仙台高等裁判所 昭和25年(う)127号 判決 1950年7月28日
被告人
石塚市太郎
主文
原判決を破棄する。
本件を福島地方裁判所平支部に差し戻す。
理由
検察官検事松本正平の控訴趣意及び弁護人八島喜久夫の答弁は別紙の通りである。
暴力行為等処罰に関する法律第一条所定の犯罪は親告罪でないことは明白であるから、たとい被害者との間に示談成立し、被害者が告訴権を抛棄したものと解し得られるとするも、尚同条に依る処罰を免れないものといわなければならないところ、本件の公訴事実は被告人が昭和二十三年九月二十三日午後十時頃、福島県石城郡好間村大字上好間隅田川炭礦ポーリング小屋附近で、山口文雄外五名と共に多数の勢を恃んで婦女に暴行せんことを謀議し、被害者たる芽賀ウメ、同ハルヨの帰途を待ち受け、抵抗する両女を掴えて、同所附近の小屋や川辺に連行した上夫々暴行をしたというのであるから、右は暴力行為等処罰に関する法律第一条に該当する犯罪であることは論を俟たないのである。然るに原判決は被告人の本件暴行の所為は、山口文雄外四名と共謀して被害者たる芳賀姉妹に対する強姦の際為されたものであるから被害者が山口文雄外二名に対する強姦の点につき告訴を取消している以上、本人等に対する公訴権は勿論共犯者たる被告人に対する公訴権も消滅していると説示して、公訴棄却の言渡をしているのであつて、右は法律の解釋を誤り、不法に公訴を棄却した違法があると謂わねばならない。
(検察官検事松本正平の控訴趣意)
第一点 原判決は不法に公訴を棄却したものである。
惟うに暴行は強姦罪の構成要素であつて不可分の関係にあるものであるから、強姦の際なされた暴行について、強姦に対する告訴の取消があつた場合は、暴行の点にも及び問擬さるべき暴行の残存する余地のない事は原判決所論の通りであるが、右は強姦の際為された暴行が刑法第二百八条に問擬さるべき程度の暴行の場合のみを指称し、その暴行が程度を越え刑法第二百四条の傷害に至りたる場合、又は単純暴行罪とその構成要件を異にし刑法第二百八条の特則ともいうべき暴力行為等処罰に関する法律違反に擬律さるべき暴行となるに於ては前記判決理論は推論さるべきものに非ずと信ずる。
この事は強姦致傷罪が親告罪でない法意からも更に強姦に対する告訴の有無に不拘傷害罪として公訴を提起しても訴訟条件を欠除するものでない点からも至当であると信ずる。
然り而して暴力行為等処罰に関する法律は犯行の時期、機会について何等制限を設け居らず、且つ所謂親告罪に非ざる事は明白である。
されば告訴の取消ありたるや否やに不拘強姦の際なされたとはいへ暴力行為等処罰に関する法律違反として、本件公訴を提起したのは適法にして前掲判決理由に基き公訴を棄却したのは不法に公訴を棄却したものと考へられるので控訴を申立てた次第である。
(弁護人八島喜久夫の答弁)
一、原判決は相当であつて控訴人の控訴は理由がない。
強姦罪に於ける告訴の取消があつた場合には当然に手段たる暴行は姦淫と運命を共にすべきであつて、特に之が暴力行為等処罰に関する法律違反となることはない。
右は暴力行為等処罰に関する法律が所謂「暴力団」の横行を抑制する目的を以て制定された沿革に徴しても明瞭な事実である(池田克、現代法学全集四卷)