仙台高等裁判所 平成4年(ラ)87号 決定 1992年7月08日
抗告人(破産者)
乙川一郎
右代理人弁護士
小野由可理
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一本件抗告の趣旨及び理由は別紙免責不許可決定に対する即時抗告申立書記載のとおりである。
二当裁判所の判断
当裁判所も抗告人には破産法三六六条の九第一号、三七五条一号所定の免責不許可事由が存するものと判断する。その理由は以下のとおりである。
本件記録によれば、抗告人は、昭和六一年六月から平成三年八月までの間に、いわゆるサラ金やクレジット会社等から総額一〇一〇万円をも借り受け、その残債は破産申立当時において元金だけでも九二六万円に上るところ、右借り受けの中には友人に頼まれて借り受けた一七〇万円や借金返済のためにやむなく借り受けたものも存するが、そのほかは生活費として家庭に入れたものはなく、多くはパチンコやポーカーゲームなどの賭け事や飲食代などの遊興費に当てるため借り受けたものであって、パチンコは昭和五九年ころから頻繁に行っていたものであり、ポーカーゲームは平成二年末ころからであるが、既に多額の借金があるのを顧みずに行ない総額七、八十万円もの損をしていること、そして、抗告人自身頭書免責申立事件についてなされた審尋においてパチンコやポーカーゲームをしなければ破産宣告を受けるという事態を招くことはなかった旨述べていることが認められる。
右事実に照らすと、抗告人には前記免責不許可事由が存するものといわざるを得ず、また右債務増加の経緯事情等や多額の債務を負って返済不能に陥り、債権者に多大な損害を与えていることを考慮すると、抗告人を裁量によって免責するのも相当ではないというべきである。
三よって、原決定は相当であって、本件申立ては理由がないから主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官石川良雄 裁判官山口忍 裁判官佐々木寅男)
別紙免責不許可決定に対する即時抗告申立書
抗告の趣旨
原決定を取り消す。
破産者乙川一郎を免責する。
との決定を求める。
抗告の理由
一、原審裁判所は、破産者乙川一郎には破産法三六六条ノ九第一号(破産法三七五条一号)の免責不許可事由に該当する事由が存在するものと認められるとして、平成四年六月一八日免責不許可決定をしたが、右免責不許可決定は以下の理由により誤りであり、取り消されなければならない。
二、破産法三七五条一号は、破産者が「浪費又は賭博その他の射倖行為をなし、因って著しく財産を減少し、又は過大の債務を負担する」ような行為をしたときに、過怠破産罪として、五年以下の懲役又は三〇万円以下の罰金に処する旨定めているが、破産者乙川一郎は右条項に該当するとして取調を受けたことも、まして処罰されたこともない。
右条項は、放縦な消費生活を送る者の当罰性、反社会性に着目してこれを免責不許可の事由としているのであるから、余りに緩やかに解するのは慎むべきであるが、さりとて余りにも厳格に解することは相当でないと考えられるのである。
三、破産者乙川一郎の免責に対する陳述書によれば、一〇項の競馬、競輪、パチンコ等ギャンブルをしたことがありますかの項について、①パチンコと②ポーカーゲームをしたことがあると答え、①については昭和六一年頃から平成三年九月まで、②については平成二年一二月から平成三年五月まで、各一ヶ月に四回位、一ヶ月に①と②で合せて三万円位つかったと述べているが、破産者乙川一郎は他の者ならもっと少なく言うところを、根が正直なため、ありのままを述べており、それにしても刑事法に抵触する賭博行為をしたわけではなく、またそれによって著しく財産を減少したり、過大な債務を負担したともいえない上、右のようなパチンコ、ポーカーゲームといった遊びは現在では一般庶民のごく普通の当り前の遊び、レジャーといってよいのであり、右の程度では、浪費ともいえないのである。
四、破産者乙川一郎は毎月の手取り収入二〇万円ないし二五万円のうちから月に三万円位を気晴らしの遊びとしてパチンコやポーカーゲームにつかっていたに過ぎないのであるから、これをもって破産法三七五条一号の罪に該るべき行為をしたというのは余りにも厳格に過ぎて現在の社会の実情に全くそぐわないものといわなければならない。従って、破産者乙川一郎のパチンコ、ポーカーゲームに月に三万円程度をつかったのは、庶民のささやかな気晴らしのための出損であって、これを浪費であるとか射倖行為であるとか、著しく財産を減少又は過大の債務を負担する行為であるとかいうのは誤りであるから、原決定を取り消して、破産者乙川一郎を免責するとの決定を求めるため、本抗告に及んだ次第である。
添付書類
一、委任状 一通