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仙台高等裁判所 昭和24年(を)416号 判決 1950年4月08日

被告人

石井秀雄

主文

原判決を破棄する。

本件を靑森地方裁判所八戸支部に差戻す。

理由

(イ)原判決は、被告人は第一、昭和二十四年二月二十二日頃、公に認められた場合でないのに、八戸市高田米軍兵舍内仕事場及び肩書居宅等で右兵營内で譲受けた連合軍所有の定着液二箱外寫眞材料数点及び衣類煙草等雜品六点を、第二、その頃法定の除外理由なく、肩書居宅で米國兵士の遺失した同軍軍票二弗十仙をいずれも不法に所持していたものである。との事實を認定し、その証拠として、一、被告人の公判廷の自供一、米國官憲作成の押收目録の記載を挙げている。

その自供とは判示と同旨の供述を意味するものと解すべきところ原審第一囘公判調書によると、被告人の供述「寫眞材料は総て仕事のためP・Xから買い求めたものでありますが、日常用いる諸材料の入手経路を申し上げますと、私の方から必要な量をP・Xへ申請し、その代金を毎日の働き高から差引いてくれることになつております、押收された品物はいずれも高館の勤務の時間中だけの仕事では間に合わず家で仕事をして間に合わせるため家へ持つて來ていたものであり…………寫眞を期限までに仕上げないと乱暴されたりするので夜業してでも間に合わせなければなりません」との記載があり、また同第四囘公判調書には、軍票の所持につき、被告人の供述として「今年(昭和二十四年)二月一日頃、私がP・Xの仕事を終えて夜遲く歸宅したら妻が入口の土間でアメリカの金を拾つたと私に告げましたが、私は寫眞を撮りに來た米兵が落して行つたものと思い、その兵隊が寫眞を受取りに來たら返す積りでした」との記載があり、裁判官の「その兵隊が來ないにしても警察とかP・Xへ届けたらよかつたでないか」との問に対し「高館で届けようと思つているうちに家宅捜索をうけてしまいました」との記載がある。右によれば被告人の供述は前者の寫眞材料に關する部分は正當の業務行爲としてこれを所持していた趣旨であり、後者の軍票に關する部分は不法所持の意思を否認するものと認めなければならない。然りとするならば前者は刑法第三十五條により(昭和二三年(れ)第一七四一號同二四年四月一九日最高裁判所判決參照)また後者は犯意を欠き共に罪とならない事實を内容とするものであるからその供述は判示同旨の供述とはいいえない。被告人はその外には原判示事實を自白した形跡なく前掲供述を變更した形跡も認められない。もつとも「持出証明書を持たないで持出したのは不注意だつたと思います」「軍票所持については今になつて見れば責任あると思います」と供述をしているが、共に被告人の現在における意見を述べたに止まり、原判示事實の自白と解せられないことは多言を要しない。從つて原審公判廷における被告人の供述を原判示事実全部の自白として証拠に供したのは判決の理由にくいちがいがあるものといわねばならない。

(ロ)更にまた前記の押收目録について考察するに、右目録は全部英文を以て作成されたものであるから、裁判所において右英文を解するがために通譯人をして通譯をさせない場合においても、これが証拠調を爲すには提出者において通譯の上朗讀するか或は裁判所自らこれを翻譯した上朗讀すべきものであることは裁判所法第七十四條の規定に徴し明かである。しかるに原審公判調書によれば裁判官は右押收目録の証拠調として單にこれを讀聞けた旨の記載あるのみで、通譯して取調べた形跡は全然現われない。從つて右押收目録については適法な証拠調をしたものといいえない。しかして、この新訴訟手続上の法令違反は判決の結果に影響を及ぼすこと明かであるといわねばならない。また右の押收目録の記載を檢討するに、原判示第二の軍票については何等の記載がないから仮に原審公判廷における被告人の供述が自白であるとするも原判決は第二事實については被告人の自白のみによつて有罪とした違法があり、刑事訴訟法第三百十九條第二項に違背し、この訴訟手続上の法令の違反は判決に影響を及ぼすこと明かであるといわねばならない。

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