大判例

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仙台高等裁判所 昭和25年(ナ)2号 判決

原告 大内酉松

被告 宮城県選挙管理委員会

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、請求の趣旨

原告訴訟代理人は、「被告が昭和二十四年十二月二十日した、玉浦村選挙管理委員会の決定を取り消す当選人佐藤懋の当選はこれを無効とする、との裁決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求めた。

三、事  実

一、原告は昭和二十四年八月十八日行われた宮城縣名取郡玉浦村農地委員選挙の選挙人であるが、右選挙における当選人佐藤懋の当選の効力に関し同年八月三十一日訴外大宮芳郎から同村選挙管理委員会に対し異議の申立をし同年九月六日該異議申立は却下されたが、右訴外人において更に同年九月十七日被告に訴願した結果、被告は同年十二月二十日右訴願をいれて、「玉浦村選挙管理委員会の決定を取り消す、当選人佐藤懋の当選を無効とする」との裁決をし、同日これを告示した。

被告のした右裁決の理由は、要するに、(一)玉浦村農地委員選挙の開票に当り選挙会において無効とした投票中、「菊地棠」と記載した投票は、その「棠」の字は筆勢等から判断して「常」と記載する意思であつたことが容易に推測できるしまた候補者菊地常松以外に両名または類似の名をもつ候補者がいないから、候補者菊地常松に投票したものと認められる、(二)当選人菊地一丈の有効投票中に、それぞれ「きくきつそまつ」「きくつつネマ」「キクツツネツ杉」と記載した合計三票があるが、これらの記載はいずれも筆勢拙劣でありかつ誤字脱字があるけれども候補者菊地常松の氏名を記載したものと認められる。從つて候補者菊地常松の有効投票数百十二票に右四票を加算すると百十六票となり最下位当選人佐藤懋の得票数百十四票より二票多くなり当選の効力に異動をおよぼす、というにある。

二、しかし前記「菊地棠」と記載した投票および他の三票がいずれも候補者菊地常松に投票したものであることは何人も異議のないところであるから、かような投票が開票に当り無効投票とされまたは他の候補者の有効投票に算入されるようなことがあるとすれば、候補者菊地常松の定めた立会人が投票点檢に立ち会つている以上これを默過するはずがない。すなわち投票の開票をするに当つては各候補者の定めた立会人が立ち会つて嚴密に投票を点檢するのであるから諸般の事情から考えかような投票が無効投票とされまたは他の候補者の有効投票に算入されるようなことはあるべきはずがないのであつて、かような投票があつたということは何人かが偽造もしくは変造したものを前記無効投票または候補者菊地一丈の有効投票中に混入されたものと推測されるのである。要するにこれら四票の投票は不正な投票であるから、これを候補者菊地常松の有効投票とした被告の前記裁決は不当である。よつて被告のした前記裁決の取消を求める。

三、なお、候補者菊地常松の得票は乙第一ないし第四号証の投票を除いて百十二票であり、最下位当選人佐藤懋の得票数は百十四票であつたと述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は主文第一項同旨の判決を求め、答弁として、原告主張の第一、三項の事実はこれを認めるが第二項の事実はこれを爭うと述べた。(立証省略)

四、理  由

原告主張の第一、三項の事実は、当事者間に爭のないところである。

そこで第三項の原告の主張について当否を審究するに、乙第一ないし第四号証がそれぞれ原告主張の「菊地棠」「きくきつそまつ」「きくつつネマ」「キクツツネツ杉」と記載した投票に該当するものであつて、同第一号証が無効投票中に、同第二ないし第四号証が候補者菊地一丈の有効投票中に入つていたものであることは当事者間に爭がない。右四票の投票が結局候補者菊地常松に投票されたものと解されることについて、原告においても異議がないものであることは、原告の主張自体によつて明らかであるが、右乙号各証の記載を檢するに、同第一号証記載の「菊地棠」の「棠」の字は筆勢から判断して「常」と記載する意思であつたことが推測できるし菊地常松以外に同名または類似の名をもつ候補者がいないから候補者菊地常松に投票したものと認め、また同第二ないし第四号証の記載はいずれも筆勢拙劣でかつ誤字脱字があるけれども候補者菊地常松の氏名を記載したものと認めるのが相当であると解する。

しかし、開票の場合における投票の点檢は開票立会人が立ち会つて嚴重にこれを行うものであるとしても、本件において前記四票の投票が無効投票とされまたは他の候補者菊地一丈の有効投票中に入つていたからといつて、直ちに原告主張のように右投票が何人かによつて偽造または変造され右のように他の投票中に混入されたものと推認し得るものではない。他にすべての証拠によつても右四票の投票が偽造または変造に係る不正の投票であることを認めるに足らない。

よつて原告の前記主張事実を前提とする本訴請求は失当として棄却を免れないから、民事訴訟法第九十五條第八十九條を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 谷本仙一郎 村木達夫 猪狩眞泰)

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