仙台高等裁判所 昭和26年(ナ)8号 判決
原告 沢田操
被告 青森県選挙管理委員会
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は「昭和二十六年四月三十日執行の青森県三戸郡選挙区における青森県議会議員一般選挙につき原告が申立てた当選の効力に関する異議に対し被告が昭和二十六年五月三十日にした決定を取消す。右選挙における四戸徳藏の当選を無効とする。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として陳述した要領は次のとおりである。
(一) 昭和二十六年四月三十日に執行された青森県議会議員一般選挙に際し原告は青森県三戸郡選挙区において立候補した。同選挙区における議員の定員は五名で立候補者の氏名及び選挙の結果決定された各候補者の得票数は末尾添付別表記載のとおりであつて、被告委員会は同年五月二日別表記載の大島勇太郎以下四戸徳藏までの五名を当選人として告示した。
(二) 原告は昭和二十六年五月十一日被告に対し右選挙における当選の効力につき異議を申立てたところ、被告は同年五月三十日「異議申立人の申立を棄却する」と決定し、原告は同年六月三日その決定書の交付を受けた。
(三) しかし最下位当選者四戸徳藏の有効得票とされた四六〇九票中には無効とさるべきものが六八票存する(甲第一乃至第六八号証)。即ち
(イ) 甲第五十一号の投票はその用紙に名久井村役場の印が押してない。成規の用紙を用いない無効の投票である。
(ロ) 甲第五十号第五十三号の投票は他の候補者坂本正夫に対する投票であることが明らかなのに四戸徳藏の得票中に混入され同人に対する有効投票として計算されている。
(ハ) 甲第三十二号の投票は候補者中に工藤福藏と四戸徳藏とがあるため、何れの候補者に投票したか確認し難いものである。
(ニ) 甲第四、八、九、十一乃至十四、十六、十七、二十、二十四、二十六乃至二十八、三十、三十一、三十七乃至三十九、四十四、四十七乃至四十九、五十四、五十五、六十四乃至六十七号の各投票は他事を記載したものでいずれも無効である。
(ホ) 甲第一乃至第六十八号の投票中以上(イ)乃至(ニ)以外の各投票は何人を記載したかを確認し難いものですべて無効である。
以上の六十八票を四戸徳藏の得票とされた四六〇九票から控除すると結局同人の得票は四五四一票となる。
(四) 次に選挙会で無効とした投票中甲第六十九乃至七十一号の投票はいずれも原告に対する有効投票であつて、右三票を原告の得票とされた四五八九票に加えると結局原告の得票は四五九二票となり、四戸徳藏の得票よりも多数である。
(五) 従つて選挙会が四戸徳藏を当選人としたのは違法であり、原告の異議を棄却した被告の決定も違法である。よつて本訴に及ぶ。原告訴訟代理人の陳述の要旨は以上のとおりである。
被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する」との判決を求め、答弁として、原告主張の(一)(二)の事実は認める。(三)の事実中原告主張の中第一乃至第六十八号の投票が候補者四戸徳藏の得票とされた四六〇九票に算入されたこと、右のうち甲第五十号、第五十三号の二票が他の候補者坂本正夫に対する投票であること、同第五十一、五十二号の二票が原告主張の理由により無効であることは争わないが、その他の投票が無効であることは争う。なお甲第五十六乃至六十二号の七票は三戸郡市川村の分、甲第六十三、六十四、その二票は同郡北川村の分、甲第六十五乃至第六十八の四票は、同郡田部村の分であるが、右はいずれも原告において被告に対する異議申立の際に主張しなかつたのであるから、本件において新に右の各投票が無効であると主張することは許さるべきでない。(ロ)の事実中甲第六十九乃至七十一号の投票が無効投票とされたものであること及び右のうち甲第六十九号の一票が原告に対する有効投票であることは争わないが、他の二票が原告の有効得票であることは争う。以上の次第で四戸徳藏の得票は原告の得票よりも多数であるから原告の本訴請求は失当であると陳述した。(立証省略)
三、理 由
原告主張の(一)、(二)の事実、四戸徳藏の得票四六〇九票中に原告主張の甲第一乃至第六十八号の投票が算入されていること及び原告主張の甲第六十九乃至七十一号の投票が無効とされた投票にあたることはいずれも当事者間に争がない。
よつて以下原告の挙示する各投票の効力について判断する。
一、四戸徳藏の得票中原告が無効なりと主張する分(甲第一乃至第六十八号証)について、
(イ) 甲第五十一号の投票がその用紙に名久井村役場の印が押してなくて正規の用紙を用いないものにあたることは被告も争わないところであるから、右の一票は無効というべきである。
(ロ) 甲第五十号、第五十三号の投票が他の候補者坂本正夫に対するものであるのに四戸徳藏の得票中に混入計算されていることは被告も認めるところであつて、右二票は四戸徳藏の得票から控除すべきであることはいうまでもない。
(ハ) 甲第三十二号の投票は「四戸福藏」と読めるが、他に「工藤福藏」なる候補者のあるところからみて、何れの候補者に投票されたかを確認し難い場合にあたるものとして無効と解するのを相当とする。
(ニ) 原告が他事記載の無効投票であると主張する投票のうち
(1) 甲第四、九、十三、十六、十七、二十、二十四、二十六、二十八、三十、三十一、四十七、四十八、五十四、六十六、号の各投票は、原告が後記(ホ)の事由で無効なりと主張する甲第六十三号の投票とともにいずれもその態様からみて誤字又は書損じた文字を抹消したに止まり意識的な他事記載とは認められないから右はすべて四戸徳藏の有効得票と認めるべきである。
(2) 甲第八号は「四尺シノヘ」とあるが、「四尺」はその字形から推して「四戸」の誤記と認められ、結局四戸徳藏の氏を二重に書いたに止まり甲第十一号は「シノヘ」と読み得られ、ただ「へ」が稍明瞭を欠くに過ぎず、甲第十二号の「四戸」の横に存する曲線様のものもその態様からみて有意の記載とは認め難い。甲第十四号及び第三十九号の「四」は「四戸」の誤記たることが明らかであり、甲第二十七号の「スノヘトグジロ」及び同第六十七号の「四戸市トグゾウ」は他にこれに類似する氏名の候補者のないところからみていずれも四戸徳藏の誤記に過ぎないものと認められ、甲第三十七号は「四戸」の「四」が不完全なのに気付き「戸」の横に片仮名で「シ」と附加したに過ぎないものと認められ、甲第三十八号も「しのへとくそう」の「と」が明確を欠くと思い横の方に「とく」と書加えたに止まるものと認められる。甲第四十四号及び第六十五号は「四戸徳藏」と書いた上、その氏名又は名の横に振仮名を附したに過ぎないものと認められ、甲第四十九号の「四戸」の下に存する縦線もその態様からみて有意の記載とは認め難い。甲第五十五号の「四ノトクビ」はその記載全体からみて四戸徳藏の誤記と認め得られる。甲第六十四号の「四戸トクゾウ」とある「ゾウ」の横の縦線も「ゾウ」が「ゾー」の意味であることを明らかにするため附したに止まるものと認め得る。従つて以上の各投票も亦意識的の他事記載として無効とすべきではなく、すべて四戸徳藏の有効得票というべきである。
(ホ) 以上の外原告が何人を記載したかを確認し難いものと主張する投票のうち
(1) 甲第一号、第二十二号に「四尸」とあるのはその字形からみて「四戸」の誤記と認められ
(2) 甲第二、三、五、六、七、十八、十九、二十一、二十三、四十五号に「トク」(甲第三号の「ク」の「」は「ト」の誤字と認められる)とあるのは、他に「トク」を含む氏名の候補者のないところからみて四戸徳藏を指すものと認め得られ、
(3) 甲第十号、第四十二号の「シノフ」、甲第三十六号の「シノク」、甲第五十七号の「シハヘ」はいずれも「シノヘ」の誤記と認め得られ、
(4) 甲第十五、三十五、四十一、四十六号はいずれもその字形からみて「シノヘ」又は「四戸」と読み得られないことはない、
(5) 甲第二十五、五十八、六十、六十二号の「スノセ」、甲第五十六号の「シノセ」、第五十九号の「四ノセ」(第六十二号の「スノ七」及び第五十九号の「四ノ七」の「七」は「セ」の誤字と認められる)、いずれも発音の訛りによる誤記で「シノヘ」を表わすものと認められ、
(6) 甲第二十九号は「徳三」と、また甲第六十八号は「四戸徳次郎」と読み得られ、これ等は甲第四十号の「四戸熊ゾー」、同第三十四号の「四」とともに、他に徳三、徳次郎、熊藏等の名をもつ候補者及び四の字を含む氏名の候補者のないところからみて四戸徳藏に対する投票と認め得られ、
(7) 甲第三十三号の「戸ノヘ」、同第六十一号の「シノチ」はその字形及び前後の関係からみて「四ノヘ」又は「シノヘ」の誤記と認めるのを、相当とし、
(8) 甲第四十三号の「しへとく」は「しのへとく」の「の」を書落したものと認められるから、
以上の各投票はいずれも四戸徳藏の有効得票と認めるべきである。
(9) 甲第五十二号は何人の氏名を書いたか判読し難いから、右は無効投票といわねばならない。この点は被告も争わないところである。
二、選挙会において無効とした投票中原告が原告の有効なりと主張する分(甲第六十九乃至第七十一号)について
(イ) 甲第六十九号の「サワダミノル」が原告の有効得票と認めるべきことは、被告も争わないところである。
(ロ) 甲第七十号の「サワダケイ」は「沢田兄」の趣旨と解し得られないことはなく、「兄」は敬称に属するものと認められるので右は原告の有効得票というべきである。
(ハ) 甲第七十一号は「足沢操」とあるが、これに類する氏名の候補者が原告以外に存しないところからみて右は原告に対して投票されたものと認めるのが相当である。
三、以上により四戸徳藏の得票とされた四千六百九票中無効若しくは他の候補者に対する投票と認められるものは合計五票であるから、これを差引くと同人の得票は四千六百四票となり、一方無効とされた投票中原告の有効得票と認めるべき三票を加えると原告の得票は四千五百九十二票となる。結局選挙会のした当選決定に異動を生じないから、四戸徳藏の当選を無効なりとする原告の主張は採用できない。
よつて原告本訴請求は失当としてこれを棄却すべきものとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 谷本仙一郎 村木達夫 猪狩真泰)
(別表省略)