仙台高等裁判所 昭和26年(う)32号 判決
原審第一回公判調書中に、所論の通り、証人小沼萬が裁判官の尋問中、其二、三の問に対して黙秘した為、裁判官が「どうして黙つているのか」「黙つていたのでは何も判らないから何とか返事をしたらよいではないか」「黙つていたのでは何時まで過ぎても判らないのだから返事したらよいではないか」などと発問して、同証人の供述を要求した趣旨の記載がある。しかし、同公判調書に依ると、同証人は宣誓をし、刑事訴訟法第百四十六条、第百四十七条所定の場合に証言を拒むことが出来る旨を裁判官から告げられた上供述したもので、しかも、前記のように裁判官の発問に対して答えないことについて、その理由(即ち証言を拒む理由)を示した形跡は認められないのであるから、同証人に対し、裁判官が所論のような稍、追求的に見られる質問をしたからといつても違法とはいわれない。かつ、右公判調書の全体を通読すると裁判官の発問は、所論に曰う、「証人の返事を強要し、証人が返事をしないことが不都合であるかの如き調子で訊問し」たものではなく、供述義務に背馳する証人の態度を反省せしめる為、証人の供述を期待し、繰返し其供述を促した趣意に解される。従つて、原裁判官の措置は何等憲法第三十八条刑事訴訟法第百四十六条に違背しない。論旨は理由がない。