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仙台高等裁判所 昭和29年(ラ)7号 決定 1955年12月27日

抗告人 村山重三郎(仮名)

被抗告人 村山三郎(仮名) 外一名

主文

原審判を取り消し、本件を仙台家庭裁判所気仙沼支部に差し戻す。

理由

本件抗告の理由は別紙抗告理由書記載のとおりである。

よつて案ずるに抗告人が当審において主張するところに原審判手続において顕れなかつた新たな事実ないし不明確であつた事実を具体的にしたものであり、しかもこれらの事実は推定相続人廃除の事由として一応取り上げられるべきものと解されるところ、原審判手続ではその主張立証が尽されておらない。しかして右はことの性質上家庭裁判所である原審において更に取り調べるのが相当であり、且つそのうえにおいて抗告人の請求の当否を判断するのを妥当と考える。

よつて抗告人の請求を排斥した原審判は上記の趣旨において結局相当でないことに帰するからこれを取り消すべきものとし、民事訴訟法第四百十四条、第三百八十六条、第三百八十九条に従い主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 村木達夫 裁判官 石井義彦 裁判官 上野正秋)

抗告理由

一、被抗告人三郎は抗告人の養子であり被抗告人さちは抗告人の長女であり被抗告人三郎の妻でありともに抗告人の推定相続人であるが被抗告人等は(い)昭和二十五年三月○日抗告人夫妻に無断で家出し同月○日村山栄一、村山豊両名の口添でその非行を詫びて抗告人方に復帰し(ろ)その長男正明に事毎に意見の対立を来し遂に同月○日正明夫妻をして家出するの止むなきに至らしめ(は)同年五月下旬には抗告人に何等謀るところなく抗告人所有山林の松立木約千石を○○○○○株式会社に売渡し抗告人より同松立木の売渡先、売渡石数、売渡代金等につき説明を求めてもその回答をなさず(に)同二十六年八月○日には抗告人の妻サキが杏の実を隣の子供等に売却するや被抗告人さちは同人の植えた杏の実を無断で売却されたと怒り高血圧であつたサキを殴打し土足で蹴り全治まで一ヶ月を要する打撲傷をサキの両腕腰部等に与えたので抗告人は見兼ねてその暴行を中止させようと中に入つたところ同被抗告人は抗告の下衣を掴んで引きずり倒し下衣をひきさき老齢の抗告人を散々殴打し(ほ)同年十月○○日には抗告人夫妻及び被抗告等の長男にして一人息子である正明に何等謀るところなく西山由子と養子縁組をし次いて同月○○日には村山庄治を同女の夫に迎えその結婚式を挙げ(へ)同二十七年七月中旬には被抗告人さちは抗告人の妻サキに対し抗告人方より退去すべきことを再三要求し(と)同年八月六日には抗告人夫妻に対し爾後抗告人夫妻に対する扶養を打ち切る旨を宣告し老齢の抗告人夫妻をして将来の生活に不安を感せしめ遂に同年十月中旬抗告人をして孫正明に将来の扶養を懇請せしめ抗告人と正明間に抗告人所有の不動産中山林につき売買の契約をなさしめ山林売買の成立したことを知るや同年十一月○○日抗告人及び正明を相手とり売買無効確認の訴を提起し正明に対しては同年十二月○日同人が抗告人から買受けた山林の処分禁止の仮処分を申請してその旨の仮処分をなし(ち)昭和二十八年二月○○日には抗告人に何等諮るところなく抗告人家の一部に抗告人夫妻と別居しその別居に際しては抗告人に無断で抗告人のもとに籾三俵と白米三升を残したのみでその余の抗告人家の保有米全部を持ち去りそのため抗告人夫妻をして飯米を他より購入して生活するの止むなきに至らしめ爾後今日に至るまで依然別居生活を続け老齢な抗告人夫妻に対し食事の世話はもとより全然扶養の義務をつくさないのみでなく爾後再三抗告人夫妻に対し抗告人所有の建物からの立退を強要し(り)同年二月○○日及び同年三月○日の両度にわたり抗告人が農耕のため雇入れた山内朝男外一名が抗告人のため抗告人所有の農地において整地作業中鍬、スコツプ等を振りあげて強迫し同人等をして農耕を中止するの止むなきに至らしめ(ぬ)同年三月下旬には老齢の抗告人夫妻と別居したのに拘らず抗告人に何等謀るところなく居村農業委員会に対し抗告人所有の全農地の耕作権は自己にある旨の届出をする等の所為に出でたものである、被抗告人等の叔上の所為は抗告人を虐待し且つ抗告人に対し重大な侮辱を加えたものと謂わなければならないのである。

仍つて抗告人は原審に被抗告人等に対する推定相続人廃除の申立をしたところ、原審は仙台家庭裁判所気仙沼支部(家)第六十、六十一号推定相続人廃除請求事件において抗告人の右申立を却下する旨の審決をしたのである。

二、原審が抗告人の前記申立を却下する理由とするところは被抗告人等が(一)抗告人及び長男正明に対し土地売買無効確認等の訴訟を堤起しその目的不動産について正明を相手方とする処分禁止の仮処分申請をし次いでその旨の処分をなし(二)居村農業委員会に抗告人所有農地の耕作者名義を抗告人より被抗告人名義に変更することを相談し(三)昭和二十八年一月○○日抗告人夫妻と炊事を別にし別世帯として生活を始め現在もこれを継続し炊事を別にする際抗告人方の保有米の大半を持ち運び(四)被抗告人等には長男正明があるのに拘らず西山由子を養子に迎え同女に夫を迎える等の所為に出でたのは(甲)抗告人方は相当の農地山林を有し地方農家としては裕福な生活をして居り男子がなかつたので被抗告人三郎を養子として迎え同人を被抗告人さちにめあわせ家業を継続せしめようとし抗告人夫妻は既に老齢に達したので最近は被抗告人等が家業を主宰して来た関係から抗告人は近親者立会の上抗告人が先代より継承した資産を被抗告人等の自由に委ねる旨を同人等と口約していたのに拘らず抗告人は被抗告人等が抗告人夫妻及び長男正明の了解をうけることなく西山由子を養女に貰い次いで同女に夫を迎えその結果被抗告人等につき新戸籍が編製されたことを知り頑くなにも被抗告人等に将来抗告人を扶養するの意思なく別世帯をなすに至つたものと速断し老後は孫明正の世話を受けんものと同人の呼戻しを図り被抗告人等との前記口約に反し所有山林の殆んど全部を売買名義で正明に所有権移転登記をなしたこと(乙)被抗告人等が正明に対し前記処分禁止の仮処分決定を求めたところ正明は抗告人の一方的言辞により一途に抗告人に同情し穏便に解決することに心を用いず被抗告人等に対し起訴命令の申立をなしたこと及び(丙)被抗告人等が本案訴訟提起前に抗告人を相手方とし所有権移転登記を求めるため調停の申立をしたのに抗告人及び正明は不出頭の意思を表明し期日出頭しなかつたため調停に至らずして終了したこと等抗告人の頑くなな性格長男正明の偏見による所為等に因るところが大きいから被抗告人等の前記(一)乃至(四)の所為は民法第八百九十二条所定の事由に該当するとは認め難いと謂うにあるのである。

三、然し前記(ほ)に述べたように被抗告人等が西山由子を養子としたのは昭和二十六年十月○○日であり同人を養子に迎えることにつき被抗告人等が抗告人及び長男正明に十分了解を遂げなかつたことは原審の認定したところであり被抗告人等が同女を養子とすることは被抗告人等の両親である抗告人夫妻にとつても亦被抗告人等の推定相続人等である長男正明その他の子女にとつても重大な事柄であることは謂うを俟たないところであるこのような重大な事柄を決行するに先ち被抗告人等がその両親である抗告人等夫妻に対し何等謀ることがなかつたことは抗告人等夫妻を甚しく軽侮したものと謂うべく被抗告人等のこのような所為は抗告人に対し民法第八百九十二条に所謂重大な侮辱を加えたときに該当するものと謂わなければならないのである抗告人は前記(と)に述べたように昭和二十七年十月中その所有山林を孫正明に売渡す旨の契約をなし同年十一月○○日その旨の移転登記を了したものであるが抗告人がこのように正明に対し山林の所有名義を移転したのは被抗告人等に前記のように抗告人夫妻に謀ることなく西山由子を養子とするというが如き抗告人夫妻を軽侮するような所為があつたためであるから抗告人がこのような所為に出でたのは被抗告人等が抗告人夫妻に対しこのように重大な侮辱を加えたことに誘発されたものと謂い得るのである。被抗告人等において抗告人をしてこのように山林の所有名義を正明に移転せしめる所為を誘発せしめる所為に出で乍ら抗告人が被抗告人等の誘発に因り所有山林の所有名義を正明に移転するや抗告人を相手どり土地売買無効確認の訴訟を提起した被抗告人等の所為も亦抗告人に対し重大な侮辱を加えたものと謂わざるを得ないのである。

また被抗告人等に前記(い)乃至(ぬ)のような所為がありつぶさにこのような所為を見聞している限り正明が老齢の抗告人夫妻に同情することは当然であり被抗告人等が自ら抗告人をして所有山林名義を正明に移転せしめることを誘発して置き乍ら抗告人に於てその誘発に因り所有山林を正明名義に移転するや同人に対し仮処分を申請し抗告人に対し調停の申立をなしたものである限り正明が被抗告人等に対し起訴命令の申立をなすことは寧ろ当然であり抗告人及び正明が被抗告人等の申立てた調停に協力しなければならない謂も亦ないのである。

以上のように被抗告人等が原審の判示する前記(一)乃至(四)の所為に出でたのは総て被抗告人等において前記(ロ)のような所為に出で抗告人をして前記(と)のような所為を敢てするように誘発したことに起因するものであるから被抗告人等のこのような所為は抗告人及び正明が誘発したものと謂うことはできないのである被抗告人等に原審の判示する前記(一)乃至(四)の所為のある限り同人等のこのような所為は抗告人に対し民法第八百九十二条に所謂虐待をし重大な侮辱を加えたときに該当するものと謂わなければならないのである。

仮りに原審の認定するように被抗告人等の前記(一)乃至(四)の所為が抗告人及び正明に因り誘発されたものであるとしても被抗告人等の前記(三)の所為は老齢の抗告人夫妻に対し甚だしく行き過ぎた報復であり抗告人の推定相続人として甚たしく道義に背く虐待というべく被だ抗人等のこのような所為は抗告人に対し民法第八百九十二条に所謂虐待をしたときに該当するものと謂わなければならないのである。

叔上の次第であるから前記のような理由で抗告人の推定相続人廃除の申立を却下した原審決定は違法であり取消を免れないものと信ずる。

四、然も被抗告人等には原審が判示する前記(一)乃至(四)の所為があつたのみでなく前記(い)乃至(ぬ)のような所為がありこれ等の所為は明らかに民法第八百九十二条に所謂抗告人に対し虐待をし重大な侮辱を加えたときに該当するものであるから被抗告人等にこのような所為の存する限り抗告人の推定相続人廃除を免れないものである然るに原審はこの点につきつくすべきをつくすことなく慢然前記のように判示し抗告人の前記申立を却下した違法があるからこの点においても取消を免れないものと信ずる。

五、叔上の次第であるから抗告の趣旨の御裁判を求めるため本抗告に及ぶ次第である。

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