仙台高等裁判所 昭和29年(け)19号 判決
本件異議申立の理由は記録に編綴の申立人提出の異議申立理由書記載のとおりであるからこれを引用する。
一件記録によると当庁第一刑事部は本件につき控訴趣意書提出最終日を昭和二十九年十一月十三日と指定してその通知書並びに弁護人選任に関する刑事訴訟規則第百七十七条第百七十八条の通知書は同年十月十八日申立人(控訴申立人)に送達せられたものであるから、右最終日の指定は適法なものであつたところ、申立人は右最終日までにはもちろん、その後現在迄も、弁護人選任に関する回答もせず、控訴趣意書の提出もせず、ただ当庁受附同年十一月八日及び同月十六日の二回葉書で、自分の病気を理由にして控訴趣意書提出最終日を二ケ月延長して貰いたい旨を申出でたが、当庁第一刑事部はいずれも之を却下し第一回目の分は右同月十日、第二回目の分は同月十七日それぞれ申立人に対してその旨の通知を発し、次いで同月二十九日控訴趣意書不提出を理由として控訴棄却の決定をしたものである。ところで控訴趣意書提出最終日は一旦之を指定した以上その最終日までに控訴趣意書を提出し得ない止むを得ない事情がない限り、之を変更すべきものではない。もともと一旦指定した控訴趣意書提出最終日を変更することについて刑事訴訟法に何等の規定なく、唯刑事訴訟規則第二百三十八条が裁判所は右最終日を経過した後に控訴趣意書を受取つた場合においても、その遅延がやむを得ない事情に基くものと認めるときは、之を右最終日までに提出されたものとして審判することができる旨を規定しているので、その趣旨を類推して、もしそれが後に判明したならば右刑事訴訟規則の定める如き取扱をするのが相当と認められるような止むを得ない事情が、控訴趣意書提出最終日経過前に、予じめ判明した場合には裁判所は一旦指定した右最終日を変更する旨の決定をしても差支えないものと解されるに過ぎず、この場合当事者にその変更をすることの申立権を認めた規定はなく、訴訟の実際において、当事者がその変更の申出(形式は「申立」と称しても)をするのは、裁判所の職権発動を促すだけの効力を有するに止まるものである。故に当事者から控訴趣意書提出最終日変更の申出がなされても裁判所は之を許容しない場合には、何等裁判をする必要なく、又当事者に対して右申出を許容しない旨の通報をする必要もない(尤も裁判所が念のための措置としてかかる処分をすることはもとより之を禁すべき理由はない)。故に当事者としては変更の申出を許容する旨の裁判がない限り前に指定されている最終日は変更されないものとして、之を遵守せねばならず、之を遵守しない限り、控訴趣意書不提出を理由としてその控訴が棄却されることは当然である。又当事者は自分のした控訴趣意書提出最終日変更の申出が許容されなかつた場合裁判所のこの措置に対して不服申立をすることを許した規定はなく、そもそも刑事訴訟規則第二百三十八条の趣旨から見ても止むを得ない事情の存否の認定すら裁判所の裁量に任せられているものと解すべきであるから、当事者は裁判所の右措置に対して不服を申立てる権利はないものと解さざるを得ない。果して然らば本件において、申立人は最初に指定された最終日迄に控訴趣意書を提出しなければならなかつたものであり、それなのに、その提出しなかつたのであるから本件控訴を棄却した原決定は正当である。なお記録によると、申立人の主張する以外に当時申立人が病気であつたことを認める資料はなく、仮りに病気であつたという申立人の主張を信用するとしても、その病状が指定された控訴趣意書提出最終日までに、自ら又は弁護人に依頼して控訴趣意書を提出し得ない程度のものであつたと認める資料はなく、却て申立人の提出している前記最終日変更申出の葉書二通及び昭和二十九年十一月二十四日附の上申書の形式や内容を検討すると、当時被告人は自ら控訴趣意書を作成し得ないまでも、私選又は国選の弁護人によつて控訴趣意書の作成提出をするだけの活動は十分になし得たものと認められるから、本件において控訴趣意書提出最終日を変更しなければならぬような止むを得ない事情があつたものとは認められない。以上の次第で原決定には何等違法の廉なく本件異議はその理由がない。
よつて刑事訴訟法第四百二十八条第二項第三項第四百二十六条第一項により主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 鈴木禎次郎 裁判官 蓮見重治 裁判官 細野幸雄)