仙台高等裁判所 昭和27年(う)121号 判決
証人は当初被告人に本件盜賍品を売却した窃盜犯人山崎武雄を取調べ、同人の口から、同人が其盜賍品を被告人に売却した事実を知り得た為、被告人に向い右山崎から盜賍品を買受けたことの有無、若し買受けた事実有らば其回数、買受代金額等を思い出して記載すべきことを勧めて紙片を手交し、被告人をして其記憶する儘紙片に記させたところ、山崎の自供したところと、一致しない点があつたけれども、同証人としては被告人の記憶や供述を尊重して其黙秘権を有することをも告げて取調べ、供述調書を作成するに当つては被告人の供述したところを忠実に録取し、最後に之を読聞かせ相違ないかどうかを確めたところ、被告人に於て別段其記載に異議を申立てることがなくて署名押印し、斯様にして前示二通の供述調書が作成された経緯を窺い知ることができる。斯様な事実は被告人の供述が任意にされたものでない疑のあることを否定する有力な資料であつて、他に之を覆す資料は記録中に存しない。被告人が取調官たる江口忠雄から供述を強いられたとか、調書に被告人の供述したところと異ることが記載された為署名押印を拒んだに拘らず、無理に押印させられたとか、取調官が調書作成後被告人に無断で其内容の一部を改竄したとか謂う事実は記録上首肯し難く、又、被告人が右司法警察員の取調に当り之に詳細に自白したことを其後検察官の取調並公判廷の取調に於て飜したからと謂つて、司法警察員の面前に於ける自白は任意に出でたものでなかつたとは直ちに謂うを得ないし且司法警察員に対する供述調書の内容が一々詳細丁寧を極めて居るからと謂つて其供述が任意性を疑わしめるものがあるとは謂えない。