についても判断する。
確かに、被控訴人らがBに対し本件出資金を交付した動機に関しては、Bの説明自体からして、その細かな取引操作の内容までは明確でないにしても、要するに、他人の取引を利用し、そこから生ずる利益を被控訴人らの方に回してもらうという要素を含むものであったことは否定し難く、その点において、被控訴人らの右出資金交付の動機に、民法七〇八条にいう不法性の要素がなかったとはいい難い。しかし、反面、これと対比すべきBの側の不法性についてみるに、そもそもBは、被控訴人らを欺罔して本件出資金を騙取するという故意犯罪を犯したものであり、しかも、その経過をみても、専ら、Bが被控訴人らに積極的に働きかけた結果、被控訴人らがこれに応じて本件出資金を交付するに至ったものであって、被控訴人らがBに対し、先に多額・確実な利益を要求したものでも、本件取引のような正規の先物取引以外の方法を示唆・提案等したものでもない。これらの事情を勘案すれば、Bの側の不法性は、被控訴人らのそれに比して、極めて強いものと評価せざるを得ず、したがって、被控訴人らの控訴人に対する損害賠償請求は、民法七〇八条の趣旨に照らしても、許されないわけではないというべきである(後記のとおり、被控訴人らの不法性については、過失相殺の際の一事情として考慮すれば足りると解すべきである。)。」
5 同五四頁二行目の「看過して」の次に「、特に、Bが出資金の返還を行わなくなった後も、なお、多額の出資金の交付を重ね(前示のとおり、Bが約束どおりに利益金を持参して被控訴人X1宅を訪問しなかった八月一〇日以降における本件出資金の額は、被控訴人ら三名合計で二億一九八五万円に上り、それ以前の額を大幅に上回る。)」を加え、九行目の「相当の過失」を「重大な過失とまではいえないとしても、相当大きな過失」に改め、九行目の次に、行を改めて左のとおり加える。
「また、前示のとおり、被控訴人らがBに対し本件出資金を交付するに至った動機に関しては、一定の不法性の存在を否定し得ず、このような動機の不法性は、それが被控訴人らに損害が生ずるに至った経過の中での前提要素の一つである以上、控訴人に対する損害賠償請求との関係では、過失相殺の一要素として考慮するのが衡平の原則にかなうものというべきである。」
6 同五四頁一〇行目から五五頁九行目までの「2」の全文を左のとおり改める。
「他方、控訴人側の事情についてみると、まず、B自身に極めて強い不法性が存する点自体、控訴人の責任が本来の共同不法行為責任ではなく、使用者責任にとどまるものとしても、相当重要な要素として考慮せざるを得ない。しかも、Bは、控訴人の仙台支店長という、組織内の幹部的なポストにいたものであって、それだけ、使用者としての選任・監督責任は重かったというべきである。のみならず、証拠(甲五四、五五号証、原審証人Dの証言)によれば、Bは、前任地の熊谷支店においても、本件と同様の手口により、顧客から多額の金員を出させ、そのことについて、顧客から同支店に対してクレームが付けられたという経過があったことが認められ、この点からすると、本来、控訴人のBに対する選任・監督責任は一層重いものがあったと評価せざるを得ず、それにもかかわらず、本件において、結局、Bの同種行為を防止できなかった点において、控訴人側が責められるべき要素の度合いは、前示のとおり相当大きな過失が認められる被控訴人ら側との比較においても、ほぼ同等の甚大なものがあるというべきである。」
7 同五五頁一一行目の「四割」を「五割」に改める。
8 同五七頁三行目の「メモ」の次に「(ただし、乙三二号証の1を除く。)」を、一〇行目の「説明は」の次に「、各文書間で内容に食い違う部分がある上」を、末行の末尾に「また、控訴人は、少なくとも一部を被控訴人X1が記載したとうかがわれる別のメモ(乙四六、四七号証)をも援用するが、同メモも、その記載内容自体不明確で、一義的な解釈は困難であり、たやすく控訴人の主張を裏付ける有力な証拠とすることはできない。」を加え、五八頁一行目の次に行を改めて左のとおり加える。
「なお、証拠(乙二五号証の1、2)によれば、控訴人は、平成八年一月一一日付けで監督官庁あてに作成したBの行状に関する報告書の中では、少なくとも、被控訴人らがBに対し交付したと主張していた出資金の総額については、特にこれを否定する記載をしていないことが認められるのであって、この点も、以上の認定が正当であり、Bの陳述書等に信用性を認め難いことの有力な根拠たるものというべきである。もっとも、本件出資金の総額が立証されたとしても、これと個々の被控訴人らの出資金の額の立証は別であるとの見方もあり得る(個々の出資金交付の事実について、直接的な裏付証拠が全般的に乏しいことは否めない。)が、少なくとも、本件のように、被害を受けたとする者らが共同訴訟の形式で損害賠償を求める場合には、個々の請求者の損害額(本件では各出資金の額)の立証は、相手方から損害の内訳が異なるとする有力な反論・反証がない限り、総額の立証よりはやや低い程度のもので足りると解するのが立証上の公平にかなうものというべきである(そうでないと、総額の立証はありながら、個々の請求がいずれも立証不十分として、ことごとく排斥されるおそれがある。反面、共同訴訟という前提を採る限り、右のように解しても、相手方に不当な不利益を被らせるおそれはない。)。このような見地からしても、本件において、被控訴人らが主張する本件出資金の総額及び個々の被控訴人の出資金の額(ただし、次項による控除は必要である。)については、いずれも必要な立証の程度を満たしているものというべきである。」
9 同五八頁一〇行目の「八九二五万円」を「七四三七万五〇〇〇円」に、「六四九五万円」を「五四一二万五〇〇〇円」に、一一行目の「九六〇万円」を「八〇〇万円」に改める。
四 以上によれば、被控訴人らの本訴各請求は、いずれも、民法七一五条一項に基づく損害賠償金元金として、被控訴人X1について七四三七万五〇〇〇円、同X2について五四一二万五〇〇〇円、同X3について八〇〇万円及び右各金員に対するBの不法行為の後である平成七年一一月三〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容すべく、その余は理由がないから棄却すべきところ、原判決は、被控訴人らに対し、右の結論より多額の損害賠償請求を認容した点において、一部不当であるから、控訴人の本件控訴に基づき、原判決を主文二1ないし4のとおり変更し、被控訴人らの本件各附帯控訴は、理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する(当審口頭弁論終結・平成一一年四月二三日)。
(裁判長裁判官 武藤冬士己 裁判官 畑中英明 裁判官 木下徹信)