大判例

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仙台高等裁判所 昭和29年(う)282号 判決

弁護人の控訴趣意第二点、第三点及び被告人の控訴趣意一、二(3)、三(3)について。

しかし、本件当時施行されていた昭和二十五年法律第二百二十六号による改正前の地方税法(以下旧地方税法と称する)第七十五条に徴すれば、同法においては演劇等の催物が営利等を目的とするものかどうかを全然区別することなく、苟も入場料金を徴収するものである以上、その場所への入場料は入場税課税の対象となるものであることが明かであり、同法条に入場料金とあるのは必ずしも入場料金なる名称で支払われる金員を指すものではなく、その名称が資金カンパであれ、寄附金であれ、その他いかなる名称にせよ、演劇等を催して公衆の観覧に供する場所への入場の対価として支払われる金員を指すものである。このことは、本件前進座の公演が日本共産党の政治活動乃至文化活動の一つであるにしても何等異るところはないのであつて、政党の政治活動乃至文化活動としての演劇の上演についてその上演場所への入場と入場者が演劇の主催者に対して支払う金員とが対価関係に立つ場合には、なおその金員は旧地方税法の入場料に当るものであつて、右は所論憲法第二十一条第十四条に違反するものではなく、政党の活動であるが故に入場税を免脱し得るという根拠は存しない。原判決挙示の証拠によれば、本件十月十九日原判示市会館で行われた前進座の公演において右観劇の場所への入場とその入場者に支払わしめた原判示金員との間に対価関係のあることが明かに認定されるのであつて、所論のように原判示百円でなく八十円で又は無料で入場した者があつたとしても、それは右の対価関係あることの認定を何等妨げるものではなく、記録を精査し当審の事実取調の結果に徴しても原判決の右認定に過誤あるものとは認められない。去れば、本件入場料金が、所論のように、実質は日本共産党に対する政治資金の寄附であり、同党の文化演劇活動に対する政党献金であつたとしても、それを以て所論のように旧地方税法の課税の対象とならないものとなすを得ない。なお、記録に徴すれば、所論無料で入場した者もあり、八十円で入場した者もあることは窺えるけれども、原判決挙示の証拠によれば、本件入場料金は百円であつたこと、即ちその入場券は前売にせよ当日会場入口で売つたものたにせよ一枚につき百円で頒布されたものであること、なお原判示認定の人員は前売又は当日売の右入場券を所持して入場した者のみを計算したものであることが認められる。のみならず、一定額の入場料が定つているのに、一部入場者からそれより幾分廉い料金をとり、又は全然入場料をとらないこともあることは一般の演劇等の公演においても行われていることであつて、法はこの場合をも予想して、入場料金の定めある場合にその入場料金の全部又は一部を支払わないで入場したときは、公務又は業務によるものを除くのほか、その入場料金の全額を支払つたものとみなして入場税を課することができる旨定めている(旧地方税法第七十五条第二項参照)のであり、原判示人員中に公務又は業務による入場者を算入していないことは明白であるから、仮に無料又は八十円で入場した者が原判示人員中に含まれていたとしても、原判決が入場料金百円を基準とした入場税を徴収すべき義務があると判示したのは正当である。論旨は理由がない。

弁護人の控訴趣意第一点及び被告人の控訴趣意二(1)、三(1)(2)について。

しかし、旧地方税法第三十六条は地方団体は入場税等の税目についてはその徴収の便宜を有する者をしてこれを徴収させることができると規定し、これに基き本件当時施行されていた山形県賦課徴収条例(昭和二十五年八月三十一日山形県条例第四十六号による改正前のもの、以下旧山形県賦課徴収条例とする)第六十九条は入場税は第一種の催物(演劇、映画、演芸等)若しくは設備の主催者若しくは経営者をその特別徴収義務者とすると規定し、本件の場合主催者が当然その特別徴収義務者となるのであつて、なお同条例第四十六条の三は右催物を開催しようとする者は同条所定の事項を予め県知事に申告せねばならないと規定し、右催物の主催者は当然自発的に予め県知事に所定事項を申告する義務があるのであるが、原審証人加藤克已の証言によれば、当時の取扱慣例としては県知事から委任されていた税務係長が具体的の場合主催者と認定した者を特別徴収義務者に指定してその旨当該本人に知らせ、若し本人がこれを拒絶しても内容証明郵便で通知すればよいことになつていたことが認められる。そして、右の場合、旧地方税法第百三十九条の両罰規定に徴し、若し主催者が法人ならばその代表者、代理人又は従業者のうち主催責任者と認められる者が特別徴収義務者たる主催者となる趣旨であることが明かであり、このことはその主催者が政党その他の政治団体又はその支部等である場合も同様であると解すべきである。原判決挙示の証拠特に原審証人荒沢雄伸、坂野善助の各証言によれば、本件演劇のポスターや観劇券には日本共産党置賜地区委員会が主催者として記載されていたが、当時被告人は同地区委員会の委員長で、税務係官が本件演劇の入場料は地方税課税の対象となるものと認めて演劇開催申告書を提出するよう交渉したところ、同地区委員松寿忠三郎、渡部武治は被告人に交渉してくれるようにと言つたこと、演劇会場で被告人が係員を全般的に指揮しており、開催に際して観客に挨拶したこと、税務係官が税検査にきたから立会わせてくれるよう申入れると被告人が応待に出て観客に迷惑にならないようにしてくれと言つたこと、並びに、本件十月八、九日頃税務係官が被告人を本件主催責任者と認めて、旧山形県税賦課徴収条例第四十六条の三等の義務を促す意味で、被告人に対し演劇開催申告書を出すよう接衝したが、被告人は本件は党の政治活動であつて課税の対象にならないと主張して拒絶したため、更にそのことを通知すべく同月十二日附内容証明郵便を被告人に送つたこと、以上の各事実が認められる。これらに徴すれば、本件演劇の主催者は日本共産党置賜地区委員会とされたけれども、被告人がその主催責任者であつて本件入場税の特別徴収義務者たる主催者であつたことを肯認するに足り、原判決が本件演劇の開催に際し被告人がその衝に当つてこれが主催者となつた旨判示したのは結局右の趣旨に解するのが相当であつて、記録を精査し当審の事実取調の結果に徴しても原判決のこの点に関する事実認定に過誤あることを疑うべき事由は存しない。原判決の援用しない原審証人花角四郎の証言、裁判官の証人松寿忠三郎同渡部武治に対する各尋問調書によれば、同人等は前記地区委員会の委員であるが、被告人から本件前進座の演劇を持つてくるという話はきいたけれども別段正式に委員会の決議を経てやつたわけではなく、実際の責任者は委員長たる被告人の住家に置いてある置賜地区事務所の者と思われ、渡部等は被告人から楽屋裏の手伝を依頼されたりして、被告人が演劇の進行等につき指導的活動をしていたことが認められるから、被告人が本件入場税の特別徴収義務者たる主催者であつたことは一層明瞭である。そして、所論のように被告人が前記地区委員長たる一事を以て特別徴収義務者と認められたのでもなく、又所論のように特別徴収義務が何等の根拠なく自然に発生したものでもなければ、本人たる被告人にその通知の手続もなされなかつたものでもないことが自ら明かである。若しそれ被告人において旧山形県税賦課徴収条例により右催物の主催者が当然その特別徴収義務者となることを知らなかつたとしても、それは法の不知たるに過ぎないこと勿論である。論旨は理由がない。

(裁判長裁判官 鈴木禎次郎 裁判官 蓮見重治 裁判官 細野幸雄)

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