仙台高等裁判所 昭和27年(ラ)11号 決定
(一) 原決定は、抗告人並に高橋弘夫に対する移転命令の基礎となつた換地予定地指定に対する訴願において本件建物の所有者が異なること、移転命令の資料とするため建物及び工作物申告書を配付して、建物所有者の住所氏名を求めた際抗告人側から申告のなかつたこと、を理由として、本申請家屋が少くとも昭和二十六年十月二十九日以前においては高橋弘夫の所有であつたと認定しているが、抗告人が換地予定地指定に対する訴願において、本申請家屋の所有権について言及しなかつたのは、事が本申請家屋の所有権に何等関係なく、専ら換地予定地の指定に対する不服にあつたためであるし、また建物及び工作物申告書の配布はなかつたので、申告しなかつたのである。仮に申告書の配布があつて、それに対する申告をしなかつたとしてもこれだけで憲法第二十九条によつて保護されている所有権が軽々に侵害されてよいという理由にはならない。しかのみならず、本申請家屋の内一棟については、昭和二十三年八月十八日附で三塚彦夫が相手方を通じて宮城県知事に建築許可申請をしてその許可を得たものであり、他の一棟については、昭和二十四年五月二十日附で、抗告人から相手方を通じて宮城県知事に建築許可の申請をしたものであるから、相手方は抗告人に対して申告を求めるまでもなく本申請家屋が高橋弘夫の所有でないことは明かにこれを知悉すべき立場にあつたのである。
(二) 原決定は、特別都市計画法第十五条第二項の規定により法律上換地予定地が指定されている以上、事実上はともかく移転先に欠くところないばかりでなく、移転が実際に行われ得ない場合は、除却も亦やむを得ないとしている。しかし相手方の移転命令については高橋弘夫に対して換地予定地の指定がないのは勿論、抗告人所有の仙台市南光院丁八番の五に対しても換地予定地の指定がないのであるから、原決定のいう法律上の換地予定地の指定はないのである。しかも法律上形式的に換地予定地を指定すれば実質的に指定がなくとも差支ないとの原決定は、架空の形式的法律論というの外なく、人間実社会の生活に添わざること甚しいものである。また移転命令が実行できない場合は除却もやむえないというに致つては法律が除却命令と移転命令とを区別し、耕地整理法第二十七条において、工作物または木石等の移転除却または破毀を規定しているのに、特別都市計画法においては、移転の場合しか規定せず除却を除外していることを考えない暴論というの外はない。財産権の不可侵は、憲法第二十九条の規定しているところであり、法律上何等の根據なきに所有権を侵害するには憲法に違反するものである。
(三) 抗告人は、相手方の換地予定地指定に対し、宮城県知事に訴願したところ、同知事は、訴願却下の裁決をしたので、相手方の移転命令取消と併せて訴願に対する取消の訴を仙台地方裁判所(同庁昭和二十七年(行)第二五号)に提起して審理中である。
そして本件建物は、現在仙都ホテルの洋室として、旅館営業中のものであり、同建物を除却してその宅地を佐々木四郎に交付しようというのであるから、仙台市の道路建設とは直接関係がないばかりか都市計画上緊急のものではない。佐々木四郎の損害は金銭をもつて賠償すること容易であるのに、抗告人は本件建物を除却せられるにおいては償うことのできない損害を蒙ることになるのであるから、移転命令取消の訴のみでなく、訴願に対する裁決取消の訴の関係からいうても、移転命令の代執行はこれを停止すべきである。
以上いずれの点からいうも原決定は違法であるから、原決定を取消す、相手方より高橋弘夫に対し昭和二十五年九月十三日附でした仙台市南光院丁八番の五、八番の六所在木造瓦葺二階建外三棟五十九坪五合の移転命令の執行を停止するとの裁判を求める。よつて先づ抗告理由第一点につき見るに、原決定挙示の各証據によれば、本件建物が少くとも昭和二十六年十月二十九日以前においては高橋弘夫の所有であつたと認め得る情況にあつたことを窺い得ないことはないから、この点の抗告理由は採用しない。
抗告理由第二点につき判断するに、本件記録添付の昭和二十三年十二月三日附仙台市長岡崎栄松名義抗告人宛、土地区画整理換地予定地指定に関する通知書によれば、本件建物所在の仙台市南光院丁八の五、同八の六番地に対する換地予定地は、仙台市東一番丁十二の一乃至四、南光院丁八、九、十の一番地の一部第十八ブロツク第十四号約百六十坪と指定せられたことが疎明せられる。
また特別都市計画法第十五条の工作物の移転中には同法第五条、都市計画法第十二条により準用せられる耕地整理法(耕地整理法は土地改良法施行法により廃止されたが、この関係においては同法第四条第二項によりなお効力を有する。)第二十七条により、移転、除却、破毀をも含むものと解せられる。元来特別都市計画法の意図するところは、戦争で災害を受けた市町村の交通、衛生、保安、防空、経済等に関し、永久に公共の安寧を維持し、または福利を増進する為の重要施設の計画であるから、その立案に当つては、局地的見地にとらわれることなく、いわゆる国土計画的見地に立つて遠い将来のことをも予測したものとすべきで、その実際に当つては、土地、建物の強制収用、換地、移転、除却、または破毀等が必要であることは当然である。このことが憲法第二十九条に違反しないことは同法第二、三項の法意に照し明かなところである。従つて原決定には抗告人の主張するような違法はない。
抗告理由第三点につき考えるに、都市計画は広い地域に亘つて行われ、各部分部分に一連のつながりがあることは推測に難くないところであるから、一局部をとらえて直接道路建設に関係がないとか、緊急でないとかいうことはできないのみならず、前記土地区画整理換地予定地指定に関する通知書によると、本件土地の一部は道路敷地に予定せられていることが疏明せられるので、本件土地が佐々木四郎の換地予定地に指定されているが故に直接道路に関係なく、都市計画上緊急のものではないとの主張は当らないし、また本件建物の除却により生ずる損害が償うことのできないものとも認められない。しかも前示土地区画整理換地予定地指定に関する通知書及び本件記録添付の訴願裁決書によると、本件建物は、その敷地が他の者に換地予定地として指定せられた後において、建築せられたものであることが疎明せられる。
よつて本件抗告は理由がないから、これを棄却すべきものとし主文のとおり決定する。
(裁判官 谷本仙一郎 猪瀬一郎 石井義彦)