仙台高等裁判所 平成3年(ネ)410号 判決 1992年9月09日
平成三年(ネ)第四一〇号事件控訴人(第一審被告)
有限会社阿部製麺所
右代表者代表取締役
阿部彦勝
平成三年(ネ)第四一〇号事件控訴人(第一審被告)
阿部正雄
右両名訴訟代理人弁護士
金沢茂
同
金沢早苗
右訴訟代理人金沢茂訴訟復代理人弁護士
高崎尚志
平成三年(ネ)第三九二号事件控訴人(第一審被告ら補助参加人)
日産火災海上保険株式会社
右代表者代表取締役
川手生巳也
右訴訟代理人弁護士
大野藤一
平成三年(ネ)第三九二号事件被控訴人平成三年(ネ)第四一〇号事件被控訴人(第一審原告)
中村キエ
平成三年(ネ)第三九二号事件被控訴人平成三年(ネ)第四一〇号事件被控訴人(第一審原告)
中村カツ子
平成三年(ネ)第三九二号事件被控訴人平成三年(ネ)第四一〇号事件被控訴人(第一審原告)
中村竹男
平成三年(ネ)第三九二号事件被控訴人平成三年(ネ)第四一〇号事件被控訴人(第一審原告)
中村光則
右法定代理人親権者母
中村房子
右被控訴人ら訴訟代理人弁護士
宮森正昭
主文
一 第一審被告ら補助参加人の控訴を却下する。
二 第一審被告らの控訴に基づき原判決を次のとおり変更する。
1 第一審被告らは各自、第一審原告中村キエに対し、三四一万七〇〇〇円、同坂下カツ子、同中村竹男及び同中村光則に対し、各一一八万二三三三円並びに右各金員に対する昭和五九年一二月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 第一審原告中村キエ、同坂下カツ子及び同中村竹男の主位的請求並びにその余の予備的請求、第一審原告中村光則のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用中、第一審原告らと第一審被告らとの間に生じたものは、第一、二審を通じてこれを三分し、その一を第一審被告らの、その余を第一審原告らの各負担とし、第一審原告らと第一審被告ら補助参加人との間に第一審において生じたものはこれを三分し、その一を右補助参加人の、その余を第一審原告らの各負担とし、第二審において生じたものは右補助参加人の負担とする。
四 この判決は、二項1に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一控訴の趣旨及びこれに対する答弁
第一審被告らは、「原判決中第一審被告ら敗訴の部分を取消す。第一審原告らの請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも第一審原告らの負担とする。」との判決を求め、第一審原告らは、「第一審被告らの控訴を棄却する。控訴費用は第一審被告らの負担とする。」との判決を求めた。
第二事案の概要及び証拠関係
一本件事案の概要は、当審において、第一審被告ら及び第一審原告らが、次のとおり主張したほかは、原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」のとおりであるからこれを引用する。
(第一審被告ら)
1 原判決は「被害者の後遺障害は少なくとも等級表の八級を下るものではなく」と判示している。
これは藤鑑定によって「右肩関節の用を廃した」と診断されたことの影響が強いものと考えられる。
しかし、同判決でも述べているとおり、「右肩の可動域は前挙(屈曲)六〇度、後挙(進展)一五度、側挙(外転)三〇度」の程度であり、自賠責の「用廃」の定義たる「完全強直又はこれに近い状態」とは捉えられない。(<書証番号略>)
よって、自賠責の後遺障害認定基準を逸脱した判断であり、「等級第八級」と判定した点は明らかに誤りである。
2 裁判所における自賠責の後遺障害認定基準についても、当該後遺障害かまず自賠責施行令別表の第何級何号に該当するかという判断が、必要不可欠である。そうでなければ、後遺障害の評価という極めて抽象的な判断が恣意に流れ、説得力のないものとなってしまう危険性があるからである。
同別表は、身体をまず解剖学的観点から部位に分け、次にそれぞれの部位における身体障害を機能の面に重点を置いた生理学的観点から一種又は数種の障害群に分け(障害の系列)、更に各障害はその労働能力の喪失の程度に応じて一定の順序のもとに配列(障害の序列)して作成されている。(<書証番号略>、労働省労働基準局監修、障害認定必携七一頁)
こうした等級表、認定基準は合理性、規範性を有するものであり、単に労災や自賠責における後遺障害の基準たるに止まらず、裁判においても準拠していることは公知のとおりである。
なお、自賠責における後遺障害認定は、昭和三九年の施行令改定いらい現在に至るまで、同認定基準に準拠して行われており、これと異なる認定を行うことになれば、蓄積された認定実務を乱すだけでなく、大多数の交通事故被害者間に不公平を招くことになり、法秩序の安定を阻害すること著しいものとなる。
(第一審原告ら)
1 第一審原告らは、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という)に基づく自動車損害賠償責任保険金(以下「自賠責保険金」という)の支払いを保険会社に請求しているのではなく、自賠法三条本文及び民法七〇九条に基づき、亡中村光三(以下「被害者」という)及び第一審原告らに発生した損害、具体的には、入院雑費、慰藉料及び弁護士費用の賠償を第一審被告らに求めているのである。
2 右慰藉料の算定、特に後遺症に対する慰藉料の算定に際しては、労働基準局長通達の「障害等級認定基準」を一つの参考として、後遺障害の等級を認定の上、これに対する慰藉料額を定めるべきであるが、右通達は、後遺障害の等級を認定する際の一つの参考資料にすぎず、これのみに準拠して判断すべきではないこと、原判決判示のとおりであり、これのみに準拠して判断すべきとする第一審被告らの主張は失当である。
3 仮に、被害者の後遺障害の等級が、第一審被告ら主張のとおり、右通達の一二級五号に該当するとしても、これは自賠責保険の当事者である第一審被告有限会社阿部製麺所と第一審被告ら補助参加人日産火災海上保険株式会社との間において、自賠責保険金支払いの際、解決すれば足りる問題であり、自賠責保険金の支払いを求めているのではない本件にあっては、的外れな主張である。
二証拠の関係<省略>
第三当裁判所の判断
一本案前の判断
本件においては、第一審被告ら補助参加人と第一審被告らとが、それぞれ控訴を提起したが、右各控訴は、原判決の変更を求める不服の範囲か同一であるから、民訴法三七八条、二三一条により、後から提起されたものを不適法として却下すべきところ、右各控訴は同一の日に原審と当審に提起されたものであってその先後をしることができないが、補助参加人の地位、権能等に徴すると、右両箇の控訴の中、第一審被告ら補助参加人のなした控訴を不適法として却下すべきである。
二本案に対する判断
1 当裁判所は、第一審原告中村光則を除くその余の第一審原告ら(第一審原告キエら)の主位的請求は、理由がないからこれを棄却すべく、予備的請求並びに第一審原告中村光則の請求は、第一審被告ら各自に対し、第一審原告中村キエにおいて、損害金三四一万七〇〇〇円、同坂下カツ子、同中村竹男及び同中村光則のおいて、損害金各一一八万二三三三円並びに右各金員に対する本件事故の日である昭和五九年一二月七日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当としてこれを認容し、その余は失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」の説示と同一であるからこれを引用する。
(一) 原判決七枚目裏四行目の「同原告」を「被害者」と改める。
(二) 同七行目の「八〇〇」を「六〇〇」と改め、一一行目の「三〇度」の次に「(左肩のそれは、それぞれ一八〇度、四〇度、一八〇度)」を加え、同行目の「同部」から同一二行目の「(乙六、鑑定人藤哲の鑑定の結果)」までを「あったこと(乙六、一一)」と改め、同一三行目の「肘」から同八枚目表二行目の「(鑑定人藤哲の鑑定の結果)」までを「右肘及び右手指の単独での可動域は正常であるが、右肩関節の障害に派生する強い疼痛が同部にあり、これが激しい場合は、右肘関節、右手関節、右手指の動きは右肩関節に影響を及ぼし、右肘及び右手指を動かすことは著しく困難となること(乙六、一一、鑑定人藤哲の鑑定の結果)」と、同三行目の「右手」から同六行目の「右認定事実」までを「食事はひとりでしていたが、衣服の着脱、入浴時の洗身は人の手を借りていたこと(被控訴人中村キエ本人尋問の結果。なお、一般には、たとい一上肢が使用できなくなったとしても、衣服の着脱、洗身が不可能となるものではない。)、④自賠責保険の後遺障害認定に当たり準拠するものとされている労働災害「障害等級認定基準」によれば、右運動制限の障害は等級表一〇級一〇号に該当し、又右神経障害は、同七級四号に該当すると認められること等に、被害者の年齢その他諸般の事情」と、同七行目の「同原告」を「被害者」と、同八行目の「八〇〇」を「六〇〇」と改める。
(三) 同九行目の「補助参加人」から同裏四行目末尾までを「等級表の障害等級は、これにより自賠責保険金額を定めるものであり、交通事故による損害賠償訴訟において、後遺障害に関する損害(慰藉料)額を定めるに当たって、有力ではあるが一つの資料となるにすぎないものであることはいうまでもない。しかしながら、傷害等級の認定に当たっては、前記認定基準が、傷害等級の認定における障害の程度の公正かつ適正な評価を実現するために定められたものであり、内容的にも特別不都合な点は認められず、これまで長年にわたり実務上認定の根拠とされてきたことからすれば、特段の事情のない本件においても、右認定基準を参考にするのが相当である。」と改める。
(四) 同一一行目の「八一九万四〇〇〇」を「六一九万四〇〇〇」と、同一二行目の「四〇九万七〇〇〇」を「三〇九万七〇〇〇」と、同一三行目から一四行目にかけての「一三六万五六六六」を「一〇三万二三三三」と改める。
(五) 同九枚目表二行目の「一一〇万」を「七七万」と、同七行目の「五〇万」を「三二万」と、同八行目の「二〇万」を「一五万」と改める。
第四結論
よって、第一審被告ら補助参加人の控訴を却下し、第一審被告らの控訴に基づき原判決を前記のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条、九六条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官豊島利夫 裁判官田口祐三 裁判官永田誠一)