仙台高等裁判所 平成19年(ネ)524号 判決 2008年2月27日
主文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らの訴えをいずれも却下する。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らの訴えをいずれも却下する(控訴人)。
3 被控訴人らの請求をいずれも棄却する(控訴人補助参加人)。
第2事案の概要
1 本件は、被控訴人らが控訴人に対し、(1)控訴人が平成19年6月28日に開催したとする臨時株主総会(以下「本件株主総会」という。)において、被控訴人ら全員の取締役を、訴外Bの監査役をそれぞれ解任するとした決議並びに控訴人補助参加人(以下「補助参加人」という。)、訴外C及び同Dを取締役に、訴外Eを監査役にそれぞれ選任するとした決議がいずれも存在しないことの確認を求めるとともに、(2)同日、上記(1)で新たに選任されたとする取締役によって開催されたとする控訴人の取締役会(以下「本件取締役会」という。)において、補助参加人を代表取締役に選任したとする取締役会決議が存在しないことの確認を求めたところ、原判決がいずれもその請求を認容したことから、補助参加人が控訴した事案であり、その余の事案の概要は、2及び3のとおり、当事者の主張を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する(なお、原判決3頁2行目、17行目及び23行目の「株式会社変更登記」をいずれも「役員に関する事項についての変更登記」に改める。)。
2 当審における控訴人の主張
控訴人は、本件訴訟が係属中の平成19年9月7日、福島地方裁判所から同裁判所平成19年(フ)第241号事件をもって破産手続開始決定を受け、破産管財人として弁護士Fが選任された以上、被控訴人の取締役等の職務は終了したのであるから、被控訴人らの本訴請求は訴えの利益が消滅しており、不適法である。
3 当審における被控訴人らの主張
株主総会等決議不存在確認訴訟は、株主総会等決議を前提として、その後、広汎に形成された法律関係を一律に是正するために認められるものであって、控訴人が破産手続開始決定を受け、選任された破産管財人が控訴人所有の財産に対する管理処分権を掌握したとしても、管理処分権限の対象に含まれない事項について一律に是正すべき法律問題が多々存するのであるから、控訴人について破産手続開始決定がなされたとしても、株主総会等決議不存在確認訴訟における訴えの利益がなくなるものではない。
本件では、控訴人の旅館事業に関わる行政法上の地位に関する問題があり、また、補助参加人が、控訴人の代表取締役の地位に在職したとする間に、控訴人の財産(建物)につき、補助参加人が関係する訴外「有限会社ざぼうあん」(以下「訴外会社」という。)に所有権移転仮登記手続をした事実がある。
なお、上記行政法上の地位は、控訴人の旅館業及び飲食店業に関する警察署長の許可、保健所長の許可等を意味するものであり、補助参加人が代表取締役ではないのに、上記監督官庁へ旅館業等の廃業届出をした結果、破産手続において、営業継続を前提とした価額による財産処分を見込むことができなくなるおそれがあり、この点について是正する必要性がある。
以上のとおりであって、本件については、破産手続開始決定がなされていても株主総会等の各決議が不存在であることの確認を求める特別の事情があるというべきである。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所は、被控訴人らの請求には訴えの利益がなく、却下すべきものと判断するが、その理由は次のとおりである。
2 証拠(甲2、6ないし13、33、乙1)及び弁論の全趣旨によると、控訴人は、旅館業、料理店業を目的とする株式会社であること(争いなし)、平成19年6月28日午後2時30分から控訴人本店所在地で開催されたとする控訴人の臨時株主総会(本件株主総会)における決議(本件株主総会決議)により、被控訴人らが取締役を、訴外Bが監査役をそれぞれ解任され、補助参加人、訴外C及び同Dが取締役に、訴外Eが監査役に選任されたとされていること、上記選任により取締役に就任したとされる補助参加人らにより、同日午後4時30分から福島市陣場町地内で開催されたとする控訴人の取締役会(本件取締役会)における決議(本件取締役会決議)により、補助参加人が代表取締役に選任されたとされていること、上記の各解任及び各選任に関する役員変更登記手続が同月29日それぞれなされたこと、被控訴人らは、同年7月10日、福島地方裁判所に本件訴訟を提起したこと、同裁判所は、同年8月17日、被控訴人らの申立てにより、補助参加人、訴外C及び同Dの取締役としての職務の執行を停止(補助参加人については代表取締役としての職務の執行も停止)し、職務代行者としてG弁護士を選任する旨の仮処分決定(同裁判所平成19年(ヨ)第19号)をしたこと、なお、同裁判所は、平成19年(フ)第241号事件をもって、同年9月7日午前11時、控訴人につき破産手続開始決定をし、F弁護士を破産管財人に選任したことが、いずれも認められる。
3(1) ところで、役員選任又は解任の株主総会決議不存在確認の訴えの係属中に事情が変化し、当該選任決議に基づき選任された取締役等の役員が既に取締役等の地位を喪失した場合や、解任決議に基づき解任された取締役等の役員が決議不存在確認の訴訟において勝訴したとしても取締役等の地位に復活する余地がない場合には、選任又は解任決議不存在確認の訴えは、他に特別の事情が存在しない限りは、訴えの利益を欠くものと解すべきである(最判昭和45年4月2日民集24巻4号223頁参照)。
(2) これを本件についてみるに、控訴人は、本件訴訟係属中である平成19年9月7日破産手続開始決定を受け管財人が選任されたことは前記認定のとおりであって、これにより、取締役とされる補助参加人、訴外C及び同D並びに監査役とされる訴外Eらは、いずれも控訴人との委任関係が当然終了するから(民法653条2号)、取締役等役員の地位を喪失し、他方、解任された取締役である被控訴人ら、同監査役であった訴外Bについても、解任決議不存在確認の訴訟において勝訴したとしても、上記破産手続開始決定時点において委任関係が当然終了したものと扱われるから、控訴人の取締役等の地位に復活する余地はないというべきであり、他に決議不存在確認を求めることについて特別の事情がない限り、本件株主総会及び本件取締役会における各決議不存在確認の訴えは、訴えの利益がないものといわなければならない。
(3) ところで、被控訴人らは、補助参加人が代表取締役として、管轄警察署長や保健所長に対し、控訴人について旅館業及び飲食店業の廃業届出をしたほか、控訴人所有建物について、補助参加人が関係する訴外会社に対し、所有権移転仮登記手続を行っており、控訴人所有財産を破産手続において適正な価額で売却するためには、かかる行為を是正する必要があり、訴えの利益を是認すべき特別の事情が存在する旨主張する。
しかし、控訴人について破産手続開始決定がなされたことは前記認定のとおりであり、破産管財人の下で破産財団に属する財産については換価処分が遂行されるところ、旅館業等の廃業届出がなされていない場合であっても、破産財団である旅館建物の買主である第三者が新たに旅館業及び飲食店営業を始めるに当たっては、控訴人の旅館業等許可の地位を承継することはできず、自ら都道府県知事に対し旅館業及び飲食店業の各許可申請をすることが必要であるから(旅館業法3条の2、食品衛生法53条の各反対解釈)、旅館業等の廃業届出の有無により、破産財団の換価処分の価額に影響を与えるものとは想定し難く、仮にそうでないとしても、かかる是正は選任された破産管財人の個別的対応に委ねるべきであって、決議不存在確認の訴訟をもって解決すべき事由には該当しないというべきである。
また、補助参加人が代表取締役として、訴外会社に対してした控訴人所有建物に関する所有権移転仮登記手続の是正の必要性についても、破産管財人が個別具体的な法律問題として解決すべき事柄であって(なお、破産管財人は、株主総会決議の不存在については、控訴人との関係でその旨の確認判決がなくとも、訴外会社に対し、その旨主張することが可能であると解される。)、本件訴訟をもって解決しなければならないものとして、特別事情の存在を肯定することはできない(なお、本件訴訟において、被控訴人らの取締役解任決議等の不存在が確認されたとしても、控訴人については、既に破産手続開始決定がなされて財産の管理処分権を喪失しているから、建物に関する上記所有権移転仮登記に関して、控訴人が法律上自ら是正行為をなし得る余地はない。)。
4 よって、これと異なる原判決を取り消した上、被控訴人らの訴えをいずれも却下することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 井上稔 裁判官 畑一郎 小林直樹)