仙台高等裁判所 昭和27年(ラ)26号 決定 1953年1月30日
抗告人 上村政一
相手方 上村カズ子
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の要旨は
第一、原審は相手方の父太郎は神職にあり、姉正子は二子を擁して離婚し同居しているが神職の資格を得て太郎の助手を勤め、母タネは家政に務め家庭円満で悪評がない、との理由で未成年者上村実の親権者を相手方と定めるとの審判をしたが
(イ) 相手方は抗告人との婚姻は初婚ではなく、しかもいまだ三十歳未満であるから将来その子実の監護養育に専心し、再婚しないとは絶対に予想することができない。仮に再婚しないとしても相手方の両親が健在中はともかく、父太郎は神職ではあるが既に七十数歳の老年で歩行も不自由であり、同家には見るべき財産がないのであるから、父母なきあとは姉正子があるとはいえ同人も二子を擁しているので、実の養育は相手方自身の力によつてなす外ないのであるが、教諭として勤務しているので不在の時が多く、かような環境においては、姉正子との利害の衝突生計の不如意と相俟つて感情のもつれが生ずることは当然で、将来実の円満な性格を保持し得ないのみならず高等教育を受けしめることは到底望み得ない。
(ロ) 相手方の母タネは相手方の初婚の際軍人である相手方の夫が満洲において同棲するため相手方を迎えに来たとき、これを拒絶させて婚嫁先から無断で相手方を連れ戻り婚姻の予約を不履行に終らせたのみならず、自己の長男が戦死の公報を受けるや、その妻子を実家に戻したのに、今般軍人遺族年金の制度施行せられたので、その年金目的のためか孫のみを連れ戻す交渉をしているのである。
(ハ) 又相手方の姉正子は相当資産を有する秋田県の者と結婚し一子を挙げ更に姙娠中実家に戻り、実家で、第二子を分娩し、その後離婚したのであるが、昭和二十六年中元の夫が死亡するやその遺産相続の目的で婚嫁先から同家の者が反対するにも拘らず長子を連れ戻したのである。
第二、原審は、抗告人方の状況につき実の監護養育をなす者がないように説明しているが
(イ) 抗告人は福島県○○郡○○村○○電工株式会社○○工場に通勤しているけれども通勤しているから子の監護に不適当だというならば、大多数の俸給生活者は子女に対する監護不適格者であるといわなければならないし、相手方も亦同ようの結論に到達せざるを得ない。
(ロ) 抗告人の母は農業に従事してはいるが自ら耕作しなくとも人を雇入れて耕作する余裕があるのみならず、現在においても人頼みして耕作しており母自身は単なる監督的役割を果しておるに過ぎない。同居の叔母マキは脱肛病で農業に従事することはできないが留守居程度には別段支障がないのみならず実が戻れば家政婦的な雑用をする適当な人を物色する考えである。
(ハ) 未成年者が乳幼児である場合は生母こそ特別な事情のない限り養育の適任者であることは論ずるまでもないところであるが、実は既に離乳期を経過し補乳によらずに養育し得る時期にあり、抗告人が再婚することは予想せられることであるが、幼時から養育するのでなければ情愛において馴み難く、父親が離乳期を経た幼児を養育している事例は少くないのみならず徒らに時を経過せしめるのは却つて情愛の溝を深くするばかりである。特に実は男児であるのでなおさら男の手によつて将来男子としての社会的必要な訓育をするに適当であると信ずる。
要するに未成年者実の親権者は、大局的見地から、将来高等教育を受けしめるに足る財産を有し、社会人として必要な訓育をすることができる条件を具備する抗告人を指定するのが最も適当と信ずる。
というのである。
しかしながら、原決定挙示の各証拠によれば、原決定のような認定を為し得ないわけではないのみならず、抗告人及び相手方両家の家庭事情、資産関係その他諸般の事情を比較考慮するも、未成年者実の親権者を実母である相手と定めるよりも、実父である抗告人と定める方が、実の監護養育のためより適当であり実の将来の幸福であるとは認め得ないところであるから、本件抗告は理由がない。
よつて家事審判法第七条非訟事件手続法第二十五条民事訴訟法第四百十四条、第三百八十四条に則り主文のとおり決定する。