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仙台高等裁判所 平成11年(行コ)7号 判決 1999年10月27日

控訴人 一関税務署長

代理人 翠川洋 高橋藤人 ほか二名

被控訴人 伊藤千里

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

主文と同旨

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二事案の概要

一  本件は、平成三年分、同四年分及び同五年分の各総所得に関する被控訴人の所得税の再修正申告に対して、控訴人が右各所得のうち、被控訴人が給与所得であるとして申告した花泉中央リンゴ生産組合一関グループからの収入につき、これが給与所得ではなく事業所得に係る収入であると認定して、平成七年二月二二日付け右各年度分の所得税の各更正処分及び各過少申告加算税賦課決定処分をしたので、被控訴人が右所得は給与所得と解すべきであるとして右処分の取消しを求める訴えを提起したところ、原審が被控訴人の主張を認めて、控訴人の右各処分を取り消したので、控訴人が控訴した事案である。

二  当事者の主張

当事者の主張は、原判決六頁三行目の末尾に続けて「なお、被控訴人の本件収入が事業所得であるとした場合、平成三年分ないし同五年分の被控訴人の所得税に関しては、総所得及び過少申告加算税の各金額が控訴人主張の金額であることは認める。」を、同一一頁末行の「民法上の組合であること」の次に「及び被控訴人が本件組合の組合員であること」をそれぞれ加え、同一六頁二行目の次に次のとおり加える他は、原判決の「事実」欄の「第二当事者の主張」(原判決三頁七行目から同一六頁二行目まで)と同一であるから、これを引用する。

「五 当事者の当審における主張

1  控訴人の主張

(一) 民法上の組合に対する課税の構造について

組合は法人格を有しないので、組合財産は組合自体に法的に帰属させることができず、総組合員に共有的に帰属し(民法六六八条)、債権債務関係も総組合員の共有(準共有)に属することとなる(民法六七七条)。このような法人格を有しない組合の事業活動の成果は、組合組織を通り抜け(パス・スルーし)、直接組合員に帰属するものとして所得税の課税対象となり、組合事業から生じた収入に対する課税については、収入が発生した段階において、各組合員に所得が発生したものとして課税を検討すべきものである。

(二) 事業所得と給与所得

本件組合は、りんご生産を共同で行うことを目的としており、りんご生産という事業によって得た所得は、農業から生ずる事業所得(所得税法二七条一項)として、収入が発生した時点で各組合員に所得が発生し、各組合員が納税主体となるのである。また、事業所得は、事業に供した資産とその資産を利用した役務活動が融合して獲得された所得であり、事業所得は性質上本質的に役務活動の対価としての性質も有しているのであり、組合員が労務を提供して収入を得たとしても、それは組合の事業活動から生じた事業所得にほかならないのである。被控訴人は、組合員として組合事業のために労務を提供したのであるから、本件における被控訴人の労務提供契約は労務出資契約であり、これに対して支払われた金銭は賃金ではなく、労務出資に対する組合利益の分配と解すべきである。

(三) 雇用契約の成否

組合は法人格を有しないのであるから、組合員が組合と雇用契約を締結しようとすると、雇用契約の一方の当事者は組合を構成する総組合員とならざるを得ない。また、組合においては、業務執行権は原則として各組合員が有するとされているから、このような組合員としての地位と雇用者から支配される関係に立つ被用者としての地位とは矛盾する関係に立つこととなり、組合員たる地位を維持しつつ自己が属する組合との間で雇用契約を締結することは組合の法的性質と相容れないというべきである。したがって、被控訴人が得た労務に対する対価は賃金ではなく、労務出資に対する組合利益の分配と解すべきである。

2  被控訴人の主張

事業所得と給与所得との区分についての判断を示した最高裁判所昭和五六年四月二四日判決が、給与所得を「雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労働の対価としての使用者から受ける給付」と判示しているところによれば、被控訴人の本件所得は給与所得であることが明らかである。」

理由

一  請求原因1ないし3の事実及び同4の(一)の事実並びに「被控訴人の本件収入が事業所得であるとした場合には、平成三年分ないし同五年分の被控訴人の所得税に関しては、総所得及び過少申告加算税の各金額が控訴人主張の金額となること」についてはいずれも当事者間に争いがないから、本件においては、被控訴人の本件収入が所得税法二七条一項の事業所得にあたるのか、それとも同法二八条一項の給与所得にあたるのかが争点となる。

二  前提事実

右争点についての判断をするにあたり前提となる事実(本件組合の法的性質、事業形態、被控訴人の法的地位、労務提供の内容、報酬等に関する事実)については、次のとおり付加・訂正する他は、原判決「理由」欄の「一」記載の認定(原判決一六頁六行目の「請求原因」から同二六頁一行目まで)と同一であるから、これを引用する。

1  原判決一六頁六行目の「請求原因」から同九行目の「いうべきところ、」までを「前記当事者間に争いのない事実並びに」と改める。

2  原判決一九頁五行目の「一日当たり」の次に「四五〇〇円ないし」を加え、同七行目の「形態となった」を「形態となり、出役義務制を改めた」と、同九行目の「一般労務者として」を「一般作業員と同様に」とそれぞれ改め、同二〇頁四行目の末尾に続けて、「なお、管理者はりんご園地の経営上の基本方針を立案し、作業の計画・手順を決定し、専従者はこれに従い日々の労務に従事するが、一般作業員と比べると経験を必要とする薬剤防除等の仕事は専従者が主として担当していた。」を加え、同二一頁七行目の「七六五・九一アール」を「七町五反」と改め、、同二五頁六行目の「に一関税務署」から同八行目の「同年」までを削る。

三  争点についての判断

右前提事実をもとにして、被控訴人の本件収入を事業所得とみるべきか、それとも給与所得とみるべきかについて検討する。

1  本件組合は、民法上の組合であり、各組合員が出資して共同の事業を営むことを合意して成立する組合員の結合体であり(民法六六七条一項)、組合の事業により獲得された利益や損失は、理念的には組合財産を構成するものの、組合には法人格が存しないことから、組合財産は組合自体には帰属せず、総組合員の共有(合有)となり(民法六六八条)、債権債務も総組合員の共有(準共有)になるもの(民法六七七条)と解される。したがって、このような組合の法的構造に照らせば、組合の事業活動の成果たる所得に対する課税は、法人税の対象として組合に課せられるものではなく、組合員の出資等に応じて各組合員の所得に分解されて帰属し所得税の課税対象となるものと解するのが相当である。そして、組合員が組合から組合員の立場で受け取る収入は、給与、賞与などの名目で受け取るものであっても、これらの所得は当該組合の事業から生じた事業所得であるという性質が変わるものではないから、これを給与所得と解すべきではなく、組合の事業から生じた所得全体を各組合員の出資等に応じて配分した各組合員個人の事業所得と解すべきものである。

この点に関して、旧所得税基本通達一六三が、「任意組合の組合員の所得に対する課税については、給与、賞与その他組合から受ける名義のいかんにかかわらず、当該組合の事業の内容に応じ、事業所得又はその他の所得として課税するものとし、各組合員の所得又は損失の金額は、その年中における組合の利益又は損失の金額を、利益又は損失の分配の割合の定にしたがい、各人にあん分した金額とする。」と規定していたのも、同様の趣旨と理解すべきものである(なお、右旧通達は昭和四五年の現行所得税基本通達に伴って廃止され、現行の所得税基本通達三六・三七共-二〇では旧通達の前段部分が記載されていないが、この部分は法律上当然のこととして記載されなかったものであり、通達の見解が変更されたものと解することはできない)。

以上を本件について検討してみると、本件組合の活動内容はりんご生産たる農業であるから、本件組合の事業活動により得た収入は所得税法二七条一項の農業から生ずる所得として事業所得になるものと解され、本件組合がりんご生産という事業活動から収入を得た場合には、その時点で各組合員に事業所得が発生しているものというべきである。ところで、本件においては、被控訴人は、平成元年以降、組合から専従者として選出され、リンゴ生産に関する組合の労務に従事し、その労務提供に対する対価として日給六〇〇〇円の給与を支給されてきたものであるが、被控訴人に支給された右給与は名目上は給与の形式をとっており、その労務内容も管理者吉田の指揮命令に服するものであり、格別高度の技術的労務であるとは認められないが、被控訴人が組合員である以上は、その労務の提供も組合の事業活動と無関係なものではありえず、組合の事業活動に参画するという面を捨象することはできないものというべきであり、被控訴人が労務提供の対価として受け取った給与なるものも、その実質は本件組合に発生した事業所得を、組合員である被控訴人に分配するものであると解するのが相当である。そして、被控訴人が具体的に受け取った本件収入(被控訴人の申告に係る本件組合からの平成三年ないし同五年の給与支給額)は、組合総会の決議に基づき承認された日給六〇〇〇円の給与算定基準に基づき算出されたものであるから、組合員の総意に基づき定められた組合所得に関する損益分配の合意に従った組合の事業所得の分配と解すべきものである。そうすると、被控訴人の本件収入は所得税法二七条一項の「事業所得」にあたるものというべきである。

2  これに対して、被控訴人は、組合において労務出資を認めるためには、当該労務出資又はその評価の標準を合意しなければならないところ、本件組合においてはそのような合意が存在しないから、被控訴人の労務提供を労務の出資とみることはできない旨主張する。しかしながら、前判示のとおり、本件組合では、平成元年二月二一日の組合総会の決議に基づき、被控訴人の労務提供に対する対価について日給を六〇〇〇円とすることが承認されているのであり、右承認をもって被控訴人の労務出資に対する損益分配の割合についての合意と評価できるから、被控訴人のこの点に関する主張は採用できない。

次に、被控訴人は、被控訴人が専従者として組合に労務を提供して給与を得ている事実を捉え、これが雇用契約に基づくものであるから被控訴人の取得している給与は給与所得であると主張するが、本件組合は民法上の組合であり法人格を有しないのであるから、組合員たる被控訴人が組合との間に雇用契約を締結しようとすれば、被控訴人は、一方で雇用契約の被用者としての立場で、他方では総組合員の一人として雇用者の立場で雇用契約を締結するということになり、このような矛盾した法律関係の成立を認めることには疑問があるから、雇用契約が成立しているとする被控訴人の右主張はにわかには採用することができない。また、実質的にみても、被控訴人の労務提供は、前記認定のとおり、労務の出資をして組合の事業活動に参画するものと評価するのが相当というべきである。

さらに、被控訴人の本件収入を給与所得であると解すると、仮に組合員全員が労務を提供しているような場合には、組合に発生した事業所得を給与として各組合員に支払うことになるから、これにより組合の事業所得が極端に圧縮されてしまうという結果を生ずる反面、組合員の給与所得については給与所得控除を通じて給与所得の金額が圧縮される結果となるばかりでなく、給与の支給により組合に対する出資に係る事業所得がマイナスになれば、事業所得と給与所得との損益通算によりさらに給与所得の金額が圧縮されることとなり、組合員の労務提供に対する対価を給与所得と認めることにより、著しい課税の不公平を招来し、所得税法が事業所得と給与所得を分けて課税の公平を期した趣旨を没却することになりかねず、被控訴人の右主張はこの観点からも採用することができない。

3  ところで、この点に関して、最高裁判所昭和五三年(行ツ)第九〇号、同五六年四月二四日第二小法廷判決・判例時報一〇〇一号三四頁は、弁護士の顧問料が事業所得か給与所得かが争われた事案において、所得税法上の事業所得(同法二七条一項)と給与所得(同法二八条一項)の区分に関して、「およそ業務の遂行ないし労務の提供から生ずる所得が所得税法上の事業所得と給与所得のいずれに該当するかを判断するにあたっては、租税負担の公平を図るため、所得を事業所得、給与所得に分類し、その種類に応じた課税を定めている所得税法の趣旨、目的に照らし、当該業務ないし労務及び所得の態様等を考察しなければならない。」としたうえ、「事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいい、これに対し、給与所得とは雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給与をいう。なお、給与所得については、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない。」と判示しており、給与所得に関するこの基準に従えば、被控訴人の本件組合に対する労務の提供は、「雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付」として給与所得であると解する余地がないわけではなく、被控訴人もその旨主張する。

しかしながら、右判決は弁護士が顧問会社との顧問契約に基づいて受領した、弁護士の労務提供の対価としての顧問料そのものの所得区分について判断したものであるところ、本件においては、顧問会社と弁護士という二者の関係ではなく、組合の事業活動として組合員の労務提供により得られた成果が、組合は納税義務者とならないために、課税上組合を通り抜けて直接に組合を構成する各組合員に所得として帰属するという関係に立っている場合であるから、これを組合員の労務に対する対価としての観点からのみ捉えて、前記給与所得の概念に従って被控訴人の収入を給与所得と評価することは相当ではないというべきである。むしろ、本件においては、組合員の労務提供により獲得された所得は組合事業と有機的に結合している点に着目すべきであり、右所得は組合の事業所得と捉えるのが相当であるというべきであるから、右最高裁判所の判例に従って被控訴人の本件収入を給与所得と解すべきであるという被控訴人の主張は採用できない。

四  そうすると、本件収入が給与所得であるのに、これを事業所得であるとしてなした控訴人の本件各処分は違法であり、取り消されるべきものであるとする被控訴人の主張は失当であるから、その余の点につき争いのない本件においては被控訴人の請求は理由がないものというべきである。

五  結論

以上によれば、被控訴人の控訴人に対する本訴請求は理由がなく、右と異なる原判決は相当でないから、これを取り消したうえ、被控訴人の請求を棄却することとする。

よって、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法六七条二項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 喜多村治雄 小林崇 大沼洋一)

(参考)第一審(盛岡地裁平成八年(行ウ)第四号平成一一年四月一六日判決)

主文

一 被告が平成七年二月二二日付けでした原告の平成三年分、同四年分及び同五年分の所得税の各更正処分及び各過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。

二 訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一 請求の趣旨

主文と同旨

二 請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一 請求原因

1 原告は、被告に対し、平成六年九月一九日、平成三年分、平成四年分及び平成五年分の各総所得につき、それぞれ以下のとおりである旨の再修正申告をした(以下「本件申告」という。)。

平成三年分 二八五万九六九八円

同四年分  二六〇万四六〇一円

同五年分  三二六万〇七八一円

2 被告は、原告に対し、平成七年二月二二日付けで、右各総所得金額がそれぞれ以下のとおりであるとして、更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(以下それぞれ「本件更正処分」、「本件賦課決定処分」といい、これらを併せて「本件各処分」という。)を行い、同月二三日、原告に通知した。

総所得 過少申告加算税

平成三年分 三五二万三五七三円 一万三〇〇〇円

同四年分  三二五万四六〇一円   九〇〇〇円

同五年分  三九一万〇七八一円 一万一〇〇〇円

3 原告は、これに対し、同年四月一日付けで、国税不服審判所長に審査請求をしたところ、同所長は平成八年九月二五日付けでこれを棄却した。

4(一) 本件各処分は、原告が給与所得に係る収入として申告した花泉中央りんご生産組合一関グループ(以下「本件組合」という。)からの収入である平成三年分一六五万五二七五円、同四年分一三一万九八三五円及び同五年分一四七万六五九五円(以下「本件収入」という。)を事業所得に係る収入であると認定して行ったものである。

(二) しかし、本件収入は、給与所得に係るものであるとみるべきであって、原告の総所得は本件申告のとおりであるから、本件更正処分は原告の所得を過大に認定したものであって違法であり、本件賦課決定処分は右誤った処分を前提にしているものであって違法である。

5 よって、原告は、被告に対し、本件各処分の取消しを求める。

二 請求原因に対する認否

請求原因1ないし3、同4(一)の事実は認め、同4(二)は争う。

三 被告の主張(本件各処分の適法性)

1 本件更正処分について

本件収入は、以下に述べる理由により、所得税法二七条一項の事業所得に該当する。

(一) 本件組合は民法上の組合であること

本件組合は、原告外一八名が、国営須川パイロット事業地内に土地を所有していたことから、造成された畑にりんご生産を共同で行うために組織された民法上の組合であり、原告は本件組合の組合員である。

民法上の組合は、複数の当事者が出資して共同事業を営むことを約する契約であって、組合自体に法人格は認められず、組合の所得は、組合員の出資等に応じて各組合員の所得に分解し、各組合員の個人所得として課税される。

右のような性格を有する任意組合とその組合員である原告との間に雇用関係はないというべきであるから、本件収入のもととなった原告の本件組合に対する労務提供は、労務出資とみるのが相当である。

仮に、組合員の組合に対する労務提供の対価が給与所得に該当するとすれば、各組合員の労務提供に対し給与を支給することで組合所得が減少する結果、各組合員の出資に係る事業所得となる分配金が減少し、他方、労務提供の対価としての給与所得については、給与所得控除を通じて給与所得の金額が圧縮され、さらに、出資に係る事業所得がマイナスである場合には、事業所得との損益通算により相当に所得が圧縮されることとなり、課税の公平の観点からも是認できない結果となる。

(二) 本件労務提供及びその報酬の性格

本件組合においては、その定款上も組合員が共同作業を行うこと自体が本件組合設立の当然の前提となっており、設立当初は責任出役義務制の下で組合員又はその家族が作業に従事している状況が見られ、組合員の所有地面積に応じた出資口数に対応した責任出役日数と実際の出役日数との過不足生産を行っているところからみて、組合員の労務提供を出資として位置付けていたというべきである。

そして、原告が責任出役義務制崩壊後であるとする本件係争各年においても、組合員ないし組合員の家族で作業に従事している者が全く無いわけではなく、組合としての共同事業の実態が全く無くなったという状況ではない。

原告は、本件組合において、労務出資及びその評価方法について合意したことはない旨主張するが、本件組合においては、設立当初、各組合員の所有地面積に応じた責任出役義務制が採られており、この責任出役義務制についての合意を労務出資に関する黙示の合意とみるべきであるし、また、組合総会における原告の労務提供に対する報酬額の承認をもって労務出資にかかる損益分配の割合についての合意として位置付けることができるというべきである。

また、原告は、訴外吉田忍(以下「吉田」という。)の指揮命令に従属して作業をしていた旨主張するが、原告は、本件組合の総会で専従者としての指名を受け、組合員として組合の財産に責任のある立場から作業に従事し、その作業の成否は分配金の多寡という形で原告の所得計算に直接反映されるものであるから、自己の計算と危険において組合の業務に従事しているというべきであって、吉田との間に従属関係はない。

さらに、原告は、作業員に対する報酬について、組合員である原告と非組合員との間に特段の差別はない旨主張するが、組合員又はその関係者の報酬額と、一般作業員の報酬額との間には開差があり、組合員である原告の労務出資に対する評価と、一般作業員の労務提供に対する評価とを同一に論じることはできない。

(三) まとめ

以上により、本件収入は、原告の本件組合に対する労務出資に応じた本件組合の共同事業から生じた所得の分配であって、本件組合との間の雇用関係に基づく給与ではないから、本件更正処分は適法である。

2 本件賦課決定処分について

本件更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実が、更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法六五条四項に規定する正当な理由があるとはいえないから、同条一項の規定に基づき行われた本件賦課決定処分は適法である。

四 被告の主張に対する認否及び原告の反論

1 認否

本件組合が民法上の組合であることは認め、その余の被告の主張は全て争う。

2 反論

(一) 本件組合において、労務出資ないしその評価方法の定めがないこと

組合において労務出資を認めるためには、当該労務の出資としての価額又はその評価の標準を合意しなければならないと解されるところ、本件組合においては、設立以来、所有地面積に応じた金銭出資のみを定めてきてはいるが、労務出資ないしその評価について何ら合意をしたことはなく、労務提供に応じて所得を分配するという処理をしたこともない。

また、本件組合においては、損益分配の割合についての合意がない以上、金銭出資の割合が損益分配の割合であると考えるべきであるところ、被告が主張するように、本件労務提供を労務出資と解するときには、本件組合において一部の組合員にのみ利益を分配し、さらに全組合員に損失の分配をしていることになって組合契約の本旨に反することになる。

なお、この点につき被告は、組合総会における原告の労務提供に対する報酬額の承認をもって労務出資にかかる損益分配の割合についての合意として位置付けることができる旨主張するが、この考え方によれば、原告と同一面積の田畑を所有する組合員の受けた配当額と原告の受けた配当額との間には一〇倍以上の格差が生じる等の結果を是認する合意をしていることとなり、そのような合意があり得ないことは明らかである。

(二) 本件労務提供の性格

本件組合は、設立当初、出資口数に応じた責任出役義務制を採ってりんご生産作業を行ってきていたが、組合員の出役が激減したことから、昭和五九年三月一〇日の総会で、右作業を経験者を中心とする作業員に委嘱し、その労賃は組合で負担する体制を採ることとした。その結果、組合員一八名中、労務提供者は原告を含む二名だけとなって、労務提供の点では組合の共同事業性が欠けることになり、原告らの労務提供は組合員の組合契約上の債権債務という性格を有しないものとなった。このような組合契約外の債権債務に基づく利益についてまで事業所得とする考え方を採る場合、有期的でかつ不安定な人間の労働力を担税力のうえで調整している勤労に伴う必要経費の概算的控除を認めない結果、担税力の配慮を無視した課税の不公平を招くことになる。

そして、右総会以降は、管理者として選出された吉田の作業設計のもとで、非組合員を含む作業員が、吉田の指揮命令に従い、時間制により、作業日誌の内容どおり適時適作業を集中的に行い、原告も作業員の一人として非組合員と同じく作業を行っており、右作業に「自己の計算と危険において独立的に営まれる業務」というような事業性はない。

また、原告の労務提供に対する報酬は、他の作業員と同様、給与として毎月一回、日給制により支給されており、その金額も、地域の一般の相場を標準とし、能力差、作業の種類等を反映したものであり、組合員である原告と非組合員との間に特段の差別はなく、組合収益との対応関係もない。そして、その支払方法も、前記総会の決定を受けて開設された吉田の預金口座に振込まれた資金の中から、労務費として支払う形がとられていた。

したがって、このような事業を前提とすれば、本件収入は、本件組合との雇用関係に基づく給与に該当すると解すべきであり、組合損益計算上は、原告を含む作業員に対する労務報酬を費用として控除した後の損益が組合共同事業の損益として組合員に分配されると考えるべきである。

第三証拠

本件記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一 請求原因1ないし3の事実及び同4(一)の事実は、いずれも当事者間に争いがなく、原告の所得に関するその余の点については、当事者間に積極的な争いもないから、本件においては、原告の本件収入が事業所得又は給与所得のいずれに係るものに該当するかが問題となるというべきところ、<証拠略>によれば、以下の事実が認められる。

1 本件組合における作業形態の推移

本件組合は、国営須川総合開拓パイロット事業地内の土地所有者二三名が、りんご生産等を行うことを目的として昭和五一年二月二六日に設立された民法上の組合であり(設立当初の名称は「馬骨林檎米作生産組合」であった。)、原告は、本件組合の設立当初からの組合員である。

本件組合においては、設立当初から、組合員が所有地面積に応じて組合経費を拠出し、また、所有地面積に応じて決められた出資口数に従って組合員又はその家族が作業に出役する責任出役義務制を採っており、出役に対して対価が支払われるということはなく、出役の過不足は現金で精算することによって調整していた。

しかし、りんごが成木になるにつれ、一口当たりの必要出役日数が増えて出役不足日数が増加し、また右のような責任出役義務制においては、もともと農家でない組合員は必ずしも常に出役するわけではなく、代りの者を依頼することが多くなり、その結果作業員が常に変化するため、一定の熟練を要するりんご生産作業に不都合が生じ、雇用労力を用いるほうが合理的であることが認識されるようになった。

このため、本件組合では、昭和五八年四月一〇日の組合総会において、専従者を雇い入れることが提案され、この総会では合意に至らなかったが、翌昭和五九年三月一〇日の組合総会において、それまで組合員である長男に代わって義務出役に時々従事していた非組合員の吉田を、りんご栽培の経験が比較的豊富であること等を理由に管理者として選任すること、同時に組合員である訴外小野寺一郎(以下「小野寺」という。)を専従者として選任すること、その労賃を組合で負担すること、労賃は、吉田及び小野寺を一日当たり六〇〇〇円、その他雇用される作業員については男性の場合一日当たり五〇〇〇円程度とすること等が決定され、これにより本件組合のりんご生産作業は、管理者、専従者及び一般作業員が行う形態となった。

原告は、本件組合の設立当初、出役日数が不足する状態であり、出役不足を現金で精算していたが、右形態となって以降は一般労務者として労務に従事し、本件組合から労賃の支払を受けていた。原告は、昭和六二年七月に勤務先を退職して以降、徐々に右労務に従事する日数が増えてきたため、平成元年二月二一日の組合総会において専従者に選出され、その労賃も一日当たり六〇〇〇円に増額された。

これ以降、吉田、小野寺及び原告は、毎年の組合総会において管理者ないし専従者として選任された。

2 本件組合の会計

本件組合における会計事務は、組合員である長男に代わって義務出役に従事していた非組合員の訴外高橋正人(以下「高橋」という。)が、昭和五五年から訴外加藤清之進を引き継いで、作業にも従事しながら担当していた。本件組合の収支決算は、当該年度の組合利益を計算し、これと組合員の所有地面積に対応した口数に応じた出資金を併せて次年度に繰越していた。また、本件組合では、平成三年度に一口当たり六万円の配当を行ったのが唯一の現金配当であり、毎年のりんごの売却益等による利益は、農機具購入の準備資金や組合の翌年度のりんご園地の管理運営費等に充てられていた。

なお、本件組合では、責任出役義務制の廃止後においては、管理者、専従者への労賃も一般作業員のものとあわせて一括して労務費として経費の処理をしていた。

3 りんご生産作業の内容

本件組合のりんご園地は、その面積が七六五・九一アールで三つに分かれており、りんごの木が七品種約七〇〇〇本、収穫量が年間一二〇トン程度、売り上げが二〇〇〇万円程であり、年間を通じて様々な作業を必要とし、摘果作業の時期には一日一五、六人程度の作業員を必要とした。

りんご栽培においては、消毒、草刈りないし除草、剪定、摘花(中心花を残して側花を摘む作業)、摘果(摘花して残ったものをさらに摘みとって個数を決める作業)、葉摘み(りんごに均等に色付かせるため葉を摘み取る作業)の各作業時期及びその手順、施肥設計、市場の情勢を見ながら行う改植品種の選定等、様々な熟練を要する判断が要求されるところ、このような判断は全て吉田が行ってその実施を専従者や作業員に指示していた。

右作業の指示は、吉田が週に三回程度朝礼として一般作業員も含めた全員を集めて行うほか、必要に応じて専従者を集めて会議を行うなどの方法で行っていた。

また、一般作業員の手配は、吉田が必要に応じて直接電話をして依頼するなどして行っていたが、一般作業員として雇われるのは主としてりんご園地付近の農家の者(非組合員)であり、組合員が雇われることもあったがその数は平成三年ないし五年ころはごく少数であった。

原告ら専従者は、一般作業員と管理者である吉田の間にあって、吉田の指示を受けながら同人を補助する立場にあり、その作業内容においては、一般作業員よりも比較的継続的に作業に従事していたため、吉田の指示を受けて大型機械を使う消毒作業を担当することはあったが、他には一般作業員と別段変わるところはなかった。

吉田は、次年度以降の作業の参考とし、かつ給与計算の基礎となる記録として、毎日、一日の作業終了後に、天候、作業内容、作業員の氏名及び作業時間等を作業日誌に記帳していた。また、原告ら専従者や管理者を含め作業に従事する者については、作業開始時及び終了時に管理棟にあるタイムカードにより作業時間を記録していた。

4 労務の対価の支払方法等

本件組合におけるりんご生産作業についての労務の対価は、日給制を基本として消毒作業時の防除手当がつく仕組みで、賞与等はなく、月末締めの翌月五日払を原則としていた。

そして、毎月作業員毎の出役状況を記した吉田の作業日誌とタイムカードの記録によって組合長名の労務費請求書が作成され、これに基づいて会計担当の高橋が給与明細を作成し、給料日にりんご園地内の管理棟において、管理者、専従者、一般作業員の別なく全員に給与明細と現金の入った給料袋を高橋又は吉田から各人に給料として手渡す方法が採られていた。

また、日給の金額は、農業委員会で示す作業単価を基礎とし、作業内容や作業量、経験年数等を勘案して吉田が決定したうえ、組合長の承諾を得ており、平成三年ないし五年ころの右基本給の具体的な金額をみると、管理者である吉田と、専従者である原告及び小野寺の間には〇円ないし約一〇〇円程度、原告及び小野寺と一般作業員(男性)の間には約一〇〇〇円程度の差があったが、これは作業量、熟練度の違い等を考慮したものであった。

5 本件労務の対価の源泉徴収について

本件組合では、平成六年に一関税務署の係官から労務費として支払った分について源泉徴収をする必要がある旨の指摘を受けたため、その指導により、同年四月に、原告を含む作業員毎に支払った労務費を記載した「労務費個人支払い内訳書」を提出し、同年九月八日に平成三年分、平成四年分及び平成五年分の源泉所得税徴収額を一括して納入した。その後、被告は、平成七年三月二八日、右納入された源泉所得税のうち原告に係る部分の金額を誤納であるとして本件組合に還付した。

二1 所得税法上の事業所得(同法二七条一項)とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいい、これに対し、給与所得(同法二八条一項)とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいうが、とりわけ、給与所得については、給与支給者との関係においては何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならず、当該所得がこれらのうちのいずれに該当するかは、その業務ないし労務の具体的態様に応じて、その法的性格を判断すべきものと解するのが相当であるところ(最高裁昭和五二年(行ツ)第一二号昭和五六年四月二四日第二小法廷判決・民集三五巻三号六七二頁参照)、前記一認定の事実によれば、本件組合は、昭和五九年以降、組合の設立当初から採られていた組合員全員が出資口数に応じてりんご生産作業に従事する責任出役義務制を改め、管理者である吉田を中心とした専従者及び作業員に右作業を任せその労賃を組合で負担する方式を採ってきたこと、原告は、右作業において、管理者である吉田を補助し、大型機械を使用しての消毒作業等の一般作業員よりも比較的技術的な仕事をすることもあったが、その仕事の内容において、非組合員がほとんどを占める他の作業員と大差なく、吉田の指示を受けてりんご生産作業に従事し、毎日の労働時間をタイムカードによって管理される等の拘束を受け、専従者として継続的に労務を提供し、また、一日当たりの定額の日給を基本とする対価の支払を受け、その対価における一般作業員との差は仕事の熟練度に着目したものに過ぎず、その労賃は、組合全体の所得とは何らの関係もなく、専ら労働時間により定められていたものであって、原告の右収入には、なんら自己の計算と危険という要素の入り込む余地はなく、単なる労働の対価としての意味を有するに過ぎないものであるから、原告の右労務に基づいて得られた本件組合からの収入は、前記の判断基準に照らせば、所得税法上、給与所得にあたると認めるのが相当であって、このように実情に即して解することが課税の公平にも資するものというべきである。

2 これに対し、被告は、本件組合が民法上の組合であって、組合とその組合員である原告との間には雇用関係がないこと、本件組合の定款上、組合員が共同作業を行うことが前提となっていること、本件組合の設立当初責任出役義務制の下で組合員又はその家族が作業に従事し責任出役日数と実際の出役日数との過不足精算を行っていること等を挙げて、原告の労務提供を労務出資とみるべきである旨主張する。

しかしながら、本件組合が民法上の組合であって原告がその組合員であるからといって、組合との間に雇用契約等を認める余地がないと解することができないのはいうまでもなく、また、前記一認定のとおり、本件組合の責任出役義務制は、本件組合の設立後しばらく採られていたことはあったものの、本件係争年ころに至っては、既に責任出役義務制から吉田を中心とした作業員に作業を委嘱し、その労賃を組合で負担する体制が採られて久しい時期であり、右吉田を中心とした作業体制の下における原告の作業状況に鑑みれば、単に本件組合の組合員であるとの理由だけで、被告においても、本件組合が納入した源泉所得税徴収額の還付をしていないところから、その給与収入であることを争わないと認められる他の作業員と別異に取り扱わなければならない理由に乏しく、また、右作業体制は、本件組合において、専従者も単に労働力の一として扱うとの趣旨で導入したことは明らかであり、原告の労務提供が出資として扱われた形跡は全く見られないこと、組合全体の収益と労賃との間には何らの関連性もなく、その収益の先取りといった要素も全くないことに照らしても、原告の労務提供を本件組合に対する労務出資であるとし、あるいは、原告の収入を組合収益の分配であるとすることには困難がある。

被告の右主張は理由がない。

三 以上によれば、原告の本件収入は給与所得に係るものであって、これが事業所得に係るものであることを前提にしてなされた本件更正処分は、その余の点について判断するまでもなく違法であることは明らかであるから、その取消しを免れず、また、右更正処分を前提としてなされた本件賦課決定処分も違法であるから、取消しを免れないというべきである。

四 よって、原告の本訴請求はいずれも理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 栗栖勲 中村恭 大澤知子)

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