大判例

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仙台高等裁判所 昭和28年(う)898号 判決

原審第五回公判調書によれば、弁護人は、被告人は本件犯行当夜少くとも心神耗弱の状況にあつたことを立証するため、被告人の精神鑑定を求めておることは明らかであるから、弁護人は畢竟本件犯行当時の被告人に精神状態の障害のあつたこと、すなわち心神喪失あるいは心神耗弱の状態にあつたことを主張したものと解せざるを得ない。然して以上は刑事訴訟法第三三五条第二項所定の主張に外ならないことはもちろんであるから、判決においてこれに対する判断をなすべきであるに拘らず、これを示していない原判決は違法である。然り然して原審証人及川ハツ・同寺沢ミネ・同高橋アヤ子の各証言、高橋立子・菊池サダの各司法警察員に対する供述調書、被告人の原審第六回公判廷における供述を綜合すると、被告人は平素の酒量は清酒六、七合を飲めば酒癖を発揮する程度のものであるが、本件当日(一二月六日)は午后二、三時頃から本件犯行直前までの間に、遠野町栄家(及川ハツ方)で清酒六、七合、遠野町から花巻町に来る列車中で焼酎約二合、花巻町料亭丸福で清酒約三合、同町姫の家(押切正吉方)で清酒約七合を飲んでおり、すでに丸福を出る頃から相当に酩酊していたことは明白で、本件犯行自体も論旨もいう如く、平静に考えれば当然自分に嫌疑がかかることを予期しなければならぬ状態の下において、あえて放火という如き重大罪な犯を犯していること、高橋アヤ子に対してこそ憤懣も憎しみもあれ、押切正吉方に対してはなんらの恨もない筈なのに、同人方らに対して重大な損害を与える危険のあることをしていること、放火後も階下に降りて女中部屋におり、あえて逃げ出そうとしないのみならず、火事騒ぎの時も押切らと共に二階に上り、「もつと燃えればよかつた」「よく消した。えらい」などと放言し、その間終始平然としており、別段周章の態度もなかつたこと、放火後女中部屋で女中藤原アイに対して理由のない暴行を働き、更に火事騒ぎが済んだ後にも一旦押切方を立ち去つてから忘れ物をしたとて戻つて来たが、その際も押切正吉に対し理由のない暴行を働いているなど、その行動には常軌を逸している点が甚だ多く、その当時被告人が事理弁識の能力を著しく欠いていたことは明らかで、心神耗弱の状態にあつたものと認めるべきである。果して然らば原判決が前記弁護人の主張に対して判断を示さなかつたことの違法は判決に影響を及ぼすこと明白であるといわねばならない。

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