大判例

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仙台高等裁判所 昭和29年(う)554号 判決

当裁判所は本件政令第三二五号はその本質上平和条約発効と同時に当然失効するものとの立場をとるので、本件指令の内容が合憲であるか否かを判断するまでもなく、本件は犯罪後の法令により刑が廃止されたときにあたることとなる。本件政令が平和条約の発効により当然全面的に失効するものではなく、それを充足する指令の内容如何によるとの立場をとつても、所論本件指令の内容は憲法第二一条に違反するものと解するので、結局本件は刑の廃止の場合に準ずべきこととなる。以下その説明をする。

先ず、昭和二五年政令第三二五号「占領目的阻害行為処罰令」はわが国の統治権が連合国の管理下にあつた当時は、日本国憲法にかかわりなく憲法外において法的効力を有していたのであるが、それはその本質において全く占領目的達成のための手段たるに過ぎず、占領と連合国最高司令官の存続を前提としてのみその存在の価値と意義を有したに止まるから、平和条約の発効と共にその本質上当然失効すべきものといわねばならない。本件の如き場合に限時法理論を用いることは、わが国の主権恢復後においてもなお連合国最高司令官の権威の存続を認めるもので、憲法上容認され得ない。論旨引用の判例は本件に適切でない。されば、昭和二七年法律第八一号が右発効と同時に右政令に法律としての効力を与えても、それは法律の内容として現実に不能なことを定めるもので結局憲法に違反する。そして、その後施行された同年法律第一三七号が同法律施行前になされた行為に対しては従前どおり処罰する旨を規定したのは、事後立法であつて憲法第三九条に違反して無効である。それ故、本件については、犯罪後の法令により刑が廃止されたときにあたるものである。

次に、本件政令が平和条約の発効と共に将来に向つて当然全面的に失効するものではないのであつて、即ち、右政令の内容を充足する指令にも単に連合国又は占領軍の利益のためのみに発せられたものばかりでなく、わが国の秩序を維持し公共の福祉を増進するためのものも存在するから、それが連合国最高司令官から発せられたというだけの理由でわが国法となり得ないとはいえず、従つて指令の内容において合憲なものは平和条約発効後もその限度において国法として存続させることはわが国の自由であるとの立場を前提として考察する。そこで、被告人等が違反したとされる本件指令である昭和二〇年九月一日附連合国司令官発日本政府宛「言論及び新聞の自由」に関する覚書第三項の内容が合憲であるかどうかを考えてみるに、同第三項は「公式ニ発表セラレザル連合国軍隊ノ動静、連合国ニ対スル虚偽又ハ破壊的批評及ビ風説ハ之ヲ論議スルコトヲ得ズ」というのであるが、本件に適用されているのは右のうち「連合国ニ対スル破壊的批評」を「論議スル」ことを禁止する部分である。憲法第二一条は言論の自由をはじめ基本的人権として一切の表現の自由を保障しており、特にその第二項は検閲を禁止しているのであつて、公共の福祉のため必要の場合以外これを制限することは許されないのである。ところで、同じく連合国に対する破壊的批評といつても、その「破壊的」の程度には種々あり、占領期間中においては連合国の占領目的と利益の観点からは格別として、独立後においては、たとえその「破壊的」批評が国際礼譲の上から好ましくないものがあり、更には連合国との友好関係の上から望ましくないものがあるとしても、それを以て直ちに国の秩序を紊り社会の福祉を害するとまではいい難いものもあり得る。しかるに、本件指令はそれが国家の秩序を紊り又は社会の福祉を害するというような理由のあるなしを問わず、予め一律に全面的無制限にその論議を禁止するものであり、通常の検閲制度にもまして言論の自由を奪うものであるから、憲法第二一条に違反するものといわねばならない。それ故、本件政令は右指令を適用する限度においては、前記法律第八一号にかかわらず、平和条約の発効と同時にその効力を失つたものであり、従つてその後に施行された前記法律第一三七号も限時法の理論も、憲法違反の故に失効した法規の効力を復活させ又は存続させることはできない。この故に、本件は犯罪後の法令により刑が廃止されたときに準ずべきものである。原判決も畢竟叙上と同趣旨に出でたものと解される。

以上の次第で、所論縷述するところの右と異る見解には賛成し難く、原判決には所論のような憲法第三一条第三九条第二一条及び昭和二七年法律第八一号同年法律第一三七号の解釈適用を誤つた違法は存しない。論旨は理由がない。

同第五について。

しかし、昭和二七年政令第一一七号大赦令第二条が赦免しない例外として「前条に掲げる罪に当る行為が同時に他の罪名に触れるとき……は、赦免しない」と規定しているが、被告人に恩恵を施そうとする恩赦に関する大赦令の本旨に鑑みるときは、右同条にいわゆる「同時に他の罪名に触れる」か否かを論ずべき時期は、右大赦令にいわゆる基準日即ち結局平和条約発効の日であつて、行為の時でないと解すべきは疑がない。しかるに、本件において、滝口幸政を除く他の被告人等の行為の公職選挙法違反以外の点たる占領目的阻害行為処罰令違反の点は、平和条約発効と同時に、即ち右大赦令の基準日において刑の廃止又はこれに準ずべきものとなつたのであるから、その行為のうち公職選挙法違反の点は右大赦令第一条第五号によつて赦免されたものと解するのは当然である。原判決の説示も畢竟右と同趣旨に出たものと解されるのであつて、所論のような大赦令第二条の解釈適用を誤つた違法は存しない。論旨は理由がない。

(裁判長裁判官 鈴木禎次郎 裁判官 蓮見重治 裁判官 細野幸雄)

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