仙台高等裁判所 昭和29年(う)122号 判決
簡易公判手続によつて審判する場合、裁判所は検察官、被告人及び弁護人の意見を聴かなければならないことは所論のとおりである。しかし刑事訴訟規則第四四条によれば、簡易公判手続に付するにつき意見を求める手続は公判調書の必要的記裁事項とされていないから、第一回第二回各公判調書にそれぞれ簡易公判手続による旨決定した記載があるのに、検察官、被告人及び弁護人に意見を求めた旨の記載がないからして、直ちに所論のように右の手続が履践されなかつたものと速断することはできない。却つて同公判調書によれば本件各訴訟当事者からこれにつきなんら異議の申立をなした形跡もなく、審理されている点から考察すれば検察官、被告人及び弁護人の意見を聴いた上、簡易公判手続に付する決定をなしたものであることは十分推認されるのである。それ故論旨は理由がない。所論は要するに、簡易公判手続は被告人の証人に対する反対尋間権を奪うもので、憲法第三七条第二項に違反するというのである。しかし簡易公判手続においても、常に必ず伝聞証拠禁止の法則が排除されるものではなく、検察官、被告人または弁護人が証拠とすることに異議を述べた証拠については、依然として伝聞証拠禁止の法則は適用されるのであり、単に反対尋問権の抛棄を当事者の自由な意思にかからしめたものに過ぎず、すべてこれを奪取し去るものではないことは刑訴法第三二〇条第二項の規定上明白であるから、もとより所論憲法の規定に違背するものではない。