大判例

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仙台高等裁判所 昭和27年(ネ)327号 判決

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決並に土地引渡の部分に限り仮執行の宣言を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、原判決事実と同一であるから、ここにこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

控訴人は被控訴人の提起に係る本訴を以つて一事不再理の原則に反する旨主張するが、いわゆる一事不再理、即ち訴訟において同一の事件を再び審理裁判をしないとのたてまえは、現行民事訴訟法の採らないところであつて、既に訴訟において審理裁判されその判決の確定した事件についても、訴の利益の存する限り再び訴を提起することを妨げるものではない。ただ確定判決の既判力の効果として裁判所も当事者も爾後の訴訟においてその確定判決に拘束され、これに反する判断や主張をすることは許されないわけである。控訴人の云わんとする趣旨も要するに前訴訟事件についてなされた確定判決の既判力が本訴に及ぶというにあるものと解せられるので、まずこの点について判断する。

被控訴人は前訴である若松簡易裁判所昭和二十二年(ハ)第一九号事件において、被控訴人先代利喜松は昭和十二年十月二十二日控訴人先代八十八に対し本件農地を金五百円で売渡し、同時に昭和二十二年十月二十二日までに買戻し得る特約を締結したものであるところ被控訴人及び控訴人はそれぞれ利喜松及び八十八の各家督相続をしその権利義務を承継したので、被控訴人は昭和二十二年五月三十日控訴人に金五百円及び費用金百円合計金六百円を提供して本件農地につき買戻の意思表示をした、と主張して本訴と同一趣旨の判決を求め、昭和二十三年二月二十日勝訴の判決を得た。しかし控訴人において控訴した結果、福島地方裁判所昭和二十三年(レ)第一〇号事件において、被控訴人が買戻による本件農地の所有権移動について県知事の許可を得ていないことを理由として、昭和二十三年九月十日被控訴人敗訴の判決言渡があつた。そこで被控訴人は仙台高等裁判所に上告し、同裁判所昭和二十三年(ツ)第一〇号事件として審理せられた結果上告棄却の判決言渡があり、被控訴人は更に民事訴訟法第四百九条の二に基く特別上告をしたが、これまた上告却下の裁判があつて、被控訴人敗訴の判決が確定した。

以上の事実は当事者間に争のないところである。然るに本訴においては、その請求原因として、前訴の主張事実の外に更に前訴控訴棄却の口頭弁論終結後に生じた事実即ち被控訴人が昭和二十四年六月十日前記買戻による本件農地の所有権移動につき福島県知事の許可を得たために、買戻権行使による農地の所有権移転の効力発生要件を具備したことを主張し、右買戻による所有権移転登記及び目的物の引渡を求めるというのであつて、右の要件をみたしたことを主張しなかつた前訴とは、その請求を異にしているものといわなければならない。従つて前訴における確定判決の既判力は、本訴に及ばないものといわなければならない。

よつて進んで本案につき審按するに、被控訴人先代上野利喜松は昭和十二年十月二十二日控訴人先代折笠八十八に対し、原判決添付目録記載の農地を代金五百円で売渡し、同時に右土地を昭和二十二年十二月二十二日までに右価格で買戻し得る特約を締結し、その旨の登記を経由したこと、被控訴人は昭和十四年三月十八日上野利喜松死亡とともにその家督相続をし、控訴人も亦昭和二十年十月十六日に折笠八十八が死亡したのでその家督相続をし、被控訴人及び控訴人においてそれぞれ右買戻特約に基く権利義務を承継したこと、及び被控訴人は昭和二十二年七月二十三日福島供託局若松出張所に本件農地の買戻代金として金五百円、及び契約の費用として金百円合計金六百円を供託したこと、は当事者間に争がなく、成立に争のない甲第三、四号証、同第五号証の一、二、三、同第七号証の一、二の各記載原審証人五十嵐利八の証言並に原審における被控訴人本人尋問の結果を綜合するに、被控訴人は昭和二十二年五月中に控訴人方に赴き控訴人に対し本件農地につき買戻代金として金五百円、及び契約費用として金百円、合計金六百円を現実に提供して買戻の意思表示をしたが、控訴人はこれに応じないのみならず、右金員の受領をも拒んだので、被控訴人は已むなく前記のように金六百円を供託し即日その旨控訴人に通知したこと、被控訴人は最初本件農地の買戻については県知事の許可を必要としないとの見解であつたので、この許可を得ないまま前訴を提起したのであつたが、前訴控訴審の判決言渡後である昭和二十三年九月十八日附で、福島県知事宛に、前記買戻による本件農地の所有権移動についての許可申請書を提出し、昭和二十四年六月十日福島県知事から福島県指令第二六三六号を以つて右についての許可を得たこと、以上の事実が認められる。

右認定に反する資料は全くない。尤も前訴において被控訴人の請求を棄却した控訴審の判決である乙第二号証の三の理由の部には「被控訴人が昭和二十二年五月三十日金五百円を控訴人に提供して本件土地を買戻す旨の意思表示をした。」旨記載せられているけれども、前訴の判決理由における右のような判断は右認定の妨げとなるものではない。

控訴代理人は、被控訴人が本件農地の所有権移転につき知事の許可を得たのは、買戻期限である昭和二十二年十月二十二日以後であるから、被控訴人の買戻権は知事の許可以前に既に買戻期間の満了により消滅したものである旨主張するので考えてみるに、所謂不動産の買戻特約は、不動産の売買契約締結と同時になした売主においてその売買契約解除の権利を留保する特約であつて、売買の目的物である不動産の所有権は、売買契約によつて買主に移転するが、買戻特約に基く売主の適法の買戻権の行使があれば買主の承諾の有無に拘らず、当然その所有権は売主に復帰するのであるから、買戻権の行使は当然不動産の所有権移転の結果を招来する、しかるに昭和二十一年十月二十一日公布の法律第四十二号農地調整法中一部改正法律第四条において農地の所有権賃借権等の設定、移転は当事者において地方長官の許可又は市町村農地委員会の承認を受けなければこれを為すことを得ない。右の許可又は承認を受けないで為した行為はその効力を生じない、と規定せられたので、同法施行後は同法が特に前記法条の適用を除外(同法第五条)した場合の外農地の所有権の移転はすべて地方長官の許可又は市町村農地委員会の承認を受けない限りその効力が生じない。たとえ同法施行前に買戻の特約を結んだ農地の売主であつても、同法施行後に買戻権を行使するときには、これを行使する当時の法に従うべきであるから同法の適用を免れることはできない。しかし右の許可又は承認は必ずしも行為の前に受けるを要しないもの即ち買戻権行使の後に許可又は承認を受けてもその買戻権の行使は有効なものと解するのが相当である。けだし買戻権はもともと売買当事者の特約によつて発生したものであるから、その要件効力等は民法の規定によるべきで、農地の移動につき農地調整法を改正しその第四条に前記のような規定を設けたのは、終戦後の社会民主化の一助として農地改革を行うに当り、その目的を遂行するため農地の移動を一般的に統制する行政上の必要からであることは、農地調整法の改正全般の法意に照し窺い得るところであるから、これによつて民法に規定する買戻権行使の要件まで変更せられたものとは到底考えられないところであり、右の許可又は承認は買戻権行使の結果発生すべき所有権移動の効力発生要件に過ぎないものと解せられるからである。従つて被控訴人が前記のように約定の買戻期間内である昭和二十二年五月中に為した控訴人に対する買戻の意思表示は有効であつて右買戻権行使による所有権移動の効力は前記昭和二十四年六月十日附福島県知事の許可によつて発生したものというべく、控訴人の右主張は理由がない。

而して控訴人が本件農地を占有耕作していることは控訴人の認めるところであるから、被控訴人が控訴人に対し本件農地につき買戻権行使による所有権移転登記並に同農地の引渡を求める被控訴人の本訴請求は正当であつて、これを認容した原判決は相当である。

よつて本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条、第百九十六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 谷本仙一郎 猪瀬一郎 石井義彦)

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