仙台高等裁判所 平成19年(行コ)6号 判決 2007年9月27日
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が控訴人に対して平成16年12月24日付け青警本交指第433号をもって行った原判決別紙1文書目録番号1記載の文書の各一部分を開示しないとの処分(平成18年3月30日付け青警本交指第98号においてもその非開示処分が維持されたもの)を取り消す。
3 被控訴人が控訴人に対して平成16年12月24日付け青警本少第253号をもって行った原判決別紙1文書目録番号2記載の文書の名一部分を開示しないとの処分(平成18年3月30日付け青警本少第64号においてもその非開示処分が維持されたもの)を取り消す。
4 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。
第2事案の概要〔中略〕
第3当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、下記2のとおり原判決の訂正等があるほかは、原判決の事実及び理由欄の「第3 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 原判決の訂正等
(1) 原判決22頁6行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「捜査員が一般捜査費を執行し、現金を交付した相手方から領収書を徴することができなかった場合、平成15年度の取扱いとしては、当該捜査員が捜査費証拠書に綴られる『支払精算書』により精算報告する際に、取扱者にその理由を説明し、これを確認した取扱者が『支払精算書』の所定欄に所属、官職及び氏名を記載し、押印することとされており、他の書類の添付は要しないこととされていた(〔証拠省略〕)。この取扱いは、その後改められ、平成17年度には、当該捜査員が精算報告する際に、『支払精算書』に『支払報告書』を添付した上で、捜査幹部(警察本部にあっては課長補佐等)と取扱者(所属長)にその状況を報告し、確認を受けることとされている(〔証拠省略〕)。」
(2) 原判決23頁21行目の「なお」から同22行目の末尾までを削り、同22行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「捜査費証拠書には、表紙、裏表紙のほか、『捜査費総括表』、『捜査費支出伺』、『支払精算書』、『捜査費交付書兼支払精算書』、『支払伝票』、『領収書』等が綴られる。このうち、『捜査費総括表』は、捜査費の経理状況を記録したものであり、月ごとに作成される。『捜査費支出伺』は、捜査費を要する職員に対して所要額を交付することについて取扱者に承認を求めるものであり、捜査員に捜査費を交付する都度作成される。『支払精算書』は、捜査費支出何により取扱者の承認を得て交付された一般捜査費について、交付を受けた捜査員がその執行状況を明らかにし、取扱者に対して精算報告するものであり、捜査費を執行する都度作成される。『捜査費交付書兼支払精算書』は、中間交付者が捜査諸雑費を捜査員に交付した状況及び交付を受けた捜査員の執行結果を各月ごとに明らかにして取扱者に対し精算報告するものである。『支払伝票』は、捜査諸雑費の交付を受けた捜査員が、捜査諸雑費を執行した都度、当該執行日を単位に作成してその執行状況を明らかにし、取扱者に対して精算報告するものである。(〔証拠省略〕)」
(3) 原判決26頁9行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「(8) 控訴人は、平成17年2月7日、平成16年一部非開示処分につき青森県公安委員会に審査請求をし(以下「本件審査請求」という。)、青森県公安委員会は、青森県情報公開審査会に対し諮問をしたところ、青森県情報公開審査会は、本件変更開示がされたことを踏まえ、平成18年10月4日、平成16年一部非開示処分に係る行政文書について、捜査費証拠書の表紙に記録された枚数に係る部分及び捜査費支出伺の取扱者欄の印影等について開示することが妥当である旨の答申をした(〔証拠省略〕)。
青森県公安委員会は、平成19年1月24日、本件審査請求を棄却する旨の裁決をした(〔証拠省略〕)。」
(4) 原判決26頁19行目の「匿名のものであり、」の次に「このような手紙を発信した者や、控訴人に電話を架けた者の具体的な経歴や退職理由、青森県警に対する敵対的な感情の有無等、手紙や電話の内容の信用性を評価するための事情が明らかではなく、」を加える。
(5) 原判決27頁1行目の「答弁していることを考慮すると」を「答弁しているところ、仮に領収書の開示が予定されていないものであるとしても、開示がされないとは限らない上、開示以外であっても不用意に情報が外部に流出してしまうこともないではないであろうから、情報提供者が、情報提供の事実自体を秘匿することを希望し、領収書に本名を使うことを避けることも十分あり得ると考えられることからすると、」に改める。
(6) 原判決29頁8行目から同20行目までを次のとおり改める。
「本件においては、本件変更開示により、『月別の捜査費に関する情報』が開示されているところ、これに併せて捜査費証拠書の表紙に記録された枚数に係る情報が開示されると、その枚数の多寡により、1件当たりのおおよその執行額を推認することが一応可能であり、殊に枚数が少ない月については、1件当たりの執行額を相当正確に推認することも可能となるほか、月ごとの枚数の変動から、各月の捜査報償費の執行件数の増減を推認することも可能になると考えられる。また、被控訴人が主張するように、例えば、ある月の対象所属における捜査費の執行額が3万円で、捜査費証拠書の枚数が5枚の場合を想定すると、上記認定の捜査費証拠書に含まれる書類の内容によれば、捜査費証拠書には、表紙、捜査費総括表及び裏表紙の3枚が含まれるので、残る2枚が捜査費の個別執行に係る書類であることが明らかになるところ、平成15年度の取扱いによると、捜査諸雑費を執行した場合には、少なくとも、『捜査費支出伺』、『捜査費交付書兼支払精算書』及び『支払伝票』各1枚の合計3枚が作成されるため、この例では、捜査諸雑費ではなく一般捜査費を執行したものであって、『捜査費支出伺』1枚と『支払精算書』1枚が作成され、かつ、領収証等を徴することができなかったものであり、1人の捜査員が1件3万円の一般捜査費を執行したものであることが明らかとなる。このようなことが明らかになると、対象所属において特定の時期に非常に重要な捜査情報を入手した、あるいは何らかの事件捜査に着手したなど特別な捜査活動が行われたことを推知することが可能になり、特に、領収証等が『支払精算書』に添付されていないことからすると、情報提供者が自己の氏名を明らかにできないような秘匿性の高い情報提供を行ったものである可能性が高いことを推認することが可能になると考えられる。したがって、被疑者等の事件関係者がこれらの情報を入手した場合、自己の身辺で起きた事情等の他の情報と照合することによって、自己に向けられた捜査の進展状況を推察して証拠隠滅や逃亡等を図ったり、逆に捜査が自己の周辺に及んでいないと判断して更なる犯行に及んだりするおそれがあることを全く否定することはできないというべきであり、捜査費証拠書の表紙に記録された枚数に係る情報を公にすることにより、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると被控訴人が判断したことには相当な理由があるというべきである。
なお、仮に、上記の例のように1件当たりの捜査費の額が特定されるような場合にのみ捜査費証拠書の表紙に記録される枚数に関する情報を不開示とし、他の場合には公にすることとすれば、不開示としたこと自体、他の月にはみられない特別の捜査活動が行われたことを推認させることになるので、このような方法をとることも相当ではない。」
(7) 原判決30頁10行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「また、控訴人は、捜査費証拠書を構成する書類のうち、少なくとも青森県情報公開審査会が開示すべきと答申した捜査費支出伺の取扱者欄の印影等については開示すべきであると主張する。
しかし、捜査費支出伺の取扱者欄の印影等について開示することとした場合、それに伴ってこれらの情報が記載された書類の存否が明らかになるのであって、その結果、『捜査費支出伺』については、特定の月に捜査費を捜査員に交付した回数(枚数がゼロである場合には、特定の月に捜査費を捜査員に交付しなかった事実)が、『支払精算書』については、特定の月に捜査員が一般捜査費を執行した回数(枚数がゼロである場合には、特定の月に捜査員が一般捜査費を執行しなかった事実)が、『捜査費交付書兼支払精算書』については、特定の月に捜査諸雑費の交付を受けた中間交付者の数(枚数がゼロである場合には、特定の月に捜査員に捜査諸雑費を交付しなかった事実)が、『支払伝票』については、特定の月に捜査員が捜査諸雑費を執行した延べ日数及び延べ人数(枚数がゼロである場合には、特定の月に捜査員が捜査諸雑費を執行しなかった事実)がそれぞれ判明することになる。被疑者等の事件関係者がこれらの情報を入手した場合には、前に検討した捜査費証拠書の表紙に記録された枚数の情報が開示された場合と同様、証拠隠滅や逃亡等を図ったり、逆に更なる犯行に及んだりするおそれがあることを全く否定することはできない。したがって、捜査費支出伺の取扱者欄の印影等の情報を公にすることにより、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると被控訴人が判断したことには相当な理由があるというべきである。
さらに、控訴人は、『捜査費交付書兼支払精算書』について、これに記載された情報は各捜査員による具体的な捜査費の執行に関する情報ではないなどとして、開示することに支障はない旨の主張をする。
しかし、〔証拠省略〕及び弁論の全趣旨によれば、『捜査費交付書兼支払精算書』には、『取扱者』欄・『補助者』欄・『出納簿登記』欄の印影、取扱者の官職・氏名及び中間交付者の所属の各記載のほか、①特定の中間交付者が取扱者から受領した捜査諸雑費の受領日(月の途中で追加して受領したものがある場合は、その受領日も含む。)、受領総額、捜査員に交付した総額、捜査員が執行した総額及び取扱者に返納した総額の各記載、②特定の中間交付者が捜査諸雑費を捜査員に交付した場合における捜査員ごとの交付日、交付金額、執行額及び中間交付者に返納した金額(月の途中で捜査員に追加して交付した場合も同じ。)の各記載、③捜査諸雑費を交付された特定の中間交付者並びに当該中間交付者の指揮下にある捜査員の階級、氏名の各記載及び印影が存することが認められる。したがって、これらの情報を公にすると、対象所属が特定の時期に捜査活動を行った際、担当した中間交付者や捜査員がだれであったか、捜査諸雑費をだれが、いつ、いくら交付を受け、いくら執行したのか、それらの総額はいくらか、捜査が急速に進展するなどして月の途中で捜査諸雑費を追加交付したことはあったかなど、対象所属が特定の時期に行った捜査活動の具体的な状況を反映した情報が判明することになる。したがって、『捜査費交付書兼支払精算書』に記載された情報を公にすることは、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると被控訴人が判断したことには相当な理由があるというべきである。」
3 以上の次第であるから、当裁判所の上記判断と同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大橋弘 裁判官 鈴木桂子 岡田伸太)