大判例

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仙台高等裁判所 昭和30年(う)224号 判決

詐欺罪の成立には犯人の欺罔行為と相手方の錯誤に基く財産的処分行為のあることを必要とし、刑法第二百四十六条第二項にいわゆる財産上不法の利益を得るとは、相手方の錯誤に基く処分行為によつて財産上不法の利益を取得する場合をいうのである。

ところで、原判決は刑法第二百四十六条を適用している所論原判示第六において、「被告人は昭和二十九年十二月二十二日原判示松屋旅館こと石橋和子方で同人に対し宿泊を申込み一泊し、翌日宿泊料金六百三十円の支払をしないで同旅館より逃亡し、よつて同額の財産上の不法の利益を得た」旨判示するのみで、被告人が欺罔手段を施したこと及び相手方が錯誤に陥り財産的処分行為をなしたことの判示を全く欠如し、詐欺罪の事実説示として理由不備の違法あるものである。しかし、その挙示する証拠及び被告人の司法警察員に対する昭和三十年一月二十一日附供述調書によれば、被告人は右松屋旅館に赴き宿泊を申込んで一泊し、翌日朝食後午前九時十五分頃係女中前田マサに対し「外出して夕方帰るから」と告げ、同女中の知らせで同旅館の女主人石橋和子も女中と共に玄関まで見送り、同女等は被告人が夕方戻つてきてまた泊るものと信じて勘定も請求しなかつたところ、被告人は宿泊料を支払わないでそのまま逃亡したものであること、他方被告人は宿泊する時現金二千四、五百円及び為替で二千円ほど所持しており、宿泊料金を支払う考えであつたが、翌朝隣室の客の現金九万円余を窃取したので、すぐ逃げないとつかまる心配があつて、宿泊料を支払わずに立去つたものであることが認められる。されば、被告人は同旅館の女主人和子に対し外出して夕方帰つてくるからと欺罔手段を施し、それにより錯誤に陥つた同女はその際当然即時なすべき宿泊料の支払請求をせず、即ちその処分行為によつて被告人は事実上一時宿泊料の支払を免れたものであつて、所論のように被害者が処命行為をなしたと認むべき証拠がなく無罪であるとなすは当らない。

また、原判示第四において、原判決は「被告人は同年十月二日原判示田村屋旅館こと鈴木キミ方で同人に対し宿泊方を申込み、夕食後料金を支払わないで同旅館より逃亡し、よつて半宿分の料金六百五十円の支払を免れて同額の財産上の不法の利益を得た」旨判示するだけで、刑法第二百四十六条を適用している詐欺罪の判示として前同様の理由不備の違法をおかしているのみでなく、その挙示する証拠によつては、被告人が欺罔手段を施した事実及相手方が錯誤に陥り財産的処分行為をなした事実は認められない。しかし、被告人の司法警察員に対する昭和三十年一月十七日附、同月二十一日附各供述調書、検察官に対する第一回供述調書、及び当審証人一条トシ子の証言によれば、被告人は右日時右田村屋旅館に宿泊を申込んで風呂に入り夕食をとつた後、午後八時過頃同旅館女中に対し「出かけて来るから、靴を出して下さい」と告げて出かけたので、同女中は被告人が外出してまた戻つてきて泊るものと信じて勘定を請求しなかつたところ、被告人は半宿料を支払わないでそのまま逃亡したものであること、他方被告人は同旅館には以前二回ほど泊つたことがあり、当夜も現金一万円位所持しており、宿泊料を支払わない考えはなかつたが、向いの部屋の客の現金十四万余円を窃取したので、いつまでもそこにいることは危険と感じて宿泊料を支払わずに直ぐ逃亡したものであることが認められる。されば、被告人は同旅館の主人の代理人である女中に対し外出してくるからと欺罔手段を施し、それにより錯誤に陥つた同女中はその際当然即時なすべき半宿料の支払請求をせず、即ちその処分行為によつて被告人は事実上、一時、半宿料の支払を免れたものであつて、この点に関する所論も当らない。

以上の次第で、原判決は理由不備の点において違法をおかしたものであり、そして、右原判示第四、第六の事実と原判示その余の事実とを併合罪として一個の刑を科しているのであるから、原判決は全部破棄を免れない。論旨は結局理由がある。

そこで、弁護人の量刑不当の控訴趣意に対する判断は後記自判の際示されるのでここにこれを省略し、刑事訴訟法第三百九十七条第三百七十八条第四号により原判決を破棄し、同法第四百条但書により当裁判所において更に次のとおり判決することとする。

(罪となるべき事実)

当裁判所の認定した事実は、原判示第四及び第六の各事実を次のとおり改めるほか、すべて原判決摘示の事実と同じであるから、これを引用する。

「第四、同日午後四時頃右田村屋旅館こと鈴木キミ方に赴き同人に対し宿泊を申込んで、風呂に入り夕食をとつたが、午後八時過頃前記宿泊人辻喜代司所有の現金を窃取後、半宿料を支払わないで逃走する意思であり後日これを支払うことも困難であるのにその情を秘して、同旅館の女中某に対し、外出してくるからと申詐り、同女中をしてその旨誤信させ、同女中をして当然即時なすべき半宿料の支払請求をさせないで同旅館を立去り、因つて半宿料六百五十円の支払を事実上免れて財産上不法の利益を得」

「第六、同月二十二日午後四時頃前記松屋旅館こと石橋和子方に赴き宿泊を申込んで一泊し、翌二十三日午前九時過頃前記宿泊人金子徳三郎所有の現金を窃取後、宿泊料を支払わないで逃走する意思であり後日これを支払うことも困難であるのにその情を秘して、同旅館の女中を通じて旅館主石橋和子に対し、外出して夕方帰つてくるからと申詐り、玄関まで見送つた和子をしてその旨誤信させ、同女をして当然即時なすべき宿泊料の支払請求をさせないで同旅館を立去り、因つて宿泊料六百三十円の支払を事実上免れて財産上不法の利益を得」

(裁判長裁判官 鈴木禎次郎 裁判官 蓮見重治 裁判官 細野幸雄)

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