仙台高等裁判所 平成13年(う)100号 判決 2001年10月16日
主文
本件控訴を棄却する。
理由
第1本件控訴の趣意は,弁護人内藤和暁及び同古澤茂堂が連名で提出した控訴趣意書及び同訂正申立書に記載のとおりであるから,これらを引用する。
控訴の趣意は,量刑不当の主張であり,要するに,被告人は,平成12年8月7日に事前収賄罪で懲役1年,執行猶予3年,追徴40万円に処せられ,同裁判が確定したものであるが,本件各犯行は,同確定裁判のあった罪とは併合罪の関係にあり,同時審判がなされた場合の量刑との均衡を図るべきであるところ,被告人が上記確定裁判のあった罪及び本件犯行により収受した賄賂の額は合計340万円であり,著しく多額とはいえないこと,被告人は,本件を真摯に反省悔悟し,長年務め上げた町議会議員等の公職を退いた上,長期間の身柄拘束を受け,マスコミによりこれら事件が大きく報道されて事実上の社会的制裁を受けていること,被告人には20年以上も前の罰金前科以外に前科はないこと,本件で実刑となると,前記の執行猶予が取り消され,併せて3年間の長期の服役をすることとなること,原判決は,上記裁判の保釈中及びその判決宣告後に本件犯行にかかる賄賂を収受したことや罪証隠滅を図ったことを量刑事情として重く見ているが,本件公訴事実は供与約束罪で,収受罪ではなく,起訴されていない犯罪事実を実質上処罰する趣旨で考慮し,重く処罰することは許されず,また,被告人自身による罪証隠滅行為は犯罪とならないのであるから,上記罪証隠滅行為をもって被告人を重く処罰するための量刑資料とすることも許されないことなどを考慮すると,被告人を懲役2年の実刑及び追徴300万円に処した原判決の量刑は重すぎて不当である,というのである。
第2そこで,記録を調査して検討する。
本件は,当時町議会議員であった被告人が,平成12年3月中旬ころ,町の公共工事の指名競争入札に関し,土木業者から,入札予定価格の算出基礎となる「工事価格」を町の担当職員が漏らしてくれるようにあっせんの請託を受けて,町会議員としての町役場職員への影響力を利用して,町の担当職員に「工事価格」を漏示させるあっせんをするとともに,土木業者との間で,そのあっせんをした報酬として300万円の供与を受ける旨約束し(原判示第2),上記担当職員及び土木業者らと共謀の上,同土木業者をして上記漏示に基づき入札させ,公の入札の公正を害する行為を行った(原判示第1)という事案である。
町議会議員であった被告人が,私利私欲を図る目的で,その立場を悪用して,特定の業者のために町の担当職員に不正行為をさせ,かつ,入札の公正を害した行為は,議員としての自覚を欠き,公職の廉潔性と公務の公正に対する信頼を著しく損なわせたものとして,厳しい非難に値する。約束にかかる賄賂の額も少なくなく,しかも,被告人は,町議会議長選挙に際し立候補者から賄賂を受け取るという事前収賄の罪で起訴され,同年8月7日に懲役1年,執行猶予3年の判決を受け,同判決は同月22日に確定したものであるところ,同裁判の係属中に何らはばかるところなく本件約束にかかる賄賂の中200万円を収受し,更に判決宣告後確定前に残りの100万円を収受し,その上,虚偽の借用書を作成して罪証隠滅を図っているのであり,公職の廉潔性保持に対する意識の欠如は著しく,汚職の罪の重大性に対する認識を欠いているといわざるを得ず,さらに,上記事前収賄の犯罪と併せて考えると,被告人には汚職に対する罪悪感の欠如と同種の犯罪傾向が存在するものといえるのであり,被告人の刑事責任は誠に重いというほかない。
ところで,所論は,起訴されていない犯罪事実を実質的に処罰する趣旨で量刑上考慮することは許されないとして,本件供与の約束にかかる賄賂の収受の事実を量刑上重視するべきではないと主張する。しかしながら,現職の公務員が賄賂供与の約束をし,その約束に基づいて賄賂を収受した場合には,包括して収受罪一罪が成立すると解されるところ,本件において,被告人は,賄賂を収受する以前に議員を辞職して公務員たる地位を失っているため収受罪は成立しないのであるから,そもそも上記賄賂の収受の事実は所論のいう犯罪事実に当たらない。のみならず,同事実は,約束の罪による結果として同罪の犯罪事実と密接な関係のある犯情として量刑に当たり当然考慮されるべきであり,さらに,被告人の犯行に対する反省の情や犯罪性向を推知する資料として用いられることになるといえる。また,被告人自身による罪証隠滅行為が犯罪を構成しないからといって,隠滅行為の存在やその態様等を情状として考慮することは何ら差し支えない。
そうすると,被告人は,本件起訴後は反省をしており,町議会議員等の公職を全て退き,前刑裁判及び本件で身柄拘束を受け,本件がマスコミに報道されるなどして世間から強い非難を浴び,相当の社会的制裁を受けていること,被告人には相当以前の罰金前科2件以外に前科はなく,本件で実刑となると前刑の執行猶予が取り消され,併せて服役することとなることなどの被告人にとって酌むべき事情,及び上記事前収賄罪と同時審判された場合の量刑との均衡を考慮しても,被告人を懲役2年,追徴300万円に処した原判決の量刑が重すぎるとはいえない。論旨は理由がない。
第3よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松浦繁 裁判官 卯木誠 裁判官 春名郁子)