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仙台高等裁判所 平成3年(行コ)4号 判決 1992年8月27日

控訴人

小原豊

右訴訟代理人弁護士

角山正

被控訴人

宮城県教育委員会

右代表者委員長

葛西森夫

右訴訟代理人弁護士

秋山昭八

右指定代理人

木口倉之助

佐伯光時

吉野信雄

丹野君信

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の申立

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人の控訴人に対する昭和六〇年一一月三〇日付懲戒免職処分を取消す。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。

第二当事者の主張

当事者双方の主張については、次に付加するほかは原判決事実摘示を引用する。

一  原判決六枚目表末行「本件処分」(本誌五八八号<以下同じ>55頁2段13行目)の前に「公務員といえども市民的自由があり、一市民としての思想・信条・表現の自由が懲戒処分によって侵害されるべきものではない。この見地から、」を加える。

二  同八枚目表五行目の次(55頁4段23行目)に、改行して、「(3)控訴人が参加した三里塚闘争は、農民の生活と人権を守るための正当かつ適法な抵抗権の行使であって反社会的なものではない。のみならず、控訴人の本件行為は、職務外の個人的なものであり、しかも私利私欲を離れた純粋な行動であるから、教育公務員としての信用を失墜するものとはいえない。」を加える。

第三証拠

原、当審記録中の証拠目録記載のとおりである(略)。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は失当であると判断するが、その理由として、次に付加、訂正するほかは原判決理由説示を引用する。

1  原判決八枚目裏七行目「第三」(56頁1段12行目の(証拠略))から一〇行目「第二五」(56頁1段12行目の(証拠略))までを「第一ないし第一六、第二〇、第二五ないし第二八、第三四ないし第三八号証、成立に争いのない乙第二九ないし第三二号証、弁論の全趣旨及び方式と趣旨により原本の存在と成立の認められる乙第一七ないし第一九、第二二ないし第二四、第三三号証、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第二一」と改め、同一〇枚目表六行目「同公園から」(56頁3段9行目)の次に「国道二九六号線に出て、これを東進し、」を加え、同裏九行目「容疑」(56頁4段7行目)の次に「(但し、控訴人については、後記のとおり傷害罪の容疑を除く。)」を加え、同一一枚目表六行目「ウィンドブレーカー」(56頁4段23~24行目)の前に「防炎加工の」を加え、同裏について、二行目「使用等」(57頁1段7行目)の次に「の処罰」を加え、四行目「逮捕された後、」(57頁1段12行目)の次に「終始黙否を続けて弁解せず、」を加え、五行目「釈放」(57頁1段14行目)から六行目「なった」(57頁1段15行目)までを「不起訴(起訴猶予)と決って釈放された」と改め、一一行目「れ、」(57頁1段25行目)の次に「児童及び父兄に動揺を与えたので、」を加える。

2  原判決理由「三」の説示(一二枚目表二行目本文冒頭(57頁1段30行目)から同四行目末尾(57頁2段4行目)まで)を次のとおり改める。

「1 控訴人の右二(先に引用した訂正後の原判決理由二を指す。以下同じ。)の1の行為について

控訴人が「10・20三里塚で中曽根を倒そう」等の見出しの本件ビラを職員室において配布したのは、教育公務員特例法二一条の三第一項、国家公務員法一〇二条一項、人事院規則一四―七第五項四号・六項一三号に違反する政治的行為であって、地方公務員法二九条一項一号の懲戒事由にあたるというべきである。右ビラ配布の行為が勤務時間外になされていても、この結論に変りはない(右人事院規則四項)。

2  控訴人の右の2の行為について

校長は、控訴人の上司であり(学校教育法二八条三項)、控訴人は、校長の職務上の命令に従う義務がある(地方公務員法三二条)。本件ビラの配布は、右説示のとおり政治的行為に該当する違法なものであったのであるから、校長がその回収を行為者たる控訴人に命じたのは、職務上当然の措置であり、控訴人がこの職務命令に従わなかったのは、地方公務員法二九条一項一号及び二号の懲戒事由にあたるといわなければならない。

3  控訴人の右二の3の行為について

右認定のとおり三里塚第一公園での集会終了後、中核派集団が行ったデモは、機動隊せん滅・成田空港突入を呼号し、鉄パイプ・火炎びん等の凶器を携行し、これを使用して、警戒中の機動隊と衝突して極めて過激なものであって、その違法なことは明らかというべく、控訴人主張のごとき正当かつ適法な抵抗権の行使であるなどとはとうていいえるものではない。そして、先の認定の事実によれば、控訴人は、このような過激派集団が暴力行為に及ぶことを知りながら、それを支援する意思をもって、中核と書かれた白ヘルメットをかぶる等の装いで後続集団の一員としてデモに参加したものというべきであり、そのまま機動隊との衝突が続いている三里塚交差点に進入し、凶器準備集合罪・公務執行妨害罪・火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反の容疑で現行犯逮捕されたのであって、このことが新聞等で報道されるや、控訴人が小学校教諭であることから児童や父兄に動揺を与え、地域社会に大きな反響を呼んだのである(訂正後の原判決理由二4後段)。

このような控訴人の行為は、職務外のことであるとはいえ、そして、かりに控訴人主張のとおり自らは暴力行為を実行せず、実行者との共謀行為がなかったとしても、また、その動機のいかんを問わず、地方教育公務員としての職の信用を著しく傷つける行為であるというべきであって、地方公務員法三三条に違反し、同法二九条一項一号及び三号の懲戒事由にあたるといわなければならない。

4  控訴人の右二の4の行為について

以上認定の事実に照らし、控訴人に対する逮捕、勾留が違法であったということはできない。控訴人は、逮捕、勾留の結果として欠勤することになったのであるが、これは、3で説示した自らの違法な行動に起因するのであるから、その責は、控訴人に帰せられるべきである。従って、その欠勤は、地方公務員法三五条の職務専念義務に違反し、同法二九条一項一号及び二号の懲戒事由に該当するといわなければならない。

5  本件処分の適否

以上1ないし4に説示のとおり、控訴人には地方公務員法二九条一項一ないし三号の懲戒事由該当の行為があるところ、これに対して、どのような内容の懲戒処分を行うかどうかについては、懲戒権者である被控訴人に一定範囲の裁量権があるものと解すべきである。そして、以上説示にかかる諸事情のもとでは、被控訴人が控訴人に対し、懲戒免職処分をもって臨んだことは、社会観念上著しく妥当を欠くものとはいえず、裁量権の範囲を超えこれを濫用したものといえないことが明らかである。ちなみに、(証拠略)によれば、現に本件成田闘争に参加し、不起訴となった他府県の教員も、そのすべてが懲戒免職の処分を受けているのである。本件懲戒処分が控訴人の市民的自由を侵害する旨の同人の主張は、独自の見解であって採用の限りでない。」

二  よって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は、相当であり、本件控訴は、理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤邦夫 裁判官 齊藤清實 裁判官 小島浩)

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