仙台高等裁判所 平成11年(行コ)10号 判決
主文
一 原判決を次のとおり変更する。
二 控訴人が、被控訴人らに対し、平成七年一二月二〇日付けでした平成六年度予算に係る岩手県東京事務所の食糧費実施伺い、支出票及び請求書(平成七年五月に支出されたもの)についての非開示決定(平成九年四月二一日付け決定による一部取消後のもの)のうち、債権者たる事業者の担当職員氏名並びに債権者の取引金融機関名、預金種目、口座番号及び口座名義人を非開示とする部分を除くほか、本件各非開示部分のうち、懇談の相手方出席者、表彰式典出席者等に対する弁当の提供の場合における被表彰者の随行者(但し、岩手県職員を除く)の各職・氏名が記載された部分(原判決別表<1>、<4>)、並びに懇談の相手方出席者、食事券、ビール券、酒及び弁当の配付又は提供の相手方、表彰式典出席者等に対する弁当の提供の場合における被表彰者の随行者(但し、岩手県職員を除く)、懇談及び食事券等の開催目的に記載された相手方の各所属名のうち係の名称が記載された部分(同<2>ないし<5>)、及び知事、県議会議長、副知事及び県政顧問が出席した懇談の相手方出席者、県立大学教員確保用務に係る懇談の相手方出席者の各所属名が記載された部分(同<6>、<7>)についてこれを非開示とした部分を除くその余の部分を取り消す。
三 被控訴人らのその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを三分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人らの各負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らの請求を棄却する。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二当事者の主張
一 本件は、被控訴人らが、控訴人に対し、岩手県公文書公開条例五条に基づき、平成六年度予算に係る岩手県東京事務所の食糧費実施伺い、支出票及び請求書の開示を請求したが、控訴人が、(一)相手方の係、職・氏名、所属名等が記載された部分(原判決別表<1>ないし<7>)、(二)債権者たる事業者の担当職員氏名、債権者の取引金融機関名、預金種目、口座番号及び口座名義人が記載された部分について非開示決定をしたので、被控訴人らが原裁判所に対し、(二)を除く(一)の非開示決定の取消しを求めて提訴したところ、原判決が同請求をすべて認容したので、控訴人が控訴した事案である。
二 本件に関する当事者の主張は、原判決「事実」中の「第二 当事者の主張」(原判決五頁六行目から六四頁一行目まで)と同一であるから、これを引用する(但し、原判決五頁末行の「原告開かれた行政を求めるいわての会」を「被控訴人開かれた行政を求めるいわての会(市民オンブズマンいわて)」と、同六三頁一〇行目の「八条」を「九条」とそれぞれ改める。)。
第三証拠
本件に関する証拠は、原審及び当審における書証目録、原審における証人等目録各記載と同一であるから、これを引用する。
理由
一 請求原因について
請求原因1(当事者)(一)の事実、同2(本件処分)及び同3(本件処分の一部取消し)の事実は、いずれも当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、同1(二)の事実を認めることができる。
二 抗弁について
1 本件文書の種類と記載内容、本件条例の内容について
本件文書の種類と記載内容、及び本件条例の内容については、次のとおり付加・訂正する他、原判決六四頁八行目から七六頁七行目までと同一であるから、これを引用する。
(一) 原判決七五頁一行目の「三号から七号まで」を「四号から六号まで」と改め、同四行目の末尾に「(一号)」を、同二行目の末尾に「(二号)」をそれぞれ加える。
(二) 原判決七六頁二行目の次に、行を変えて次のとおり加える。
「(3) 法人(国及び地方公共団体を除く。)その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、開示をすることにより、当該法人等又は当該事業を営む個人の競争上又は事業運営上の地位が損なわれるおそれのあるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。
ア 事業活動によって生じ、又は生ずるおそれのある危害から人の生命、身体又は健康を保護するために、開示することが必要であると認められる情報
イ 違法又は不当な事業活動によって生じ、又は生ずるおそれのある侵害から人の財産又は生活を保護するために、開示をすることが必要であると認められる情報
ウ ア又はイに掲げる情報に準ずる情報であって、開示することが公益上必要であると認められるもの(三号)
(4) 県の機関又は国等の機関が行う事務に係る意思形成過程における審議、検討、協議、調査、研究等に関する情報であって、開示をすることにより、当該事務又は将来の同種の事務に係る意思形成に支障が生じるおそれのあるもの(七号)」
(三) 原判決七六頁三行目の「(3) 」を「(5) 」と改める。
2 本件条例九条二号該当性について
(一) 本件条例九条二号の立法趣旨及び内容
(1) 憲法二一条から派生する知る権利は、表現の自由と表裏一体をなす重要な権利ではあるが、知る権利から直接、公権力・行政機関に対し情報開示を求める具体的請求権が生ずるものではなく、これを定める立法により初めて具体的請求権が発生するものである。県民に対し、かかる具体的請求権を付与するか否か、付与するにしてもいかなる要件のもとにいかなる限度で付与するかは、ひとえに当該地方公共団体における立法政策の問題である。したがって、いわゆる情報公開条例が設けられている場合において、特定の情報を開示すべきか否かは、当該条例の制定趣旨に則り、その文言に即した解釈により判定されるべきであり、これから離れて独自の解釈原理を設定した目的論的解釈をなすことは厳に慎むべきものというべきである。
(2) ところで、本件条例一条は、「この条例は、公文書の開示を求める県民の権利を明らかにするとともに、公文書の開示等に関し必要な事項を定めることにより、県民の県政に対する理解を深め、県政への参加を促進し、あわせて県政の公正な運営の確保を図り、もって開かれた県政の推進に寄与することを目的とする。」と定め、本件条例が定める情報公開が、県民が主権者としての権利を行使するために必要な情報を得る権利を具体化したものであり、その主たる目的が、県民が事後的に検証し、主権者として県政への参加の促進、県政の公正な運営の確保を図り、開かれた県政の推進に寄与することにあることを明らかにしている。
また、本件条例三条は、「実施機関は、この条例の解釈及び運用に当たっては、公文書の開示を求める県民の権利を十分尊重するとともに、個人に関する情報がみだりに公にされることのないように最大限の配慮をしなければならない。」と定め、県民の公文書の開示を求める権利を十分に尊重するため、公文書の開示請求に対して、同条例九条各号の規定に反しない限り、公文書を原則として公開すべき旨を定めるとともに、個人に関する情報については、その保護に最大限の配慮をしつつ、この条例を解釈運用しなければならないことを定めている。
そして、本件条例九条は、右一、三条を受けて、原則開示の例外として、非開示とすることができる情報について規定しており、そのうち九条二号は、「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るもの。」は開示しないことができるものとし、その例外として、<1>右記事業を営む個人の当該事業に関する情報のほかに、<2>法令等の規定により何人でもその内容を知ることができるとされている情報、<3>公表することを目的として実施機関が作成し、又は取得した情報、<4>許可、免許、届出その他これらに類する行為に際して実施機関が作成し、又は取得した情報であって、開示をすることが公益上必要であると認められるものについてのみ、個人に関する情報であっても開示すべきものとしている。
したがって、本件条例九条二号は、行政庁が保持する個人に関する情報は、どのような内容であれ、それがみだりに公開されると悪用され、プライバシーの侵害を惹起することから、適正な管理保護がなされるべきであり、これをむやみに開示すれば、当該個人の権利、利益を著しく侵害しかねない反面、保護すべきプライバシーの範囲を一律に決定することが極めて困難なことから、特定個人が識別され、又は識別され得る個人情報については、プライバシーに該当するか否かを問わず、そのすべてを原則非開示とし、その例外として前記<1>ないし<4>の除外事由に該当する場合についてのみ、開示するものとしたというべきである。
また、本件条例九条二号に規定する個人に関する情報の中には、私人個人に関する情報は勿論、公務員個人に関する情報も、これを除外する規定を設けていない以上、含まれると解するのが相当である。公務員を同号にいう「個人」から除外するか否かは、情報公開の目的を県政への参加の促進、県政の公正な運営の確保に留めるか、公務員の個人責任追及の可能性の確保までに及ぼすかという立法政策の問題であり、同号が何らの留保もなく「個人」と規定している以上、右「個人」から公務員を除外して解すべき理由はないからである。
(3) この点に関し、被控訴人らは、右「個人に関する情報」とは個人に関する私的な情報を意味するから、これと異質な性格を有する公務員の公務に関する情報は個人に関する情報に含まれないと主張する。
しかしながら、かかる見解は、前記<1>ないし<4>の場合以外についても条文に定めのない例外を認めようとするものであり、右条項の解釈上無理があるといわざるを得ない。
即ち、文理上、個人は国家又は社会集団に対する概念であり、それらを構成する個々別々の人を意味するから、個人の中には、公務員以外の者のみならず、公務員も含まれることが明らかである。
また、実質的にみても、公務員といえども、私人として行動する場合があることはもとより、公務に従事する場合でも、事業の執行のため必要な関係者との内密の協議(例えば買収予定地について個々の地権者との意向打診、個別折衝)等秘密裏になさざるを得ない場合があるし、それ以外の場合でも、個人名の公表が予定されている場合を除き、個人名の開示は、場合により特定の公務員個人に対する社会的非難、責任追及を招き、公務員個人の名誉、社会的地位等個人としてのプライバシーの領域に属する法的利益に対し深刻な打撃を与えるおそれを生じ得るというべきである(もっとも、立法論としては、他の条例の中に散見されるような、「公務員」又は「公的地位・立場」に関連する情報を個人情報から明示的に除外する規定を設けて、公務員はその職責にかんがみかかる不利益を受忍すべきとの法制を採用することも可能であるが、本件条例においてはこのような法制は採用されていない。)。
したがって、公務員の公務であることをもって、性質上、「個人に関する情報」から除外し、これを開示すべきものと解すべき論拠となるとはいえず、被控訴人らの前記主張は、前記立法論としては格別、本件条例九条二号の解釈としては採用できない。
(4) 次に被控訴人らは、本件条例九条二号が個人事業者の事業情報を除外し、同条三号による保護の対象としていることをもって、個人事業者の活動が社会に少なからず影響を及ぼす立場にあり、その社会的責任に照らして公益を優先する必要から、同条二号の個人情報としては保護しない趣旨であり、個人事業よりもさらに公益性の強い公務員の公務に関する情報はこの意味でも同条二号の保護の対象とはならないと主張する。
確かに、同条三号は、国及び地方公共団体を除く法人その他の団体に関する情報、又は事業を営む個人の当該事業に関する情報につき、同条二号と異なり、当該法人又は当該事業を営む個人の競争上又は事業運営上の地位が損なわれるおそれがあるものという限定を加えており、例外事由も異なる事由を挙げている。しかし、このことから当然に公務員の公務に関する情報のすべてが同条二号から除外されていると解すべきものであるとまではいえない。
加うるに、公務員の公務に関する情報は、個人名等公務員個人に関する情報とそれ以外の日時、場所、公務の目的・内容等公務に関するその他の情報とがあるから、後者に関する情報が同条二号の対象ではないからといって、前者も同号から除外されると解すべき必然性はない。前者と後者は、現実の公務を遂行するうえでは一体不可分のものではあるが、開示、不開示の対象としては可分であり、前者は本件条例九条二号の、後者は同条七、八号の対象として擬律されるべき問題というべきである。したがって、被控訴人らの前記主張は採用できない。
以下、かかる見解を前提として、本件各非開示部分の本件条例該当性について検討する。
(二) 本件各非開示部分と本件条例九条二号該当性
(1) 本件各非開示部分のうち、懇談の相手方出席者の職・氏名が記載された部分(原判決別表<1>)、懇談の相手方出席者の所属名のうち課等の名称が記載された部分(同<2>)、食事券、ビール券、酒及び弁当の配付又は提供の相手方の所属名のうち課等の名称が記載された部分(同<3>)、表彰式典出席者等に対する弁当の提供の場合における被表彰者の随行者のうち、岩手県職員以外の者の職・氏名及び所属名のうち課等の名称が記載された部分(同<4>)、懇談及び食事券等の開催目的のうち相手方所属の課等の名称が記載された部分(同<5>)について
ア 右記載部分のうち相手方の氏名が記載された部分(原判決別表<1>、<4>)は、出席者、随行者の個人に関する情報であって、かつ、持定の個人が直接識別される氏名情報であり、また、本件条例九条二号が規定する例外事由のいずれかに該当することを認めるに足りる証拠はないから、同号により非開示とすることができる記載部分に該当するというべきである。
イ また、前記記載部分のうち、出席者、随行者の係、職名が記載された部分(原判決別表<1>及び同<2>ないし<5>の課等のうちの係)は、出席者、随行者の個人に関する情報であって、かつ、課等の所属名その他の情報と合わせ考慮することにより、特定の個人が容易に識別され得る情報であり(係は、複数の人員で構成されることが多いが、一人係の場合も少なくないうえ、特定の個人の職務内容と密接不可分の関係があり、職名と同様に特定の個人を識別することがはるかに容易になる。)、また、本件条例九条二号が規定する例外事由のいずれかに該当することを認めるに足りる証拠はないから、同号により非開示とすることができる記載部分に該当するというべきである。
(2) 本件各非開示部分のうち、原判決別表<2>ないし<5>に記載された相手方出席者の課の所属名が記載された部分、及び県政報道用務に係る懇談の相手方出席者の所属名が記載された部分(原判決別表<7>)について
ア 右記載部分のうち、原判決別表<2>ないし<5>の課の所属名が記載された部分について検討すると、課という所属名は個人の名称ではなく、個人が所属する組織、集団の名称であるから、個人との関連性は職名等と比較して希薄である。しかも、所属する課等の組織は、それが官庁の場合、相当数の人員から構成されており、所属名を開示したことにより懇談会に出席した個人等を直ちに特定・識別し得るものではない。
もっとも、課を開示すれば、開示しない場合よりは個人の識別がよりし易くなるが、職名や係と異なり、特定の個人の職務が直接特定され得るものではないし、課の開示がなし得ないとすると、開示された情報から公務の目的すら推察することが困難となる事態を招くおそれが生ずるものといえよう。
イ 次に、県政報道用務に係る懇談の相手方出席者の所属名が記載された部分(原判決別表<7>)について検討すると、かかる所属名が個人の名称ではなく、個人が所属する組織、集団の名称にすぎないこと、相手方が所属する部署は、民間の報道機関においても、相当数の人員から構成されており、所属名を開示したことにより懇談会に出席した相手方個人を直ちに特定・識別し得るものではないことは、アの場合と同様である。かえって、民間の報道機関の場合、ある部署にいかなる個人が属するかが公にされていないことが多いのであるから、所属名の開示により個人の識別が常にし易くなるとも断じ難いものがある。
ウ したがって、前記記載部分は、いずれも本件条例九条二号により非開示とできる場合には該当しないというべきである。
3 本件条例九条八号該当性について
(一) 本件条例九条八号の立法趣旨及び内容
(1) 本件条例九条八号は、前述した同条例一条を受けて、「県の機関又は国等の機関が行う取締り、検査、監査、試験、入札、徴税、争訟、交渉、渉外、人事その他の事務に関する情報であって、開示をすることにより、当該事務若しくは将来の同種の事務の実施の目的が損なわれ、又はこれらの事務の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずるおそれのあるもの」は開示しないことができるものとしている。
(2) 行政執行の過程に関する情報の中には、開示することにより、実施の目的が損なわれ、又は県及び国等が行う事務の公正、円滑な執行が阻害されるものが存在する。そこで、本件条例九条八号は、かかるおそれが生じ得る代表的な事務を例示のうえ、これらの情報を原則として開示することを前提としつつも、その例外として、当該事務若しくは将来の同種の事務の実施の目的が損なわれ、又はこれらの事務の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずるおそれのあるものについては、非開示とすることができると規定している。
即ち、具体的には、県の機関又は国等の機関が行う取締り、検査、監査、試験、入札、徴税、争訟、交渉、渉外、その他の事務に関し、その情報を開示すると、当該事務を実施する目的・意味そのものが失われる場合、特定の者に不当な利益又は不利益を与えるおそれがある場合、その情報を開示すると、事務経費が著しく増大し、又は当該事務の実施の時期が大幅に遅れるなど行政が混乱するおそれがある場合、及び当該事務又は将来の同種の事務の実施の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正、円滑な執行に支障が生ずるおそれがある場合について、非開示とすることができるものとしたものと解される(乙一)。
(3) ところで、行政庁が行う事務には、本件条例九条八号が例示するような特定の事務の円滑、適正な遂行を図るための調整、交渉、懇談などに関する事務(以下「特定事務の円滑適正化事務」という。)のほかに持定の事務と関連するわけではなく、相手方との一般的友好、信頼関係の維持増進を図るための交際事務(以下「儀礼的交際事務」という。)が存在するところ、同号は、前者につき例示する一方、後者については直接的規定を設けていない。このことに、儀礼的交際事務の範囲はあまりに広く、およそ行政庁及びその職員が外部と接触をもつ事務の大半が含まれかねず、安易に非開示とすることを認めると、公文書の開示を原則とした前記本件条例一条、三条の趣旨が没却されるおそれがあることを合わせ考慮すると、右九条八号の「その他の事務」には儀礼的交際事務も含まれるが、そのすべてが当然に含まれるわけではなく、これを非開示とするには、仮に開示した場合、行政庁にとって、当該事務の実施の目的が損なわれ、将来における同種事務の実施に支障を来たす蓋然性が、同号が例示する特定事務の円滑適正化事務の場合と同程度に存することが必要であると解するのが相当である。
したがって、儀礼的交際事務を知事ないしこれに準ずる者が行うか又はその遂行に関与しており、儀礼的交際事務としての重要度が高い場合には、一般に、これを開示することにより相手に不快、不信の念を抱かせ、開示したことにより右重要な交際事務の実施の目的が失われるか、交際事務実施時から相当期間経過後の開示のため右実施の目的自体は失われていなくても、相手方が交際事務への関与を避けることが見込まれる結果、将来における同種事務の実施に支障を来たすおそれの生ずることが経験則上見込まれるというべきである。即ち、知事ないしこれに準ずる者が行い、又は関与する事務へ出席する相手方は、県との関わりの濃淡、貢献度等を斟酌して決定されるものであり、食糧費の額、使途の決定も同様であるから、これらが開示され、その内容が衆人環視の下に置かれ、関係者間に様々な議論が生じると、他との比較等から、県による自己の評価等について不快、不信の念を抱く者が生じる事態となり、円滑な人間関係の形成を内容とする儀礼、交際の目的に反し、将来の同種事務の実施に支障を来たすことが見込まれるというべきである(なお、この例外として、右儀礼的交際事務が公式の慰労、表彰のための会合などであり、開示されたとしても右に述べた弊害が生じ得ないと認めるべき特段の事情がある場合は、非開示とすることが許されないと解すべきであろう。)。
これに反して、儀礼的交際事務の主体ないし関与者が知事又はこれに準ずる者でない場合には、右のような事態が生ずることは稀であるから、これを非開示とするには、開示の結果、右交際事務実施の目的が失われ、または、将来における同種事務の実施に支障を来たすおそれがあり、その結果、行政の運営、遂行上、前記例示と同様の悪影響が生ずる蓋然性が具体的に存することが必要というべきである。
(二) 本件各非開示部分と本件条例九条八号該当性
(1) 本件各非開示部分のうち前述した本件条例九条二号に該当するものについては、同条八号への該当性を検討するまでもなく非開示としたことが適法であるので、同号への該当性を検討するのは省略し、以下、それ以外の記載部分について同号に該当するか否かを検討するものとする。
(2) 本件非開示部分のうち、原判決別表<2>ないし<5>相手方出席者の課の名称が記載された部分について
ア 右記載部分である相手方所属の課の名称が記載された部分は、懇談ないし食事券等に関する公文書の記載であり、特定事務の円滑適正化事務との関連性は認められないから儀礼的交際事務に関する記載と解すべきところ、その主体ないし関与者も知事又はこれに準ずる者に当たることをうかがわせる主張、立証はないから、それ以外の者であったと考えられる。
イ そこで、右非開示部分の開示により、右儀礼的交際事務実施の目的が失われ、または、将来における同種事務の実施に支障を来たすおそれがあり、その結果、行政の運営、遂行上、前記特定事務の円滑適正化事務に関する例示の場合と同様の悪影響が生ずる蓋然性が具体的に認め得るかを検討するに、右課の名称の開示は、前述したように本件条例九条二号の個人情報には該当しないとはいえ、外部情報と組み合せることにより、相手方の識別が可能となる場合が生じ、これにより相手方に不快、不信の念が生じる可能性は否定できないと解される。
ウ しかしながら、所属する課の名称を開示したとしても、既に相手方が所属する局、部の名称は開示しているのであるから、これに加えて課を開示することは不自然ではなく、相手方にとって、公表されないことを当然に期待する情報とも解し難いから、課の名称の開示により儀礼的交際事務を実施する目的が当然に失われるとは解されず、また、前述したとおり、相手方の職・氏名、所属の係名までを開示するわけではないから、特定の相手方が識別される蓋然性、及び将来同種事務の実施に支障を来たす蓋然性が具体的に存するとも解し難い。
エ したがって、前記課の名称の記載部分は、本件条例九条八号により非開示とすることができる場合には該当しないというべきである。
(3) 本件非開示部分のうち、知事、県議会議長、副知事及び県政顧問が出席した懇談の相手方出席者の所属名が記載された部分(原判決別表<6>)について
ア 右記載部分である相手方所属の課の名称が記載された部分は、懇談ないし食事券等に関する公文書の記載であり、特定事務の円滑適正化事務との関連性は認められないから儀礼的交際事務に関する記載と解すべきところ、その主体ないし関与者には、県議会議長、副知事及び県政顧問が含まれるというのであるから、県にとっては、いわば知事に準ずる重要な地位にある者が関与する儀礼的交際事務に該当するものと解される。
イ してみると、右事務は、前記特段の事情がない限り、儀礼的交際事務としての重要度が高いため、相手方出席者の所属名を開示した場合、外部情報との組み合わせにより、特定の相手方を識別し得る可能性が残ることを軽視し得ず、仮に特定の相手方の識別まではされなかったとしても、相手方の所属母体を開示することそのものにより相手方に不快、不信の念を抱かせるおそれが生ずる。そうすると、開示したことにより右重要な交際事務の実施の目的が失われるか、交際事務実施時から相当期間経過後の開示のため右実施の目的自体は失われていなくても、相手方が交際事務への関与を避けることが見込まれる結果、将来における同種事務の実施に支障を来たすおそれが生ずることが経験則上見込まれるというべきである。
ウ したがって、前記特段の事情があることを認めるに足りる証拠がない本件においては、前記記載部分は、本件条例九条八号により非開示とすることができる部分に該当するというべきである。
(4) 本件非開示部分のうち、県立大学教員確保用務、企業誘致用務及び県政報道用務に係る懇談の相手方出席者の所属名が記載された部分(原判決別表<7>)について
ア 右記載部分のうち、県政報道用務に係る懇談の相手方出席者の所属名が記載された部分については、広報事務に関し、報道関係者と懇談したにすぎないから、相手方の所属母体を明らかにすることは勿論、相手方の所属の名称が開示されたことにより、外部情報との組み合わせの結果、相手方の識別が可能となったとしても、特段の事情がない限り、相手方に不快、不信の念を抱かせるおそれは乏しいと考えられるところ、本件において、かかる特段の事情が存在したことを認めるに足りる証拠はないというべきである。
イ これに対し、県立大学教員確保用務及び企業誘致用務に係る懇談の相手方出席者の所属名が記載された部分については、特定事務である大学教員確保及び企業誘致の性質上、円滑、適正になされるためには、内密になされる必要があるというべきである。そのため所属名が開示されると、外部情報との組み合わせの結果、相手方が識別された場合は勿論、仮に特定の相手方の識別まではされなかったとしても、相手方の所属母体を開示することそのものにより、相手方に不快、不信の念を抱かせるおそれが高く、経験則上、同事務の実施の目的が失われ、将来における同種の事務の実施に支障を来たすことが見込まれるから、かかる記載部分は、本件条例九条八号により非開示とすることができる部分に該当し得ると解される。
もっとも、前記(二、1、(二)、(2) )認定のとおり、本件文書の中で企業誘致用務のための懇談に関するものは二件存在するだけであるところ、これらの懇談における相手方出席者は、いずれも企業関係者ではなく、報道関係者である。そうすると、報道関係者である相手方の所属の名称が開示され、外部情報との組み合わせの結果、相手方の識別が可能となったとしても、相手方に不快、不信の念を抱かせるおそれは乏しいというべきである。
ウ したがって、本件における右記載部分のうち、県立大学教員確保用務に係る懇談の相手方出席者の所属名については、本件条例九条八号により非開示とすることができる部分には該当するが、その余の記載部分は該当しないといわざるを得ない。
三 結論
以上によれば、本訴の対象とされた本件非開示決定のうち、本件条例九条二号に基づき、すべての非開示部分につき、相手方及び被表彰者の随行者(但し、岩手県職員を除く)の各職・氏名が記載された部分、並びに非開示部分のうち、相手方、右随行者の各所属名中、係の名称が記載された部分、及び同条例九条八号に基づき、非開示部分のうち、(ア)知事、県議会議長、副知事及び県政顧問が出席した懇談の相手方、(イ)県立大学教員確保用務に係る懇談の相手方について、各所属名が記載された部分を非開示とした部分はいずれも適法であるが、非開示部分のうち、相手方、右随行者の課の名称が記載された部分、及び県政報道用務、企業誘致用務に係る懇談の相手方の所属名を非開示とした部分は違法と解するのが相当である。
したがって、本件非開示決定のうち、被控訴人らが本訴の対象としていない債権者たる事業者の担当職員氏名並びに債権者の取引金融機関名、預金種目、口座番号及び口座名義人を非開示とする部分のほか、本件条例九条二号により、本件各非開示部分のうち、(ア)懇談の相手方出席者、(イ)表彰式典出席者等に対する弁当の提供の場合における被表彰者の随行者(但し、岩手県職員を除く)の各職・氏名が記載された部分(原判決別表<1>、<4>)、並びに(ア)懇談の相手方出席者、(イ)食事券、ビール券、酒及び弁当の配付又は提供の相手方、(ウ)表彰式典出席者等に対する弁当の提供の場合における非表彰者の随行者(但し、岩手県職員を除く)、(エ)懇談及び食事券等の開催目的に記載された相手方の各所属名のうち係の名称が記載された部分(同<2>ないし<5>)、及び同条例九条八号により、(ア)知事、県議会議長、副知事及び県政顧問が出席した懇談の相手方出席者、(イ)県立大学教員確保用務に係る懇談の相手方出席者の各所属名が記載された部分(同<6>、<7>)を非開示とした部分はいずれも適法であるが、その余を非開示とした部分は違法であるからこれを取り消すべきであるので、これと一部異なる原判決を右の趣旨に変更することとする。
よって、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六七条二項、六五条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 喜多村治雄 裁判官 小林崇 裁判官 大沼洋一)