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仙台高等裁判所 平成2年(ネ)556号 判決 1991年10月31日

第一審原告 高橋道雄

第一審原告 高橋覺

右両名訴訟代理人弁護士 野村弘

第一審被告 栄福商事株式会社

右代表者代表取締役 田中雄二

右訴訟代理人弁護士 谷川光一

主文

一、第一審原告らの控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。

第一審被告は、第一審原告らに対し、別紙目録記載の土地につき、盛岡地方法務局北上出張所昭和六三年一一月一八日受付第一二七一七号抵当権設定登記の抹消登記手続きをせよ。

二、第一審被告の本件控訴を棄却する。

三、訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、第一審原告ら

主文同旨

二、第一審被告

原判決中第一審被告敗訴部分を取消す。

第一審原告らの請求を棄却する。

第一審原告らの本件控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも第一審原告らの負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求の原因

1. 別紙目録記載の土地(以下「本件土地」という。)は、第一審原告ら持分各二分の一の共有である。

2. 本件土地に対し、盛岡地方法務局北上出張所昭和六三年一一月一八日受付第一二七一七号をもって、同日金銭消費貸借同日設定を原因とする、債権額六〇〇〇万円、利息年一五%、損害金年三〇%、連帯債務者株式会社テクノファイブ及び株式会社ダイエー土地建物、抵当権者第一審被告という抵当権設定登記(以下「本件抵当権設定登記」という。)がなされている。

3. そこで第一審原告らは本件土地の所有権(共有権)に基づいて第一審被告に対し、本件登記の抹消登記手続きを求める。

二、請求の原因に対する認否

認める。

三、抗弁(本件抵当権設定契約)

1. 第一審被告は、昭和六三年一一月一八日、株式会社ダイエー土地建物と株式会社テクノファイブ(以下「テクノファイブ」という。)を連帯債務者として、六〇〇〇万円を、返済期日昭和六四年二月一七日、利息年一五%、損害金年三〇%の約定で貸し渡し、第一審原告らは、右貸金債務を担保するために本件土地に抵当権を設定することを承諾した(以下「本件抵当権」という。)。

四、抗弁に対する認否

否認する。

五、仮定再抗弁(要素の錯誤による本件抵当権設定契約の無効)

第一審原告らは昭和六三年九月テクノファイブに対し本件土地を代金一億三四〇〇万円で売却し、同代金の内金二〇〇〇万円の支払を受けたが、本件土地の売買については国土利用計画法二三条一項に基づく届出が必要であり、その届出に対し売買金額を変更するよう勧告が出される可能性があった。そのため売買の合意を解除せざるを得なくなったときは、第一審原告らはテクノファイブに対し右二〇〇〇万円を返還しなければならないので、その場合の返還債務を担保することとして、債権者兼抵当権者テクノファイブ、債権額二〇〇〇万円として本件土地に抵当権を設定するつもりで、テクノファイブの代表者柴田利彦に委任事項欄白紙のままの委任状や印鑑証明書など必要書類を渡したところ、それが冒用されて本件登記がなされたのである。したがって、本件抵当権設定契約はその要素において第一審原告らの錯誤によりなされたもので無効である。

六、再抗弁の認否

テクノファイブと第一審原告らとの本件土地の売買については不知、その余は否認する。

第三、証拠<省略>

理由

(争いのないこと)

一、本件土地は、第一審原告ら共有の土地であること、本件土地に本件抵当権設定登記がなされていること、以上は当事者間に争いがない。

(第一審原告らとテクノファイブ間の契約の内容)

二、代理人名、委任事項欄の記入、日付を除き、その他の部分につき成立に争いのない甲第一二号証の同部分、成立に争いのない甲第五号証の一、二、証人高橋義男の証言から原本の存在と成立を認められる甲第六号証(但書部分を除く)、証人佐藤正文の証言から成立の認められる甲第八、第九号証、第一審原告らの署名捺印に争いのないことから真正に成立したと推定すべき乙第三号証、右各証人の証言、証人高橋恵子の証言、証人鬼柳鉄治の証言(一部)及び第一審原告高橋道雄本人尋問の結果を総合すると、第一審原告らは昭和六三年一一月一六日、テクノファイブ(代表者柴田利彦)との間で、第一審原告らの共有する本件土地を代金一億三四〇〇万円でテクノファイブに売却する旨の契約を締結し、テクノファイブは、第一審原告らに代金の一部前渡金名目で金額二〇〇〇万円の小切手を渡し、第一審原告らはこれを受領したが、本件土地の売買については国土利用計画法二三条一項の届出が必要であり、その結果、同法二四条一項による県知事の勧告が出されないとは限らないために、契約の実現ができない場合もあるので、その場合には第一審原告らは、テクノファイブに対し、右二〇〇〇万円を返すこととし、そのため予め担保として本件土地につき債権者をテクノファイブ、債権額二〇〇〇万円とする抵当権の設定をすることを承諾したこと、そして、右設定登記のために、第一審原告らは右柴田に対し本件土地の登記済権利書、印鑑証明書、「譲渡担保提供承諾書」と題する第一審原告らのテクノファイブ宛の書面(乙第三号証)、及び「代理人名、委任事項、日付」などの記入のない白地の第一審原告らの委任状(甲第一二号証)を預けたが、その後これら一件書類は右柴田から佐藤正文、高橋満を経て司法書士鬼柳鉄治に渡されて、同司法書士によって、右一件書類を使用して本件抵当権設定登記申請がなされたこと、以上が認められる。

(甲第一二号証が不真正であること)

三、第一審原告らが、不真正文書として提出する甲第一二号証には、第一審原告らが昭和六三年一一月一八日本件土地に本件抵当権設定登記をすることの登記申請手続を鬼柳司法書士に委任する旨の記載がある。そして同号証の第一審原告らの署名捺印に争いがないので、反証のない限り同号証は真正に成立したと推定すべきところ、原審証人佐藤正文の証言により、いずれも真正に成立したと認められる甲第八、第九号証、証人佐藤正文、同高橋義男、同高橋恵子の各証言、証人鬼柳鉄治の証言の一部によれば、甲第一二号証の委任状は、第一審原告道雄の妻恵子が、第一審原告道雄、同覺その夫高橋義男のほか、柴田利彦、佐藤正文、高橋某が同席しているときに、第一審原告らの承諾のもとで第一審原告らの住所氏名を記入し、捺印して、前示のような一件書類と共にテクノファイブ(代表者柴田利彦)に渡したものであるが、その当時は「代理人名」「委任事項」「日付」の各欄は白地のままであったところ、その後、前示鬼柳司法書士が、本件登記申請をするに当たり同白地部分を記入したこと、同人は記入の際、第一審原告らの意思確認をすることなく、右柴田や第一審被告の担当者の指示と説明のみによって記入したこと、右柴田らは前示認定のような第一審原告らとテクノファイブ間の抵当権設定契約とは全く違った内容である本件登記にかかるような内容の抵当権設定登記を委任事項として記入するよう指示したこと、以上が認められる。これによると甲第一二号証の委任事項は第一審原告らの意思に基づかずしてなされたもので、内容虚偽の不真正な文書であると認めるを相当とする。したがって、同号証をもって、第一審原告らが第一審被告に対し本件登記にかかる抵当権の設定を承諾したり、その設定を前示柴田に委任したことの証拠とすることはできない。

(乙第三号証による意思表示の無効であること)

四、原本の存在に争いがなく、原本につき第一審原告らの署名捺印に争いがないことから真正に成立したと推定すべき乙第三号証によれば、第一審原告らは、テクノファイブに対し、本件土地を同会社の土地開発事業のために譲渡し、同会社において右事業資金調達のため、銀行等の金融機関及びスポンサーの第三者に担保に提供してもよい旨承諾したことが認められないわけではない。しかしながら、証人高橋義男、同高橋恵子の各証言、高橋道雄本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、同号証については、第一審原告らが、前示柴田からしきりに急かされて前示高橋恵子をして署名捺印させたものであるが、その内容は柴田において予め勝手に記載していたものであり、不慣れな同原告らは、柴田を信用して、前示認定のようなテクノファイブに対する売買及び二〇〇〇万円の返還債務の担保の趣旨で作成される文書であると信じていたこと、すなわち、柴田は同原告らが不慣れで無知なのに乗じて、曖昧な文旨の記載内容を示して署名捺印せしめたものであることが認められ、これによると第一審原告らの右意思表示は法律行為の要素に錯誤があるものとして無効であると認めるのが相当である。

(本件抵当権設定契約がないこと)

五、他に第一審原告らが、本件土地につき、第一審被告に対し本件設定登記にかかるような抵当権の設定を承諾したと認めるに足る証拠はない。

(結論)

六、よって、その余の点につき判断するまでもなく、第一審原告らの請求は理由があるので、認容すべきところ、これと異なり、第一審原告らの請求の一部棄却をした原判決は失当であるから、第一審原告らの控訴に基づき原判決を変更して第一審原告らの請求を全部認容し、第一審被告の本件控訴は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三井喜彦 裁判官 齋藤清實 小野貞夫)

<以下省略>

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