仙台高等裁判所 平成13年(行コ)6号 判決 2002年2月14日
主文
本件各控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは,仙台市に対し,各自3000万円及びこれに対する平成11年1月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
4 仮執行の宣言
第2事案の概要
事案の概要,前提となる事実,争点及び当事者双方の主張は,原判決の「事実及び理由」第2に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決2頁11行目及び8頁25・26行目の「支出命令権者」をいずれも「支出命令者」と改める。
第3判断
1 当裁判所も,控訴人らの被控訴人らに対する請求はいずれも理由がないのでこれを棄却すべきものと判断する。その理由は,次のとおり付加し訂正するほか,原判決の理由説示(「事実及び理由」第3の1及び2)と同一であるから,これを引用する。
(1) 原判決12頁12行目の「10,」の次に「11,」を,同じ行の「D,」の次に「当審証人I,」をそれぞれ加え,15頁25行目末尾に改行の上,次のとおり加える。
「調整課が特に参考としたのは佐賀市の例であり,平成9年11月18日,I次長及びD主査らは佐賀市で開催された熱気球世界選手権大会の会場を視察し,佐賀市当局から大会運営の実情等について事情を聴取した。なお,本件の証拠として提出されている調整課作成の報告書等には,上記大会につき佐賀市が支出した補助金の額についての調査結果の記載はないが,控訴人らの住民監査請求に対する仙台市監査委員の監査の結果(甲1)によれば,その額は1億4900万円であり,当審証人Iの証言等に照らすと,調整課は上記支出額を認識していたものと推認される。」
(2) 同18頁15行目の「趣旨」を「主旨」と,次行の「協議運営計画」を「競技運営計画」とそれぞれ改め,19頁6行目の「インターナショナル」の次に「バルーン」を加える。
(3) 同23頁22行目末尾に改行の上,次のとおり加える。
「さらに,控訴人らは,本件大会は「得体の知れない企画」であったとして,①発案者側が提示した予算額は5億円,3億2200万円,1億1900万円と推移し,自前で調達し得る協賛金はわずか6000万円という杜撰な企画であったこと,②仙台市が交付した補助金は実際の支出額(9600万円)の3分の1に近い比重を占めるものであったから,本件大会は仙台市からの補助金を当てにしなければ成り立ち得ない粗末な企画であったこと,③仙台市の担当者は,本件大会が経費の3分の1に当たる補助金を交付するに足りる社会的意義があるかどうか等について綿密な調査と分析を行う義務があったところ,そのような義務を懈怠し,一部有力者や助役ら上層部の指令に盲従したことなどを挙げる。
①及び②の点については,前記認定事実によれば,発案者側が当初(平成9年10月)に提示した予算計画案は,関連イベントを含めた予算総額が約5億円,このうち本件大会分は約3億2000万円であったところ,その後,調整課との打合せを重ね,調整課からは予算規模の縮小の要望が伝えられ,平成10年1月下旬から2月初旬ころ,調整課は,仙台市が本件大会につき支出できる補助金の上限を3000万円と設定し,同額について予算案に計上することを内部的に決定した上,そのころ,その旨を発案者側に通知し,また,調整課長は同年1月27日の打合せにおいて,現実的な事業計画及び収支計画の提示を求め,発案者側はこれを受けて,2月16日に行われた打合せにおいて,支出及び収入総額を各1億1900万円,収入内訳に仙台市からの補助金3000万円,企業協賛金8200万円等を計上した大会予算概算目論見等を提示したことなどが認められる。そして,本件大会の収支決算書(甲7〔51頁〕)によれば,本件大会の収入は本件補助金を除き合計6048万円余,支出合計は9602万円余であったが,収入のうち各種協賛金は合計5457万円余,熱気球グランプリ運営機構からの補助金が500万円であったことが認められる。
控訴人らは,発案者側の提示した予算額が推移したこと,自前で調達し得る協賛金が6000万円にすぎなかったこと,実際の支出額の約3分の1が仙台市からの補助金であったことなどから,本件大会の企画が杜撰で粗末なものであった旨主張する。しかしながら,発案者側が予算規模を縮小するに至った経緯は上記のとおりであって,上記事実によれば,発案者側は,調整課から本件大会につき支出できる補助金の上限が3000万円であると通知されたため,当初の計画を修正して予算規模を縮小したことがうかがわれるが,そうであるからといって,その企画が直ちに杜撰であったということにはならない。もっとも,上記のとおり,調整課は打合せの過程において,発案者側に予算規模の縮小を要望し,現実的な事業計画及び収支計画の提示を求めたりもしたところ,当審証人Iの陳述書(乙11)によれば,同証人としては,発案者側が当初に提示した計画は熟度の高いものではないと感じ,発案者側は公共団体と協動でのイベントを協議していくことに不慣れだということもわかったというのであるから,調整課がした上記のような要望・要求はこのような見地からされたものと推認されるが,それ自体は補助金を支出する側として当然の対応と考えられるのであって,そのことから直ちに発案者側の企画が杜撰であったというべきものではない。また,上記事実によれば,本件大会は,収入として企業協賛金8200万円を見込んで企画されたものであるところ,協賛金等の収入は約6000万円にとどまり,約500万円の赤字となったことが認められるが,当初の見込みと異なるにせよ,相応の協賛金等の収入を確保することができたのであるから,企画が杜撰であったということにはならず,実際の支出額の約3分の1が本件補助金であったからといって,企画が杜撰で粗末なものであったというべきものでもない。そして,前記認定のとおり(原判決20頁(4)),調整課は本件大会終了後,本件大会の実施内容の確認,支出及び収入内容の確認,本件補助金の目的外流用の有無等の調査をしたが,特に問題点はないという調査結果を得ているから,この観点からも,本件大会の企画が杜撰なものであったということはできない。
③の点については,前記認定事実(原判決13頁(2))によれば,本件大会の発案者側と調整課との最初の会合には仙台市議会議員なども同席し,本件大会の開催の支援につき一部政治家からの口添えがあったことがうかがわれるが,調整課ではその後,発案者側と打合せを重ね,提示された計画案等を検討した上,本件大会を支援することを決定したものであることは前記認定のとおりであって,控訴人らが主張するように,担当者が一部有力者やH助役ら上層部の指令に盲従して本件大会への支援を決定したものと認めるべき証拠はない。
以上のとおりであり,本件大会が「得体の知れない企画」であったなどということはできず,前記説示のとおり,仙台市が本件大会の開催を支援しようとした目的自体は正当であったというべきである。そうすると,控訴人らの主張は,結局において,仙台市が本件補助金を支出して本件大会の開催を支援しようとした政策判断の不当をいい,これを非難することに帰するというべきであるから,採用することができない。」
(4) 同24頁11行目末尾に次のとおり加える。
「すなわち,前記認定のとおり(原判決16頁オ),仙台市は,「光のページェント」については総事業費約1億円に対して3000万円,「七夕祭り」については総事業費約1億2000万円に対して3500万円の補助金を支出しているところ,控訴人らは,本件補助金はこれらと比較して多額に過ぎ,また,これらの補助金が段階的に増額されていることと比較して異例である旨主張する。しかしながら,本件大会と上記のようなイベントでは,事業の性質・規模・実施方法等が異なるから,単純に補助金の額のみを比較してその多寡をいうことはできない。そして,前記認定事実及び当審証人Iの証言によれば,調整課は,他の都市における類似のイベントに対する補助の状況及び仙台市における上記各イベントに対する補助の実績を勘案して本件大会に対する補助金(予算額)の上限を3000万円と決定したことが認められるところ,このような決定方法が裁量権の範囲を逸脱した違法なものということはできない。控訴人らは,本件補助金の額が過大であるとするが,適正とすべき額については何ら主張しないので,その主張は結局において,本件補助金を支出したこと自体の違法をいうものと解されるところ,これは,仙台市が本件大会の開催を支援しようとした政策判断を非難することに帰するというべきであるから,採用することができない。」
2 そうすると,原判決は相当であって,本件各控訴はいずれも理由がないので棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大内俊身 裁判官 栗栖勲 裁判官 比佐和枝)
<以下省略>