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仙台高等裁判所 平成29年(ネ)18号 判決 2017年5月25日

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別紙当事者目録記載のとおり

主文

1  1審原告と1審被告らの本件各控訴をいずれも棄却する。

2  1審原告の本件控訴に係る控訴費用は1審原告の,1審被告らの本件控訴に係る控訴費用は1審被告らの各負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  1審原告の本件控訴について

(1)  原判決を次のとおり変更する。

(2)  1審被告らは,1審原告に対し,連帯して6609万5309円及びこれに対する平成24年12月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  1審被告らの本件控訴について

(1)  原判決中1審被告ら敗訴部分を取り消す。

(2)  上記取消部分につき1審原告の請求を棄却する。

第2事案の概要

1  本件は,1審被告会社との間で商品先物取引委託契約(本件契約)を締結し,金や白金等の商品先物取引(本件取引)をした1審原告が,1審被告会社の外務員ら(B(以下「B」という。),C(以下「C」という。),D(以下「D」という。),E(以下「E」という。)及びF(以下「F」といい,前記5名を併せて「1審被告外務員ら」という。)の違法な勧誘行為等により損害を被ったとして,1審被告会社については民法715条又は415条に基づき,1審被告会社の代表取締役であった1審被告Y1,1審被告Y2及び1審被告Y3(1審被告代表取締役ら)については1審被告外務員らに違法な勧誘行為を行わせ,1審被告会社における適正な業務の遂行を怠ったとして会社法429条1項に基づき,損害賠償金6609万5309円及びこれに対する本件取引終了日である平成24年12月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。

1審原告は,1審被告らの違法行為として,①適合性原則違反,②不招請勧誘禁止違反,③再勧誘禁止違反,④説明義務違反,⑤断定的判断の提供,⑥新規委託者保護義務違反,⑦違法な両建の勧誘,⑧無断売買ないし一任売買,⑨過当売買禁止義務違反,⑩違法な特定売買を主張したが,原審は,上記⑦,⑨及び⑩に関する1審原告の主張に理由があり,1審原告の過失割合として3割を斟酌すべき旨を判示して,1審原告の請求のうち,4626万6716円及びこれに対する1審被告会社については本件取引終了日から,その余の1審被告らについては訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員の連帯支払を求める部分に限り認容し,その余の請求を棄却した。

1審原告は,原判決中1審原告敗訴部分を不服として本件控訴を提起し,1審被告らは,原判決中1審被告ら敗訴部分を不服として本件控訴を提起した。

2  前提事実及び争点

原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」1及び2(原判決3頁3行目から5頁8行目まで)のとおりであるから,これを引用する(原判決中,「原告」とあるのは「1審原告」と,「被告」とあるのは「1審被告」と,「別紙」とあるのは「原判決別紙」とそれぞれ読み替えられることになる。以下同じ。)。

3  争点に関する当事者の主張

(1)  争点1(適合性原則違反の有無)について

次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」3(1)(原判決5頁10行目から9頁4行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

ア 原判決5頁13行目末尾の次に「適合性原則の趣旨は,適格性を欠く者の保護だけでなく,適格性を欠いた者が市場に参加することにより,価格形成が公正さを欠くことを防止することにもある。したがって,適格性の有無の判断に当たっては,何らかの社会経験があるとか,ある程度の学歴があるとか,相場のある取引をしたことがあるなどといった事情だけを重視して判断するのは適切でなく,当該委託者が公正な価格形成に資するだけの取引経験,理解能力を備えているか否かといった観点からの検討が不可欠である。」を加える。

イ 原判決5頁26行目の「取引であった。」を「取引であり,1審原告が行っていたのは,地金商が提示する金額で金地金を売るか否かの判断のみであった。」に改める。

ウ 原判決6頁9行目末尾の次に「なお,高校への進学率が90%を超えている現状においても適合性原則が設けられていることに照らせば,1審原告が高校を卒業した人物であるという事情は適合性の有無の判断において有意なものではない。」を加える。

(2)  争点2(不招請勧誘の禁止違反の有無)について

原判決9頁11行目末尾の次に改行の上次のとおり加えるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」3(2)(原判決9頁5行目から24行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

「 1審被告会社に対して資料請求をしたのは1審原告の子であるHであり,1審原告自身には1審被告会社と取引を開始する意思は全くなかった。また,1審原告は,孫の世話をしながら質屋営業を続けていたため,商品先物取引を勧めてくるBの来訪は業務の妨げそのものであったから,当初,自宅を訪問するようになったBに対し,お茶を出さないどころか店にも入れないなど,勧誘を断る意思を明確に示していた。」

(3)  争点3(再勧誘禁止違反の有無)について

原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」3(3)(原判決9頁25行目から10頁17行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

(4)  争点4(説明義務違反の有無)について

次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」3(4)(原判決10頁18行目から13頁8行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

ア 原判決11頁25行目末尾の次に「一方,Cの証言等によれば,Cが同月26日に1審原告に対して商品先物取引についての説明をしていないし,同月27日に4時間にわたって商品先物取引の説明をした事実もないほか,商品先物取引の説明及び理解に関する説明書①及び②に記載されたとおりの説明をもしていない。また,1審原告は,1審被告会社本社調査部のI課長(以下「I」という。)による適格性審査の際に金先物相場が53円下がると追証がかかる旨回答しているが,これは1審原告がBやCから事前に言うように言われていたのでそれを口にしただけであるし,1審原告は,Iに対し,追証拠金を支払うか清算するかについて担当者に相談してもいいかどうかを質問したが,これ自体は何ら具体性のない質問である。」を加える。

イ 原判決12頁2行目末尾の次に改行の上,次のとおり加える。

「オ 1審原告は,習熟確認において,Iに対し,商品先物取引の用語すら覚えられず,また先物取引に関するBの説明に理解が追いついていない旨を申告したにもかかわらず,Iは,理解してから取引をするように指導することを一切しなかった。

カ このように,1審被告会社が説明義務を果たしていなかったことは,1審原告が証拠金制度や両建について全く理解しておらず,証拠金不足額の計算方法すら知らなかったこと,本件取引の状況についても認識しておらず,残高照合通知書の内容も理解していなかったこと等から明らかである。」

(5)  争点5(断定的判断の提供の有無)について

原判決13頁18行目の「などの」を「など,自らに任せておけば1審原告に損はさせない旨の説明をし,商品先物取引によって生じる損失発生のリスクはないに等しい旨の説明をした。また,Bは,1審原告の担当者がFに替わる際にも,1審原告に対し,Fが面倒を見てくれるから大丈夫である旨述べた。また,Fは,1審原告に対し,実際には需要も供給も全く異なる金と白金につき,あたかも価格連動性があるかのごとく説明する際に「保険的作用」,「ヘッジ」などという言葉を用い,あたかも損失の可能性の低い安全な取引であるかのような説明をした。このように,B及びFは,1審原告に対し,」に改めるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」3(5)(原判決13頁9行目から14頁12行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

(6)  争点6(新規委託者保護義務違反の有無)について

原判決14頁26行目末尾の次に「また,1審原告は,Iに対し,サーキットブレーカーにつき「あれって月に2回,1回くらいあるんですよねー。」などと全く的外れな発言をしていることから,1審原告はサーキットブレーカーの制度趣旨すら正確に理解していない。また,1審原告は,金の売り取引を3191円で行ったことがあるが,これは自身の判断ではなく,Bが大丈夫だと言ったことによるものであり,担当者の相場観で判断していることを裏付ける事実である。」を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」3(6)(原判決14頁13行目から15頁13行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

(7)  争点7(違法な両建の勧誘の有無)について

原判決16頁4行目の「Fは」の前に「前記(1)(1審被告らの主張)ア及びイに掲げた事情に照らせば,1審原告は,両建取引を開始した平成23年8月3日の時点で,既に一定の知識や経験を積み,相場観を有する状態であった。それに加え,」を,12行目末尾の次に「また,1審原告は,両建取引を緊急避難的なものでなく,損失挽回するための有効な手法として活用していたのであり,両建取引の開始以降両建取引を常態的に行っていたこと,損失が生じていない局面においても両建取引を行っていたのは,上記のとおり損失挽回するための手法として両建取引を活用していたことの表れである。」を各加えるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」3(7)(原判決15頁14行目から16頁14行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

(8)  争点8(無断売買,一任売買の有無)について

原判決16頁25行目の「建玉をして」から26行目末尾までを「建玉をした。このように,形式的に見れば1審原告自身が取引の発注をしたとしても,その判断(相場観)を1審被告外務員らが行い,1審原告がその判断に盲目的に従っている状態であったから,実質的に一任売買に該当する。」に改めるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」3(8)(原判決16頁15行目から17頁10行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

(9)  争点9(過当売買禁止義務違反の有無)について

原判決18頁1行目末尾の次に改行の上,次のとおり加えるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」3(9)(原判決17頁11行目から18頁3行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

「 1審原告が1審被告会社に対して負担した手数料額は8485万6053円であったが,そもそも手数料はどのような取引でも発生し,一度発生すると減少することはないのであって,取引期間が長ければ手数料は増えるのであるし,上記手数料のうち約67.5%は,手数料控除後に利益になった取引で発生しているのであって,1審被告外務員らにおいて手数料を稼ぐ目的を有していたわけではない。」

(10)  争点10(違法な特定売買の有無)について

原判決21頁25行目の「認められ,」の次に「このことは,1審被告会社についての多数の裁判例の存在から明らかである。したがって,1審被告代表取締役らは,」を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」3(10)(原判決18頁4行目から21頁12行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

(11)  争点11(1審被告らの責任)について

原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」3(11)(原判決21頁13行目から22頁2行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

(12)  争点12(損害額)について

原判決22頁14行目の「本件は,」の前に「1審被告会社は,これまでにも多数の同種被害を発生させ民事裁判で訴えられるようになってから久しいのに,その運営形態を頑として変更しなかったために,1審原告に上記損害を与えた。このように,1審被告会社の不法行為の違法性は極めて高い。このように,」を,16行目の「生じる。」の次に「仮に故意による不法行為とまではいえないとしても,故意に匹敵する重過失による不法行為というべきである。」を各加えるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」3(12)(原判決22頁3行目から24行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

第3当裁判所の判断

当裁判所も,1審原告の請求は,4626万6716円及びこれに対する各1審被告会社については本件取引終了日から,その余の1審被告らについては訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員の連帯支払を求める部分は理由があり,その余の請求は理由がないものと判断する。その理由は,次のとおりである。

1  事実認定

原判決26頁16行目の「被告会社本社調査部のI課長(以下「I」という。)」を「I」に改めるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」1(原判決22頁26行目から31頁5行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

2  検討

(1)  適合性原則違反の有無(争点1)について

原判決31頁7行目を「(1) 適合性原則違反の有無(争点1)について」に改めるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」2(1)(原判決31頁7行目から33頁13行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

ア 原判決31頁20行目末尾の次に改行の上次のとおり加える。

「 なお,1審原告は,適格性の有無の判断に当たっては,当該委託者が公正な価格形成に資するだけの取引経験,理解能力を備えているか否かといった観点からの検討が不可欠である旨主張する。この主張の具体的内容は不明瞭であるが,上記主張を文言どおりに捉える限り,一般投資家の市場取引への参加を過度に制限するものというべきであり,相当でない。」

イ 原判決32頁4行目末尾の次に「1審原告は,金地金の取引は,地金商が提示する金額で金地金を売るか否かを判断していたのみであるし,高校への進学率が90%を超えている現状においては,1審原告が高校を卒業した人物である事情は有意なものではない旨主張するが,1審原告が主張するような「公正な価格形成に資するだけの能力の有無」の観点で検討する場合は格別,商品先物取引の仕組みやルールそれ自体を理解する能力という観点に照らせば,1審原告が高校を卒業した人物であって金地金取引の経験を有するという事情は1審原告の適合性を肯定する方向に働く事情と評価すべきである。」を加える。

(2)  不招請勧誘の禁止違反の有無(争点2)について

原判決34頁2行目末尾の次に改行の上次のとおり加えるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」2(2)(原判決33頁14行目から34頁3行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

「 1審原告は,1審被告会社に資料請求したのはHであり,1審原告には1審被告会社と取引を開始する意思は全くなかったし,当初はBに対しお茶を出さないどころか店にも入れないなど,勧誘を断る意思を明確に示していた旨主張する。しかしながら,1審被告会社に資料請求行為をした人物が1審原告であるかHであるかは本件証拠上明確ではないものの,前記のとおり「ネットでホームページなんか見てもらって」,「あらこういうのはどうなんだろうってね,出しちゃったのが始まりだったの。」という1審原告の言葉からも,少なくとも1審被告会社に対する資料請求に1審原告の意思が関与していたことは優に認めることができる。また,既に説示したとおり,Bに対して勧誘を断る意思を明確に示していたことを認めるに足りる証拠はなく,仮に1審原告が主張するとおり,Bに対してお茶を出さず,また1審原告の店への入店を許さなかったとしても,これらの事情により前記認定判断が左右するには足りない。」

(3)  再勧誘禁止違反の有無(争点3)について

原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」2(3)(原判決34頁4行目から12行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

(4)  説明義務違反の有無(争点4)について

ア 法217条及び法218条は,商品先物取引はその担保として預託する取引証拠金等の額に比べて著しく大きい額の取引を行うものである旨,商品市場における相場の変動により預託した取引証拠金等の額以上の損失が発生するおそれがある旨等記載した書面を,受託契約を締結しようとする顧客に交付し,同内容を当該顧客に理解されるよう説明しなければならないと定めている。この規定は,前記(1)で説示した商品先物取引の特質に鑑みて,受託契約を締結しようとする顧客に対し,商品先物取引の仕組み及びその危険性等について説明し,当該顧客が,商品先物取引には危険が伴うことを認識した上で,その自主的判断に基づいて取引を委託するかどうかを決することができるよう,当該顧客の属性,理解度に応じて,具体的な取引の類型に応じた仕組みや危険性等を説明することを義務づけているものであり,単に商品先物取引の仕組み及びその抽象的危険性について形式的な説明をしたことをもってその義務を履行したものということはできないと解するのが相当である。

イ これを本件についてみると,前記認定のとおり,C及びBは,平成21年11月26日及び同月27日に,1審原告宅を訪問し,主にCが1審原告に対し,金地金の売買に関する説明をした後,先物取引について,商品先物取引が証拠金取引であって,少ない証拠金で大きな利益を得ることができる場合もあれば,大きな損失が生じる場合もあるハイリスク・ハイリターンな取引であること,追加の証拠金を差し入れる必要がある場合があること,限月の定めがあること,サーキットブレーカー制度等について説明したことが認められる。

これに対し,1審原告は,B及びCから先物取引についての説明を受けておらず,同両日には,雑談をしたり,電話による審査に対してどのように回答するかのレクチャーを受けただけであった旨主張するが,B及びCは,平成21年11月26日には1時間以上,同月27日には顧客審査の時間まで約4時間にわたり,1審原告と面談していたのであり,B及びCが商品先物取引の仕組みについて説明することは十分可能であったし,前記認定のとおり,1審原告は,商品先物取引の説明及び理解に関する確認書①及び②に署名押印していること,1審原告がIによる適格性審査において,「商品先物取引・委託のガイド」の説明を受けた旨話し,金先物相場が53円下がると追証がかかる旨回答していること,追証拠金を支払うか清算するかについて担当者に相談しても良いかという質問を自らしていること,1審原告自身,1審被告外務員らからの説明を受けて,自分が買った方向と反対の方向に相場が動くとお金を多く払う必要があるリスクのある取引だと感じたと供述していることに照らせば,B又はCが商品先物取引の仕組みやリスクについて形式的な説明は行ったと推認するのが相当であり,これに反する1審原告の主張は採用できない。

ウ もっとも,前記認定によれば,1審原告は,習熟確認において,用語集等の内容についてはとても記憶しきれない旨,Bの説明についても理解が追いついていない旨を自ら述べているほか,同日の会話においては証拠金の具体的な内容やサーキットブレーカー制度についても正確な理解をしていないことが窺われる発言をしているなど,商品先物取引の仕組みについて正確かつ十分な理解をしていなかったことが認められる。これに加えて,後記のとおり,両建取引をはじめとする,合理的理由を見出し難い特定売買が頻繁に行われていたことを併せ考慮すると,1審被告外務員らは,1審原告に対し,上記イのとおり,商品先物取引に関する基本的な仕組みやリスクについて形式的な説明はしたものの,1審原告の理解度に応じて,具体的な取引の類型に応じた仕組みや危険性等を十分に理解させるまでの説明をしていたとは認め難い。

エ したがって,1審被告会社においては1審原告に対する説明義務違反があったというべきである。

(5)  断定的判断の提供の有無(争点5)について

原判決37頁8行目の「認められず」から9行目末尾までを「認められない。また,1審原告は,担当者がBからFに交替する際にもFが面倒を見てくれるから大丈夫である旨Bが述べ,Fは金と白金につき「保険的作用」や「ヘッジ」などという言葉を用いてあたかも損失の可能性が低い安全な取引であるかのような説明をした旨主張するが,これらの主張事実によっても,利益が生じ,又は損失が生じないことが確実である旨又はそう誤認させる旨の説明をしたとは認められない。」と改めるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」2(5)(原判決36頁10行目から37頁10行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

(6)  新規委託者保護義務違反の有無(争点6)について

原判決39頁6行目の「いうべきである」の次に「(1審原告は,サーキットブレーカーの制度趣旨すら正確に理解しておらず,また金の売り取引を3191円で行ったのはBが大丈夫だと言ったからであって,あくまでも担当者の相場観で判断していた旨を主張する。しかし,1審原告が自らの相場観でなく1審被告外務員らの相場観で取引をしていたことは認められるものの,前記のとおりの新規委託者保護措置の趣旨に照らせば,これを解除することが違法といえない程度には,1審原告が本件取引に関する知識や経験を得たという前記認定判断を左右するものではないというべきである。)」を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」2(6)(原判決37頁11行目から39頁8行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

(7)  違法な両建の勧誘の有無(争点7)について

原判決40頁7行目から8行目にかけての「よって」から9行目末尾までを「1審被告らは,1審原告が両建取引を開始した時点で相場観を有する状態であった旨主張するが,その主張事実が認められないことは前記(1)において説示したとおりである。また,1審被告らは,1審原告が両建取引を常態的に行っていたことや損失が生じていない局面においても両建取引を行っていたのは1審原告が両建取引を損失挽回の手法ととらえていたためであるなどとも主張するが,両建取引の客観的性質に照らせば,両建取引を常態的に行ったり損失が生じていない局面で両建取引を行ったりすることが損失挽回に繋がるなどと1審原告が認識していたとは到底認められない。1審被告らの主張はいずれも理由がない。」に改めるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」2(7)(原判決39頁9行目から40頁11行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

(8)  無断売買,一任売買の有無(争点8)について

原判決41頁8行目末尾の次に改行の上次のとおり加えるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」2(8)(原判決40頁12行目から41頁9行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

「 また,1審原告は,形式的に1審原告が取引の発注をしたとしても,その判断(相場観)を1審被告外務員らが行い,1審原告がその判断に盲目的に従っている状態であったから,実質的に一任売買に該当する旨主張する。しかしながら,1審原告は1審被告外務員らの相場観に依拠して取引をしていたとはいえ,前記のとおり,上記相場観に盲目的に従っていたとまではいえないし,1審原告が知らないところで,また1審原告に全く無断で売買がされ,1審原告の意思決定の自由が存しないような形で取引が行われたとまでは認められないのであって,実質的に見ても無断売買ないし一任売買が行われていたとは認められない。」

(9)  過当売買禁止義務違反の有無(争点9)について

原判決42頁10行目末尾の次に「また,1審被告らは,本件取引に係る手数料合計額が1審原告の損失額の141.2%に及んでいたことにつき,取引期間とともに手数料は増えるものである旨,また上記手数料のうち67.5%は手数料控除後に利益になった取引で発生したものである旨主張する。しかしながら,単に取引期間の経過に概ね比例するような態様で手数料が増加していったのではなく,平成23年7月以降に取引量が急増し,それが1審被告外務員らの提案に1審原告が従う形で進められていたこと等と相俟って手数料を稼ぐ目的が認められることとなるのであるし,手数料を稼ぐ目的で委託者の取引志向に反する過当な取引を繰り返させる行為に違法性があるのであって,手数料が結果的に利益を生じさせる取引に係るものであるか否か,またそれが取引全体の中で占める割合等が違法性の判断を左右するものではない。」を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」2(9)(原判決41頁10行目から42頁11行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

(10)  違法な特定売買の有無(争点10)について

原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」2(10)(原判決42頁12行目から43頁18行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

(11)  1審被告らの責任(争点11)について

次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」2(11)(原判決43頁19行目から44頁19行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

ア 原判決43頁20行目の「違法な両建」の前に「説明義務違反,」を加える。

イ 原判決44頁4行目の「前記認定のとおり」を「弁論の全趣旨(原審における1審原告第3準備書面の記載及びそれに対して1審被告らから特段の応答がないこと)によれば」に改め,同7行目の「出されていたこと」の次に「が認められること」を加える。

ウ 原判決44頁19行目の「訴状送達の日」を「訴状送達の日の翌日」に改める。

(12)  損害額(争点12)について

次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」2(12)(原判決44頁20行目から45頁20行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

ア 原判決44頁20行目を「(12) 損害額(争点12)について」に改める。

イ 原判決45頁6行目の「原告の」から8行目の「いうべきである。」までを「1審原告の損害について,3割の過失相殺を行うことが相当である。」に改める。

ウ 原判決45頁14行目の「いうべきであるから」から同行目末尾までを「いうべきである。また,1審原告は,1審被告会社はこれまでにも多数の同種被害を発生させ民事裁判で訴えられるようになってから久しくもあるのに,その運用形態を頑として変更しなかったために1審原告に上記損害を与えた旨の事実を1審被告らに不利な事実として斟酌すべき旨主張するが,1審原告と1審被告らの間の損害の公平な分担という観点に照らせば,前記のとおり1審被告代表取締役らの会社法429条1項に基づく損害賠償責任を基礎付ける事実として斟酌することを超えて,過失相殺の検討において他の同種被害の事実を本件においてことさらに斟酌することが相当とはいえず,結局,3割の過失相殺が相当であるという上記判断を左右するものではないというべきである。」に改める。

3  以上によれば,1審原告の請求のうち4626万6716円及びこれに対する1審被告会社については本件取引終了日から,その余の1審被告らについては訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員の連帯支払を求める部分に限り認容し,その余の請求を棄却した原判決は相当であって,1審原告及び1審被告らの本件各控訴はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 古久保正人 裁判官 坂本浩志 裁判官杉森洋平は転補のため署名押印できない。裁判長裁判官 古久保正人)

別紙

当事者目録

宮城県<以下省略>

控訴人兼被控訴人 X(以下「1審原告」という。)

同訴訟代理人弁護士 佐藤靖祥

同 横田由樹

同 松村幸亮

東京都渋谷区<以下省略>

被控訴人兼控訴人 第一商品株式会社(以下「1審被告会社」という。)

同代表者代表取締役 A

横浜市<以下省略>

被控訴人兼控訴人 Y1(以下「1審被告Y1」という。)

横浜市<以下省略>

被控訴人兼控訴人 Y2(以下「1審被告Y2」という。)

東京都<以下省略>

被控訴人兼控訴人 Y3(以下「1審被告Y3」という。)

1審被告ら訴訟代理人弁護士 川戸淳一郎

以上

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