仙台高等裁判所 昭和27年(う)625号 判決
論旨は本件被告人の殺害行為は、殺意を以て被害者大治の鳩尾を突いて同人を気絶させた第一段の行為と、次いで仮死の状態にあつた同人の頸部を木綿紐で繋縛して殺害した行為との二つの加害行為から組成されているのに、原判決は右第一段の加害行為を看過し、殺意を決してから直ちに第二段の殺害行為を為したように認定したのは重大なる事実の誤認であり破棄を免れないというにある。即ち論旨は被告人の所論第一段の行為を以て単に情状に属する事実とするのではなくて、殺人罪実行々為の一部即ち罪となるべき事実の一部として主張するものであることが明らかであるが、本件殺人の実行方法が単に所論第二段の行為のみであるか、又は同第一段の行為と第二段の行為との両者を含むものであるかは被告人の防禦上実質的に重大な利害関係のある事であつて、その何れであるかによつて訴因を異にするものと解するのが相当である。しかるに記録によれば、訴因の中には、所論第二段の絞頸の事実が掲げられているのみであつて、所論第一段の鳩尾を突いた行為は全然(単に情状に属する事実としても)言及されていないのである。(論旨は被告人が殺意を以て被害者大治の鳩尾を突いた事実は第一審において当事者間の争いのなかつた事実である云々と主張しているが、少くともこの事実が訴因として審理の対象になつたことはないのである)果して然らば、原判決が罪となるべき事実の中に所論第一段の行為を判示しなかつたのはむしろ当然で、又、原判決がその点を判示しなかつたことを以て原審がその事実なしと認定したものとすべきかどうかはなお不明というべきものであつて、問題はまだ事実誤認の有無を判断する段階に至つていないのである。