仙台高等裁判所 昭和29年(う)376号 判決
しかし、刑事訴訟法第三百二十五条の規定する任意性の調査については、その調査方法につき別段の規定がないから裁判所の適当と認める方法によりこれを行えば足り、又その調査は必ずしも証拠調の事前において行わねばならないものではなく、判決までにこれを施行すれば足るものと解するのを相当とする。記録に徴すれば、所論の原判示第一の(ロ)の事実の証拠として原判決の援用する佐藤清作の検察官に対する昭和二十八年三月三十日付供述調書は原審において同法第三百二十一条第一項第二号に該る書面として取調べたものであるが、右供述調書記載の供述が所論のように検察官の先入主に誤られた供述と認むべき証跡はないのみならず、却つて右供述調書の形式内容殊にその供述が理路整然として不自然不合理の点が毫も存在しないこと、その他記録に顕われた諸般の情況に鑑みるときは、むしろ任意にされたものと認めるのを相当とし、原判決も亦以上の諸点により調査を行いその任意性に疑いないものとしてこれを採証した趣旨であることが容易に推認できるから、原判決には所論のような訴訟手続の法令違反は存しない。論旨は理由がない。
同第三部について、
しかし、原判決が原判示第三の(イ)(ロ)(ハ)の各事実につき挙示する証拠を綜合すれば、右各事実殊に被告人が三回に亙りいずれも自己の負担する債務の弁済に充てる目的を以て、その任務に背き金庫理事長中山惣兵衛振出名義の原判示各銀行あて普通小切手又は約束手形をそれぞれ振出した上、同銀行より原判示各金員を借入れてこれを右目的費途に充て、金庫をして同銀行に対し各同額の債務を負担させて損害を生ぜしめた事実、従て所論の犯意、自己の利益を図る目的及び損害の発生の点はいずれも優に認定しうるところであり、右借入金の利子は被告人においてこれを支払い、被告人はつねに金庫に対し所論のいわゆる相殺可能の状態にある相当額の預金を有しており、被告人が自己の債務の弁済資金を右預金より引出さずして他の銀行より金庫名義で借入れたのは金庫の他の組合員に対する払戻準備金の減少等を防止しようとの考慮に基くものであり、金庫としても被告人の預金引出がなかつたため有利な貸付に投資することをえた、というが如き事情はいずれも前記認定を覆えすべき資料となすに足らない。而して背任罪の規定にいわゆる財産上の損害とは汎く財産上の価値を減少することをいい、従つて本件のように本人に債務を負担させる場合をも包含するものと解するのを相当とするから、原判決が本件を背任罪に問擬したのは正当である。さらに記録を精査するも原判決には事実誤認を窺うべき事由も法律の解釈適用を誤つた違法も存しない。所論は独自の見解に基く主張であつて採用に値しない。論旨は理由がない。
(裁判長裁判官 吉田肇 裁判官 松村美佐男 裁判官 有路不二男)