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仙台高等裁判所 平成20年(行コ)22号 判決 2010年1月25日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求める裁判

1  控訴人

「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し100万円及びこれに対する平成19年6月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。訴訟費用は,第1,第2審を通じ,被控訴人の負担とする。」との判決

2  被控訴人

主文と同旨の判決

第2事案の概要

1  本件は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」という。)4条1項に基づき,外務大臣に対し,原判決添付文書目録1記載の行政文書(以下「本件対象文書1」という。)につき平成18年11月30日に,同目録2記載の行政文書(以下「本件対象文書2」といい,本件対象文書1と本件対象文書2を併せて「本件各対象文書」という。)につき平成19年2月2日に,それぞれ開示請求(以下,本件対象文書1についての開示請求を「本件開示請求1」と,本件対象文書2についての開示請求を「本件開示請求2」といい,本件開示請求1と本件開示請求2を併せて「本件開示請求1・2」という。)を行った控訴人が,本件開示請求1・2に対し,外務大臣が同年9月14日から同年11月13日までの間に,本件各対象文書の全部若しくは一部を開示するか,又は全部を開示しないかの決定(以下「開示決定等」という。)をしたことにつき,開示決定等が違法に遅延し,これにより控訴人が合計400万8100円の損害を被ったと主張して,被控訴人国に対し,国家賠償法1条1項に基づき,上記損害額の一部である100万円及びこれに対する違法な遅延状態に陥ったとする日の後の日(訴状送達の日の翌日)である平成19年6月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

なお,本件訴え提起時(平成19年5月23日)においては,未だ開示決定等がなされておらず,控訴人の請求は,本件開示請求1・2に対する外務大臣の開示決定等がなされていないことについての不作為の違法確認等の請求に100万円の損害賠償請求(これに対する遅延損害金請求を含む。)を併合したものであったが,原審係属中に本件各対象文書すべてについての開示決定等がなされたため,控訴人は,原審において,上記損害賠償請求(これに対する遅延損害金請求を含む。)を除く各請求に係る訴えを取り下げた。

原判決は,情報公開法上,控訴人は適切な時期に開示決定等を受けることのできる権利を有しているとしたものの,開示決定等の遅延は,それが情報公開制度の究極の目的である適正な行政運用の監視,確保という国民全体の一般的利益の実現を阻害する程度に著しいものであるため,社会通念上一般人において受忍すべき限度を超えていると評価できる場合に,初めて国家賠償法上保護に値する権利の侵害があったものというべきところ,本件開示請求1・2に対する外務大臣の開示決定等(後記本件開示決定等1~4)の遅延の程度は,社会通念上一般人において受忍すべき限度を超えているとは評価し得ないから国家賠償法上の違法があったということはできないと判断し,控訴人の請求を棄却した。

2  本件の前提事実,争点及び争点についての当事者の主張の要点は,以下のとおり訂正し,後記3,4のとおり,控訴人及び被控訴人の当審における主張の要点を付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「1 前提事実」及び「2 争点及び当事者の主張」のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決2頁22行括弧内の「証拠援用部分を除き,」を「認定に供した証拠等を掲記した事実のほかは,当事者間に」に改める。

(2)  原判決3頁1行冒頭~5行末尾を以下のとおり改める。

「ア 控訴人は外務大臣に対し,情報公開法4条1項に基づき,平成18年11月30日に本件対象文書1(6件)に係る本件開示請求1を行い,また,平成19年2月2日に本件対象文書2(27件)に係る本件開示請求2を行った。これらの開示請求は,外務省の担当部署である大臣官房総務課情報公開室(以下「情報公開室」という。)が,同各日その受付をした(甲1ないし6,13ないし39)。」

(3)  原判決4頁14行冒頭~25行末尾を以下のとおり改める。

「ア 外務大臣は,本件開示請求1に対し,平成19年9月14日付け情報公開第○○○○○号~第○○○○○号をもって,本件対象文書1の一部である原判決添付開示決定等対象文書目録1記載の各文書につき,同目録記載のとおり,不開示部分についての不開示理由を情報公開法5条1号,3号,6号とする部分開示決定を行い,控訴人に通知した(乙1の1~1の6。以下「本件開示決定等1」という。)。

イ 外務大臣は,本件開示請求2に対し,平成19年9月14日付け情報公開第○○○○○号~第○○○○○号及び第○○○○○号~第○○○○○号をもって,本件対象文書2の一部である原判決添付開示決定等対象文書目録2記載の各文書につき,同目録記載のとおり,不存在を理由とする不開示決定又は不開示部分についての不開示理由を情報公開法5条1号,2号,3号,4号,6号とする部分開示決定を行い,控訴人に通知した(乙2の1~2の27。以下,この決定を「本件開示決定等2」といい,本件開示決定等1と同2を併せて「本件開示決定等1・2」という。)。」

(4)  原判決5頁1行~18行末尾を以下のとおり改める。

「ア 外務大臣は,本件開示請求1に対し,平成19年10月31日付け情報公開第○○○○○号,第○○○○○号及び第○○○○○号,同年11月2日付け情報公開第○○○○○号~第○○○○○号並びに同月7日付け情報公開第○○○○○号~第○○○○○号をもって,本件対象文書1のうち本件開示決定等1に係る文書を除くその余の文書である原判決添付開示決定等対象文書目録3記載の各文書につき,同目録記載のとおり,不開示理由を情報公開法5条3号,6号とする不開示決定,又は不開示部分についての不開示理由を同条1号,3号,6号とする部分開示決定を行い,控訴人に通知した(乙3の1~3の9。以下,上記各決定を「本件開示決定等3」といい,本件開示決定等1と同3を併せて「本件開示決定等1・3」という。)。

イ 外務大臣は,本件開示請求2に対し,平成19年11月13日付け情報公開第○○○○○号~第○○○○○号,第○○○○○号,第○○○○○号,第○○○○○号,第○○○○○号,第○○○○○号,第○○○○○号,第○○○○○号,第○○○○○号,第○○○○○号,第○○○○○号,第○○○○○号,第○○○○○号及び第○○○○○号をもって,本件対象文書2のうち本件開示決定等2に係る文書を除くその余の文書である原判決添付開示決定等対象文書目録4記載の各文書につき,同目録記載のとおり,開示決定,又は不開示部分についての不開示理由を情報公開法5条1号,2号,3号,4号,6号とする部分開示決定を行い,控訴人に通知した(乙4の1~4の17。以下,この決定を「本件開示決定等4」といい,本件開示決定等2と同4を併せて「本件開示決定等2・4」という。)。」

(5)  原判決8頁21行冒頭~9頁1行末尾を以下のとおり改める。

「b しかるに,外務大臣は,本件開示請求1・2につき,開示請求から60日以内には,上記「相当の部分」はおろか,いかなる部分についても全く開示決定等を行わなかった。外務大臣が部分開示決定である本件開示決定等1・2をしたのは,開示請求から7か月半ないし9か月半が経過してからのことである。

c したがって,本件開示請求1・2に情報公開法11条の適用があるとしても,同条の部分開示要件を満たしていないのであるから,開示請求から60日以内に開示決定等をしなかった外務大臣の不作為は,国家賠償法上違法である。」

(6)  原判決9頁19行冒頭~22行末尾を以下のとおり改める。

「(イ) 本件開示請求1・2については,開示を求める文書の量に照らし,開示請求後60日目よりさらに原則的な開示期間に相当する30日以内(開示請求日から90日以内)が「相当の期間」であると解すべきところ,本件開示決定等3,同4はもとより,本件開示決定等1・2でさえも,当該期間内にはなされなかった。

したがって,仮に本件開示請求1・2に情報公開法11条の適用があるとしても,同条の「相当の期間内」に開示決定等をしなかった外務大臣の不作為は,国家賠償法上違法である。」

3  当審における控訴人の主張の要点

(1)  控訴人主張の権利利益が国家賠償法上保護されるべきものであるか否かについて(争点1関係)

被控訴人は,情報公開法に基づく開示請求権は公益のために付与されたもので,開示請求者の権利ないし利益を保護するために創設されたものではないから,控訴人主張の権利利益が国家賠償法上保護されるべきものに当たらないと主張する。

しかしながら,国民主権原理に照らせば,情報公開請求権を行使し,行政文書の開示を受ける権利は個々の国民に付与された個別具体的な権利である。行政活動の監視・監督は,国民個々人が自らの意思に基づいて主体的に行うものであり,それを可能とするために情報公開法が制定されたのであって,被控訴人主張のように,国民が公益的目的で情報公開を受けようとすることを念頭に置いて制定されたものではない。

情報公開請求権が具体的な請求権として規定され,行使されている以上,国家賠償法による保護の対象となり,この権利を侵害すれば,同法上の違法の問題が生ずることは当然である。

(2)  違法性判断基準について(争点2関係)

原判決は,本件につき,開示決定等の遅延の程度が情報公開制度の目的の実現を阻害する程度に著しいものであるため,社会通念上一般人において受忍すべき限度を超えていると評価できる場合に初めて国家賠償法上の違法があったとするのが相当であるとして,国家賠償法上の違法性の判断基準としていわゆる受忍限度論を用いた。

しかしながら,情報公開法10条,11条は,開示決定等をすべき期限や延長が許される場合を具体的に明示して,行政機関の長に対し,期限内に開示決定をなすべき職務上の法的義務を課しているのであるから,このような一義的に明らかな条文に形式的に違反して開示決定等を遅延した場合には,そのこと自体,開示請求者の権利の侵害に直結するものであり,即座に国家賠償法上違法と評価されるべきものである。受忍限度論を判断基準とすることは,開示決定等の遅延が許される範囲を明文なくして広範に認める結果となり,情報公開法10条,11条ひいては情報公開法の趣旨を没却するものである。

そもそも,受忍限度論とは,社会生活を営む上で,一般通常人なら当然受忍すべき限度を超えた侵害を被ったときに侵害行為は違法性を帯び,侵害行為者は不法行為責任を負うという議論であり,私人間において,侵害行為者の側にも一定の保護されるべき権利があることを前提とした一種の調整原理であって,本件のような国民対国家間の訴訟であって,国家の側に保護されるべき権利はない場合において適用されるべきものではない。

加えて,上記のとおり,開示決定等の遅延による賠償責任を免れ得る範囲を広範に認める受忍限度論を判断基準とすることは,行政機関の長が同各条所定の期限を徒過した場合に,開示請求者が被った損害を救済する方途を閉ざすものである。情報公開法が,開示決定等の遅延があった場合の開示請求者の不服申立手段を定めていないのは,開示決定等の遅延があることを想定していないからであって,開示請求者が開示決定等の遅延により損害を被った場合には,その損害回復の途は広く認められるべきである。

したがって,原判決が,本件につき,国家賠償法上の違法性の判断基準として受忍限度論を用いたことは誤りである。情報公開法10条,11条が,行政機関の長に対し,一義的かつ厳格に期限内に開示決定等をすべき旨定めていることにかんがみれば,本件において,外務大臣が開示決定等を遅延したことにつき,遅延することが真にやむを得ないといえるほどの高度の事情があったことが立証されない限り,当該遅延は国家賠償法上違法であるとの評価を免れないというべきである。なお,行政機関は,その事務量に応じて適切な人員を配置すべき義務があり,情報公開業務に従事する人員の不足や他の業務の繁忙は,開示決定等を遅延したことがやむを得ないものとする理由とはならない。

(3)  本件開示請求1に対する本件開示決定等1・3に国家賠償法上違法というべき遅延があるか否かについて(争点2関係)

ア 本件開示請求1の処理に当たった会計課においては,平成18年12月11日に対象となった在サンフランシスコ総領事館,在シカゴ総領事館,在ニューヨーク総領事館,在ボストン総領事館,在ホノルル総領事館及び在ロサンゼルス総領事館(以下,この6総領事館を総称して「在米6公館」という。)に対し,報償費の支出の決裁に際して作成・保管されている支出決裁書や証拠書類等の対象となる可能性のある文書を送付するよう指示し,これらの文書は,平成19年1月15日~同月29日に外務本省に到達した。

しかるに,本件開示請求1に対し,本件対象文書1のうちの一部について開示決定等(本件開示決定等1)がなされたのは平成19年9月14日,残りの文書についての開示決定等(本件開示決定等3)がなされたのは同年10月31日~同年11月7日であって,本件開示請求1がなされた日から約1年が経過している。

本件対象文書1(報償費支出関連文書)に係る開示決定等にこのような長期間を要したのは,本件開示請求1に対する開示作業を放置し,本件訴状の送達を受けてからようやく開示作業に取りかかったためであり,明らかに違法である。

イ 被控訴人は,会計課において,在米6公館から送付された報償費支出関連文書をまず通ごとに整理したと主張するところ,通ごとの整理とは,報償費の支出対象となった情報収集その他の外交工作活動の1案件ごとに文書を整理するということであり,外務省においては,このように通ごとに整理された文書を「広義の決裁書」と称する。広義の決裁書は,通常,狭義の決裁書,請求書,領収書,支払証拠台紙から成り(まれに見積書が含まれることもある。),これらによって構成された広義の決裁書1通が外交活動1案件に係るものであって(1案件・1支払証拠台紙の原則),1通の行政文書となる。

しかしながら,この通ごとの整理に時間がかかることはあり得ない。すなわち,在米6公館から送付された文書の中には,在外公館において支払証拠台紙に狭義の決裁書,請求書,領収書,見積書等が貼付されて一体化していたもの,請求書,領収書等は支払証拠台紙に貼付されていたが,狭義の決裁書は貼付されていなかったもの,狭義の決裁書は支払証拠台紙に貼付されていなかったものの,クリップ止めなどによりまとめてあったものなどがあったところ,狭義の決裁書を含めて一体化されていたものは,送付の段階で既に通ごとの整理が終わっていたことになるし,クリップ止めなどによりまとめてあったものも終わっていたに等しい。また,狭義の決裁書が支払証拠台紙に貼付されていなかったものは,狭義の決裁書と支払証拠台紙(請求書,領収書等は貼付済み)とを突き合わせて関連付けなければならないが,このような関連付けは容易である。すなわち,支払証拠台紙には支払年月日欄,設宴年月日欄,使用目的欄等があり,狭義の決裁書には起案年月日欄,決裁年月日欄,件名・設宴目的欄(この中には設宴日時欄がある。)等があるので,それぞれを年月日順に整理して,支払証拠台紙の使用目的の記載と狭義の決裁書の件名(設宴目的)の記載を突き合わせていけば足りる作業である。支払証拠台紙の中に設宴年月日欄が空欄のものがあったとしても,支払証拠台紙の使用目的欄の記載と狭義の決裁書の設宴目的欄の記載を突き合わせるなどすれば,関連は判明する。

在米6公館から送付された報償費支出関連文書は,通数にして785通であったが,仮に,このうちの半数について,狭義の決裁書が支払証拠台紙に貼付されておらず,関連付けの作業が必要であったとしても,本件開示請求1への対応業務に実務的に従事したという2名の課長補佐が,たとえ,他の業務と掛け持ちで行ったにせよ,その作業に半月程度を超える時間を要することはあり得ない。

ウ 被控訴人は,会計課において,通ごとの整理をした上で,1通ずつ開示・不開示の審査を行ったと主張する。しかしながら,開示・不開示の審査に時間がかかることはあり得ない。

すなわち,報償費支出のうち,定例的な物品購入・役務提供に関する経費,具体的には,①大規模レセプション(天皇誕生日祝賀レセプション,自衛隊記念日レセプション,我が国公館長の離着任レセプション)経費,②酒類購入経費,③在外公館長赴任の際などの贈呈品購入経費,④文化啓発用の日本画等購入経費,⑤本邦関係者が外国訪問した際の車両の借上げ等の事務経費の支出を「5類型」と称し,報償費支出関連文書のうち5類型に係るものを「5類型文書」と称するところ,外務省は,従前は報償費支出関連文書を一切開示しなかったものの,情報公開審査会(以下単に「審査会」という。)の平成16年2月10日付け答申(以下「16年答申」という。)に従って,5類型文書だけは部分開示をするようになった。つまり,外務大臣が,報償費支出関連文書に係る情報公開請求に対し,部分開示であれ,開示する文書は5類型文書に限られている。

そして,開示・不開示の審査の段階では在米6公館から送付された報償費支出関連文書は既に通ごとの整理が終了しているのであるから,各通の支払証拠台紙の使用目的欄(5類型に関しては,「○○レセプション」,「外交工作用設宴ワイン購入代」,「○○一行自動車借上げ代」などと明瞭に記載されている。)を確認すれば,5類型に係る文書を容易に選別することができる。なお,在米6公館から送付された文書(通数にして785通)のうち,5類型文書は91通であった。

16年答申は,5類型文書のうち開示部分の判断基準も示した(その内容は,別紙1のとおり。)ところ,外務大臣は1通の5類型文書のうちで開示する部分についても同判断基準に従っている。そして,16年答申による開示部分は明瞭であり,報償費支出関連文書の部分開示につき経験豊富な外務省が部分開示の範囲につき判断に迷うことはない。在米6公館から送付された文書のうち5類型文書は上記のとおり91通であり,本件開示請求1に対して部分開示された文書の枚数は357枚であった。

以上のとおり,通ごとに整理された文書785通についての開示(部分開示)・不開示の審査は所定の基準に従った定型的な作業であり,本件開示請求1への対応業務に実務的に従事したという2名の課長補佐が,たとえ,他の業務と掛け持ちで行ったにせよ,その作業に1月程度を超える時間を要することはあり得ない。

なお,当時会計課長であった証人Aは,16年答申に従った開示(部分開示)の基準を超えて開示し得るようなもの(範囲)がないかどうかを精査し,そのために時間がかかった如く供述するが,外務省が報償費支出関連文書の開示について16年答申の範囲を踏み出す気配は全くなく,本件開示請求1に対する開示決定等も16年答申の範囲内であって,上記供述は信用できない。

エ 情報公開法11条の適用及びその適用をした場合の延長期限の設定は極めて厳格になすべきものであるが,本件開示請求1に対する平成18年12月20日付け延長通知1は,在米6公館と連絡を取って対象となる文書の具体的数量等を把握することもせず,また,どのような作業にどの程度の時間がかかるかを具体的に検討することもしないまま,延長期限を約2年3か月も先に指定してなされたものであり,しかも,在米6公館に対する文書の送付指示に係る送付期限が平成19年1月22日までであって,期限までに当該文書が到達しても同月29日までに開示決定等をすることなど不可能であることを承知していながら,同法10条所定の開示決定等の期限(開示請求から60日目)である同月29日までに可能な部分の開示決定等をするなどとし,その結果,同日を徒過したものであって,杜撰極まりないものであった。

オ 被控訴人は,報償費の支出が公にしないことを前提とする外交活動に関する支出であって厳重な秘密保持を要し,その故に,本件開示請求1への対応業務に実務的に従事する担当官を総務室課長補佐及び審査室課長補佐のみに限らざるを得なかったため,開示決定等に至るまでに時間を要した如く主張するが,報償費を極秘事項に限って支出する法令通達上の根拠はなく,5類型に使用するなど,極秘事項に限って使用している事実もない。また,報償費に関する情報公開事務は,在外公館において行われたのではなく,外務本省の会計課において行われたのであり,外務省職員である限り,その地位に関わりなく,高度の守秘義務が課されるものであるから,情報公開事務への投入人員を増やしたからといって秘密漏洩の危険が高まることはあり得ない。

カ 結局,会計課において,本件対象文書1に係る開示決定等に長期間を要したのは,在米6公館から送付を受けた文書をそのまま放置していて平成19年6月20日に本件訴状の送達を受けたために,慌てて開示作業に取りかかったからであり,明らかに違法である。

(4)  本件開示請求2に対する本件開示決定等2・4に国家賠償法上違法というべき遅延があるか否かについて(争点2関係)

ア(ア) 本件開示請求2に係る本件対象文書2のうち,在ホノルル総領事館に係る行政文書を対象文書とするものの処理に当たった北米第一課が,在ホノルル総領事館に対象文書を送付するよう指示をしたのは,開示請求の日から5か月近くが経過した平成19年6月27日である。

在ホノルル総領事館に対する送付指示までにこのような長期間を要したのは,北米第一課において本件開示請求2(在ホノルル総領事館分)に対する開示作業を放置し,本件訴状の送達を受けてからようやく開示作業に取りかかったためであり,明らかに違法である。

(イ) 被控訴人は,対象文書となる可能性のある文書の所在に関しては,本省の予算を用いてされた便宜供与の場合と在ホノルル総領事館の予算を用いてされた場合とで保管状況が異なることが考えられ,さらに,外務本省又は在外公館に保管されている場合でも,当該便宜供与を主として担当した複数の課室等において,支出の用途に対応した費目別に保管されていることも考えられたとした上,在ホノルル総領事館に対する送付指示をするまでに,対象文書を効率的かつ遺漏なく特定し,検索収集して,開示・不開示の決定を行うための検討をするとともに,関係課等との協議を行う必要があったと主張する。

しかしながら,在ホノルル総領事館で行われた便宜供与に関する文書が外務本省に送付されるというような事実はなく,少なくともその全部が本省で保管されていることはあり得ない(証人Bは,在ホノルル総領事館で行われた便宜供与の報告が本省にされるかどうかは「ケースバイケースである」としている。)。北米第一課において,本件開示請求2(在ホノルル総領事館分)になるべく早く正確に対応する意図があったとすれば,開示請求がなされた時点ですべての関連文書が保管されているであろう在ホノルル総領事館に対する送付指示がなされるはずであり,便宜供与に関する文書全部が確保されているかどうか分らない本省内で文書を探す理由はない。また,北米第一課が在ホノルル総領事館に対し発した送付指示のための電信(乙11)に記載された支出関連文書の特定表記は,本件開示請求2に係る開示請求書において,開示を求めた文書の特定表記と酷似しており,そこには対象文書の絞り込みをしたような形跡は全くない。したがって,北米第一課が,在ホノルル総領事館に対する送付指示をするまでに対象文書を効率的かつ遺漏なく特定し,検索収集するために検討をするとか,関係課等との協議を行うなどということは不合理であり,実際,そのようなことはなされなかったと推認される。

なお,被控訴人は,平成19年2月2日から同年6月までは北米第一課が多忙を極めていたとか,当時,北米第一課が主管課として担当していた情報公開請求は140件以上あったなどとも主張するが,在ホノルル総領事館に対する文書送付指示をすることが,格別多大な時間・労力を要する作業でないことは明白である。

したがって,北米第一課において在ホノルル総領事館に対する送付指示をするまでに5か月近くの日時を要したのは,北米第一課において本件開示請求2(在ホノルル総領事館分)に対する開示作業を放置していて平成19年6月20日に本件訴状の送達を受けたために,慌てて西欧課と協議した上,送付指示を行ったからであり,明らかに違法である。

イ(ア) 本件開示請求2に係る本件対象文書2のうち,在イタリア大使館及び在フランス大使館に係る行政文書を対象文書とするものの処理に当たった西欧課が,上記両大使館に対象文書を送付するよう指示をしたのは,開示請求の日から5か月近くが経過した平成19年6月27日である。

在イタリア大使館及び在フランス大使館に対する送付指示までにこのような長期間を要したのは,西欧課において本件開示請求2(在イタリア大使館及び在フランス大使館分)に対する開示作業を放置し,本件訴状の送達を受けてからようやく開示作業に取りかかったためであり,明らかに違法である。

(イ) 被控訴人は,在イタリア大使館及び在フランス大使館に対する送付指示をするまでに,対象文書を効率的かつ遺漏なく特定し,検索収集して,開示・不開示の決定を行うための検討をするとともに,関係課等との協議を行う必要があったと主張するが,西欧課が,上記両大使館に対する送付指示をするまでに対象文書を効率的かつ遺漏なく特定し,検索収集するために検討をするとか,関係課等との協議を行うなどということは不合理であり,実際,そのようなことはなされなかったと推認されることは,上記アの北米第一課の場合と同様である。

したがって,西欧課において在イタリア大使館及び在フランス大使館に対する送付指示をするまでに5か月近くの日時を要したのは,西欧課において本件開示請求2(在イタリア大使館及び在フランス大使館分)に対する開示作業を放置していて平成19年6月20日に本件訴状の送達を受けたために,慌てて北米第一課と協議した上,送付指示を行ったからであり,明らかに違法である。

ウ 情報公開法11条の適用及びその適用をした場合の延長期限の設定は極めて厳格になすべきものであるが,本件開示請求2に対する平成19年3月5日付け延長通知2は,在ホノルル総領事館,在イタリア大使館及び在フランス大使館に対し文書の送付指示をすることもなく,また,これらの在外公館と連絡を取って対象となる文書の具体的数量等を把握することもせず,さらに,どのような作業にどの程度の時間がかかるかを具体的に検討することもしないまま,延長期限を約2年も先に指定してなされたものであり,しかも,「相当の部分」の開示のための準備検討すらしないまま,同法10条所定の開示決定等の期限(開示請求から60日目)である同年4月3日を徒過したものであって,外務大臣に義務違反があることは明らかである。

4  当審における被控訴人の主張の要点

(1)  控訴人主張の権利利益が国家賠償法上保護されるべきものであるか否かについて(争点1関係)

国家賠償法1条1項にいう「違法」が認められるためには,公務員が同項の「他人」の権利(主観的な権利)又は法律上保護されるべき利益を侵害したことが必要である。

しかるところ,情報公開法に基づく開示請求権は同法によって創設されたものであり,その法的性格は立法政策によって決定されるものであるが,同法が,開示請求権につき,専ら行政運営の監視及び透明性の確保という公益のために付与され,この見地から行使されるべき公益的権利として位置付けていて,個々の開示請求者に主観的な権利ないし利益を付与したり,そのような権利ないし利益を保護するために創設したものでないことは,同法3条が,開示請求権を「何人」にも付与し,開示請求者が何らかの権利利益を有していることを開示請求の要件としていないこと,開示請求の手続において開示請求者が請求の理由,目的,請求に係る行政文書との利害関係等を明らかにすることを要求していないことなどに照らして明白である。

この点につき,控訴人は「行財政監視業務活動をする利益」が侵害されたと主張するが,かかる利益の内容は漠然としており不明確である。上記の情報公開法に係る立法政策にかんがみれば,控訴人の主張する利益の内容は国民一般が有する地位をいうものと解され,個別の国民が有する具体的な法的利益であると解することはできない。

すなわち,情報公開法は,控訴人が主張するような権利利益を各国民の主観的な権利利益として保護していると解することはできないのであるから,かかる利益が侵害されたとして国家賠償法1条1項にいう「違法」の問題が生ずる余地はない。

(2)  違法性判断基準について(争点2関係)

控訴人は,情報公開法10条,11条のような一義的に明らかな条文に形式的に違反して開示決定等を遅延した場合には,即座に国家賠償法上違法と評価されるべきであるとか,同各条が一義的かつ厳格に期限内に開示決定等をすべき旨定めていることにかんがみれば,被控訴人が開示決定等を遅延したことにつき,遅延することが真にやむを得ないといえるほどの高度の事情があったことが立証されない限り,当該遅延は国家賠償法上違法であるとの評価を免れないなどと主張する。

しかしながら,公務員の行為が結果として法律に違反するかどうかの問題と国家賠償法1条1項の「違法」の問題とは区別して取り扱われるべきものであり,仮に処分が違法であったとしても,当該処分をした公務員の行為が国家賠償法上当然に違法になるということはないのであって,このことは,情報公開法に基づく開示請求の場合においても同様である。また,国家賠償法1条1項に基づく賠償請求権の根拠事実は,請求者側において立証責任を負担するものであり,したがって,開示決定等の遅延が違法であることについての立証責任の負担者が被控訴人に転換することもあり得ない。

控訴人の上記各主張はいずれも独自の見解といわざるを得ない。

(3)  本件開示請求1に対する本件開示決定等1・3に国家賠償法上違法というべき遅延があるか否かについて(争点2関係)

ア 本件開示請求1は会計課を主管課室とするものであり,事務の分掌の内容から総務室及び審査室がその処理を担当したところ,公にしないことを前提とする外交活動に関する支出として厳重な秘密保持を要する報償費の支出の性質にかんがみて,本件開示請求1への対応業務に実務的に従事し得た担当官は,総務室課長補佐及び審査室課長補佐のみであり,しかも,両課長補佐とも他の業務を抱え,情報公開関連業務に常時従事することは困難な状況であったほか,平成18年11月ころから平成19年にかけて,会計課を主管課室とする情報公開請求が本件開示請求1のほか約30件なされているという多忙な状況であった。

本件開示請求1に係る本件対象文書1は,在サンフランシスコ総領事館,在シカゴ総領事館,在ニューヨーク総領事館,在ボストン総領事館,在ホノルル総領事館及び在ロサンゼルス総領事館の在米6公館に保管されており,開示・不開示の実質的な審査のため対象となる文書を外務本省に送付する必要があったので,所定の手続を経た上,外務大臣において,平成18年12月11日,在米6公館に対し,対象となる文書を平成19年1月22日本省必着で送るように指示し,同月15日~同月29日に順次これらの文書が外務本省に到達した。

送付された文書は必ずしも1回の報償費の支出ごとに整理されたものではなかったので,会計課においては,審査のため,まず,これらの文書を1回の報償費の支出ごとに整理する通ごとの整理をしたところ,その通数は785通(分量は段ボール箱2箱分)となり,枚数はその数倍に上った。その上で,会計課の担当官は,1通ずつ開示・不開示の審査を行ったが,報償費は公にしないことを前提とする外交活動に関する支出として秘匿性を有するものの,上記審査の段階においては,定型化・定例化したこと等により一部開示が可能なものが含まれている可能性があったため,1通ごとに個別具体的に当該支出に係る外交活動の性質を勘案して慎重に審査をし,平成19年9月14日~同年11月7日に開示決定等(本件開示決定等1・3)を行ったものである。

本件開示請求1に関する事務処理については,担当官において情報公開法に関する業務についてはもとより,報償費の支出に係る業務の内容にも精通している必要があり,かつ,秘密保持の観点から担当官を限定せざるを得なかったほか,他に多数の情報公開請求がなされているなどの事情があり,本件開示請求1につき,その受理から開示決定等までの間に上記の期間を要したことは,様々な制約の下でやむを得なかったものというべきである。

イ 外務大臣は,平成18年12月20日付けで,平成19年1月29日までに可能な部分の開示決定等を行い,平成21年3月31日までに残部についての開示決定等を行う予定である旨の延長通知1を行っているが,上記期間を定めるに当たっては過去の開示請求の事例を参照するなどしており,合理性が認められる。本件開示請求1に対しては,全体として処理を急いだものであって,結果として開示請求から1年足らずの間に開示決定等を行っており,職務行為を怠ったものということはできない。

(4)  本件開示請求2に対する本件開示決定等2・4に国家賠償法上違法というべき遅延があるか否かについて(争点2関係)

ア(ア) 本件開示請求2に係る本件対象文書2のうち,在ホノルル総領事館に係る行政文書を対象文書とするものにつき主管課室となった北米第一課は,アメリカ合衆国及びカナダに関する総合的な外交政策の企画・立案及びその実施等を所掌するほか,国会質問への対応なども行い,恒常的に多忙であったが,本件開示請求2がされた平成19年2月2日から同年6月までは,2月の米国副大統領及び米国大統領次席補佐官の来日を始め,毎月立て続けに要人往来等の大型外交案件があり,北米第一課が中心となって,会談や議論の内容についての関係各省庁との調整,移動や宿泊の手配,警備体制等の段取りなどを行わなければならず,多忙を極めていた。北米第一課の定員28名のうち,情報公開業務に従事していたのは,総務班員を中心とする4名であったが,この当時,北米第一課が主管課として担当していた情報公開請求は140件以上あった。

しかるところ,本件対象文書2のうち北米第一課に係るものは,在ホノルル総領事館における平成10年分から平成18年分の「国会議員に対する要人往来便宜供与の件数,一件当たりの金額,便宜供与の内容を示す文書及び決裁書,支出明細書,領収書などの支出に関する一切の文書」であるところ,「便宜供与」は会計上の費目ではなく,必ずしもその外縁が明確ではないものであり,控訴人の開示請求は9年分にも及ぶ文書を一律かつ網羅的に対象とするものであったし,対象文書となる可能性のある文書の所在に関しては,本省の予算を用いてされた便宜供与の場合と在ホノルル総領事館の予算を用いてされた場合とで保管状況が異なることも考えられた。さらに,外務本省又は在外公館に保管されている場合でも,当該便宜供与を主として担当した複数の課室等において,支出の用途に対応した費目別に保管されていることも考えられた。しかも,北米第一課としては便宜供与としての支出に関する文書を対象文書とする情報公開請求を処理した経験がなかったこともあり,上記対象文書を効率的かつ遺漏なく特定し,検索収集して,開示・不開示の決定を行うための検討をするとともに,関係課等との協議を行う必要があり,これらの検討や協議を踏まえて,在ホノルル総領事館から文書を取り寄せることとし,平成19年6月27日に,同年7月6日までに送付するよう指示をした。

これを受けた在ホノルル総領事館では,館内の多くの部署に分散して保管されている膨大な書類の中から関連のあるファイルを探し出し,対象文書となる可能性のある文書を選別して順次外務本省に送付し,これらの文書は平成19年7月6日から同年9月18日までの間に外務本省に到達した。外務本省に送付された文書は段ボール箱1箱分に上った。そして,北米第一課では,総務班員を中心とする4名が対象となる文書につき1枚ずつ,開示・不開示の審査を行ったうえで,同年9月14日及び同年11月13日付けで開示決定等(本件開示決定等2・4)をした。

(イ) 本件開示請求2(在ホノルル総領事館分)が,過去9年分に及ぶ便宜供与としての支出に係る文書を網羅的に対象とするものであったこと,北米第一課が同様の開示請求の処理をした経験がなく,対象文書を効率的かつ遺漏なく特定し,検索収集するためには,関係課室との協議を踏まえて検討しなければならなかったこと,大型外交案件が間断なく続いたために北米第一課は昼夜を徹しての勤務状況が続いたこと,上記のとおり多数の情報公開請求がされていたことを考慮すれば,本件開示請求2の受理から1年足らずの間に本件開示決定等2・4がなされたことをもって,職務行為を怠っていたものということはできない。

イ(ア) 本件開示請求2に係る本件対象文書2のうち,在イタリア大使館及び在フランス大使館に係る行政文書を対象文書とするものにつき主管課室となった西欧課は,イタリア及びフランスを含む西欧諸国22か国に関する総合的な外交政策の企画・立案及びその実施等を所掌するが,本件開示請求2がされた平成19年2月2日から同年6月までは,同年2月4日までのイタリア副首相兼外相の訪日を初めとして毎月複数回の要人往来等の大型外交案件があり,西欧課が中心となって,会談や議論の内容についての関係各省庁との調整,移動や宿泊の手配,警備体制等の段取りなどを行わなければならず,多忙を極めていた。当時,西欧課は定員20名に対して15名しか配置されておらず,そのうち情報公開関連業務に従事していたのは4名(平成19年3月からは3名)であった。

しかるところ,本件対象文書2のうち西欧課に係るものは,在イタリア大使館及び在フランス大使館における平成10年分から平成18年分の「国会議員に対する要人往来便宜供与の件数,一件当たりの金額,便宜供与の内容を示す文書及び決裁書,支出明細書,領収書などの支出に関する一切の文書」であるところ,西欧課も北米第一課と同様,便宜供与としての支出に関する文書を対象文書とする情報公開請求を処理した経験がなかったこともあり,上記対象文書を効率的かつ遺漏なく特定し,検索収集して,開示・不開示の決定を行うための検討をするとともに,関係課等との協議を行う必要があり,これらの検討や協議を踏まえて,在イタリア大使館及び在フランス大使館から文書を取り寄せることとし,平成19年6月27日に,同年7月6日までに送付するよう指示をした。

これを受けた在イタリア大使館及び在フランス大使館では,館内の多くの部署に分散して保管されている行政文書の中から対象文書となる可能性のある文書を選別して順次外務本省に送付し,これらの文書は,平成19年7月3日から同年10月31日までの間に外務本省に到達した。外務本省に送付された文書は段ボール箱9箱分に上った。そして,西欧課では,総務班員のみならず,フランス担当者,イタリア担当者,庶務班員を動員し,さらに情報公開室からの応援も得て,対象となる文書を精査して開示・不開示の審査を行ったうえで,同年9月14日及び同年11月13日付けで開示決定等(本件開示決定等2・4)をした。

(イ) 本件開示請求2(在イタリア大使館及び在フランス大使館分)が,過去9年分に及ぶ便宜供与としての支出に係る文書を網羅的に対象とするものであったこと,西欧課が同様の開示請求の処理をした経験がなく,対象文書を効率的かつ遺漏なく特定し,検索収集するためには,関係課室との協議を踏まえて検討しなければならなかったこと,要人往来が間断なく続き,西欧課はその準備作業等に忙殺されていたことを考慮すれば,本件開示請求2の受理から1年足らずの間に本件開示決定等2・4がなされたことをもって,職務行為を怠っていたものということはできない。

第3当裁判所の判断

1  争点1(控訴人の主張する権利利益は国家賠償法上保護される権利利益か)について

国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権は,公権力の行使に当たる公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときに成立するものであるところ,「違法に他人に損害を加えた」ことに当たるためには,当該「他人」の権利又は法律上保護されるべき利益を侵害した事実を要するものというべきである。

本件において,控訴人は,外務大臣が本件開示請求1・2に対する開示決定等を遅延したことにより,控訴人の適切な時期に情報開示を得るという情報公開請求権が侵害され,国の行財政監視業務活動をする権利利益が侵害されたと主張するところ,これに対し,被控訴人は,情報公開法は,同法に基づく開示請求権につき,専ら行政運営の監視及び透明性の確保という公益のために付与され,この見地から行使されるべき公益的権利として位置付けているものであって,個々の開示請求者に主観的な権利ないし利益を付与したり,そのような権利ないし利益を保護するものでなく,控訴人の主張するような権利利益を個々の国民の主観的な権利利益として保護していると解することはできないとして,かかる利益が侵害されたとして国家賠償法1条1項にいう「違法」の問題が生ずる余地はないと主張する。

しかしながら,情報公開法に基づく開示請求権が,政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにすること,国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資すること(同法1条参照)という公益目的の実現に資するために国民に付与された権利であるとしても,同法上,開示請求権がかかる公益の実現を目的とするものとされていることの一事をもって,同法が開示請求権を行使した個々の開示請求者の個別的利益をおよそ保護するものではないということはできない。すなわち,同法3~17条は,個々の開示請求者による個別具体的な行政文書の開示請求があった場合には,その開示請求を受けた行政機関の長は,所定の手続の下に,一定の期間内に開示請求に係る行政文書の全部又は一部について開示決定等をして,その旨を開示請求者に通知するとともに,行政文書の全部又は一部を開示するときは,同様に所定の手続の下に,これを実施しなければならないものとしており,同各条によって規定される開示請求権は十分な具体性を有する権利であるということができることに加え,同法が国民主権の理念にその基盤を置くものであること(同法1条参照),同法による情報公開制度が,憲法上の表現の自由ないしその派生的権利である情報に接することの自由と全く無関係に創設されたものとは考え難いところ,現代社会において情報に接することは何らかの価値をもたらすことが通常であること(なお,同法上,開示請求権は何人にも与えられ(3条),また,開示請求をする理由ないし動機は問うところではない。)等を併せ考えると,開示請求者は,同法の規定に基づき,適切な時期に開示決定等を受けることのできる利益を有するものであり,かつ,この利益は,開示請求者の個別的な利益として,同法上保護されたものというべきである。

したがって,被控訴人の上記主張はこれを採用することができない。

2  争点2(開示決定等が長時間かかったことが控訴人に対する関係で国家賠償法上違法と評価できるか)について

(1)  上記1のとおり,開示請求者は,情報公開法の規定に基づき,適切な時期に開示決定等を受けることのできる法律上保護された利益を有するものであり,かかる利益が公権力の行使に当たる公務員によって侵害された場合には,当該公務員の侵害行為は国家賠償法上違法となるものというべきである。しかしながら,開示請求を受けた行政機関の長が開示決定等を遅延し,その遅延が同法に違反するものであったとしても,その遅延ないし遅延してなされた開示決定等が,開示請求者との関係において直ちに国家賠償法上違法とされるものではない。

この点につき,控訴人は,情報公開法が開示決定等をすべき期限や延長が許される場合を具体的に明示して,行政機関の長に対し,期限内に開示決定等をなすべき職務上の法的義務を課しているのであるから,このような一義的に明らかな条文に形式的に違反して開示決定等を遅延した場合には,そのこと自体,開示請求者の権利の侵害に直結するものであり,即座に国家賠償法上違法と評価されるべきものであるとか,情報公開法が,開示決定等の遅延があった場合の開示請求者の不服申立手段を定めていないのは,開示決定等の遅延があることを想定していないからであって,開示請求者が開示決定等の遅延により損害を被った場合には,その損害回復の途は広く認められるべきであると主張する。しかしながら,行政機関の長が,開示決定等をすべき期限や延長が許される場合を定めた情報公開法の規定に違反して開示決定等を遅延した場合,その遅延ないし遅延してなされた開示決定等が,情報公開法上違法であり,したがって,不作為の違法確認の訴えにより違法であることが確認され,場合により処分の取消しの訴えにより取り消されることがあるとしても(したがって,開示決定等の遅延があった場合の開示請求者の不服申立手段がないというのは,必ずしも正確ではない。),損害賠償請求権は,情報公開法とは別個の原理に基づく国家賠償法により,その要件,効果が規定されているものであるから,国家賠償法上の要件である「違法」の有無は,専ら国家賠償法自体の観点から検討されるべきものであって,たとえ,情報公開法が開示決定等をすべき期限や延長が許される場合を具体的,一義的に定めているものとしても,情報公開法上の違法が即座に国家賠償法上の違法となるものではない。

控訴人は,情報公開法が,行政機関の長に対し,一義的かつ厳格に期限内に開示決定等をすべき旨定めていることにかんがみれば,本件において,外務大臣が開示決定等を遅延したことにつき,遅延することが真にやむを得ないといえるほどの高度の事情があったことが立証されない限り,当該遅延は国家賠償法上違法であるとの評価を免れないとも主張するが,かかる主張の前提である,情報公開法が開示決定等をすべき期限や延長が許される場合を具体的,一義的に定めているから,これに違反して開示決定等を遅延した場合には即座に国家賠償法上違法と評価されるべきであるとする立論が採用し得ないことは上記のとおりである。国家賠償法1条1項の要件である「違法」の有無については,損害賠償請求をする控訴人において立証責任を負担するものであり,控訴人の上記主張を採用することはできない。

しかるところ,本件において,国家賠償法1条1項による国の損害賠償義務は,外務大臣(その補助職員である外務省職員を含む。)に適切な時期に開示決定等をしなかったという違法な不作為があったことに基づくものであるから,その違法があるというためには,当該公務員が職務上の法的義務(作為義務)に違反して開示決定等を遅延させたこと,すなわち,開示決定等を行い,あるいは開示決定等をするために必要な準備行為を行うに当たって,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく,漫然とこれを遅延せしめたと認められることを要するものというべきであり,その認定判断に当たっては,開示請求に係る行政文書の量や所在,当該行政文書を審査して開示(部分開示を含む。)・不開示を決することの難易等のほか,行政機関の事務処理態勢,担当する事務の繁閑,その他の事情を総合考慮する必要があるものというべきである。

なお,控訴人は,行政機関は,その事務量に応じて適切な人員を配置すべき義務があり,情報公開業務に従事する人員の不足や他の業務の繁忙は,開示決定等を遅延したことがやむを得ないものとする理由とはならないと主張する。しかしながら,行政機関に,その事務量に応じた適切な人員が配置されていることが望ましいにしても,現実には,種々の理由からそのような措置がとられていなくともやむを得ない面があり,また,少なくとも,適切な人員が配置されていなかったことによって遅延が生じた場合に,これを現に情報公開業務に従事する公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさなかったことに帰せしむることはできないから,控訴人の主張を採用することはできない。

(2)  本件開示請求1に対する本件開示決定等1・3について

ア 訂正の上引用した前提事実に証拠(甲97,99,乙5,9の1~6,10,証人A)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実を認めることができる。

(ア) 情報公開室は本件開示請求1を平成18年11月30日に受け付けた後,同日,その主管課室となる会計課に対し,その事実及びその内容を通知した。なお,このころ,情報公開法に基づく開示請求であって会計課を主管課室とするものが30件程度あった。

(イ) 会計課は,本件開示請求1に関し,同年12月11日に在米6公館(各総領事)等に宛てて,保管の行政文書から本件該当部分(平成13年度に支出された報償費に関する文書)の写しを作成の上,平成18年1月22日までに送付(本省必着)するよう指示する電信を発する手続をした。当該電信(乙10)は,本件訴訟に証拠提出された写しにマスキング部分があって全部の内容は明らかではないものの,本文の部分はA4用紙1枚の簡単なものである。なお,当時会計課長であったAは,従前開示請求に対応した経験から,在米6公館から送付される文書の量について1000通近くになるかもしれないと予想していた(通数の意義については後記のとおり)。

(ウ) 外務大臣は,平成18年12月20日付けで控訴人に対し延長通知1をしたが,延長通知1に係る「平成19年1月29日までに可能な部分について開示決定等を行い,残りの部分については,平成21年3月31日までに開示決定等を行う予定」との開示決定等をする期限は,会計課において(最終的にはA会計課長が)決めたものであった。もっとも,実際には,平成19年1月29日までに開示決定等をした文書は存在しなかった。

(エ) 在米6公館は,上記送付指示に従って,対象となる文書を外務本省に送付し,これらの文書は,平成19年1月15日から同月29日までの間に外務本省に到達した。

(オ) ところで,報償費とは,国が,国の事務又は事業を円滑かつ効果的に遂行するため,当面の任務と状況に応じその都度の判断で最も適当と認められる方法により機動的に使用する経費であり,外務省においては,公にしないことを前提とする情報収集及び諸外国との外交交渉又は外交関係を有利に展開するため使用する経費に充てることとされていた。もっとも,平成13年度当時は,①大規模レセプション(天皇誕生日祝賀レセプション,自衛隊記念日レセプション,我が国公館長の離着任レセプション)経費,②酒類購入経費,③在外公館長赴任の際などの贈呈品購入経費,④文化啓発用の日本画等購入経費,⑤本邦関係者が外国訪問した際の車両の借上げ等の事務経費(いわゆる5類型)といった定型的な,あるいは定例化した経費の支出であっても報償費によって賄われていたものがあった。審査会による16年答申は,報償費の支出に関する文書につきなされた情報公開法に基づく開示請求に関し,これを不開示とした外務大臣の決定に対して,5類型に係る支出に関する文書を部分開示すべきであるとしたものであって,その開示部分は別紙1のとおりである。

(カ) A会計課長は,本件開示請求1について,それが,公にしないことを前提とする外交活動に使用する経費である報償費の支出関連文書を対象とすることから,開示・不開示の審査の作業を中心とする請求対応業務は特に機微にわたるものであるとともに秘密保持の観点から,これに実務的に従事する人員を限定する必要があるとの判断の下に,総務室課長補佐及び審査室課長補佐を中心にしてその機械的補助的業務を補佐する若干名の事務官とともに少人数でこれに当たらせることとした。もっとも,両課長補佐とも,本来の業務としてそれぞれ複数の会計業務等を担当していて多忙であり,もとより本件開示請求1に対応する業務にかかり切りになることはできず,むしろ本来の業務との調整を図りながら請求対応業務を進めていく状態であった。

(キ) 在米6公館から送付指示に係る報償費支出関連文書が到達した後の本件開示請求1に対する対応業務は,これを通ごとに整理する段階と,整理された各通につき開示・不開示を決める審査の段階とに分けてなされた。報償費支出関連文書は,報償費の支出対象となった外交工作活動の1案件(例えば,情報収集のための情報提供者との会合)ごとに,狭義の決裁書,請求書,領収書,見積書等及び請求書,領収書,見積書等を貼付するための支払証拠台紙といった文書が存在するところ(外務省では,外交工作活動の1案件につきこれらの文書がまとまって一揃えになったものを「広義の決裁書」と称する。すなわち,広義の決裁書1通が外交工作活動の1案件に係るものである。),通ごとの整理とは,在米6公館から送付された文書を外交工作活動の1案件ごとにまとめて広義の決裁書1通に整理し,ファイリングした上で,かような広義の決裁書を単位として,各総領事館ごとに(すなわち,本件開示請求1に係る1件の開示請求ごとに)一覧表を作成する作業である。在米6公館から送付された文書は,外交工作活動の1案件ごとに請求書,領収書,見積書等は支払証拠台紙に貼付されていたが,狭義の決裁書は,支払証拠台紙に貼付されていた場合や支払証拠台紙と一体になっていた場合もあったものの,支払証拠台紙とは別葉になっていたものもあり,さらにその中には,クリップ等で支払証拠台紙とまとめてあったものもあった。在米6公館から送付された文書を通ごとに整理した結果,その数量は785通に上った。

(ク) 通ごとの整理が完了すると,整理された各通につき,情報公開法5条,6条に従って開示・不開示を決定する(部分開示するものについて開示部分を決定することを含む。)審査の作業が行われた。この作業の結果,開示するとの決定がなされたものは,785通のうち91通(枚数にして357枚。但し,すべて部分開示である。)であり,残余については不開示との決定がなされた。結果として,当該部分開示に係る91通は,5類型の支出に関する文書であり,また,その開示部分は,審査会による16年答申が示した開示部分の基準(その内容は別紙1のとおり)に則ったものであったが,16年答申が示した,定型的な,あるいは定例化した経費の支出に関するものについては開示すべきであるとの立論により,5類型の支出に関する文書以外の文書についても開示することのできるものがないかどうかの確認も行われ,最終的にはA会計課長が文書1枚1枚についてこの確認を行った。

(ケ) 以上の作業の結果として,外務大臣は,本件開示請求1に対し,平成19年9月14日付けで本件開示決定等1を行い,また,同年10月31日付け,同年11月2日付け及び同月7日付けで本件開示決定等3を行った。

以上の事実を認めることができる。

なお,上記(ク)の認定に関し,控訴人は,外務省が報償費支出関連文書の開示について16年答申の範囲(すなわち,5類型の支出に関する文書のみの部分開示)を踏み出す気配は全くなく,本件開示請求1に対する開示決定等も16年答申の範囲内であって,5類型の支出に関する文書以外の文書についても開示することのできるものがないかどうかの確認を行った旨の証人Aの供述は信用できないと主張する。しかしながら,16年答申は,特定の開示請求事案に対する事例判断であって,当該事案においては,部分開示すべきものが5類型の支出に関する文書に止まったとしても,別の事案の下で16年答申の基礎となった立論に従った場合に,同様に部分開示すべきであるとされるような支出に関する文書が5類型以外にないとはいえない(なお,16年答申は具体的には2例の答申であるが,そのうちの1例(甲97)においては,3類型のみが対象となるに止まっている。)のであるから,5類型の支出に関する文書以外の文書についても開示することのできるものがないかどうかの確認を行うことは合理性を有するものである。確かに,結果として,本件開示請求1に対する開示決定等は,5類型の支出に関する文書のみについて16年答申が示した開示部分の基準に則った部分開示がされたに止まったが,そうであるからといって,直ちに,同証人の供述を信用できないものとすることはできない。

イ 上記アの認定に基づき,まず,外務大臣が本件開示請求1に対し,平成19年9月14日付けで本件開示決定等1を行い,また,同年10月31日付け,同年11月2日付け及び同月7日付けで本件開示決定等3を行ったことにつき,国家賠償法上違法と評価される遅延があるといい得るかどうかについて判断する。

(ア) 報償費の支出は,公にしないことを前提とする情報収集及び諸外国との外交交渉又は外交関係を有利に展開するため使用する経費の支出であるから,報償費の支出に関する文書には情報公開法5条3号所定の情報を含む可能性が大きいことは明らかである。しかるところ,同法は,情報公開によって政府の諸活動を国民に説明することを前提としつつも,我が国の安全や外交上の利益にも十分に配慮する必要性があることから,同法5条3号をもって,公にすることが,これらの利益等を損なうことに繋がるおそれがある情報を不開示としたものであるが,かかる情報の開示・不開示の判断に当たっては,一般の行政運営に関する情報とは異なり,その性質上,諸外国の政治的,経済的,社会的諸情勢やその特質等係る事実についての正確な知識に基づく高度な政策的判断を伴うとともに,我が国の安全保障上又は対外関係上の将来予測についての専門的・技術的判断が必要とされる特殊性があるものというべく,このことは,同号において,同条4号とともに,他の号の不開示情報と区別して,「行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」を不開示とする旨規定されていることよっても現れているということができる。そして,このような特殊性にかんがみれば,報償費の支出を含む同条3号所定の情報については,秘密保持の要請がとりわけ大きいものというべく,したがって,報償費の支出に関連する文書の開示請求に対し,当該文書の内容を目にすることのある開示作業に従事する人員は,これを限定する必要があるといわなければならない。

この点につき,控訴人は,報償費を極秘事項に限って支出する法令通達上の根拠はないとか,極秘事項に限って使用している事実もないとした上,報償費に関する情報公開事務は,外務本省の会計課において行われたのであり,外務省職員である限り,その地位に関わりなく,高度の守秘義務が課されるものであるから,情報公開事務への投入人員を増やしたからといって秘密漏洩の危険が高まることはあり得ないと主張する。しかしながら,報償費を秘密保持性の高い外交工作活動に限って支出する法令通達上の根拠がなく,またそのような外交工作活動に限って使用している事実もなかったとしても,報償費の性格上,我が国の安全や外交上の利益に繋がるが故に秘密保持性の高い外交工作活動(控訴人の言う極秘事項)について支出されることがあることは明らかであって,そうであれば,開示作業に従事する者は,このような秘密保持性の高い外交工作活動に関する情報に接することもあり得るのであるから,報償費の支出を伴う外交工作活動の全部が秘密保持性の高いものでなかったとしても,そのことは,情報公開事務への投入人員をむやみに増やしてよい理由とはならない。また,外務省職員である限り,その地位に関わりなく,高度の守秘義務が課されることはそのとおりであるとしても,その故に情報公開事務への投入人員を増やしたからといって秘密漏洩の危険が高まることはあり得ないとすることは,現実を無視した議論といわざるを得ない。高度の守秘義務が課されているからといって,現実には秘密の漏洩が絶対にないとはいい切れないのであるから,秘密に接する人員を増やせば増やすほど,秘密の漏洩の危険が増すことは明らかである。したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。

他方,平成13年当時,報償費の支出は,5類型の如き定型的な,あるいは定例化した経費の支出をも含んでいたのであるから,報償費の支出に関する文書を一律に不開示とすることは,審査会の答申に反することになるのみならず,情報公開法による情報開示の趣旨にも悖るものであって,許されるものではない。

そうすると,結局,報償費の支出に関連する文書の開示作業は,諸外国の政治的,経済的,社会的諸情勢やその特質等係る事実についての正確な知識に基づく高度な政策的判断が可能であり,かつ,我が国の安全保障上又は対外関係上の将来予測についての専門的・技術的判断をなし得る少数の者によって行われる必要があるというべく,A会計課長が,報償費の支出関連文書の開示作業(請求対応業務)は特に機微にわたるものであるとともに秘密保持の観点から,これに実務的に従事する人員を限定する必要があるとの判断の下に,具体的には総務室課長補佐及び審査室課長補佐を中心に少人数でこれに当たらせることとしたことは,的確な判断というべきであるが,反面,そのような判断をなし得る能力を有する者は,外務省において相応の地位に就き,相応の業務を抱えていることが考えられ,現に上記両課長補佐ともに複数の業務を抱えて多忙であったものであるから,開示作業はこれらの業務との調整を図って進めていくことになるとしても,やむを得ないものといわざるを得ない。

(イ) 会計課が在米6公館に文書送付指示をする電信を発する手続をした日は,本件開示請求1につき情報公開室より通知を受けた日(本件開示請求1のなされた日でもある。)から11日目に当たるところ,当該電信の内容がA4用紙1枚の簡単なものであることや,情報公開法10条が,開示請求を受けてから開示決定等をするまでの原則的な期間を30日以内としていることにかんがみると,文書送付指示をするまでに11日間かかったことが遅きに失するものであるといえないことはない。しかしながら,報償費の支出に関する文書に係る開示請求である本件開示請求1に対しては,上記のとおり,開示作業に従事する職員の選定,その他開示作業における秘密保持性に関し配慮を要する点があったと考えられ,これらにつき送付指示の前に慎重に検討を加えたとしても不相当であるとはいえないし,会計課には,通常業務に加え,当時,会計課を主管課室とする開示請求が30件程度あったことや,送付指示までにかかった11日間の期間がさほど長いという訳でもないことを併せ考えれば,送付指示までに11日間を費やしたことにつき,公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく,漫然と遅延せしめたとまで認めることはできない。

(ウ) 在米6公館から送付された文書が到達した後の会計課における開示作業としてまず行われたのは,送付された文書を外交工作活動の1案件ごとにまとめて広義の決裁書1通に整理し,ファイリングした上で,かような広義の決裁書を単位として,各総領事館ごとに一覧表を作成する作業(通ごとの整理)であるところ,在米6公館からの送付の段階で,外交工作活動の1案件ごとに請求書,領収書,見積書等が支払証拠台紙に貼付されており,また,狭義の決裁書についても,支払証拠台紙に貼付されていた場合や支払証拠台紙と一体になっていた場合,あるいは支払証拠台紙とは別葉になっていたとしてもクリップ等で支払証拠台紙とまとめてあったものがあったにせよ,狭義の決裁書と支払証拠台紙とが全く別でこれらを付き合わせて同一案件に係るものを組み合わせ,まとめる作業が必要となる場合があり,また,請求書,領収書,見積書等や狭義の決裁書が支払証拠台紙に貼付されていたり,クリップ等でまとめてあった場合においても,仮に誤って別案件に係るものが貼付等されていた場合には,開示すべきものを開示しなかったり,開示すべきでないものを開示したりすることに繋がりかねないから,情報公開法による情報開示を適正に行う観点から,支払証拠台紙に貼付された請求書等や狭義の決裁書を1枚1枚支払証拠台紙と照らし合わせ,間違いなく同一案件に係るものであるかどうかを確認することも,当然必要となる作業であること,さらに,これらの作業を中心となって行った総務室課長補佐及び審査室課長補佐が,本来の業務としてそれぞれ複数の会計業務等を担当していて多忙であり,本件開示請求1に対応する開示作業は,本来の業務との調整を図りながら進めていく状態であったこと等を考え併せると,通数にして785通に上った通ごとの整理の作業には,相当程度の時間を要したことが推認され,少なくとも控訴人が主張するように,半月程度を超える時間を要することはあり得ないなどと断定し得る根拠は見当たらない。

(エ) 通ごとの整理の後になされた作業は,整理された各通につき,情報公開法5条,6条に従って開示・不開示を決定する(部分開示するものについて開示部分を決定することを含む。)審査の作業であるところ,この作業においては,5類型の支出に関する文書については,16年答申が示した開示部分の基準に則って部分開示するものとされたほか,16年答申が示した,定型的な,あるいは定例化した経費の支出に関するものについては開示すべきであるとの立論により,5類型の支出に関する文書以外の文書についても開示することのできるものがないかどうかの確認が文書1枚1枚について行われたのであり,また,91通の部分開示がなされた文書(枚数にして357枚)について,その1枚1枚につき部分開示の範囲を定めるについても,様々な様式の請求書や領収書等が含まれているであろうことを考慮すれば,慎重にこれを行う必要があることも明らかであって,これらの事情に,既に述べたとおり,これらの作業を中心となって行った総務室課長補佐及び審査室課長補佐が,本来の業務としてそれぞれ複数の会計業務等を担当していて多忙であり,本件開示請求1に対応する開示作業は,本来の業務との調整を図りながら進めていく状態であったこと等を考え併せると,整理された各通につき,情報公開法5条,6条に従って開示・不開示の審査を行う作業を完了するまでには,控訴人の主張する1か月程度というような期間で足りるものとは到底考えられず,かなりの時間を要するものであったことが推認される。

(オ) 本件開示請求1に対し,本件開示決定等1が平成19年9月14日付けで,本件開示決定等3が同年10月31日付け,同年11月2日付け及び同月7日付けでなされ,請求から最終の開示決定等までに11か月と7日間を要したのは,遅きに過ぎたという批判を免れるものではない。しかしながら,上記のような事情が認められることを前提とした上でなお,外務大臣ないし会計課の関係職員等の公務員が,本件開示請求1に対する開示決定等を行い,あるいは開示決定等をするために必要な準備行為を行うに当たって,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく,漫然とこれを遅延せしめたものであると断定し得る的確な証拠はなく,そうであれば,本件開示請求1に対する開示決定等に国家賠償法上の違法があるとする控訴人の主張は採用し難いといわざるを得ない。

ウ 次に,遡って,外務大臣が延長通知1に係る延長をしたことが国家賠償法上違法であるかどうかにつき検討する。

情報公開法11条に基づく開示決定等の期限の延長は,開示請求に係る行政文書が著しく大量であるため,開示請求があった日から60日以内にそのすべてについて開示決定等をすることにより事務の遂行に著しい支障が生ずるおそれがある場合に,開示請求に係る行政文書のうち相当部分につき当該期間内に開示決定等をした上で行うことのできるものである。

しかるところ,本件開示請求1は,在米6公館における平成13年度1年間分の報償費の支出に関する文書を対象とするものであって,在米6公館においてそれぞれ保管しているものであり,全部併せれば大量となることが予想されたものである(A会計課長はその量を1000通近いと予想したところ,実際は785通であったが,予想とかけ離れて少なかったとはいえない。なお,控訴人は,在米6公館と連絡を取って対象となる文書の具体的数量等を把握しなかったことを非難するが,在米6公館に文書の具体的数量を照会した場合には,その照会や在米6公館における調査回答に時間を要することになるから,経験上,ある程度の正確性をもって数量の予想ができるのであれば,かかる照会をしなかったことが不相当とは言えない。)。そして,報償費の支出に関する文書を対象とする開示・不開示の判断には上記イの(ア)のような特殊性や秘密保持性があり,そのために開示作業に投入できる人員は,外務省において相応の地位に就き,相応の業務を抱えた少数の者に限られることは分かり切ったことであるから,それが大量の文書に係るものであると予想されれば,開示作業の期間も相当長期にわたらざるを得ないこともたやすく予想できるものである。

そうすると,本件開示請求1については,開示請求に係る行政文書が著しく大量であるため,開示請求があった日から60日以内にそのすべてについて開示決定等をすることにより事務の遂行に著しい支障が生ずるおそれがあったというべきである。もっとも,本件開示請求1に係る文書の一部につき開示請求があった日から60日以内(平成19年1月29日まで)に開示決定等がされた事実はないのであるから,延長通知1に係る延長は,開示請求に係る行政文書のうち相当部分につき当該期間内に開示決定等をした上で行うとの要件を満たしておらず,この限りにおいて情報公開法上は違法といわざるを得ない。しかしながら,本件開示請求1の対象となった文書は,平成19年1月15日~同月29日に在米6公館から外務省に到達したものであることを考慮すれば,本件開示請求1に係る文書のうちの相当部分につき開示請求があった日から60日以内(平成19年1月29日まで)に開示決定等がなされなかったことが,外務大臣ないし会計課の関係職員等の公務員が,本件開示請求1に対する開示決定等を行い,あるいは開示決定等をするために必要な準備行為を行うに当たって,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく,漫然とこれを遅延せしめたものであるとまでいうことはできない。

なお,延長通知1において,残りの部分につき開示決定等を行う期限を平成21年3月31日としたことが相当性を欠くことは明らかであるが,本件開示請求1に対し平成19年11月7日までに全部の開示決定等がされた本件において,残りの部分につき開示決定等を行う期限を平成21年3月31日としたことのみをもって,国家賠償法上の違法があるということはできない。

エ 以上によれば,本件開示請求1に対する開示決定等が,国家賠償法上違法に遅延したということはできない。

(3)  本件開示請求2に対する本件開示決定等2・4について

ア 訂正の上引用した前提事実に証拠(乙6,7,9の7~9,11~14,証人B,同C)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実を認めることができる。

(ア) 情報公開室は本件開示請求2を平成19年2月2日に受け付けた後,同月19日,そのうちの在ホノルル総領事館分につき主管課室となる北米第一課と在イタリア大使館及び在フランス大使館分につき主管課室となる西欧課に対し,それぞれ受付の事実及びその内容を通知した。なお,このころ,情報公開法に基づく開示請求であって北米第一課を主管課室とするものは約140件あったが,西欧課を主管課室とするものは,本件開示請求2の外にはなかった。

(イ) 北米第一課においては2名の職員が情報公開業務を担当しており,この2名が中心となって本件開示請求2(在ホノルル総領事館分)に対応することとなった。また,西欧課においても2名の職員が情報公開業務を担当しており,この2名とイタリア担当者及びフランス担当者の合計4名が中心となって本件開示請求2(在イタリア大使館及び在フランス大使館分)に対応することとなった(ただし,平成19年4月以降は3名となった。)。もっとも,西欧課のイタリア担当者及びフランス担当者はもとより,北米第一課及び西欧課の各情報公開業務担当者もそれぞれ他の業務を併せ抱えており,情報公開業務に専従しているわけではなかった。そして,平成19年2月から6月ないし7月ころにかけては,米国及びカナダとの外交案件を担当する北米第一課は,米国副大統領及び大統領次席補佐官の訪日(同年2月),米国国務副長官及び同元国務長官2名の訪日(同年3月),安倍首相の訪米(同年4月),麻生外相の訪米(同年4月末~5月),ボンにおける日米外相会談(同年5月),ハイリゲンダムサミットにおける日米首脳会談(同年6月),日米及び日米豪戦略対話高級事務レベル会合(同年7月)といった外交案件を立て続けに担当し,また,西欧22か国との外交案件を担当する西欧課は,イタリア副首相兼外相及びポルトガル外相の各訪日(同年2月),フランス国防相,イタリア副首相兼文化財・文化活動相,スウェーデン国王王妃両陛下及びスウェーデン外相の各訪日(同年3月),イタリア首相及びモナコ公殿下の各訪日(同年4月),天皇皇后両陛下の訪欧,英国外相兼英連邦相の訪日並びに麻生外相のG8外相会合出席及びスペイン訪問(同年5月),ラトビア外相の訪日及び安倍首相のG8首脳会合出席(同年6月)といった外交案件を同様に連続して担当し,ともに多忙を極め,この間は,本件開示請求2の各担当者であっても,それに対する対応業務に多くの時間を割くことは困難であった。

(ウ) ところで,本件開示請求2に係る本件対象文書2は,在ホノルル総領事館,在イタリア大使館及び在フランス大使館における「国会議員に対する要人往来便宜供与の件数,一件当たりの金額,便宜供与の内容を示す文書及び決裁書,支出明細書,領収書などの支出に関する一切の文書」(いずれも平成10~18年度分)というものである。しかるところ,「便宜供与」とは,一般的には,関係者が海外渡航を行うに当たり,その用務が公共性を有するものであって外務省の任務に関連し,それを支援することが外務省(在外公館)の所掌事務の遂行に寄与する場合に,在外公館がこれら関係者を支援するため種々の役務・支援を提供する活動の総称を意味するとされているが,「便宜供与」という会計上の費目はなく,また,国会議員に対する便宜供与に関する支出に関する決裁書,領収書などの文書は,外務本省においては,たとえ在ホノルル総領事館,あるいは在イタリア大使館又は在フランス大使館における便宜供与に係るものであっても,当該国会議員の外国訪問の目的等に関する事項を担当する課室において保管し,必ずしも北米第一課又は西欧課が保管するものではなく,しかも,同一の便宜供与案件に関する複数の文書がまとまって保管されているとは限らないものであり,このことは,規模こそ違え,在ホノルル総領事館,在イタリア大使館又は在フランス大使館といった在外公館においても同様であると考えられた。加えて,北米第一課及び西欧課においては,国会議員に対する便宜供与に関する文書を対象とした開示請求を主管するのは,本件開示請求2が初めてであり,当該開示請求の対象文書がどこにどのようにして保管されているものであって,その所在をどのようにして検索し,文書を特定するかについてのノウハウは持ち合わせておらず,在ホノルル総領事館,在イタリア大使館又は在フランス大使館は,この点についても,同様であると考えられた。そこで,北米第一課及び西欧課の本件開示請求2に係る担当者は,そのような対象文書の所在等を検索し,文書を特定して遺漏なく収集する仕方等につき,在ホノルル総領事館,あるいは在イタリア大使館及び在フランス大使館に指示ないし教示することを考慮して,上記(イ)のとおり,多忙を極める業務の合間を縫うようにして,北米第一課及び西欧課相互間はもとより,情報公開室,会計課その他の関係課室等との協議を行った。

(エ) 外務大臣は,平成19年3月5日付けで控訴人に対し延長通知2をしたが,延長通知2に係る「平成19年4月3日までに可能な部分について開示決定等を行い,残りの部分については,平成21年3月4日までに開示決定等を行う予定」との開示決定等をする期限は,北米第一課及び西欧課がそれぞれ決めたものであった。もっとも,実際には,平成19年4月3日までに開示決定等をした文書は存在しなかった。

(オ) 本件開示請求2に関し,同年6月27日に,北米第一課は在ホノルル総領事館(同総領事)に宛てて,西欧課は在イタリア大使館及び在フランス大使館(各大使)に宛てて,それぞれ,保管の行政文書から本件該当部分(在ホノルル総領事館,在イタリア大使館又は在フランス大使館における国会議員に対する要人往来便宜供与の件数,一件当たりの金額,便宜供与の内容を示す文書及び決裁書,支出明細書,領収書などの支出に関する一切の文書(平成10~18年度分))の写しを作成の上,同年7月6日までに(年度等,ある程度のまとまりごとに,完成したものから,可能な限り速やかに順次)送付するよう指示する電信を発する手続をした。当該電信(乙11,12)は,本件訴訟に証拠提出された写しにマスキング部分があって全部の内容は明らかではないものの,本文の部分はA4用紙2枚の比較的簡単なものであり,また,マスキングされていない部分に限っていえば,対象文書の所在等を検索し,文書を特定して遺漏なく収集する仕方等につき指示ないし教示する記載も見当たらないものであった。もっとも,上記送付指示が発せられた後,在ホノルル総領事館,在イタリア大使館又は在フランス大使館から北米第一課又は西欧課の担当者に送付文書についての問い合わせがなされたこともあった。なお,北米第一課及び西欧課の各担当者は,本件開示請求2がそれぞれ9年分にわたる文書を一括して請求するものであったことにかんがみて,在ホノルル総領事館,在イタリア大使館又は在フランス大使館から送付される文書の量は相当に大量となるものと予想していた。

(カ) 上記送付指示に対し,在ホノルル総領事館,在イタリア大使館及び在フランス大使館はそれぞれ対象となる文書を外務本省に送付し,在ホノルル総領事館からの送付文書は平成19年7月6日から同年9月18日までの間に,在イタリア大使館からの送付文書は同年7月3日から同年10月10日までの間に,在フランス大使館からの送付文書は同年7月3日から同年10月31日までの間に,それぞれ何回かに分かれて順次外務本省に到達した。その量は,在ホノルル総領事館からの送付文書が段ボール箱1箱分,在イタリア大使館からの送付文書が同4箱分,在フランス大使館からの送付文書が同5箱分であった。

(キ) 在ホノルル総領事館,在イタリア大使館又は在フランス大使館から送付指示に係る文書が到達するようになってから,北米第一課においては4名を中心になる担当者として,また,文書が格段に多い西欧課においては同課職員のほか,情報公開室の応援も得て,順次送付されてくる文書につき,同一の便宜供与案件に関する複数の文書がまとめられていないものは,突き合わせてまとめた上,情報公開法5条,6条に従って開示・不開示を決定する(部分開示するものについて開示部分を決定することを含む。)審査の作業が行われた。部分開示するものについて開示部分を決定するに当たっては,文書の性質上,他の課室の判断を要するものもあった。審査の結果として,在ホノルル総領事館に係る特定の年度の対象文書が存在しなかった場合を除き,不開示と決定されたものはなく,多くは部分開示するものとされた。

(ク) 以上の作業の結果として,外務大臣は,本件開示請求2に対し,平成19年9月14日付けで本件開示決定等2を行い,また,同年11月13日付けで本件開示決定等4を行った。

以上の事実が認められる。

なお,証人B,同Cの各供述中には,北米第一課及び西欧課において,平成19年6月27日に在ホノルル総領事館,在イタリア大使館及び在フランス大使館に文書送付指示を発する前に,本件開示請求2の対象文書が外務本省内にあることを考慮して上記3公館に送付指示するかどうか自体を検討協議したかのような供述部分があるが,不合理であって,直ちに採用することはできない。

イ 上記アの認定に基づき,まず,外務大臣が本件開示請求2に対し,平成19年9月14日付けで本件開示決定等2を行い,また,同年11月13日付けで本件開示決定等4を行ったことにつき,国家賠償法上違法と評価される遅延があるといい得るかどうかについて判断する。

(ア) 北米第一課及び西欧課が在ホノルル総領事館,在イタリア大使館及び在フランス大使館に文書送付指示をする電信を発する手続をした日は,本件開示請求2につき情報公開室より通知を受けた日から4か月余り後であり,情報公開法10条が,開示請求を受けてから開示決定等をするまでの原則的な期間を30日以内,正当な理由があるときでも60日以内としていることにかんがみると,文書送付指示をするまでに4か月余り(本件開示請求2の受付の日から起算すると5か月近く)かかったことは遅きに失するものであるといえないことはない。しかしながら,「便宜供与」は会計上の費目ではなく,その概念自体必ずしも明確なものではない上,国会議員に対する便宜供与に関する支出に関する決裁書,領収書などの文書は,外務本省においても在外公館においても,まとまって保管されているのではなく,いくつもの保管場所に分かれて保管されていると考えられたことに加え,北米第一課及び西欧課においては,国会議員に対する便宜供与に関する文書を対象とした開示請求を主管するのは,本件開示請求2が初めてであり,当該開示請求の対象文書がどこにどのようにして保管されているものであって,その所在をどのようにして検索し,文書を特定するかについてのノウハウは持ち合わせていなかったことを考慮すると,そのような対象文書の所在等を検索し,文書を特定して遺漏なく収集する仕方等につき,在ホノルル総領事館,あるいは在イタリア大使館及び在フランス大使館に指示ないし教示することを考慮して,北米第一課及び西欧課相互間,あるいは情報公開室,会計課その他の関係課室等との協議をすることは必ずしも不合理という訳ではない。この場合に,文書の所在の検索や文書の特定の仕方なども在ホノルル総領事館や在イタリア大使館及び在フランス大使館に委ねてしまうことにして,早期に文書送付指示をすることも一方法であるが,そのようないわば丸投げともいえる方法を選択した場合に,各在外公館の特定が不十分だったり,在外公館によってその基準が異なるなどして,後に北米第一課又は西欧課自身が苦慮するに至ることも考えられるのであるから,この点につき北米第一課及び西欧課が,その相互間,あるいは関係課室等との協議等を経たこと自体が不相当ということはできない。もっとも,北米第一課及び西欧課が平成19年6月27日に在ホノルル総領事館,在イタリア大使館及び在フランス大使館に宛てて発した送付指示に係る電信には,対象文書の所在等を検索し,文書を特定して遺漏なく収集する仕方等につき指示ないし教示する記載は見当たらず,上記の電信自体に協議等の結果が反映されているとはいい難いが,上記送付指示の後,在ホノルル総領事館,在イタリア大使館又は在フランス大使館から北米第一課又は西欧課の担当者に送付文書についての問い合わせがなされたこともあったのであるから,上記の協議等の結果は上記3公館に伝わったと考えられ,同協議等が無益であったということはできない。しかしながら,それにしても,文書送付指示をするまでに4か月余りかかったのは,遅過ぎるとも考えられるが,同年2月から6月ないし7月までの間,北米第一課,西欧課の双方とも,担当する外交案件が立て続けにあり,その処理のため多忙を極めて,両課の本件開示請求2の各担当者であっても,それに対する対応業務に多くの時間を割くことは困難であったことを考慮すれば,やむを得ない面があったといわざるを得ない。

そうすると,北米第一課及び西欧課の在ホノルル総領事館,在イタリア大使館及び在フランス大使館に対する文書送付指示までの処理は,結果として長期間かかったことを捉えれば拙劣であったとはいい得るとしても,両課の関係職員等の公務員が,本件開示請求2に対する開示決定等を行い,あるいは開示決定等をするために必要な準備行為を行うに当たって,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく,漫然とこれを遅延せしめたものであるとまでいうことはできない。

なお,控訴人は,北米第一課及び西欧課において本件開示請求2に対する開示作業を放置していて平成19年6月20日に本件訴状の送達を受けたために,慌てて協議した上,送付指示を行った旨主張するが,かかる事実を認めるに足りる証拠はない。

(イ) 次に,在ホノルル総領事館からの送付文書は平成19年7月6日から同年9月18日までの間に,在イタリア大使館からの送付文書は同年7月3日から同年10月10日までの間に,在フランス大使館からの送付文書は同年7月3日から同年10月31日までの間に,それぞれ何回かに分かれて順次外務本省に到達し,北米第一課及び西欧課は,順次到達した文書について,それぞれ相応の人員をもって,情報公開法5条,6条に従って開示・不開示を決定する(部分開示するものについて開示部分を決定することを含む。)審査の作業を行い,その結果として,外務大臣は,本件開示請求2に対し,平成19年9月14日付けで本件開示決定等2を行い,また,同年11月13日付けで本件開示決定等4を行ったものであるところ,対象文書の量が,北米第一課は在ホノルル総領事館からの段ボール箱1箱分,西欧課は在イタリア大使館からの同4箱分及び在フランス大使館からの同5箱分であったこと,部分開示するものについて開示部分を決定するに当たっては,文書の性質上,他の課室の判断を要するものもあったこと等を考慮すれば,外務大臣又は北米第一課若しくは西欧課の職員等の公務員において,本件開示請求2に対する開示決定等を行うに当たって,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく,漫然とこれを遅延せしめたものであるということはできない。

(ウ) 遡って,情報公開室が,本件開示請求2を平成19年2月2日に受け付けてから,北米第一課及び西欧課に同月19日に通知するまでに17日間を要したことについて検討するに,本件開示請求1については,受け付けてから即日会計課に通知したことと比較し,また,通知書(乙9の7~9)が簡単な書面であることに照らすと,遅過ぎたともいえないことはないが,本件開示請求1に係る報償費が明確な概念を有し,かつ,その主管課室が会計課であることに疑義はないのに比べ,本件開示請求2に係る便宜供与の概念自体必ずしも明確なものではない上,国会議員に対する便宜供与に関する支出に関する決裁書,領収書などの文書が,外務本省においては,たとえ在ホノルル総領事館,あるいは在イタリア大使館又は在フランス大使館における便宜供与に係るものであっても,当該国会議員の外国訪問の目的等に関する事項を担当する課室において保管し,必ずしも北米第一課又は西欧課が保管するものではないことにかんがみると,本件開示請求2について,在ホノルル総領事館分の主管課室を北米第一課,在イタリア大使館及び在フランス大使館分の主管課室を西欧課とすることが一義的に明確であるとはいい切れず,したがって,このような点につき調査検討を要したものと考えられるところであり,そうであれば,通知までに17日間を費やしたことにつき,情報公開室職員等の公務員が,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく,漫然と遅延せしめたとまで認めることはできない。

(エ) 本件開示請求2に対し,本件開示決定等2が平成19年9月14日付けで,本件開示決定等4が同年11月13日付けでなされ,請求から最終の開示決定等までに9か月余りを要したのは,遅きに過ぎたという批判を免れるものではない。しかしながら,上記のような事情が認められることを前提とした上でなお,外務大臣ないし北米第一課又は西欧課の関係職員等の公務員が,本件開示請求2に対する開示決定等を行い,あるいは開示決定等をするために必要な準備行為を行うに当たって,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく,漫然とこれを遅延せしめたものであると断定し得る的確な証拠はなく,そうであれば,本件開示請求2に対する開示決定等に国家賠償法上の違法があるとする控訴人の主張は採用し難いといわざるを得ない。

ウ さらに,外務大臣が延長通知2に係る開示決定等の期限の延長をしたことが国家賠償法上違法であるかどうかにつき検討する。

本件開示請求2は,在ホノルル総領事館,在イタリア大使館及び在フランス大使館の3公館における9年分の「国会議員に対する要人往来便宜供与の件数,一件当たりの金額,便宜供与の内容を示す文書及び決裁書,支出明細書,領収書などの支出に関する一切の文書」を対象とするもので,これを全部併せれば大量となることが予想されたものであり,しかも,延長通知2のなされた平成19年3月5日当時は,北米第一課,西欧課の双方とも,担当する外交案件が立て続けにあり,その処理のため多忙を極めた時期で,両課の本件開示請求2の各担当者であっても,それに対する対応業務に多くの時間を割くことは困難であったことを考慮すれば,開示作業の期間も相当長期にわたらざるを得ないことがたやすく予想できたものである。

そうすると,本件開示請求2については,開示請求に係る行政文書が著しく大量であるため,開示請求があった日から60日以内にそのすべてについて開示決定等をすることにより事務の遂行に著しい支障が生ずるおそれがあったというべきである。もっとも,本件開示請求2に係る文書の一部につき開示請求があった日から60日以内(平成19年4月3日まで)に開示決定等がされた事実はないのであるから,延長通知2に係る延長は,開示請求に係る行政文書のうち相当部分につき当該期間内に開示決定等をした上で行うとの要件を満たしておらず,この限りにおいて情報公開法上は違法といわざるを得ない。しかしながら,本件開示請求2の対象となった文書は,同年6月27日になされた送付指示に従って,早くとも同年7月初めに在ホノルル総領事館,在イタリア大使館及び在フランス大使館から外務省に到達したものであり,送付指示が同年6月27日になされたことについても結局やむを得なかったと認められるのであるから,本件開示請求2に係る文書のうちの相当部分につき開示請求があった日から60日以内(平成19年4月3日まで)に開示決定等がなされなかったことが,外務大臣ないし北米第一課又は西欧課の関係職員等の公務員が,本件開示請求2に対する開示決定等を行い,あるいは開示決定等をするために必要な準備行為を行うに当たって,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく,漫然とこれを遅延せしめたものであるとまでいうことはできない。

なお,延長通知2において,残りの部分につき開示決定等を行う期限を平成21年3月4日としたことが相当性を欠くことは明らかであるが,本件開示請求2に対し平成19年11月13日までに全部の開示決定等がされた本件において,残りの部分につき開示決定等を行う期限を平成21年3月4日としたことのみをもって,国家賠償法上の違法があるということはできない。

エ 以上によれば,本件開示請求2に対する開示決定等が,国家賠償法上違法に遅延したということはできない。

3  よって,控訴人の本件請求は,その余の争点につき判断するまでもなく理由がないというべきであり,これを棄却した原判決は相当である。

(裁判長裁判官 石原直樹 裁判官 渡辺力 裁判官 谷村武則)

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