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仙台高等裁判所 平成25年(ネ)439号 判決 2014年4月18日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

第2事案の概要

1  本件は,歩行中のA(以下「被害者」という。)が普通自動二輪車を走行させていた控訴人により足蹴りされ,路上に転倒して死亡したところ,被控訴人が,被害者の母(その後死亡)の相続人の請求により,自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)72条1項に基づき損害塡補として3000万円を支払い,これによって被害者の控訴人に対する同法3条に基づく損害賠償請求権を取得したと主張して,控訴人に対し,同法76条1項に基づき,損害賠償金及びこれに対する損害塡補の翌日以降である平成21年8月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は,被控訴人の請求を認容したところ,これに不服の控訴人が控訴した。

2  前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,2頁23行目「背部を」の次に「左足で1回」を加え,次のとおり,当審における控訴人の主張を加えるほかは,原判決「事実及び理由」欄の第2の2及び3に記載のとおりであるから,これを引用する。

(当審における控訴人の主張)

控訴人による加害車両の走行行為と,被害者に対する足蹴り行為は別々の行為であるから,これらを一体の行為と捉えるのは相当でない。これらを別々に捉えると,加害車両の走行行為のみと被害者の死亡との間には相当因果関係がないし,足蹴り行為のみではそもそも「自動車の運行」に当たらないから,結局のところ,被害者の死亡は,自賠法3条,72条1項所定の加害車両の「運行によって」生じたものと認めることはできない。したがって,控訴人は,自賠法に基づく損害賠償責任を負わない。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も,被控訴人の請求を認容するのを相当と判断する。その理由は,次のとおり,原判決を改め,当審における控訴人の主張に対する判断を加えるほかは,原判決第3に記載のとおりであるから,これを引用する。

(原判決の訂正)

⑴ 原判決7頁24行目「被害者を蹴りつけてやろうと考え」を「被害者に危害を加えようと考え」に,26行目「左足で強く蹴りつける暴行」を「左足で1回蹴るという暴行」にそれぞれ改める。

⑵ 原判決9頁1行から10行目までを,「そうすると,控訴人は,自賠法3条に基づき,被害者に対し,本件事故によって生じた損害を賠償する責任があるところ,被控訴人は,本件損害填補により,同法76条1項に基づき,被害者が控訴人に対して有する前記損害賠償請求権を取得したと認められる。」に改める。

⑶ 原判決9頁20行目「証拠<省略>」を「証拠<省略>」に改め,11頁1行目「前記認定事実によれば,」の次に「以下のとおり,」を加える。

(当審における控訴人の主張に対する判断)

⑴ 控訴人は,加害車両の走行行為と,被害者に対する足蹴り行為は別々の行為であるから,これらを一体の行為と捉えるのは相当でなく,被害者の死亡は,加害車両の「運行によって」生じたものと認めることはできないと主張する。

しかし,原判決に認定のとおり,本件各証拠によると,控訴人による加害行為の内容は,控訴人が普通自動二輪車である加害車両を時速25キロメートル程度の速度で走行させた上,被害者の右側方を通過する際,左足を上げ,被害者の背部を左足で1回蹴ったというものであり,これにより被害者は路上に転倒して前額部等を強打し,頭蓋内出血等の傷害を負って死亡したものと認められる。このような加害行為の内容及び被害の結果等によれば,被害者の死亡は,これを客観的に見ると,被害者に対する足蹴り行為による危険性及び衝撃の度合いが,加害車両の走行装置の本来的な効用であるスピードや機動性によって増大して生じたものと推認されるのであるから(この推認を覆すに足りる証拠はない。),加害車両の走行行為と被害者に対する足蹴り行為とが一体となって生じたものというべきであり,これらの行為を別々に捉えることはできない。

そうすると,控訴人が加害車両を走行させたことと被害者の死亡との間には相当因果関係があると認められるから,被害者の死亡は,自賠法3条,72条1項所定の自動車の「運行によって」生じたものというべきである。

⑵ 以上のほか,前記認定判断を左右するに足りる主張立証はない。

2  よって,被控訴人の請求を認容した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判官 水野邦夫 棈松晴子 本多幸嗣)

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