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仙台高等裁判所 昭和28年(ネ)21号 判決

控訴代理人は主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、被控訴代理人に於て、本訴請求は要するに民法第七百七十条第一項第五号の婚姻を継続し難い重大な事由があることを事由とするものである、と釈明したほか、原判決事実摘示と同じであるから、こゝにこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

当裁判所において真正に成立したものと認める甲第一号証(戸籍謄本)によると、被控訴人と控訴人とは昭和二十二年十二月十五日婚姻の届出をした夫婦であることが認められ、同号証と原審及び当審における証人酒井専治、須藤喜一の各証言並びに被控訴人及び控訴人各本人尋問の結果を綜合すると、被控訴人(明治二十八年十月十一日生)は昭和二十二年三月十八日父庄助の隠居によりその家督相続をし、農業を営んでいた者で、家族として父庄助(昭和二十二年八月七日死亡)、母イク、被控訴人の先妻延与(昭和二十年五月二十七日死亡)との間の子である長男庄平(大正十四年四月二十日生)、三男光平、長女タノ、二女ヒサ、長男庄平の妻愛子、被控訴人の弟義人が同居していたこと、控訴人(明治四十年六月二日生)はこれまで未婚で永らく病院の看護婦や派出看護婦等を勤め、昭和二十年三月甥である須藤喜一方に疎開してきたが、酒井専治、須藤久四郎等の勧めで昭和二十二年七月二十九日被控訴人と事実上の夫婦となり、それ以来被控訴人と同棲したものであることが認められる。

そこで被控訴人と控訴人との間に、被控訴人主張のような、裁判上の離婚原因たる、婚姻を継続し難い重大な事由があるかどうかにつき審案するに、原審証人箱崎カノ、箱崎愾、箱崎愛子、岩淵たつの原審及び当審証人酒井専治、箱崎庄平、山名隆貞、須藤喜一、樋口貞之の各証言、原審及び当審における被控訴人及び控訴人各本人尋問の結果当審における控訴人本人の供述により成立を認める乙第一号証、第二、三号証の各一、二を綜合すると、

一、被控訴人はその性格温和であつて、控訴人との仲も円満であつたが、同人等が同棲して間もなく昭和二十二年八月七日被控訴人の父庄助が死亡するや、その頃から被控訴人の母イク、長男庄平その嫁愛子(愛子は控訴人が被控訴人と同棲する少し前に庄平と婚姻した)等の控訴人に対する態度が冷たくなり、偶々被控訴人の妹岩淵たつのが三児を連れて被控訴人方に疎開してきて同居するようになるや、たつのは些細のことから控訴人に対する感情を害し、イク、庄平、愛子、たつの等と控訴人との間は次第に不仲となり、ついに昭和二十三年六月庄平は控訴人を殴打するに至つたこと、

二、控訴人は昭和二十四年七月首に腫物ができたので治療のため被控訴人の承諾を得て平市上田病院で治療を受けたが、偶々甥須藤喜一の勧めで同人方に赴いた際、家庭が円満に行かずつとめるのに容易でない旨洩したところ、これより先須藤喜一は庄平から「嫁愛子と控訴人との間が円満にゆかないから控訴人を引取つてくれ」との申出を受けたことがあり、その際は右申出は庄平が被控訴人から依頼されてしたものではなく全く庄平の独断でしたものであることが分つたので、喜一においてこれを断つたのであるが喜一は、控訴人等夫婦の間はさほどでもないがこの際控訴人を引取つた方が良いと考え、特にこのことにつき控訴人の意中を確めることなく喜一の独断で被控訴人に対し控訴人を引取りたい旨申入れ、結局被控訴人と控訴人とは離婚することゝなつたこと、しかるに昭和二十四年十一月頃酒井専治が須藤喜一に対し、被控訴人が可哀相だから控訴人を戻すようにしてくれと懇請し、控訴人に対しても、被控訴人からの依頼だから戻つてくれというので、控訴人もこれに応じ被控訴人方に復帰したこと、

三、その後被控訴人夫婦は、これまでたつのの部屋に充てられていた隠居所の方で、食糧だけ貰つて庄平等と別に生活することゝなり、被控訴人方の家政は庄平の主宰するところとなつたが、昭和二十五年一月頃控訴人の衣類が紛失したことがあり、控訴人が偶々駐在所の樋口巡査に相談したところ、被控訴人にも話するから来るように伝えてくれといわれたので、被控訴人にその旨伝え、被控訴人が同巡査の許に赴いたところ、家の中を良く探すように注意されたのであるが、控訴人が同巡査に相談したのは衣類紛失についてどうしたらよいかを尋ねたゞけで、家の者が盗んだなどと申出でたものではなく、勿論告訴等したものでもなかつたのに、被控訴人は母イク、長男庄平等に呼ばれ、家の者を泥棒扱いにするような者は家におけないといわれ、このことから家内の風波は絶えず、一方控訴人も婚姻当初に比し次第に強情さを増し容易に妥協せず、ために被控訴人は神経衰弱のようになり、控訴人に対する感情も極めて悪化するに至つたこと、

が認められる。前掲証拠中右認定に反する部分は採用しない。なお被控訴人は、控訴人において被控訴人主張のような侮辱的言動や虐待暴行等の事実があつた旨主張するが、この点に関する原審証人箱崎カノ、箱崎愾、箱崎愛子、岩淵たつの、原審及び当審証人箱崎庄平、当審証人箱崎幸助の各証言、原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果は、原審及び当審における証人須藤喜一の証言及び控訴人本人尋問の結果に照し採用し難い。甲第二乃至第五号証は、当審における控訴人本人尋問の結果に照し未だこれによつて前認定を左右するに足らず、他にこれを左右するに足る証拠はない。

以上によると、被控訴人と控訴人との婚姻関係が円満を欠くに至つたのは、同人等夫婦の間にその端緒が存したのではなく、同居の家族、殊に被控訴人の長男庄平夫婦と控訴人との間の不和確執が端緒となつてこれによつて次第に助長されたものであることが明である。思うに、被控訴人は、さきに父庄助の隠居により家督相続をした者で家政の主宰者であつたのであるから、同居の家族と控訴人との間に不和確執を生じたについては、これを円満に納めるように配慮しもつて自己の婚姻関係の平和と維持に努力する責任があるものというべきである。しかるに被控訴人は、その性格温和ではあつたが、この点の配慮と努力に欠けることがないよう十分の注意を払つた形跡はこれを認めることができず、却て長男庄平夫婦等の控訴人に対する感情悪化の赴くまゝにして自己の婚姻関係にも亀裂を生ずるに至らしめ、しかもそのまゝ家政を庄平に委ね、ついにその婚姻関係の平和維持を困難ならしめるに至つたものであることが認められる。尤も一方控訴人も婚姻当初に比し次第に強情さを増し容易に妥協しなくなつたことが認められるが、これも結局被控訴人の右不注意に基因するにほかならないと認められる。かような次第で被控訴人と控訴人との婚姻関係が現在において継続困難な事情にありとするもその基因は結局被控訴人の責任に帰するものであり、かような場合は被控訴人において自ら婚姻継続の困難な事情を主張して裁判上の離婚を求めることはこれを許さないものというべきである。これを要するに、本件においては裁判上の離婚原因たる婚姻を継続し難い重大な事由の存することは結局これを認めることができないものというべきであるから、被控訴人の本訴請求は失当である。

右と異る原判決は失当を免れず本件控訴は理由がある。よつて民事訴訟法第三百八十六条第九十五条第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村木達夫 高橋雄一 佐々木次雄)

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