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仙台高等裁判所 平成16年(行コ)4号 判決 2004年6月18日

控訴人 A株式会社

代表者代表取締役 甲

訴訟代理人弁護士 高橋一郎

被控訴人 福島税務署長 柳内一彦

指定代理人 林享男

同 原田剛

同 鈴木憲一

同 大畑裕樹

同 山内正和

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた裁判

1  控訴人

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人は、控訴人に対し、平成14年1月28日付けでなした控訴人の平成11年3月1日から平成12年2月29日までの事業年度の法人税の所得金額を1億3146万6359円、納付すべき税額を4780万1100円、過少申告加算税の額を430万3500円とする更正処分のうち、所得金額が4097万1159円、納付すべき税額が1432万9800円をそれぞれ超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

(3)  訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文同旨

第2  事案の概要

事案の概要は、次のとおり当審における当事者の主張を補足するほかは、原判決の当該欄記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決4頁6行目冒頭から8行目末尾までを削り、同4頁ないし同6頁の符号「(8)」ないし「(14)」を「(7)」ないし「(13)」と改める。

1  控訴人の主張

以下のとおり、原判決には事実誤認及び法令の解釈に誤りがある。

(1)  控訴人は、CのBビルからの撤退に伴う原状回復工事費を安くしたいCの意向を汲み入れて消費税込みの総額で9500万円としたものである。原状回復工事を実施するかどうか不明であったため、本件9500万円につき消費税を加算しなかったという原判決の事実認定は誤りであり、このことを理由の1つとして本件原状回復費用を収益に該当するとした原判決の判断には誤りがある。

(2)  建物の賃貸借契約終了における原状回復工事方法、その工事費用と賃貸人の預かった敷金及び保証金との精算方法は、当事者間の協議により決められるものであるが、このような当事者間の協議の結果、賃貸人が受領した原状回復工事費用相当額につき、その精算をするかしないかによって税法上の収益に当たるか否かの結論を導き出すことは、不動産賃貸借契約上の一般常識に反するものである。したがって、原判決が、原状回復工事費用につき精算がなされないことを理由として収益に該当すると判断していることは不当である。

(3)  当事者間においては、本件9500万円が敷金・保証金残の預り金であると認識しており、このことは、甲4号証の確認書1項によっても明らかにされている。本件において現状回復費用相当額が預り金でなく収益として課税されるなら、控訴人は相当額の法人税を徴収されることになり、その残余金で原状回復工事をなすほかなくなり、経済常識に反する不当な結果となる。

(4)  本件9500万円が収益として計上される所得なら、所得計上の時期をいつにするかについて合理的な配慮も可能となろうが、預り金であるとの控訴人の主張にとっては、この計上時期を意図的にずらす合法的方策をとることの利益がない。

2  被控訴人の主張

(1)  甲1、乙2、6及び10によれば、本件9500万円は、CがBビルの退去に際し、同ビルの原状回復工事をするという債務履行に代えて控訴人に支払われたものであり、返還する必要がなく、控訴人においていかなる用途にも自由に使用処分することができるものであるから法人税法の収益に当たることは明らかであって、預り金と見る余地は全くない。

(2)  本件確認書は、単に、Cが根抵当権の抹消登記を本件覚書に定める契約終了日まで行わなかった場合における敷金及び保証金の返還時期、本件9500万円の支払時期を取り決めたものに過ぎないから、甲4の確認書をもって本件9500万円を預り金と認識していたとは認め難い。したがって、控訴人のこの点の主張は失当である。

(3)  本件9500万円が益金である以上、本件係争事業年度である平成12年2月期の益金として計上すべきである。

第3  当裁判所の判断

1  当裁判所も控訴人の請求を棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり控訴人の主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「第3 争点に対する判断」欄説示のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決9頁13行目の「、さらに」から同頁14行目の「加算しなかっ」までを削る。原判決の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして正当として是認することができ、控訴人が指摘するような誤りがあるとは認められない。

(控訴人の主張に対する判断)

法人税法における所得金額は、原則として、当該事業年度の資本等取引以外の取引に係る益金の額から損金の額を控除した金額である。益金とは、あらゆる事実に基づき実現した収益その他の経済的利益である。原判決挙示の証拠によれば、原判決説示のとおり、本件9500万円は、CがBビルの退去に際し、同ビルの原状回復工事をするという債務履行に代えて控訴人に支払われたものであり、返還する必要がなく、控訴人においていかなる用途にも自由に使用処分することができるものであることが優に認められるから、法人税法の収益に当たることは明らかである。また、甲4によれば、本件確認書は、単に、Cが根抵当権の抹消登記を本件覚書に定める契約終了日まで行わなかった場合における敷金及び保証金の返還時期、本件9500万円の支払時期等を取り決めたものに過ぎないものであることがその記載自体から明らかであって、控訴人の主張するように本件9500万円が預り金であることを裏付けるものとは認められない。さらに、計上時期に関する控訴人の主張も本件9500万円が預り金であることを前提とするものであって、本件9500万円が益金であることは上記説示のとおりであるから、原判決が本件係争事業年度である平成12年2月期の益金として計上すべきであるとした判断に誤りはない。したがって、控訴人の主張はいずれも理由がなく採用できない。

2  よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小野貞夫 裁判官 阿部則之 裁判官 神野律子)

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