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仙台高等裁判所 平成16年(行コ)2号 判決 2004年9月28日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人が,控訴人に対し,平成13年5月2日付けでなした原判決添付別紙文書目録記載の文書を開示しないとの処分を取り消す。

(3)  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文と同旨

第2事案の概要

事案の概要は,次のとおり当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決の当該欄記載のとおりであるから,これを引用する。

1  本件文書に記録された情報の内容(不正流用の存否)について

(控訴人)

被控訴人は,調査活動費の推移及び使用状況等について,①公安関係事件の受理人員が昭和44年から減少を続け,平成10年ごろには,公安関係事件の情報収集の重要性が相対的に低下していたところ,平成8年ごろから特捜経済事件の情報収集の必要性が高まり,コンピューター関連機器の整備が急務となったことから,平成11年度以降調査活動費を減額し,コンピューター関連予算を増加させた,②平成11年度以降,内偵捜査等の実費にも調査活動費の特例払を使用するようになったために調査活動費の特例払に端数が生じるようになったと主張している。しかしながら,①のとおりであるならば,調査活動費は平成10年度までの間,減少傾向となるはずであるが,平成8年度から平成10年度までは調査活動費は増加傾向にあったのであり矛盾がある。また,そもそも調査活動費は公安事件の調査に限定されるものではないこと,コンピューター関連予算のために減らされた他の費目が明らかになっていないことからすれば,平成11年度以降の調査活動費の急激な減少が不自然であることにかわりはない。②についても,平成11年度以前は,情報提供者らと面談する際の検察庁職員の交通費などの費用の支出はどうなっていたのか,また,調査活動費の総額を減らすことを決めた時期に,なぜ,更に公安情報についての調査活動に使用できる額を減らす運用に変えたのかという疑問がある。

そして,原審で控訴人が主張したその余の調査活動費の使用状況等に関する不自然な事情や,証人Aの証言等及びBの証人調書等は多額の予算を使って収集した情報の利用,蓄積の点について,あいまいで具体性に欠けること,調査活動費の不正流用についての法務省内部の調査内容に関する証拠が原審に提出されていないこと,被控訴人が積極的な反証をしないことなどを併せ考えれば,不正流用の事実は当然推認されるべきである。

また,控訴人は原審において平成10年当時の支出担当官である仙台高等検察庁検事長を証人として申請したにもかかわらず,原審が採用しなかったのは,審理不尽の違法があるというべきである。

(被控訴人)

(1) Cの供述(以下「C供述」という。)の信用性について

C供述は,領収書の偽造を依頼された状況,領収書用紙に署名した経過などにおいてあいまいな点が多く,調査活動費の支出に関しては全て伝聞であり,その内容及び聞いた状況も不明確かつあいまいで,全体としてその信用性に重大な疑問がある。仙台高検総務課長からの封筒に「御直披」との記載があることから,これが偽造領収書の作成の依頼に用いられたとは認め難い。また,仙台高検事務局長作成名義の書面からも,偽造領収書作成の依頼などという趣旨を読み取ることはできないうえ,以前部下であったCに偽造領収書の依頼をするにあたって,わざわざ上記書面のような文書を作成・交付することは不自然である。なお,調査活動費の不正流用の存否といった事実関係は審理対象に含まれず,そうでないとしても,不正流用の事実は控訴人において主張立証すべきであり,しかもC供述は,本件文書に記載された平成10年度の調査活動費の支出状況とは関連性がないのであるから,被控訴人が積極的な反証をする必要はない。

(2) 調査活動費の予算が減額された経緯について

昭和44年から公安関係事件の数は減少傾向にあったが,検察庁においては,重大な公安事件が発生した場合の危険や影響等に鑑み,公安情報の収集を中心に調査活動を行っていたところ,公安関係事件の数が減少する一方,平成8年ごろから特捜経済事件関係の情報収集の重要性が高まり,特捜経済事件に対する体制を強化したものである。このような経緯からすれば,平成8年度から平成10年度にかけては調査活動費の予算額が増加していたとしても,被控訴人の主張と矛盾はない。

そして,特捜経済事件においては,コンピューター機器を使用しての情報収集や分析が合理的かつ効率的であり,また,社会の情報化が高度に進んできたため,検察庁においてもコンピューター関連機器の整備が急務となり,平成10年度中に情報管理政策の転換を図ることにし,平成11年度予算において,調査活動費をスクラップ財源としてコンピューター関連の新規整備費を計上したものであるが,コンピューターネットワークを導入して整備することにより,これまでの調査活動の効率化が可能となること,調査活動費は,ある程度のまとまりのある予算科目でもあったことからすれば,調査活動費を主な財源としたのは,合理的な予算措置である。また,調査活動費の認められた経緯が昭和31年12月の日ソ国交回復を転機とする我が国の内外の公安情勢の複雑化に対応するためであったことなどから,各検察庁における調査活動費は,公安関係事件に関連して支出されることが多かったことも併せ考えれば,平成11年度以降の調査活動費の減額率は不自然ではない。

(3) 調査活動費の執行方法について

ア 原判決は,平成11年度以前の調査活動費の特例払に端数が生じていないことから,情報提供者らと面談する際の検察庁職員の交通費などの費用支出の態様について疑問があるとしているが,交通費が生じない場所で面談したり,個人で負担することもあり得ることから,重要な問題ではない。

また,犯罪情勢の変化等をふまえて検察庁における情報収集・管理の在り方を大きく見直した結果,調査活動費の予算総額の減少や調査活動費の使途の多様化を行ったと主張しているのであるから,調査活動費を減少したのと同時期に,内偵捜査等の実費にも調査活動費の特例払を使用するようになったことは当然である。

イ 調査活動費の不正流用の存否の立証責任は控訴人にあるところ,Aの供述等によって控訴人の主張に理由がないことは明らかである。また,調査活動によって収集された情報の蓄積,利用については,調査活動の秘密保持の必要性等から,Aらは具体的な供述ができないこと,また,収集した情報の内容によっては,報告文書として残さず引継ぎもなされないという事情を考慮すべきである。

2  部分開示の要否について

(控訴人)

原判決が根拠とする「独立した一体的な情報」論は,1個の文書の中のどの範囲が1単位の情報となるのかがあいまいで,実施機関が設定した文書の体裁が1単位の判断に影響を与え,実施機関及び裁判所の判断が恣意的かつ場当たり的になるおそれがある。このような不当かつあいまいな「独立した一体的な情報」論は,情報公開法6条の解釈として何ら理由がない。

3  被控訴人の判断における不法な目的,他事考慮の有無について

(控訴人)

仮に,本件文書のうち,全部ではなく相当な部分が不正支出にかかる文書と認定できれば,そのことから全ての文書について不正支出の隠蔽という不法な目的・他事考慮が推認されることとなる。その場合には,全ての文書について裁量権の逸脱,濫用があることになり,本件処分は違法となる。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も,控訴人の本件請求を棄却すべきものと判断する。その理由は,下記2のとおり,付加,訂正,削除するほかは,原判決の当該欄説示のとおりであるからこれを引用する(なお,本件文書には4号該当性が認められるから1号該当性について判断する必要はない。したがって,この点についての控訴人の主張については触れるまでもない。)。

2(1)  原判決12頁10行目冒頭から13行目末尾までを以下のとおり改める。

「 これに対し,控訴人は,裁判所は,裁量権の逸脱又は濫用だけでなく,開示拒否の根拠が具体的に示されているかどうかを審査すべきであり,行政機関の長の判断に合理的な疑問があれば裁量権の逸脱又は濫用とまではいえない場合であっても,公共の安全及び秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めたことの『相当の理由』がないと判断すべきである,そして,上記『相当の理由』については,被控訴人に主張立証責任があると主張する。しかしながら,上記の4号における行政機関の長の裁量を特に尊重する趣旨及び規定の体裁等に照らし,採用しえない。」

(2)  原判決16頁19行目冒頭から22行目末尾までを削除する。

(3)  原判決17頁1行目の「認められる」に続けて,「(これに対し,被控訴人は,C供述の信用性に重大な疑問があると主張するが,上記に照らし採用できない。)」を加え,同頁3行目の「推認される」を「強く疑われる」と改める。

(4)  原判決19頁20行目冒頭から24行目末尾までを以下のとおり改める。

「 この点,控訴人は,①公安関係事件の受理人員は減少していたにもかかわらず,調査活動費が平成10年度まで増加傾向にあったのは矛盾である,②そもそも調査活動費は公安事件の調査に限定されるものではないことなどからすれば,平成11年度以降の調査活動費の急激な減少は不自然であると主張する。しかしながら,公安事件は減少傾向にあったが,重大な公安事件が発生した場合の危険等に鑑み,公安情報の収集を中心とする調査活動を行っていたこと,平成8年ころから特捜経済事件関係の情報収集の重要性が高まり,特捜経済事件に対する体制を強化したこと,また,特捜経済事件においてはコンピューター機器を使用しての情報の収集,分析が有用であることなどから,平成11年度以降調査活動費を財源としてコンピューター関連の新規整備費を計上したこと,調査活動費は,その認められた経緯から公安事件に関連して支出されることが多かったことなどの被控訴人の説明する事情に照らせば,必ずしも控訴人が主張するように,調査活動費の平成10年度までの増加傾向,平成11年度以降の減少が矛盾するとか不自然であるとはいえない。」

(5)  原判決20頁7行目の「消えない」の次に「(この点,被控訴人は,交通費が生じなかったり,検察庁職員が自己負担する場合も多いとしているが,そうでない場合もある以上,この点に関する疑問は残る。)」を加え,同頁10行目「平成11年度以降,」から同頁11行目末尾までを「前記(イ)b後段で被控訴人が主張している端数や繰越金発生の理由は首肯できないものではなく,執行方法の変更とみる余地もあり,それ以前の不正流用を証するものとは断定できない。」と改める。

(6)  原判決21頁17行目「もっとも」から19行目末尾までを削除する。

(7)  原判決21頁20行目冒頭から26行目末尾までを以下のとおり改める。

「d 平成11年度以降,全国の検察庁で情報交換会が開催され,調査活動費から弁当代が支出されることが多くなったこと,また内偵捜査等の実費にも調査活動費の特例払を使用するようになったことは,被控訴人も自認するところである。情報交換会経費はそれまで会議費から支出されていたのであって,調査活動費から支出してもその経費は会計検査院に対して正式証明を要するのに(甲26,乙36,弁論の全趣旨),なぜ調査活動費からの支出に変更する必要があったのかという疑問が生じる。また,控訴人も,調査活動費が減らされた時期に,なぜ,さらに公安情報についての調査活動に使用できる額を減らす運用に変えたのかという疑問がある旨主張している。しかし,この点について,被控訴人は,来日外国人による組織犯罪の急増等の犯罪情勢の変化に伴い関係諸機関との情報交換を活発化させるとともに,調査活動費の使途の多様化を行った結果であると主張しており,その主張に合理性が認められないわけではない。」

(8)  原判決22頁11行目「守秘義務」から16行目末尾までを以下のとおり改める。

「守秘義務の存在や調査活動の秘密保持の必要性,収集した情報の蓄積・利用状況の特殊性などからしてやむを得ないといえるものの,あいまいで具体性に欠けるきらいがある。」

(9)  原判決23頁冒頭から同24頁5行目末尾までを以下のとおり改める。

「(4) 以上の検討の結果を基に,平成10年度分の調査活動費である本件調査活動費の不正流用の事実の有無について検討するに,D供述によって,平成10年度の本件調査活動費に関して不正流用があったことを認めることはできず,他に直接これを認めるに足りる証拠はない。もっとも,C供述の信用性は高く,これによると,少なくとも昭和58年から平成5年にかけて,仙台高検の調査活動費に関して,本来協力者が作成すべき領収書が偽造されていたことが認められ,あえて偽造までされていることからすると,調査活動費が不正に流用されていたのではないかという強い疑いが生ずる。そして,このことから更に,平成10年度の仙台高検の調査活動費である本件調査活動費についても不正な流用が行われていたのではないかとの疑いが生じないわけではない。また,調査活動費が平成10年度までは増加傾向だったのに平成11年度以降減少傾向に転じ,しかも,平成11年初めころに,調査活動費の使用が組織的に見直され,その使用状況にも大きな変化がみられる。

しかしながら,領収書の偽造がなされた平成5年から本件調査活動費が使用された平成10年ころまでは相当の期間が経過しているうえ,C自身,平成5年5月以降退職した平成8年2月までは領収書の偽造を行っていない旨述べていることや,調査活動費の増減や使用状況についても,一部疑問な点は残るものの,この点に関して被控訴人が主張することは概ね,首肯し得ないものではなくあるいは合理性が認められないわけではないことからすると,C供述等から,平成10年度分の調査活動費である本件調査活動費の不正流用の事実を推認することまではできない。そして,その他これを認めるに足りる証拠はなく,未だ証拠が不十分と言わざるを得ない(なお,控訴人は,平成10年当時の仙台高等検察庁検事長を証人として申請したにもかかわらず原審が採用しなかったのは審理不尽の違法があると主張する。しかし,原審において,Aの証人尋問がなされ,Bの証人調書等が証拠として採用されているが,その尋問等の結果によれば,国家公務員法上の守秘義務の対象となるとして,必ずしも具体的な供述が得られていないのであって,検事長を証人として採用しても同様の結果となることが考えられることなどからすると,原審が上記検事長を証人として採用しなかったことをもって審理不尽の違法があるとはいえない。)。もとより,平成10年度の本件調査活動費の全て若しくは相当部分が不正に流用されていたと認めるまでの証拠は存しない。

たとえ,本件文書中に調査活動費の不正流用にかかる文書が一部含まれているとしても,どの文書がそれに当たるのかを区別して特定することができる証拠はないから,全体として,本件文書には実際に調査活動に使用された金員の支払に関する情報が記録されていないということはできないことになる。

したがって,いずれにせよ被控訴人の4号該当性の判断に事実誤認があったとは認められず,事実の基礎を欠く判断で裁量権を逸脱,濫用したという控訴人の主張は採用できない。」

(10)  原判決26頁15行目末尾に続けて以下のとおり加える。

「 また,控訴人は,『独立した一体的な情報』論は,あいまいで情報公開法6条の解釈として何ら理由がない旨主張するが,『独立した一体的な情報』の範囲は,当該情報が記載された記載部分の物理的形状のみならず,その内容,作成名義,作成目的などに照らし,社会通念に従って判断することが可能であるから,控訴人の主張は採用できない。」

(11)  原判決26頁25行目末尾の次に行を改め,以下のとおり加える。

「 控訴人は,相当な部分が不正支出にかかる文書であった場合には,全ての文書について不正支出の隠蔽という不法な目的・他事考慮が推認されることになり,全ての文書について裁量権の逸脱,濫用があることになる旨主張しているが,本件文書の相当部分が不正支出にかかる文書であると認めるに足りる証拠はないから,上記主張は前提を欠く。」

3  よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小野貞夫 裁判官 阿部則之 裁判官 神野律子)

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