仙台高等裁判所 昭和25年(ラ)7号 決定 1952年6月30日
抗告人 甲田数江
右代理人弁護士 松木勇二
相手方 長田幸男
右代理人弁護士 小野木一政
伊東太郎
主文
原審判を取消す。
本件を福島家庭裁判所平支部に差戻す。
理由
本件抗告理由の要旨は、
原裁判所は相手方の申立により昭和二十五年一月三十一日、抗告人に著しい不行跡及び親権の濫用があるとの理由のもとに、抗告人の事件本人甲田治に対する親権を喪失する旨の審判をした。
しかし、抗告人は原審判の理由とするような不行跡、親権の濫用がないから、原審判を取消し相手方の本件審判申立を却下する裁判を求める。
というのである。
よつて案ずるに、抗告人が昭和二十一年十月頃から菊田高と情交を結び昭和二十三年その間に子供をもうけたことは、抗告人において認めるところである。一般に夫のある者が他の男と情を通ずることは著しく不行跡であるといわなければならない。しかし、抗告人の夫一郎は応召中戦死したというのであるから、抗告人が菊田と情交関係を生ずる前に一郎の戦死が抗告人に明かとなつていたとすれば、たとえ戦死の公報が情交関係を生じた後になされたとしても右情交をもつて必ずしも著しく不行跡ということはできない。然るに本件につき原審はこの点につき何等審理した形跡がないのみならず、その他親権喪失申立の理由についても何等これを認むべき資料がないから原審判を取消し、原審をして更に事実の調査、又は証拠調を為さしめる必要があるものと認め、家事審判規則第十九条により主文のとおり決定する。