仙台高等裁判所 平成17年(行コ)11号 判決 2005年10月26日
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人が控訴人の平成12年分の所得税について平成14年1月11日付けでした更正(以下「本件更正処分」という。)のうち総所得金額2594万1158円,納付すべき税額511万2100円を超える部分を取り消す。
(3) 被控訴人が控訴人に対して平成14年1月11日付でした控訴人の平成12年分の所得税に係る過少申告加算税の賦課決定(以下本件更正処分と併せて「本件更正等処分」という。)を取り消す。
(4) 被控訴人が平成13年12月6日付でした控訴人の平成12年分の所得税に係る平成13年9月6日付更正の請求につき,更正の理由がない旨の通知(以下「本件通知処分」という。)のうち総所得金額2594万1158円,納付すべき税額511万2100円を超える部分を取り消す。
第2事案の概要
本件の事案の概要は,次のとおり訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」と同一であるから,これを引用する。
1 原判決2頁20行目の次に,行を変えて次のとおり加える。
「原審は,控訴人の本件通知処分の一部取消しを求める訴えについて却下し,その余の請求を棄却したため,控訴人がこれを不服として控訴した。」
2 原判決12頁14行目の末尾に次のとおり加える。
「とりわけ,平成12年12月26日,aが控訴人に対して有していた3口合計4億9012万7257円の債権のうち,同日支払を受けた2億7000万円の残債権額2億2012万7257円についてされた本件債務免除が,控訴人に対し,免除額と同額の経済的利益をもたらしたものとして,所得税法36条1項により,これを控訴人の平成12年分の所得金額の計算上収入金額として算入することが認められるか否かである。」
第3当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人の本件訴えのうち,本件通知処分の一部取消しを求める訴えについては不適法な訴えとして却下し,その余の請求は失当としてこれを棄却すべきであると判断する。その理由は,次のとおり訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する当裁判所の判断」の第1項ないし第3項と同一であるからこれを引用する。
(1) 原判決33頁23行目の次に,行を変えて次のとおり加える。
「この点,控訴人は,金銭債権の経済的な現在価値は,回収可能な経済的な利益であるから,法的な面からみた債権額と経済的な面からみた債権額は必ずしも一致するものではなく,債務弁済が不能になった場合と債務を免除された場合とでは,弁済しない理由は異なるものの,不払の事実は変わりがなく,経済的には,債務の免除を受ける前とその後で何の変動もないから,債務者が債務免除により経済的利益を得たとはいえないと主張する。
しかしながら,控訴人の主張は,弁済ができないという事実状態と,債務の免除によって将来にわたり債務という負の財産権が消滅することを同視するもので,採用することができない。
また,控訴人は,金銭債権の貸倒損失の損金等算入(所得税法51条2項,法人税法22条3項3号)が,債務免除によって法的に債権が消滅する場合だけでなく,債務者の資産状況,支払能力等からみた債権回収不能の場合にも認められることからも,債務者が債権者から債務免除による経済的利益を供与されたといえないことは明らかであると主張する。
しかしながら,控訴人主張の貸倒損失は,債権者にとって経済価値のない金銭債権について会計処理上の問題を解決するためにとられる手段であり,債務の免除によって法律上の債務が消滅する場合と債務を消滅させずに貸倒れの処理がされる場合とが,いずれも債務者に及ぼす影響が同じであるということにはならないのであって,これを同列に論ずるのは相当でない。
(2) 原判決35頁14行目から同23行目までを次のとおり改める。
「また,証拠(乙37)及び弁論の全趣旨によれば,課税行政上の実務の運用として,①個人納税者の債務免除益について,基本通達36-17の定めが適用され,各種所得金額の計算上,収入金額又は総収入金額等に算入されないこととされるのは,納税者が財産を売却するなどして保有資産がなくなり,収入を得ているとしても,それは生計を維持する最低限の収入にとどまる場合であり,②通常,民事再生法等により,個人事業者の事業再生を図るための債務免除は,事業の継続のために必要な資産又は資金の保有及び収入も残債務等の弁済が可能な程度得られるような事業再生計画に基づいてなされ,財産の保有及び残債務の弁済が可能な収入を得ることから,個人事業者は,資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合に該当しないと認められるため,債務免除は,事業所得又は不動産所得の総収入金額に算入する扱いとなっていることが認められる。この運用は,同通達の趣旨にかなった適切なものというべきであるから,本件においても,これらの実務の運用を踏まえて判断するのが相当である。」
(3) 原判決36頁1行目及び2行目を次のとおり改める。
「ない旨主張し,また,基本通達36-17は,所得計算上の収入金額に算入すべきかどうかに関する規定である法36条1項の運用通達であり,他方,法9条1項10号は,所得について非課税とするかどうかについての規定でその趣旨を異にし,上記通達が趣旨の異なる法律と同じ文言を使用しているからといって,同一には論じられない旨主張する。
前段の点については,既に判断したとおりであり,後段の点については,基本通達は法の解釈を統一的におこなうために出されるものであるから,基本通達が法と同じ文言を用いている場合,通達の文言を法の文言と同様に解すべきことは当然のことといわなければならない。したがって,法9条1項10号,基本通達9-12の2を基準にするのではなく,債務免除に関する貸倒損失についての基本通達や裁判例を参考にすべきであるとの控訴人の主張は独自の見解であって採用することができない。」
(4) 原判決38頁14行目の「受けることができ」の次に「(同時に本件債務免除という経済的利益を得ることができたからこそ,b銀行から3億6000万円の融資を受けることができたのである。)」を加え,同24行目の「上記の」の次に「個人事業者の事業再生を図るための債務免除に関する」を加える。
(5) 原判決39頁12行目の次に,行を変えて次のとおり加える。
「また,控訴人は,aにおいて2億7000万円の任意の支払を受けるために本件債務免除をしたものであり,同社にとって損失を被ってまで控訴人に対して経済的な恩恵を与える必要がないのみならず,控訴人の資産と債務の状況から同社は2億7000万円以上の回収をなしえなかった蓋然性は極めて高いというべきであり,本件債務免除時に社会通念上その免除額2億2012万7252円全額について回収不能であることが客観的に明らかであるから,控訴人に対して経済的利益の供与があったということはできないと主張する。
しかしながら,控訴人の主張は,債務者が支払能力を超えた部分の債務の免除を受けた場合,債務者には経済的利益はないとの見解を前提としており,これが採用できないことは既に説示したとおりである。」
2 よって,これと同旨の原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 佐藤康 裁判官 浦木厚利 裁判官 畑一郎)