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仙台高等裁判所 昭和29年(ネ)222号 判決 1958年2月10日

控訴人 元東北配電株式会社訴訟承継人 東北電力株式会社

被控訴人 佐藤義弘 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人等の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、被控訴人等代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠関係は被控訴人等代理人において「控訴人の後記主張事実は全部争う。仮に本件事故発生の際における控訴会社の高圧送電線あるいは保安装置が控訴人主張の旧電気工作物規程に違反していないとしても、右規程は単なる取締規定に過ぎないから、それに違反していないことだけでは直ちに私法上の免責事由とはならない。また本件事故発生当時長年にわたる戦争のため送電施設の資材が欠乏していたことは強いて争わないが、それだからといつて国法上最大の尊重を必要とする人命財産を軽視することはとうていできないから、右をもつて本件不法行為の責を免れ得るものではない。なお共同不法行為者たる訴外鷹島建設株式会社に対する被控訴人等の損害賠償請求権は本訴請求によつて消滅時効が中断し、未だ消滅していない。」と述べ、控訴代理人において

「一、本件事故発生当時における本件高圧架空電線は旧電気工作物規程(昭和二十四年十二月二十九日通商産業省令第七六号)第五十四条、第七十九条の要求する基準に副うた規格と安全係数をもつて架設されていたものである。故に右規程が監督官庁の永年にわたる監督上の経験と当時の実験、専問的研究の結果に基いたものである以上、この種の電線が右のような規格と安全係数をもつて架設されている限り、それは当時における科学の許す範囲において完全に施設され保持された工作物であり、従つて通常備えるべき安全性も欠けるところがなかつたものである。

二、のみならず右にいう安全性は特定の時代における資材や経済の許す範囲においてのものであれば十分であると解すべきである。本件高圧電線は五ミリメートルの裸線同様の硬銅線であつたとしても、本件事故発生当時控訴会社の前身たる東北配電株式会社(以下東北配電と略称する)においてこれを完全絶縁の新しいゴム絶縁電線に架け換えることは、全く不可能の状況にあつた。すなわち当時は未だ終戦間もない頃であり、送配電用電線のごときは所轄商工局より交付される割当切符により、しかも実際の必要量をはるかに下廻るものしか割合を受けられなかつたばかりでなく、必要に迫られていた戦災復興家屋に対する細い配電線を犠牲にしてまでも高圧用のゴム絶縁電線の割当を受けることも許されない実情にあつたし、仮にまた右東北配電がその必要量のゴム絶縁電線を入手し得たとしても、同会社管内における三千五百ボルト以下の高圧架空電線の総延長は市街地の分だけでも約二万五千キロメートル(重量に換算して五千五百トン)であり、これをゴム絶縁電線とするためには当時において金十四億九千万円を必要とし、しかも完全な絶縁状態を保持するのには少くともこれを四、五年毎に新しいものと取り換える必要があつたのに対し、電気料金の値上のとうてい望めない当時の事情からして本件高圧電線を含む右高圧架空電線の総てを完全なゴム絶縁電線に架け換えることは資材の点からいつても経済の点からいつてもとうてい不可能なことであつた。ましてその全部を地下ケーブルにし若しくは容易に切断しない太く強い電線としてケースに入れるがごときことはなおさらできない相談であつた。従つて本件高圧電線が五ミリメートルの裸線ないし裸同様の硬銅線であつたことは安全性の点において当時東北配電としてなし得た最善の方法であつたから、そこに被控訴人のいうような工作物設置保存の瑕疵はない。

三、また右東北配電の保安装置にも瑕疵はなかつた。すなわち右会社は本件事故のあつた矢吹線の保安装置として本件事故現場附近の同線第二百四十三号柱に開閉器を設置し、同線の引出用母線のある須賀川変電所内には完全な油入自動遮断器及び静電型検漏器を施設していた。これらは前記旧電気工作物規程第二十六条、第二十七条第一項、第二十八条第一項第一号が保安装置について規定しているところに従つたものである。右静電型検漏器は選択接地継電器(S・G・R)に比較して故障指示の確実性において決して劣るものではないし、選択接地継電器といえども接地の際の状況のいかんによつては常に必しも動作するとはいえないから、右須賀川変電所に静電型検漏器を設置した以上選択接地継電器を施設しなかつたとしても、保安装置に瑕疵があつたとはいえない。なおまた右保安装置により変電所においては断線事故の発生を瞬間的に知り電路を遮断することができるものであるから、断線事故の発生により最寄のスイツチのヒユーズが飛んで直ちに停電するような施設は保安装置として必しも必要ではない。

四、本件事故発生当時における事故の原因を作るに至つた足場丸太の立つていた地点と本件高圧架空電線のうち同丸太に最も近い東側の電線との距離は水平にして二米二十糎あり、本件高圧架空電線はいずれも営造物との間に前記電気工作物規程第五十八条第一項第五号の要求する以上の距離を持つていたから、この点においても東北配電の高圧電線架設施設に瑕疵はなかつた。

五、被害者関根チウの死亡は感電による瞬間死であり、また被控訴人義弘の蒙つたような傷害は三千三百ボルトの高圧電線に触れた場合僅か数秒で起る可能性があるから、六十秒以内に電流を遮断した右変電所員渡辺脩の処置は右チウの死亡及び被控訴人義弘の傷害の増大とはなんら因果関係がなかつたものである。

六、仮に控訴会社に本件事故による損害賠償の責任があるとしても、本件事故は訴外鷹島建設株式会社(以下鷹島建設と略称する)と同会社に対する上塗工事の註文者である訴外株式会社東邦銀行(以下東邦銀行と略称する)及び東北配電株式会社の共同不法行為によるものであるから、その損害賠償の責任は右三者が連帯して負うべきであり、その内部的な負担部分は各自平等であるところ、被控訴人等は右東邦銀行より各自金二十万円を受領して同銀行に対する債務を免除し、また鷹島建設に対しては事故発生の時より今日までなんらの請求をしていないから同会社の債務は事故発生の時から三年の経過によつて消滅時効が完成した。従つて東邦銀行に対する右債務の免除はその負担部分につき控訴会社にもその効力を生じ、鷹島建設の債務の時効による消滅はその負担部分につき控訴会社にもその義務を免れしめるものであるから、控訴会社は本件請求金額のうちその三分の一の支払義務があるに過ぎないものである。」

と述べ、

証拠として被控訴人等代理人において甲第十三号証を提出し、当審証人山田英太郎、仲西三良、富永万寿蔵、仲西万世の各証言並びに被控訴人義弘法定代理人佐藤義晴本人尋問の結果を援用し、当審提出にかかる乙号各証の成立を認め、控訴代理人において乙第五ないし第十二号証の各一、二を提出し、当審証人中野章(第一、二回)、鈴木武夫(第一、二回)、中黒秀和、館内三郎、森徳智の各証言を援用し、甲第十三号証の成立を認めたほか、原判決の事実摘示と同一(ただし原審証人山田英太郎の証言は第一ないし第三回と、また被控訴人等代理人援用の原審における検証の結果は昭和二十五年十月一、二日、同月三日、同年十二月二日各施行のもの、控訴代理人援用の同検証の結果は昭和二十五年十月三日、同二十六年二月四日各施行のものと補正する。)であるから、これを引用する。

理由

訴外鷹島建設株式会社が株式会社東邦銀行の注文による福島県西白河郡矢吹町大字矢吹字東側七十番地所在同銀行矢吹支店建物の外廓セメント上塗工事を請負い、訴外渡辺亀吉等を現場監督として使用し、右工事を進めて来たところ、右工事が終つたので昭和二十三年八月六日右工事のために設けた足場の取除き作業中、同日午前九時頃右鷹島建設の従業員が過失により足場用丸太を倒し、右丸太が同銀行支店建物の向つて左端上部を南北に通じる東北配電株式会社(昭和二十五年政令第三百四十二号に基いて同二十六年三月三十一日控訴会社となる)架設所有の高圧送電線三本のうち東側の一本に寄り掛つたため右電線と中央の電線とが接触してシヨウトし、因つて中央の電線が切れたこと及びその切れた電線の一端が地上に落下し、被控訴人義弘の父義晴の店先に垂れ下り、それが店の入口に置いてあつた自転車を介して同自転車の傍に立つていた被控訴人義弘の身体に触れて同人が感電受傷し、また右店舖附近に立つていた被控訴人留吉の実母関根チウの足部に触れて同人が感電死したことは当事者間に争がない。

そこで先ず本件事故が果して被控訴人等の主張するように右東北配電の工作物の設置または保存の瑕疵に因るものであるかどうかについて判断する。

一、東北配電の右高圧送電線の設置または保存に瑕疵があつたかどうか。

原審における昭和二十五年十月三日施行の検証の結果に原裁判所の証拠保全手続における証人渡辺亀吉の証言と検証の結果を綜合すると右事故発生当時における前示三本の高圧送電線を含む事故現場附近一帯の高圧送電線の状態は電線の被覆物がひどく古損し各所においてその被覆物が電線から剥離垂下していたことが推認できる。一方原審証人渡辺脩、当審証人鈴木武夫、中野章の各証言(いずれも第一回)、原審における鑑定人鈴木武夫の鑑定の結果によると本件高圧送電線は五ミリメートルの硬銅線で、当時三千三百ボルトの高圧電気が送電されていたものであるところ、前記の断線は丸太が寄り掛つたため直接起つた機械的断線ではなくて、右電線の被覆物が前記のように不完全であつたため電線が接触したとき絶縁不良から短絡電流が流れ、熔断を来たしたものか、或は短絡電流のため電線が熔け電線断面積が小となつて張力のため切断したものであつて、若し完全なゴム絶縁被覆線であれば接触してもかような断線が起らなかつたことを認めることができ、右認定を動すに足る証拠はない。そして前記検証及び原審における昭和二十五年十月一、二日施行の検証の結果並びに前記鑑定の結果によれば、事故現場は国道上であつて道路をはさんで人家が立ち並び市街地を形成し、人の往来があるのであるから、人家に近接して三三〇〇ボルトの高圧送電線を架設するときは、本件のように外力が架線に加えられ電線が互に接触する機会がないものとはいえないし、それが裸線であれば継続的接触の際は一分以内で熔断するのであるから、このような場所には危険防止の立場から完全な絶縁被覆線を架設することを要するものといわねばならない。そうすると本件事故は前示丸太を倒した鷹島建設の従業員の過失行為がその原因の一つをなしたことは勿論であるが、また東北配電の送電施設すなわち工作物の設置、保存に瑕疵があつたこともその一原因であると見なければならない。以上認定を覆すに足る証拠はない。

二、送電線の断線事故に対する右東北配電の保安装置の設置保存に瑕疵はなかつたか。

原審における昭和二十五年十月一、二日及び同二十六年二月十四日各施行の検証の結果と前出鑑定の結果によると右東北配電は本件事故のあつた矢吹線の保安装置として事故現場の電柱より数え北方十三本目の電柱の上部にオイルスイツチを設置し、また同線の引出用母線のある須賀川変電所内には油入自動遮断器及び静電型検漏器(漏電計)を施設していたことが認められる。ところで原審証人渡辺脩(第一回)、原審及び当審証人森徳智(原審は第一、二回)の各証言と右鑑定の結果によると、本件事故発生当時右油入自動遮断器は動作電流を二〇〇アンペア以上に調整していたので三相短絡電流で一五三アンペア、線間短絡電流で一三二アンペアであつた本件事故に対しては自動遮断の動作をしなかつたこと、しかし右検漏器が接地事故を示していたので前記変電所の所員渡辺脩が手動で遮断を行つて停電せしめたこと、その間東北配電矢吹散宿所員森徳智が電話による報知により事故の発生を知り現場に馳せつけ前記電柱上のオイルスイツチを遮断したけれども、右遮断は前記渡辺脩の停電措置より後であることが認められ、一方また前記証拠保全手続における証人渡辺亀吉、加藤スイ、佐藤義衛、及び被控訴人義弘法定代理人佐藤義晴の各供述、原審証人亥飼酉三郎、菊地由太郎(第一、二回)、松永辰也(第一、二回)、加藤スイ、仲西万世(第一、二回)、原審及び当審証人森徳智(原審は第一、二回)、山田英太郎(原審は第一ないし第三回)、仲西三良(原審は第一、二回)、富永万寿蔵の各証言並びに原審(第一、二回)及び当審における前出被控訴人義弘法定代理人本人尋問の結果を綜合すると、本件断線事故が発生してから電流が停るまで少くとも六、七分の時間が経過したことが認められ、右認定に反し電流は事故発生後遅くとも前記検漏器の手動操作により約一分で停止した旨の原審証人渡辺脩(第一回)、佐久間甚吉の各証言部分は前掲採用の証拠に照して措信できない。そして以上を考え合わせると本件断線事故においては自動遮断器は動作せずして停電の役目をなさず、前記検漏器の動作によつて事故発生を知り、事故発生後六、七分にしてようやく停電せしめたものというべきである。ところで前記東北配電株式会社のごとき一般社会人の生命、財産に極めて危険の多い近代的企業設備をもつて独専的に電気事業を行つているものは右危険の防止に万全の配慮をしなければならないことは勿論であるから、本件事故を起した高圧送電線に対する保安設備にしても右電線の断線が高圧電流(三、三〇〇ボルト)の流出により瞬間的に人体、財産に甚大の危害を及ぼすものである以上、その断線事故に対しては瞬時ないし極めて短かい時間において自動的に電流を遮断するものでなければよく危険防止の目的を達し得ないわけである。のみならず前記鑑定の結果と当審証人鈴木武夫、中野章の証言(各第二回)並びに前記停電までの時間の認定に挙げた証拠によれば断線事故の場合の電流の自動遮断器として前記静電型検漏器の代りに当時既に作成されていた選択接地継電器を設置するならば本件断線事故に際しても直ちに、そうでなくても二、三秒以内に電流を遮断し得たものであることが推知できる。そして以上を併せ考えるならば本件断線事故に備えて前記須賀川変電所に設置された程度の保安装置では十分のものとはいい得ず、従つてこの点において前記東北配電株式会社の右変電所の工作物は不完全であり、その設置保存に瑕疵があつたと見るのが相当である。(尤も前示のとおり本件事故発生から停電まで六、七分の時間が経過したのはその間に右須賀川変電所員の前記検漏器の手動操作の遅れなどの人為的な過ちがあつたのではないかとの疑がないではないが、これを認めて前記認定を覆すに足るだけの証拠はない。

三、右の点について控訴人は前記送電線の架設は旧電気工作物規程によれば五ミリメートル裸硬銅線で足り、あえてゴム絶縁線であることを要しないのであるから、本件送電線が五ミリメートル硬銅線である以上、その被覆が不完全であつたとしても、その設置保存の瑕疵とはいい得ないし、須賀川変電所における前記保安装置の施設も旧電気工作物規程に従つたものであるから、それらは当時における科学の許す範囲において完全な工作物であり、なんらその設置保存に瑕疵はない。また右送電線を完全なゴム絶縁被覆線とすることは、終戦間もない当時のこととて、資材の点からも経済の点からも全く不可能の状態にあつたのであり、従つて本件送電線が裸線同様の硬銅線であつたとしてもそれは前記東北配電として当時なし得る最善の方法を尽したものであつたから、そこに工作物設置保存の瑕疵はない旨抗争するので案ずるに、前出鑑定の結果によれば本件送電線の架設及び須賀川変電所における前記保安施設が旧電気工作物規程に照して違反のないものであることが認められ、また当審証人中黒秀和、館内三郎の各証言によれば本件事故発生当時右東北配電管下の市街地における三、三〇〇ボルト高圧送電線を全部完全な被覆絶縁電線に取り換えることは資材及び経済の点からいつて極めて困難な状態にあつたことが察知できる。しかしながら工作物の設置保存に瑕疵があるかどうかはその物が本来備えているべき性質や設備を欠いているかどうかによつて客観的に判定すべきものであるから、本来完全であるべき絶縁被覆電線が被覆の古損により裸線同様となつている以上、また本来断線事故に対し極めて短時間で動作すべき電流遮断の保安装置がそのように動作できないものである以上、右各工作物がもともと電気事業の監督官庁である通商産業省がその監督のため制定した取締規定たる右電気工作物規程に準拠したからといつて、また東北配電が高圧送電線の架設に当時としてなし得るだけのことをしていたからといつて、あるいは工作物の設置保存に過失がないといえるかもしれないけれども(本件においては東北配電は右各工作物の所有者であるから右過失の有無は問題とはならない)それに瑕疵がないということはできない。右電気工作物規程は保安上遵守すべき最低基準を示したに過ぎないものと解すべく、右規程に違反しないからといつて民事上の免責事由とはならない。

よつて被控訴人のこの点の抗弁は採用できない。

そこで次に東北配電の前記工作物の設置保存に瑕疵があるとしても控訴人が以下に主張するような理由によつて右瑕疵に因る損害賠償の責任を免れ得るかどうかを判断する。

一、本件事故は前記鷹島建設ないしその使用人の重過失に因るものであるから控訴会社にはその責任がないとの主張について。前示認定より控訴会社の責任と右鷹島建設の責任とは共同不法行為として両立し得る独立の責任と解されるから、右主張は採用できない。

二、本件事故は工事註文者である前記東邦銀行が前記足場取除作業に際し東北配電にその通知をすることを怠つた過失によるもので控訴会社の責に帰すべきものではないとの主張について。右足場取除作業は工事請負人である右鷹島建設の責任にかかるものと見るべきで、特別の事情のない限り右東邦銀行はこれに関し右通知等をする義務はないものと認めるべきであるから、右主張も採用できない。

三、本件事故は右東邦銀行及び鷹島建設と東北配電との共同不法行為(負担部分は各自平等)に因るものであるところ、右東邦銀行と被控訴人等との間に示談が成立し、被控訴人等は同銀行より各自金二十万円を受領して同銀行の債務を免除し、また右鷹島建設の債務については消滅時効が完成したから、控訴会社は右両会社の負担部分につきその義務を免れたとの主張について。しかしながら右東邦銀行は前記上塗工事については註文者の立場にあるものであるから、格別の事情のない限り右工事に関し損害賠償の責に任ずべきいわれのないことは前認定のとおりで、従つて同銀行が本件事故の共同不法行為者であることを前提とする右主張は当らないし、また右鷹島建設が右共同不法行為者として連帯責任を負うべきものとすれば、被控訴人等の本訴請求は鷹島建設にもその効力を生ずべきもの(民法第四百三十四条)であるから、鷹島建設の債務は控訴会社の債務と同様消滅時効にかかるいわれはなく、右消滅時効完成を前提とする主張も当らない。なお被控訴人等が右東邦銀行との示談に際し右金二十万円を受領したから、控訴会社は最早損害を賠償すべき義務はないとの主張も、前説示のごとく東邦銀行にはもともと損害賠償の責は認められないのである(被控訴人等が各自金二十万円を右銀行から受領したことは被控訴人等の認めるところであるが、右各二十万円はこの場合同銀行が徳義上被控訴人等に支払つたものと見るほかはない。)から、採用の限りではない。

四、本件被害者両名の蒙つた死傷の損害は瞬間的ないし数秒で起り得るものであるから、本件事故発生より停電までの時間の経過は右損害と因果関係がない趣旨の主張について。しかしながら関根チウの感電死や被控訴人義弘の感電受傷の結果が瞬間的ないし数秒間に確定的に発生したことを認めるに足るだけの証拠はない。尤も原審における鑑定人森文雄の鑑定書には関根チウの感電死は瞬間死である旨の記載があるが、その説明を見るとその意味はチウの場合数時間ないし数日後に死亡する遅延死ではないから瞬間死と考えるほかなく、あるいは数秒で死亡したかもしれないという趣旨であつて、文字どおりの瞬間ないし、二、三秒で死亡したことを断定したものではないから、右記載をこの点の資料とすることはできない。却つて本件事故発生より停電までの経過時間認定に援用した前掲証拠によつて認められる事故発生当時の模様から見れば右死傷の結果は被害者に対する電流の接触が多少とも長引いたことによるものであることを察知するに十分であるから、右主張も採用できない。

以上のとおりであるとするなら控訴会社は他の判断をまつまでもなく前記工作物の保存設置の瑕疵を原因とする本件事故に因り被控訴人等が蒙つた損害につきその賠償の責に任じなければならないわけである。

よつて更に被控訴人等の蒙つた右損害の程度及びその賠償額の点について案ずるに、当裁判所は原判決とこの点の事実の確定並びに法律上の判断を同じくするので(ただし被控訴人義弘の労働力半減による損害について同被控訴人が現在((当審口頭弁論終結当時))即時に支払を受けるべき賠償額の計算は金四十四万九千九百九十二円((銭以下切捨))となる。)原判決のその理由記載をここに引用する。そうすると被控訴人義弘の請求は少くとも原判決認定の金六十八万四千七百三十二円の範囲において、また被控訴人留吉の請求は金五万円の範囲において正当であるから、本訴請求をこの限度において認容した原判決は相当で、本件控訴はその理由がない。

よつて民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石井義彦 上野正秋 兼築義春)

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