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仙台高等裁判所 昭和26年(ネ)293号 判決 1953年2月28日

主文

昭和二十六年(ネ)第二九三号事件につき第一審原告の控訴を棄却する。

昭和二十六年(ネ)第二九四号事件につき原判決中第一審被告勝訴の部分を除くその余を取消し、第一審原告の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審共第一審原告の負担とする。

事実

昭和二十六年(ネ)第二九三号事件につき、第一審原告訴訟代理人は原判決中「原告その余の請求はこれを棄却する。」とある部分を取消す、右判決中「被告は原告に対し昭和二十五年九月二十二日当事者間において、耶麻郡檜原村大字檜原字大府平山千百七十番山林百町歩、同上字湯平山百七十一番の一山林六十六町六反一畝十四歩」とある下に同上字大府平原千百七十二番山林百九十九町九畝二十八歩」の二十七字を加入した判決に変更する判決を求めると述べ、第一審被告訴訟代理人は控訴棄却の判決を求めた。

昭和二十六年(ネ)第二九四号事件につき、第一審被告訴訟代理人は「原判決中第一審被告勝訴の部分を除きその余を取消す、第一審原告の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審共第一審原告の負担とする」との判決を求め、第一審原告訴訟代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は第一審原告訴訟代理人において、「本件係争山林は第一審被告組合の理事組合長河野善九郞外十五名の共有であるが、本件売買については組合員全員がこれに同意しその売買契約締結について理事組合長たる河野善九郞に代理委任したのである。同人は他の十五名の代理人たる資格を兼ねて昭和二十五年九月二十二日、第一審原告との間に口頭で第一審原告主張の売買契約を締結したものである。」と述べ、第一審被告訴訟代理人において、「本件係争山林が河野善九郞外十五名の共有であることは認めるが、第一審原告主張の売買につき右十六名の同意があつたこと及び河野善九郞に売買についての代理権があつたことはこれを争う。昭和二十五年九月二十二日第一審原告主張の売買契約が口頭で成立したことは認めない。」と述べた外、原判決事実摘示と同じであるから、これを引用する。

(立証省略)

第一審被告組合が、河野善九郞外十五名共有にかかる第一審原告主張の本件山林三筆外山林十四筆及び宅地一筆を出資し、

理由

森林の経営温泉の利用等の事業を目的として昭和二十年六月十七日成立した組合であつて、現在河野善九郞が右組合の理事組合長、藤沢藤吉、林平八郞が理事、赤城常吉、筒井清松が監事として就職し、一般組合員は十二名であること、第一審被告組合は昭和二十四年以来その所有山林の立木を売却すべく買受人を物色して来たが偶々昭和二十五年五月中第一審原告との間に売買の交渉を開始し爾来数次に亘り折衝を重ねた結果、第一審原告が興国人絹パルプ株式会社の技術員をして現地調査を為さしめたこと、本件係争地域を含む裏磐梯山林一帯は昭和二十五年中国立公園に指定され爾来山林の伐採については許可を要することになつたので、第一審被告はその許可手続一切を第一審原告に委任し第一審原告の運動により同年九月三十日福島県知事より伐採許可の指令があつたことはいずれも当事者間に争がない。第一審原告は昭和二十五年九月二十二日第一審被告との間に前示三筆に成立する赤松立木五千五十五石につき第一審原告主張の売買契約が成立した旨主張するから案ずるに、当審証人我妻勇の証言により成立を認める甲第十七、十八号証、乙第一号証、原審証人古川大治郞、原審及び当審証人山内福蔵(原審は第一、二回)我妻勇の各証言の一部、当審証人藤沢藤吉、赤城常吉、林平八郞の各証言、当審における第一審原告本人尋問の結果の一部、第一審被告代表者本人尋問の結果を綜合すると、第一審被告組合は昭和二十四年八月二十六日組合総会を開いて其の所有山林の立木を売却することを決定し、監事赤城常吉等を売却交渉委員に選任して立木売込みについての交渉方を依頼したので、赤城常吉は昭和二十五年五月上旬第一審原告に対し第一審原告主張の三筆の山林に生立する赤松三万石の売却方を申込み、同年六月上旬第一審原告を現地に案内したこと、第一審原告は組合において売却区域を画定するにおいては興国人絹パルプ株式会社の技術員に依囑して立木を調査した上買受ける旨告げたのであつたが、其の後第一審被告側は取りあえず一万石を売却しその売得金で残りの二万石売却の費用に充てたい旨申出たので第一審原告もこれを承諾し、同年八月十三日頃関係者が現地に臨み売却予定区域を定め周辺の刈払いをした結果、同年九月十五日頃判示会社の技術員が調査したところ五千五十五石より存在しないことが判明したこと、第一審原告は同月二十二日第一審被告組合事務所に到り組合長河野善九郞に対し調査の結果五千五十五石あることが判明したから石当り金百円の割合で買受ける旨申込んだところ、同人は他の理事監事等の役員と相談の上売買契約を締結すべき旨答え、第一審原告においても同年十月初め頃第一審被告組合の理事林平八郞に右役員会における売売契約成立方に骨折るよう依頼したが結局その後右売買契約締結のことは進行しなかつたこと、なお本件山林伐採について第一審原告において第一審被告の委任により判示許可申請の手続をしたのは当時売買契約締結方の交渉が進行していたので、その成立すべきことを信じてあらかじめ右手続をとつたものに過ぎないこと等を認めることができるが、第一審原告主張のように右売買契約が成立したことについてはこの点に関する原審及び当審証人山内福蔵(原審は第一、二回)我妻勇の各証言、当審における第一審原告本人尋問の結果は採用し難く、その余の前掲証拠によつては右事実を認め難く、甲第二号証も当審証人我妻勇の証言及び当審における被控訴組合代表者河野善九郞本人尋問の結果に照し、これによつて右事実を認めるに足らず、他に右売買契約成立の事実を認めて前認定を覆すに足る証拠はない。然らば、本件三筆の山林に生立する赤松立木については本件当事者間において昭和二十五年五月頃以降売買に関し接渉を重ねて来たことは認められるが、その売買契約の成立したことはこれを認めることができないのであるから、右売買契約の成立し現に存在することを前提とする第一審原告の本訴請求はその余の争点に対する判断をするまでもなく失当として棄却すべきである。

よつて原判決は右認定の範囲において一部不当に帰し第一審被告の本件控訴は理由があり、第一審原告の本件控訴は理由がないものである。

よつて民事訴訟法第三百八十六条第三百八十四条第九十六条第八十九条を適用して主文のとおり判決する。(昭和二八年二月二八日仙台高等裁判所第二民事部)

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