仙台高等裁判所 平成13年(う)96号 判決 2002年1月22日
主文
本件控訴を棄却する。
理由
第1控訴の趣意等
本件控訴の趣意は,弁護人小林芳夫作成の控訴趣意書に,これに対する答弁は検察官大野直孝作成の答弁書にそれぞれ記載のとおりであるから,これらを引用する(なお,弁護人は,控訴趣意書の第1点ないし第3点は事実誤認を主張するもの,同第4点は事実誤認の一事情として主張するもの,同第5点は量刑不当を主張するもの,同第6点は事実誤認の一事情として主張するものである旨釈明した。)。
控訴趣意の論旨は,これを整理して要約すると,以下のとおりである。
第1は,本件において原判示の岩手県二戸市a字bc番d及び青森県三戸郡e町大字f字gh番i(以下「本件土地」という。)の土地に不法投棄したとされているRDFといわれる固形物(以下「本件RDF」という。)は,陥没地ないし湿地帯を改善するための地盤安定化資材として利用価値のあるものとして利用されたのであるから,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)16条,2条の廃棄物には当たらず,少なくとも被告人自身は,本件RDFは地盤安定化資材として利用価値があり,廃棄物との認識は有していなかったのであるから,本件RDFが同法の廃棄物に当たるとした原判決には事実誤認がある,というのである。
第2は,被告人は,本件の共犯者とされているAから申し出のあったとおり,本件RDFは陥没地ないし湿地帯を牧場ないし畑にするための地盤安定化資材として使用されると信じていたのであるから,被告人には廃棄物処理法16条の不法投棄の故意はなく,被告人に不法投棄罪の成立を認めた原判決には事実誤認がある,というのである。
第3は,被告人は,Aの所有する元一般廃棄物処分場のあった陥没地ないし湿地帯を牧場ないし畑にするため,本件RDFが地盤安定化資材として使われ,その土地は将来とも所有者によって管理されるものと考えたのであるから,被告人の認識するところによれば処分基準違反にとどまり,不法投棄罪は成立しないとして,同罪の成立を認めた原判決の事実誤認をいうのである。
第4は,被告人と本件共犯者とされているA,B及びCとの間に,本件RDFを廃棄物として不法投棄する旨の共謀は存しないとして,共謀を認めた原判決の事実誤認をいうのである。
第5は,仮に本件不法投棄罪で有罪となるとしても,被告人は自ら暴利を得る目的で行ったものではないこと,本件RDFは共犯者であるA所有の元一般廃棄物処分場の跡地に埋め立てられ,土壌汚染の危険もないこと,被告人が代表取締役を務めていたD株式会社(以下「D」という。)は破産宣告を受け,被告人には収入の途が全くないことなどを考慮すると,被告人を懲役2年6か月,同刑の執行猶予4年及び罰金1000万円に処した原判決の量刑は重すぎるとして,量刑不当をいうのである。
そこで,記録を調査し,当審における事実取調の結果も併せて検討し,以下判断する。
第2事実関係
本件の事実関係として,原審取調べの関係各証拠によれば,次のとおり認められる。
1 被告人は,産業廃棄物の収集,運搬及び処理等を業とするDの代表取締役であり,Aは,産業廃棄物の収集,運搬及び処分等を業とするE工業株式会社(以下「E」という。)及びその他の同族会社の代表取締役であったところ,Aと被告人は,平成4年ころ,EがDから燃えがらの処分委託を受ける取引を始めたことがきっかけで知り合い,平成5年ころ,AがDに運転資金を融資し,一時Dの取締役を務めるなど懇意の間柄であった。被告人は,平成8年ころ,廃棄物中のプラスチック類等を利用し,これを選別,粉砕及び圧縮減容してRDFといわれる固形燃料を製造する計画を立て,同年7月ころ,Aは被告人から,DでRDFを製造し,Eでそれを販売するという事業を持ちかけられた。平成9年3月ころ,Aは,被告人の要請でDに,RDF製造事業の推進のため1億4500万円を融資した。
2 平成10年1月末ないし2月初めころ,DのRDF製造工場が稼働し始めたものの,RDFの燃料としての品質の問題やダイオキシンによる大気汚染の社会問題等のため,RDFを燃料として販売することは非常に困難な状況下にあった。RDF販売の見通しが立たないものの,DはRDF事業にすでに約7億円もの投資をした上,20億円を超える負債を抱えているため,RDFを製造してその原材料等として廃棄物の処分の委託を受ける中間処理業により利益を上げ続けるほかなく,被告人は,RDFの製造を継続することとした。しかし,RDFの販売の先が見つからないことから,同年2月初めころ,被告人とAが話合い,とりあえず販売先が見つかるまでRDFをEに運ぶこととし,運搬処分料として1トン当たり1万6000円,廃棄物に関するマニフェストを作成することにし,その後,Dで製造されたRDFは,廃棄物処分場等のあるA所有の本件土地に運ばれて溜め置かれた。
3 Aは,取引先に燃料としてRDFを売り込んだものの,悪臭が強いなどとして拒絶され,他に販売先が確保できる見込みもなく,Dから運ばれて来るRDFをそのまま放置するわけにいかず,その処置に窮したため,RDFを本件土地に埋めて処分することを考えた。そこで,Aは,平成10年4月初旬ころDの事務所を訪れて,被告人に対し,RDFの販売先が確保できる見込みがないので,段差やぬかるみのあるjの現場(本件土地)にRDFを埋めて畑に至る道を造るなどと話し,従前Eに支払っていた運搬処分料を同族会社であるFに支払う形にするよう求め,被告人も,RDFを埋めることを承知して,RDFの対価として1トン当たり2000円ないし3000円にするようを求めたが,Aは「うちはボランティアで引き取るんだ。」と答え,1トン当たり200円とすることとなった。
4 本件土地にあるEの廃棄物処分場の責任者であるCは,Aから,従前汚泥や燃えがら等を埋めて道路を造っていた場所を示され,RDFを使って道路を造るよう指示され,以前にも汚泥を使って畑を造るよう指示され,汚泥や燃えがら等の廃棄物を埋めて処分していたことから,今回も同様RDFを埋めて処分するよう指示されたものと考え,平成10年4月末ころから,RDFを汚泥や燃えがらとともに本件土地に埋立処分を開始した。Eの取締役専務のBは,同月末ころ,本件土地にRDFが埋め立てられているのを発見し,CからAの指示で埋立てを行っている旨聞かされ,埋立てが保健所等に発覚することをおそれ,Cと相談の上,地表面に木の皮であるバークを敷き詰めてRDFの埋立てを隠蔽することとした。
以後継続して,Dで製造したRDFが,本件土地に運ばれて埋立処分され,翌11年11月末までそれは続いたが,その間RDFの燃料としての販売先を確保することはできなかった。
5 平成11年4月21日,本件土地の廃棄物処分場に保健所の立入検査があったことから,立ち会ったBらは,本件RDFの埋立てが発覚するのをおそれ,これを機にDからの本件RDFの引取りを止めようと考え,殊更埋立てが発覚するおそれがあることを強調して,Aに立入検査の様子を伝えた。その翌日,Aは,Dの事務所を訪れ,被告人に保健所の立入検査がなされたことを伝え,本件RDFの引き取りは継続するものの,今後マニフェストの作成は止めて伝票に変えることとした。本件起訴されているのは,その以後の同月25日から同年11月30日までの間に,本件RDFが本件土地に埋立処分された分である。
第3控訴趣意の第1の論旨について
1 廃棄物処理法にいう廃棄物とは,それを占有する者が自ら利用し又は他人に有償で譲渡することができないために不要になった物をいい,それに当たるか否かは,その物の性状,排出の状況,通常の取扱形態,取引価値の有無,及び占有者の意思等を,総合的に勘案して決するのが相当であるといえる(最高裁平成11年3月10日第2小法廷決定,刑集53巻3号339頁以下参照)。
2 そこで,所論が主張するように,土地を牧場ないし畑とするため本件RDFを地中に埋めて地盤安定化資材として利用する場合,本件RDFが廃棄物に当たらないか否かについて検討する。
(1) 本件RDFの性状及び取扱状況
RDFは,廃棄物の中からプラスチック類等特定の物を原材料として選別し,それを破砕,圧縮減容等の工程によって固形化させたもので,容積を減縮した廃棄物として処分するあるいは固形燃料として利用することを目的としたものであり,その目的によって原材料の選別の精粗,破砕及び圧縮減容の程度,固形物としての固さの程度も異なってくるのであり,Dが製造する本件RDFは,廃棄物からプラスチック類,紙くず類,繊維くず類を選別し,それを圧縮減容して固形燃料として利用することを目的としたものである。しかも,原材料の品質が一定しないため,高い熱量を保持し安定化することが難しく,燃焼させたときの窒素酸化物,ダイオキシンの発生の問題のため,本件RDFを含めRDF一般が,燃料として取り引きされるという一般的状況にはなく,いまだ中間処理された廃棄物との認識が強く,県等の行政当局も,RDF一般について燃料として取り引きされる場合はともかく,処分するには廃棄物の処分場に埋立処分するように指導していた。このように,RDF一般がそもそも土地の地盤安定化資材として利用されることは想定されていない上,そうした利用事例も知られていなかったのである。
その上,本件RDFの一部には,プラスチック類,紙類,繊維類のほかにガラス類,金属類が混じっているものが発見されており,原材料の選別の不完全さや同じ製造工場内に医療廃棄物が保管される等の管理体制の不徹底などから,雑多な廃棄物が混入する可能性があったことが認められ,土壌汚染や地下水汚染のおそれの点から,本件RDFが地盤安定化資材としての適性を有するかは多分に疑問のところがあり,また,その固さの点でもバラツキがあるなどし,被告人やAにおいても,地盤安定化資材としての有効性について情報を収集したり自ら実験をしたことはなかったのである。
したがって,本件RDFを含めRDF一般が,地盤安定化資材として有用なものとして扱われる状況にはなく,そうした利用事例も知られていなかったのである。
(2) 本件RDFの埋立ての実情
本件RDFの埋立ては,本件土地内にショベルカーで深さ1.5ないし2メートルの素堀の穴を帯状に掘り,その穴に本件RDFを埋め,同時に汚泥や燃えがら等も交互に埋め,表面をバークと称する木の皮や土で覆うという方法で行われ,その埋めた部分の一部が道路や畑として使用されていたのであるが,本件RDFが路盤材として強度が十分でないため,車両が通行すると轍ができて往来が困難になる状況にあり,また,一緒に埋められた汚泥や燃えがらの中には,使用済み紙おむつ,燃え残った注射筒,チューブ,ゴム手袋等の医療廃棄物が混入しており,さらには,本件土地には,有害物質の入ったドラム缶も埋められていたことが認められる。このように,本件RDFの埋め立ての状況は,有効な道路ましてや畑を作ることを前提として,そのために地盤安定を図ることを考えてなされたとは到底いえない実情であった。
(3) 本件RDFの引渡しの状況
Dで製造された本件RDFは,上記のとおり,被告人とAの話合いの下に本件土地に運ばれて埋められることとなり,Dは1トン当たり1万6000円の運搬処分料をE側に支払い,一方,EからDに売買代金として1トン当たり200円が支払われるているが,これは,RDFの生産コスト等からすれば採算が合わず,Aとしても購入する必要のないものであって,売買を装うためのものにすぎず,本件RDFの引渡しに当たっては,Dはその対価を得ておらず,運搬処分料を支払うのみであった。
(4) 以上のような本件RDFの性状及び取扱状況,本件RDFの埋立ての実情,本件RDFの引渡しの状況からすれば,本件RDFが地盤安定化資材として利用価値のあるものとして扱われたとは到底認められず,本件土地に埋め立てられたのは,廃棄物として処分されたにすぎないといわねばならない。
なお,所論は,少なくとも被告人は地盤安定化資材として利用価値あるものとして認識していた旨主張する。しかしながら,被告人の所論に添う供述も,地盤安定化資材として有効と考えたとする根拠について説明がなく,強弁にすぎないといえるのであり,上記の本件RDFの性状及び取扱状況,本件RDFの引渡しの状況を被告人自身が認識していた上,本件RDFを地中に埋めること自体については被告人も承知していたこと,並びに上記認定の事実関係に照らせば,被告人は本件RDFが地盤安定化資材として有効に利用されるとは認識していなかったと認められる。
(5) 上記の検討に関連して,所論が主張するところについて,なお触れておく。
ア 所論は,DのRDF製造工場では,スーパーミラクルセパレーターと称する選別機械を使用しており,これにより工程上ガラス類及び金属類が除去される仕組みとなっているから,本件RDFにガラス類,金属類が混入することはなく,押収されたRDFから発見されたガラス類,金属類は,製造工程で除去しきれなかった極少量のものにすぎず,医療廃棄物でも材質がプラスチックや紙類であれば,RDFの製造に適するのであって,本件RDFは,廃プラスチック,紙くず,繊維くず以外の不純物を除去した上,摂氏150度から180度の熱を加えて窒素酸化物を取り除いて製造しており,地中に埋めても有害物質が溶出する危険はなく,地盤安定化資材として有用なものであると主張する。
しかしながら,大量に生産されたRDFの中からわずか数個押収されたRDFの中にガラス類や金属類が発見されているのであって,これがごく希な例であるとは考え難く,Dでは手選別作業がほとんど行われておらず,廃プラスチック,紙くず,繊維くず以外の多様な物が常時原材料に混入していたと認められる。また,DのRDF製造設備が窒素酸化物を除去する機能を有することを証する証拠はなく,むしろRDFを燃料として利用する場合には,発生する窒素酸化物を処理する装置の利用が想定されていること,DからEに運び込まれたRDFは十分に固化されておらず,形が崩れて粉々になった状態のものが多く,密閉されているとはいえないこと,医療廃棄物を原材料に混入するに際し,Dは特に滅菌や消毒等の措置をとっていないことなどからすると,有害物質が溶出する危険がないとは到底いえるものではない。被告人は,逮捕後,製造したRDFの溶出試験を専門家に委託し,埋立基準に適合する旨の結果を得たと供述するも,これを証する書面の提出もなく,どのような基準に適合していたのか不明である。
被告人は,RDFの製造現場において従業員を自ら指揮監督し,RDFの製造業務に当たっていたものであり,本件RDFに多様な物が混入していることを認識しており,本件RDFを処分する場合には環境汚染防止の措置が講じられた管理型処分場に埋立処分するよう行政指導を受けていたにもかかわらず,本件RDFが埋め立てられるに当たって,埋立ての現場を事前に点検したり,事前テストをするなどしていないのであり,本件RDFから有害物質が出ることはないと認識していた旨の被告人の供述は,到底信用し難い。
イ 所論は,Dが本件RDFを引き渡すに当たって支払った1トン当たり1万6000円の対価は,運搬料のみであり,処分料は含まれていないと主張する。
しかしながら,DがEに従前処分を委託していた汚泥や燃えがらについては,運搬処分料として1トン当たり1万6000円が,動植物残さについては同様1トン当たり1万4000円ないし1万6000円が支払われていたこと,Dからの運搬を行っていた業者が処分業者に本件RDFの処分を委託したときには,運搬及び処分料として1トン当たり1万5000円を支払っていること,運搬を請け負った業者からDあてに出された請求書の中には,「運搬処分料」と記載されたものがあることが認められる。そうすると,1トン当たり1万6000円の対価は,運搬処分料として通常の範囲内にあり,DとEとの間の従前の汚泥等の運搬処分料と同額であることからして,運搬及び処分料であると認められる。
第4控訴趣意の第2の論旨について
所論は,被告人は,Aから,元一般廃棄物処分場のある所有地が陥没したり湿地化したりしているので,埋め立てて牧場ないし畑にするために,本件RDFを土砂の代わりに地盤安定化資材として使用したいとの申し出を受け,その土地は将来にわたり所有者によって管理されるので,本件RDFの売却に応じたものであり,被告人には不法投棄の故意がない旨主張する。
しかしながら,Aは,Dを経営破綻から免れさせるためには,RDF製造工場を稼働させ続けねばならず,そのためには燃料として売れる見通しが立たずに溜まる一方であるRDFを処分せざるを得ないことから,当初から違法な投棄であることを承知してRDFを地中に埋めて処分する意図を持ち,それを実行したものであり,陥没したり湿地化したりした土地を造成して畑ないし道路を造るなどというAの話も,言い訳のための方便にすぎない。一方,被告人としても,事業としてRDFの製造を続ける以上,売れずに溜まるRDFを処分することが必要であり,Aの提案する地中に埋めるということが,そうした当面売れないRDFの処分方法であるということは,容易に認識できたことであり,しかも被告人は,RDFが地盤安定化資材として有効であるとの確信もなく,そうした使用例も伝えられていないことを承知しており,RDFを最終処分するには管理型処分場に捨てなければならないことは知っていたのであるから,RDFを本件土地に穴を掘って埋めることが不法投棄であり,Aの牧場や畑を造るという話も方便にすぎないことを認識していたと認められる。論旨は理由がない。
第5控訴趣意の第3の論旨について
所論は,元一般廃棄物処分場のあった陥没地ないし湿地帯を牧場ないし畑にするため地盤安定化資材として使用し,その土地は将来とも所有者によって管理されるものであるから,本件RDFの本件土地への埋立処分は,甚だしい処分基準というほどではなく,不法投棄には当たらないと主張する。
しかしながら,本件は,中間処理業者がその中間処分した産業廃棄物である本件RDFを,単にその最終処分許可を得ていない業者にその最終処分を委託したというにとどまらず,中間処理業に協力していた他の者らと共謀の上,山間部の雑木林に囲まれた丘陵地帯に広範囲にわたって穴を掘り,廃棄物である本件RDFを長期間にわたって大量に埋め立て,バークや土で表面を覆って埋立てを隠ぺいしていた悪質な態様であり,土壌汚染や地下水,自然水の汚染等周辺地域の環境,衛生を汚損するおそれがあるものであって,単なる処分基準違反の範囲を超えて不法投棄に当たることは明らかである。論旨は理由がない。
第6控訴趣意の第4の論旨について
所論は,被告人がA,B及びCとの間で本件RDFの不法投棄を共謀した事実はないと主張する。
しかしながら,既に判示したとおり,被告人とAとの間で,平成10年4月初旬ころ,本件RDFを本件土地に埋め立てて不法投棄する旨の話合いが行われて共謀がなされ,CがAの指示を受けてRDFの不法投棄を始め,Bはこれを容認して埋立ての隠ぺいを図ったもので,RDFの不法投棄の共謀が順次成立し,その後不法投棄を継続して本件起訴にかかる犯行に至ったものであることが認められる。論旨は理由がない。
第7控訴趣意の第5の論旨について
廃棄物処理法は,生活環境の保全及び公衆衛生の向上という目的のため,産業廃棄物について排出業者及び処理業者に定められた処理基準に従って適正に処理する義務を課しているのであり,それに違反して不法に産業廃棄物を投棄する行為は,産業廃棄物処理制度をないがしろにする悪質な行為というべきあり,殊に近年産業廃棄物の不法投棄が横行し,環境汚染等の大きな社会問題となっている現状の下では,不法投棄を抑止するためには厳しい制裁を科し,不法投棄に伴う不当利得の獲得を見逃さないことも必要であるところ,本件は,長期間にわたって大量の産業廃棄物を地中に埋立処分した大規模かつ悪質な不法投棄事案で,環境汚染の現実的危険も心配され,厳しく責められるべきある。その上,本件RDFの不法投棄を行うことにより,被告人の経営するDは,廃棄物処分の受託事業を継続することができ,莫大な利益を享受していたことも看過できない。被告人は,本件RDFは有価物であると強弁するなど反省の態度はうかがわれず,昭和57年4月26日に許可を受けた事業範囲以外の産業廃棄物を収集し,運搬の再委託をしたとして廃棄物処理法違反で罰金20万円に処せられた前科を有することなどに鑑みると,この種犯罪に対する被告人の事業者としての規範意識の低さも否定できないといわなければならない。したがって,被告人の刑事責任は重い。
そうすると,Dが破産宣告を受け,被告人には収入の途がないことなど被告人にとって酌むべき事情を考慮しても,被告人を懲役2年6か月及び罰金1000万円に処し,懲役刑に4年間の執行猶予を付した原判決の量刑が重すぎることはない。論旨は理由がない。
第8よって,本件控訴は理由がないので,刑訴法396条により本件控訴を棄却し,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松浦繁 裁判官 卯木誠 裁判官 春名郁子)