仙台高等裁判所 平成25年(行ケ)2号 判決 2013年12月20日
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 (2号事件)平成25年7月21日に施行された参議院(選挙区選出)議員選挙の宮城県選挙区における選挙を無効とする。
2 (3号事件)平成25年7月21日に施行された参議院(選挙区選出)議員選挙の福島県選挙区における選挙を無効とする。
3 (4号事件)平成25年7月21日に施行された参議院(選挙区選出)議員選挙の山形県選挙区における選挙を無効とする。
4 (5号事件)平成25年7月21日に施行された参議院(選挙区選出)議員選挙の岩手県選挙区における選挙を無効とする。
5 (6号事件)平成25年7月21日に施行された参議院(選挙区選出)議員選挙の青森県選挙区における選挙を無効とする。
第2事案の概要等
1 本件は,平成25年7月21日施行の参議院議員通常選挙(以下「本件選挙」という。)について,宮城県選挙区,福島県選挙区,山形県選挙区,岩手県選挙区及び青森県選挙区(以下,併せて「本件各選挙区」という。)の選挙人である原告らが,それぞれ,参議院(選挙区選出)議員の選挙に関する公職選挙法14条,別表第3の議員定数配分規定(以下,数次の改正の前後を通じ,平成6年法律第2号による改正前の別表第2を含め,「参議院議員定数配分規定」という。)は憲法に違反し無効であるから,これに基づき施行された本件選挙の本件各選挙区における選挙も無効であると主張して提起した選挙無効訴訟である。
2 前提となる事実等(事実については,争いがないか,公知の事実であるか,括弧内に掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる。)
⑴ 平成25年7月21日,参議院議員通常選挙(本件選挙)が施行された。同日時点の選挙制度によれば,参議院議員の定数は242人で,そのうち96人が比例代表選出議員,146人が選挙区選出議員とされていた(公職選挙法4条2項)。
⑵ 本件選挙の際,2号事件原告は参議院(選挙区選出)議員の宮城県選挙区の,3号事件原告は同福島県選挙区の,4号事件原告は同山形県選挙区の,5号事件原告らは同岩手県選挙区の,6号事件原告は同青森県選挙区のそれぞれ選挙人であった。
⑶ 本件選挙は,平成24年法律第94号(同年11月16日成立,同月26日公布・施行。以下「平成24年改正法」という。)による改正(以下「平成24年改正」という。)後の参議院議員定数配分規定(以下体件定数配分規定」という。)の下で施行されたところ,本件選挙当日において,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差(以下「選挙区間の最大較差(選挙人数)」という。)は,選挙人数が最も少ない鳥取県選挙区と最も多い北海道選挙区との間で1対4.77(概数である。以下,較差について同じ。)であり,鳥取県選挙区と比べて較差が2倍以上となっている選挙区は31選挙区,3倍以上となっている選挙区は17選挙区,4倍以上となっている選挙区は6選挙区であった(なお,本件各選挙区についてみると,宮城県選挙区は1.98倍,福島県選挙区は3.36倍,山形県選挙区は1.97倍,岩手県選挙区は2.26倍,青森県選挙区は2.38倍であった。)。(証拠<省略>)
⑷ 平成24年改正は,参議院議員定数配分規定について4選挙区で定数を4増4減したものである。平成24年改正法の附則3項には,「平成28年に行われる参議院議員の通常選挙に向けて,参議院の在り方,選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,結論を得るものとする。」との定め(以下「本件附則」という。)が置かれた。
3 争点
⑴ 本件定数配分規定が憲法に違反するか否か。
⑵ 本件定数配分規定が憲法に違反する場合,本件選挙を無効とすべきか否か。
4 争点⑴に関する当事者の主張
(原告らの主張)
⑴ 憲法上の要請について
ア 憲法前文及び56条2項は,両議院の議事について,主権者である国民が特別な代理人である国会議員を通じて主権者(国民)の多数意見で決定することを定めており,国会議員の多数決が主権者(国民)の多数決と等価であることを要求している。正当な選挙こそがこれらを等価とするための仕組みにほかならず,1票の価値に較差があれば,主権者(国民)の多数意見が国家権力を支配するという国民主権国家,民主主義国家における統治の仕組みが破壊されることになる。よって,専ら人口比例に基づいて選挙制度が定められるべきことは憲法上の要請である。
イ しかるに,本件定数配分規定は,人口比例に基づいた定数配分をしておらず,憲法が規定する正当な選挙に基づく代議制や選挙権の平等の保障に反するものである。
ウ 投票価値の平等に関し,最高裁平成23年(行ツ)第51号同24年10月17日大法廷判決・民集66巻10号3357頁(以下「平成24年大法廷判決」という。)は,①参議院議員の選挙であること自体から直ちに投票価値の平等の要請が後退してよい理由はないこと,②都道府県を参議院議員の選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請はないこと,という2つの憲法上の基準を示した。しかるに,本件定数配分規定は都道府県を選挙区の単位とし,かつ,選挙区間の最大較差(選挙人数)において平成24年12月施行の衆議院議員選挙に劣後するものであるから,上記2つの基準から逸脱している。よって,本件定数配分規定は投票価値の平等についての憲法の要請に反するものである。
⑵ 立法裁量について
ア 違憲状態にある定数配分規定の下で施行された選挙により選出された国会議員に立法等を行う資格はないというべきで,そのような議員を含む国会は立法に関与する資格を有しない。よって,そのような国会が立法裁量権を有することもそれを合理的に行使することもあり得ない。
イ 選挙区割りに係る立法について立法裁量権の行使が合理的であることの立証責任は被告らにあるが,これが立証されていない。また,決定された選挙制度の仕組みの中で議員1人当たりの人口の較差が憲法上どの程度許容されるかという問題について原則として投票価値の平等を損なうような裁量権の行使は認められない。
⑶ 合理的期間の経過について
ア 選挙区間における投票価値の均衡について違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていても,選挙の時点でいまだ定数配分規定の改正のための合理的期間が経過していなければ定数配分規定は違憲であるとはいえないという法理は,憲法98条1項の明文に反するほか,正当に選挙された国会における代表者とはいえない国会議員の立法行為等を有効とする点で憲法秩序を破壊するものであって是認できない。
イ 仮に,上記法理によるとしても,合理的期間は,平成24年大法廷判決が示した前記⑴ウの2つの基準の枠内で選挙制度の見直しについて議論し,改正法案を可決するために合理的に必要な期間であるというべきであり,次の諸点に照らせば,本件選挙の時点で既に上記合理的期間は経過していたとみるべきである。
(ア) 合理的期間の起算日は,最高裁平成20年(行ツ)第209号同21年9月30日大法廷判決・民集63巻7号1520頁(以下「平成21年大法廷判決」という。)の言渡日である平成21年9月30日であると解すべきところ,本件選挙の施行日までには既に約3年10か月が経過していた。そして,この間における参議院議員定数配分規定についての審議等の状況をみると,少なくとも21か月の空白期間があり,また,あるべき選挙制度の見直しとは逆方向の法律である平成24年改正法の立法のために1年以上もの期間が費やされるなどした。
(イ) 平成22年5月21日に参議院改革協議会専門委員会が参議院議長に提出した報告書(証拠<省略>)及びこれに添付の工程表の内容に照らせば,合理的期間は平成23年12月31日までであったというべきである。
(ウ) 本件附則は,国会に対し,選挙制度の抜本的見直しをする義務を課すものではなく,引き続き検討を行う義務を課すものにすぎないから,合理的期間が経過したか否かの判断に当たり本件附則が置かれたことを考慮すべきではない。
(エ) 以上のほか,従来の参議院議員定数配分規定の枠内であっても,10選挙区で定数を10増10減すれば,選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差(以下「選挙区間の最大較差(人口)」という。)は1対4.31となるのに(証拠<省略>),国会は,これを回避して,同最大較差を1対4.75に減少させるにとどまる平成24年改正法を立法し,投票価値の平等の要請を否定した。このことからすれば,遅くとも,同法が成立した時点で合理的期間は経過したというべきである。
(被告らの主張)
⑴ 憲法上の要請及び立法裁量について
憲法は,衆議院及び参議院がそれぞれの構成を異なるものとし,異なる特色を持った議院として機能することを当然に予定している。そして,二院制の趣旨を両議院の組織や選出方法にどのように反映させ,参議院独自の性格をいかに創出するかについては,法律事項として国会に委ねている。憲法は,国会において,投票価値の平等の要請以外にも,参議院の独自性など,国民各自,各層の様々な利害や意見を議会に公正かつ効果的に反映させるという目的を達成するために合理的と認められる政策的目的ないし理由をも考慮して,その裁量により適切な選挙制度を定めることができるとしているとみるのが相当である。
⑵ 合理的期間の経過について
ア 平成24年大法廷判決は,都道府県を単位として各選挙区の定数を定めるという仕組み自体を見直すことが必要になると初めて明示し,5倍程度の選挙区間の最大較差(選挙人数)をもって投票価値の不均衡について違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っているとして,それまでの累次の大法廷判決とは大きく異なる判断を示した。
イ その上で,次の事情を総合考慮すれば,本件選挙までの間に本件定数配分規定を平成24年改正を超えて改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとまではいえない。
(ア) 平成22年7月に施行された参議院議員通常選挙(以下「平成22年選挙」という。)以降,参議院では,選挙制度の改革に関する検討会及びその下に選挙制度協議会が設置されて協議が重ねられ,本件選挙前に,参議院議員の選挙制度を見直すに当たって検討すべき論点が整理され,その後の工程表を取りまとめる段階にまで至っていたもので,国会は選挙制度の改革に真摯に取り組んでいた。また,本件選挙後も,改めて選挙制度の改革に関する検討会及びその下に選挙制度協議会が設置され,協議が行われており,選挙制度の抜本的な改革に向け議論の進展が十分に見込まれる状況にある。他方で,本件選挙に向けて較差の是正を図るため,4増4減を内容とする平成24年改正法の法律案が平成24年8月に国会に提出され,平成24年大法廷判決の言渡し後の同年11月16日に可決され同法が成立したが,同法には本件附則が置かれた。
(イ) 平成24年改正の結果,本件選挙時の選挙区間の最大較差(選挙人数)は昭和40年施行の選挙時における水準にまで縮小され,また,有権者数の少ない選挙区により多い議員定数が配分されるという,いわゆる逆転現象もなくなった。
(ウ) 都道府県を選挙区の単位とする仕組みの見直しには,国民的な議論を踏まえた複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要するが,上記仕組み自体の見直し以外の選択肢を含め,最終的には国民の選択に委ねられるべき問題である。また,二院制の趣旨といった点から参議院の在り方を検討することも憲法上の要請である。そして,制度創設以来60年余り不変で国民の間に浸透し,定着してきた現行の方式の適否を巡っては,相応の慎重さをもって検討すべきであり,総合的かつ高度に政策的な考慮と判断の下,より憲法に適合的な代表制の在り方を模索する合理的な過程を経る必要がある。
(エ) しかるに,本件選挙は,累次の最高裁判決とは大きく異なる判断を示した平成24年大法廷判決の言渡しから9か月余り後に施行されたものであり,この期間は同判決を踏まえた抜本的改革を内容とする立法的措置を講じる期間としては余りに短いといわざるを得ない。
5 争点⑵に関する当事者の主張
(原告らの主張)
⑴ 裁判所によって違憲であると判断された定数配分規定の下で施行された選挙は,憲法98条1項により直ちに無効となる。しかるに,いわゆる事情判決の法理によれば,当該選挙により当選した議員が次回の選挙まで立法行為に従事することが容認されることになる。いわゆる事情判決の制度(行政事件訴訟法31条1項)の基礎に存する一般的な法の基本原則でしかない同法理によって憲法の最高規範性を否定し,憲法を同法理の下位規範に貶めることは許されない。また,本件選挙に係る選挙無効訴訟は,47の選挙区全てについて提起されており,本件選挙について一部の選挙区から選出された議員が存在しない状態で本件定数配分規定の改正が行われざるを得ないといった不都合等を理由として同法理を認めることにも理由がない。
⑵ 仮に,事情判決の法理を認めるとしても,憲法98条1項の原則の例外に当たる同法理の適用については,被告らが例外的な事情の主張立証責任を負うものである。しかるに,違憲無効判決によって本件選挙は将来に向かってその効力を失うにすぎないから,公共の福祉が害されることはない。長期にわたり投票価値の平等に反する状態を容認することの弊害は,本件選挙を無効と判断することによる政治的混乱よりも重大である。また,本件選挙により当選した73人の参議院(選挙区選出)議員が選挙無効判決によってその地位を失っても参議院は定足数についての問題もなく活動でき,立法府としての機能に問題は生じない。これらの点等を踏まえると,本件選挙について上記例外的な事情が立証されているとはいえない。
(被告らの主張)
原告らの主張は,本件定数配分規定の改正についての国会の裁量を認めないとする趣旨のものであるが,国会に裁量が認められることは前記のとおりである。原告らの主張は,平成24年大法廷判決を含む累次の最高裁判決の趣旨とするところとも明らかに反しており,失当である。
第3当裁判所の判断
1 認定事実等
前記前提事実等に加え,証拠<省略>によれば,以下の各事実等を認めることができる。
⑴ 参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)は,参議院議員の選挙について,参議院議員250人を全国選出議員100人と地方選出議員150人とに区分し,全国選出議員については全都道府県の区域を通じて選出されるものとする一方,地方選出議員についてはその選挙区及び各選挙区における議員定数を別表で定め,都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとした。そして,各選挙区ごとの議員定数については,定数を偶数としてその最小限を2人とする方針の下に,昭和21年当時の人口に基づき,各選挙区の人口に比例する形で,2人ないし8人の偶数の議員定数を配分した。昭和25年に制定された公職選挙法の参議院議員定数配分規定は,以上のような選挙制度の仕組みに基づく参議院議員選挙法の議員定数配分規定をそのまま引き継いだもので,その後,沖縄返還に伴って沖縄県選挙区の議員定数2人が付加きれたほかは,平成6年法律第47号による公職選挙法の改正(以下「平成6年改正」という。)まで上記議員定数配分規定に変更はなかった。なお,昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正により参議院議員選挙についていわゆる拘束名簿式比例代表制が導入され,各政党等の得票に比例して選出される比例代表選出議員100人と都道府県を単位とする選挙区ごとに選出される選挙区選出議員152人とに区分されることになった。
⑵ 選挙区間の最大較差(人口)は,参議院議員選挙法制定当時は1対2.62であったが,その後,次第に拡大した。昭和52年7月に施行された参議院議員通常選挙における選挙区間の投票価値の較差は最大1対5.26に拡大し,最高裁昭和54年(行ツ)第65号同58年4月27日大法廷判決・民集37巻3号345頁(以下「昭和58年大法廷判決」という。)は,いまだ違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたとするには足りない旨判示したが,平成4年7月に施行された参議院議員通常選挙(以下「平成4年選挙」という。)における同較差が最大1対6.59に拡大するに及んで,最高裁平成6年(行ツ)第59号同8年9月11日大法廷判決・民集50巻8号2283頁(以下「平成8年大法廷判決」という。)は,結論において,同選挙当時における上記議員定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえないとしたものの,違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたものといわざるを得ない旨判示した。
他方,平成6年改正は,選挙区間の最大較差(選挙人数)を是正する目的で行われ,直近の平成2年10月実施の国勢調査結果に基づき,参議院議員の総定数及び選挙区選出議員の定数を増減しないまま,7選挙区で定数を8増8減したものであった。その結果,上記国勢調査結果による人口に基づく選挙区間の最大較差(人口)は,1対6.48から1対4.81に縮小し,いわゆる逆転現象は消滅することとなった。そして,同改正後の参議院議員定数配分規定の下において平成7年7月,更に平成10年7月に施行された参議院議員通常選挙当時の選挙区閲の最大較差(選挙人数)は1対4.97,1対4.98であったところ,最高裁平成9年(行ツ)第104号同10年9月2日大法廷判決・民集52巻6号1373頁及び最高裁平成11年(行ツ)第241号同12年9月6日大法廷判決・民集54巻7号1997頁は,上記の較差が示す選挙区間における投票価値の不平等は投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度に達しているとはいえないなどとして,当該各選挙当時における上記議員定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえない旨判示した。
⑶ 平成12年法律第118号による公職選挙法の改正(以下「平成12年改正」という。)により,比例代表選出議員の選挙制度がいわゆる非拘束名簿式比例代表制に改められるとともに,参議院議員の総定数が10人削減されて242人とされた(選挙区選出議員の定数を6人削減して146人,比例代表選出議員の定数を4人削減して96人とした。前者については,直近の平成7年10月実施の国勢調査結果に基づき,定数4人の選挙区の中で人口の少ない3選挙区の定数を2人ずつ削減した。)。その結果,再び生じていたいわゆる逆転現象は消滅したが,上記国勢調査結果による人口に基づく選挙区間の最大較差(人口)は1対4.79であって,平成12年改正前と変わらなかった。
⑷ 平成12年改正後の参議院議員定数配分規定の下で平成13年7月に施行された参議院議員通常選挙当時において,選挙区間の最大較差(選挙人数)は1対5.06であったところ,最高裁平成15年(行ツ)第24号同16年1月14日大法廷判決・民集58巻1号56頁(以下「平成16年大法廷判決」という。)は,その結論において,同選挙当時,上記議員定数配分規定は憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示したが,同判決には,裁判官6名による反対意見のほか,漫然と同様の状況が維持されるならば違憲判断がされる余地がある旨を指摘する裁判官4名による補足意見が付された。また,上記議員定数配分規定の下で平成16年7月に施行された参議院議員通常選挙当時において,同最大較差は1対5.13であったところ,最高裁平成17年(行ツ)第247号同18年10月4日大法廷判決・民集60巻8号2696頁(以下「平成18年大法廷判決」という。)も「その結論において,同選挙当時,上記議員定数配分規定は憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示したが,同判決においては,投票価値の平等の重要性を考慮すると投票価値の不平等の是正については国会における不断の努力が望まれる旨や,国会においてはこれまでの制度の枠組みの見直しも含めた検討を今後も継続することが憲法の趣旨に沿うものである旨の指摘がされた。平成16年大法廷判決を受けて,参議院議長が主宰する各会派代表者懇談会は,「参議院議員選挙の定数較差問題に関する協議会」を設けて協議を行い,平成16年12月1日,参議院議長の諮問機関である参議院改革協議会の下に選挙制度に係る専門委員会が設けられ,同委員会において各種の是正案が検討された。そして,平成18年6月1日,当面の是正策として較差が5倍を超えている選挙区及び近い将来5倍を超えるおそれのある選挙区について較差の是正を図るいわゆる4増4減案に基づく公職選挙法の一部を改正する法律(平成18年法律第52号)が成立した(以下「平成18年改正」という。)。その結果,平成17年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間の最大較差(人口)は1対4.84に縮小し,平成18年改正後の参議院議員定数配分規定の下で平成19年7月に施行された参議院議員通常選挙(以下「平成19年選挙」という。)当時の選挙区間の最大較差(選挙人数)は1対4.86となった。これについて平成21年大法廷判決は,その結論において,同選挙当時,上記定数配分規定は憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示したが,同判決においては,上記のような較差は投票価値の平等という観点からはなお大きな不平等が存する状態であって投票価値の較差の縮小を図ることが求められる状況にあり,最大較差の大幅な縮小を図るためには現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となる旨の指摘がされた。
なお,上記の専門委員会が平成17年10月に参議院改革協議会に提出した報告書に示された意見によれば,現行の選挙制度の仕組みを維持する限り,各選挙区の定数を振り替える措置により較差の是正を図ったとしても,較差を1対4以内に抑えることは相当の困難があるとされていた。
⑸ 平成20年6月に改めて参議院改革協議会の下に専門委員会が設置され,同委員会において同年12月から平成22年5月までの約1年半の間に6回にわたる協議が行われたが,同年7月に施行される平成22年選挙に向けた較差の是正は見送られる一方,平成25年に施行される本件選挙に向けて選挙制度の見直しを行うこととされ,平成22年選挙後にその見直しの検討を直ちに開始すべき旨を参議院改革協議会において決定する必要があるとされるとともに,平成23年中の公職選挙法の改正法案の提出を目途とする旨の工程表が示された。
⑹ 平成18年改正後の参議院議員定数配分規定の下での2回目の参議院議員通常選挙として施行された平成22年選挙当時の選挙区間の最大較差(選挙人数)は1対5.00に拡大したところ,平成24年大法廷判決は,その結論において,同選挙当時,上記議員定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえない旨判示したが,同判決においては,投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたというほかなく,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式を改めるなど,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ,できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる前記の不平等状態を解消する必要がある旨の指摘がされた。
⑺ 平成22年選挙後,参議院に選挙制度の改革に関する検討会が発足し,その会議において参議院議長から改革の検討の基礎となる案が提案され,平成23年以降,各政党からも様々な改正案が発表されるなどして上記検討会及びその下に設置された選挙制度協議会で検討がされた。上記協議会においては,本件選挙に向け,第180回国会の会期中に協議会として一つの成案を得る必要があるとの共通認識の下で,平成24年7月までに計11回にわたり,各会派から提出された改革案を踏まえ,定数較差是正,選挙区の単位,議員定数等について協議が行われた。また,上記協議会の座長から,本件選挙に係る当面の定数較差是正策として,4増4減案と平成28年の次期選挙に向けた抜本的な見直しに係る検討規定を盛り込んだ私案が提出されるなどした。しかし,全会派の合意に基づく成案を得るには至らず,上記協議会における議論の経過が上記検討会に報告されその協議に委ねることとされたが,上記検討会でも成案が得られなかった。
このような状況を受けて,平成24年8月,平成24年改正法の法律案が国会に提出され,平成24年大法廷判決の言渡し後の同年11月16日に同法が成立した。その結果,平成22年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間の最大較差(人口)は1対4.75に縮小した。本件選挙当日の選挙区間の最大較差(選挙人数)は1対4.77に縮小しており,これは,昭和43年7月以降に実施された本件選挙を含む計16回の参議院議員通常選挙についての各施行日当日の選挙区間の最大較差(選挙人数)の中では最小のものである。
⑻ 上記協議会において,平成25年5月21日までに更に3回の協議が行われ,その座長において各会派の意見やそれまでの協議の内容等を踏まえ論点を整理したメモ(証拠<省略>。以下「座長メモ」という。)が作成され委員に示されるなどした。その上で,同年6月19日に開催された上記検討会において,上記協議会の座長から,座長メモの内容を含め上記協議会における協議の状況等が報告された上,各会派に対し,私案として今後の大まかな工程表(証拠<省略>。以下「座長工程表」という。)が提示され,各会派がこれを持ち帰り,本件選挙後も引き続き抜本的な見直しに向けた協議を行い,早急に結論を得ることが確認された。なお,座長工程表には,本件選挙後の同年8月以降,参議院選挙制度に係る協議機関を設置し,平成26年にかけて,次期選挙に向けた取組について同機関及び各会派において随時検討し,同年中に見直し案を取りまとめて報告書を作成し,平成27年中に見直し法案の提出と周知期間を経て,新制度の下で平成28年の次期選挙を施行する旨が記載されていた。
⑼ 本件選挙後の平成25年9月12日,参議院各会派代表者による懇談会が開催され,改めて選挙制度の改革に関する検討会が設置され,同月19日,実務的な協議を行うために上記検討会の下に改めて選挙制度協議会が設置された。その上で,同月27日,上記協議会の第1回会合が開催され,週1回のペースで有識者からの意見聴取などを実施することが確認されるなどした。そして,同年10月4日,上記協議会の第2回会合が開催され,座長工程表を含む資料を示して参議院議員選挙制度改革の経緯について事務局から説明がされ,協議が行われ,その後も協議が継続される見込みである。
2 争点⑴について
⑴ア 憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば投票価値の平等を要求していると解されるが,どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるかの決定については国会の裁量に委ねており(43条2項,47条参照),投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。それゆえ,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても憲法に違反するとはいえない(昭和58年大法廷判決,平成24年大法廷判決等参照)。
原告らは,憲法前文及び56条2項,あるいは憲法が謳う国民主権等により,専ら人口比例に基づいて選挙制度が定められることが要請されている旨主張する。しかし,同主張は,上記の基本的な判断枠組みの中で選挙制度が投票価値の平等の要請に反する状態となっていないかを検討するに当たり,参政権としての選挙権の重要性に十分配慮すべき旨を指摘するという限度では理由があるが,それを超えて,投票価値の平等の要請が絶対的なものであることをいう点では採用することができない。
イ そして,憲法が二院制を採用し衆議院と参議院の権限及び議員の任期等に差異を設けている趣旨は,それぞれの議院に特色のある機能を発揮させることによって,国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにあるところ,昭和22年の参議院議員選挙法及び昭和25年の公職選挙法の制定当時において,前記1⑴においてみた参議院議員の選挙制度の仕組みを定めたことが,国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えるものであったということはできない。しかし,社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口変動の結果,投票価値の著しい不平等状態が生じ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には,当該議員定数配分規定は憲法に違反するに至ると解するのが相当である(平成24年大法廷判決参照)。
⑵ その上で,次のような点を踏まえれば,既に平成22年選挙当時,選挙区間における投票価値の不均衡は,投票価値の平等の重要性に照らしてもはや看過し得ない程度に達しており,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたものとみられる(平成24年大法廷判決参照)。
ア いかなる選挙制度によって,衆議院及び参議院について定めた憲法の趣旨を実現し,投票価値の平等の要請と調和させていくかは,国会の合理的な裁量に委ねられているが,その合理性を検討するに当たっては,参議院議員の選挙制度が設けられてからの制度と社会の状況の変化を考慮する必要がある。そして,参議院議員と衆議院議員の選挙制度の同質化,参議院の役割の増大,衆議院の選挙制度について定められた区割りの基準(選挙区間の人口較差が2倍未満となることを基本とする。)などに照らすと,参議院についても,二院制に係る憲法の趣旨との調和の下に,更に適切に民意が反映されるよう投票価値の平等の要請について十分に配慮することが求められる。
イ 参議院においては,人口移動により都道府県間の人口較差が著しく拡大したため,現行の選挙制度の仕組みの下で昭和22年の制度発足時には2.62倍であった最大較差が,その後5.26倍から6.59倍にまで達し,若干の是正が図られたものの基本的な選挙制度の仕組みについて見直しがされることはなく,5倍前後の較差が維持されたまま推移してきた。
ウ 参議院議員の選挙であること自体から投票価値の平等の要請が後退してよい理由はなく,都道府県を参議院議員の選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請はない。都道府県を選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の実現を図るという要求に応えていくことはもはや著しく困難な状況に至っており,仕組み自体を見直すことが必要になる。
⑶ 本件選挙は,平成22年選挙と同じく都道府県を選挙区の単位とする仕組みを採用した参議院議員定数配分規定の下で施行されたものであるところ,選挙制度や社会状況の変化等について平成22年選挙の後に大きな変動があったとみるべき事情は見当たちない。平成24年改正の結果,選挙区間の最大較差(選挙人数)は平成22年選挙時よりも縮小して1対4.77となったものの,いまだ5倍程度の較差が存している状態にある。
上記に関し,社会状況の変化の流動性や,議員定数配分を衆議院より長期にわたって固定することが立法政策として許容されるといった観点から,5倍前後の選挙区間の較差であってもこれを直ちに是正する措置を講じないこどが国会の裁量権の合理的な行使の範囲を超えるとまではいえないと判断された時期が過去にあったとしても,長期間継続して5倍前後の較差が維持されたまま推移するなどしてきた現時点では,もはやそのように判断することはできない。現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じる必要があるというべきであり,1対4.77という上記較差が昭和43年7月以降に施行された参議院議員通常選挙における中で最小のものであるとしても,当該較差は,上記のような立法的措置を講じることなく単に定数を4増4減する旨の当面の対応策としての平成24年改正の結果にすぎず,容認されるものではない。
したがって,平成24年改正を踏まえても,本件選挙時において,前回の平成22年選挙時と同様に,選挙区間における投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたというべきである。
⑷ア 定数配分規定が投票価値の較差において憲法の投票価値の平等の要請に反する状態に至っていると判断すべき場合であっても,憲法の予定している司法権と立法権との関係に照らせば,次の段階として,憲法上要求される合理的期間内に是正がされなかったとして定数配分規定が憲法の規定に違反するに至っているか否かを判断すべきである。そして,憲法上要求される合理的期間内に是正がされなかったといえるか否かを判断するに当たっては,単に期間の長短のみならず,是正のために採るべき措置の内容,そのために検討を要する事項,実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を総合考慮して,国会における是正の実現に向けた取組が司法の判断の趣旨を踏まえた立法裁量権の行使として相当なものであったといえるか否かという観点から評価すべきものと解される(最高裁平成25年(行ツ)第209号ないし第211号同年11月20日大法廷判決・最高裁ホームページ参照)。
これに対し,原告らは,違憲状態にある定数配分規定の下で施行された選挙により選出された国会議員を含む国会に立法裁量権は認められない,上記のように合理的期間を問題とすることは是認できないなどと主張する。しかし,憲法上,選挙制度の是正の方法についても国会は幅広い裁量権を有しており,原則として国会において自ら制度の見直しを行うことが想定されているものと解されるところであって,裁判所が選挙制度の憲法適合性について段階的に一定の判断を示すことにより,国会がこれを踏まえて所要の適切な是正の措置を講ずることが憲法の趣旨に沿うものというべきである(上記大法廷判決参照)。投票価値の不均衡について違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態にあることから直ちに,当該選挙において選出された国会議員が法的にその資格を有しないということにはならないのであり,上記不平等状態にあることから直ちに当該国会議員の資格を否定することは,むしろ,3年ごとに半数の参議院議員を改選することで参議院にその時々の民意を反映させるなどという憲法上の要請に反するところなしとしない。それゆえ,そのような不平等状態に至っていたとしても,まずは当該選挙によって選出された議員も含めて構成される国会により是正の措置が検討されるべきことは,昭和58年大法廷判決等を含む累次の最高裁判決においても前提とされていたといえる。原告らの上記主張は採用することができない。
イ そこで,本件において,憲法上要求される合理的期間内に参議院議員定数配分規定の是正がされなかったといえるか否かについて検討する。
(ア) 参議院議員定数配分規定については,選挙区間の投票価値の較差が1対6.59に拡大した平成4年選挙に関して,平成8年大法廷判決が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていた旨判示したものの,その後,平成6年改正を経て最大較差が1対5未満に縮小されて以降,これが1対5を超えた2回の選挙を含め,平成21年大法廷判決まで5回にわたる大法廷判決においては上記の状態に至っている旨の判断が示されることはなく,上記の状態に至っているとの最高裁の判断が改めて示されたのは,平成24年大法廷判決においてであった。したがって,国会において同規定が上記の状態にあると認識し得たのは同判決の言渡日である平成24年10月17日の時点からであったというべきである。
これに対し,原告らは,平成21年大法廷判決において既に選挙区間の最大較差の大幅な縮小を図るためには現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となる旨の指摘がされていたことなどからして,専ら同判決の言渡日である平成21年9月30日から本件選挙までの期間を合理的期間については問題にすべきである旨主張する。しかし,同判決は,投票価値の不均衡について違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていると明確に判断したものではないから,同判決の言渡しによって直ちに,国会が同判決を受けて上記指摘を踏まえて同規定を是正しなければ違憲と判断される程の責務を負ったとまではいい難い(もっとも,平成18年大法廷判決でも,国会においては制度の枠組みの見直しも含めた検討を継続することが憲法の趣旨に沿うものである旨の指摘がされ,平成21年大法廷判決でも,選挙区間の較差について,投票価値の平等という観点からはなお大きな不平等が存する状態であって,最大較差の大幅な縮小を図るためには現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となる旨の指摘がされたところである。国会においては,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあると認識し得る状態にまで至らなくとも,選挙制度の在り方について裁判所が具体的に踏み込んで指摘せざるを得ないといういわば例外的な事態に既に至っていることを受け止めて,真摯に投票価値の不平等の抜本的な是正について検討することが求められていたとみられるところである。)。
(イ) 参議院議員定数配分規定について憲法の投票価値の平等の要請に反する状態を解消するためには,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じることが求められていた。そのためには,二院制の下における参議院の性格や機能及び衆議院との異同をどのように位置付け,これを参議院議員の選挙制度にいかに反映させていくかといった点を含めた高度に政治的な判断が求められる。この点,都道府県を選挙区の単位とする現行の仕組みが,半世紀を超える間維持され,国民各層の間においても相当程度定着したものとなっていたことは否定できず,それに代わる様々な選択肢を専門的かつ多角的に検討するには相応の時間を要するものといわざるを得ない。さらに,選挙制度の仕組み自体を抜本的に変革して新たに構築する場合,国会においては,基本的には現行の選挙制度の発足時(最大較差は2.62倍)と少なくとも遜色のない程度に投票価値の平等の要請に沿う仕組みを構築すべきことはもちろん,平成24年大法廷判決で指摘された選挙制度や社会状況の変化に係る点を踏まえれば,より厳格に投票価値の平等の要請に応えることも期待されるところである。そのためには相当の作業が必要となると見込まれるのであり,その実現が多くの議員の身分に直接関わる事柄であることからも,国会における合意の形成は必ずしも容易ではないといわざるを得ない。平成24年大法廷判決の言渡日から本件選挙までの約9か月という期間が上記作業に十分なものであったとはいい難い。
(ウ) そのような中,本件選挙時においては,座長メモによる論点整理や新制度の下で平成28年の次期選挙を施行する旨の座長工程表を踏まえ,選挙制度の見直しについて検討が進んでいくことが一定の範囲で期待される状況にあった。平成24年改正法に本件附則が置かれたことを踏まえても,平成24年改正はあくまで上記のような検討の過程における当面の対応策としてされたものにすぎず,国会においては,現行制度の見直しに向けて検討を行う過程にあったとみることができる。
もとより,平成20年6月以降の検討の過程で,平成22年選挙に向けた較差の是正が見送られ,さらに,本件選挙に向けて選挙制度の見直しを行うこととされたにもかかわらず,それが実現することなく,選挙区間の最大較差を多少減少させるにとどまる平成24年改正がされたといった従前の参議院議員定数配分規定の改正の検討経過を踏まえれば,国会が真撃に選挙制度の見直しを検討してきたと評価するには少なからず疑問も残るところである。しかし,上記(イ)の点を踏まえると,定数配分の変更によって当面の較差の是正を図りつつ,より長期的な観点から選挙制度の見直しを行うという形で検討を進めていくことが,直ちに国会の裁量に係る現実的な選択として許されないということはできず,平成24年改正について国会の裁量権の合理的な行使の範囲を超えるものであったとはいえない。また,投票価値の不均衡について違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあると国会が認識し得たのが平成24年10月17日であったというべきこと等も踏まえれば,それ以前に選挙制度の仕組み自体の見直しが進まなかったことをもって,国会の取組が相当なものでなかったことを基礎付ける事情であると評価することにもなお疑問を差し挟む余地がある。
(エ) 以上の点に鑑みれば,本件選挙時までの国会における是正の実現に向けた取組が,立法裁量権の行使として相当なものでなかったとまで断ずることはできず,本件において憲法上要求される合理的期間を徒過したものとして本件定数配分規定が違憲であると判断することには,なお躊躇を覚えざるを得ない。
⑸ 以上により,本件選挙時において,投票価値の不均衡は,平成22年選挙時と同様に違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったが,憲法上要求される合理的期間内にその是正がされなかったとまではいえず,本件定数配分規定が憲法の規定に違反するに至っていたということはできない。
したがって,原告らの請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。
もっとも,投票価値の平等が憲法上の要請である一方,都道府県を選挙区の単位とすることはもちろん,参議院議員選挙に係る選挙区選出議員を都道府県の代表的なものとして位置付けること等が憲法上の要請であるとはいえないものであり,国会には,様々な政策的目的や考慮要素等について,それらが憲法上の要請に係るものであるか否かを的確に踏まえた上で,引き続き,選挙制度の見直しについてより積極的に真摯に取り組んでいくことが求められるところである。したがって,仮に次期参議院議員通常選挙までに,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置が講じられないまま,現在の状況が漫然と維持され,あるいは単に定数配分を調整するにすぎない改正が繰り返されるような場合には,これを正当化し得る特段の事情が新たに認められない限り,参議院議員定数配分規定が憲法の規定に違反するとの判断がされるのは必至であるといわざるを得ない。
第4結論
よって,原告らの請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判官 木下秀樹 阿閉正則 中島朋宏)
(別紙) <省略>