大判例

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仙台高等裁判所 昭和30年(う)310号 判決

先ず職権を以て調査するに、原判示第一の被告人が摂待ミキを強いて姦淫しようとしたが騒がれて目的を達しなかつた犯行の日時は昭和二十八年四月初旬頃であるが、ミキの実母摂待ハナが本件告訴をしたのは昭和二十九年三月二十七日であつて、事件発生後右告訴の日迄は約一年を経過しているのである。

ところで、刑事訴訟法第二百三十五条第一項の「犯人を知つた」というのは、犯人の氏名を確知する必要はなく、その何人であるかを他の者と弁別し得る程度に認識すれば足るものと解すべきである。けだし、犯人が何人であるかを知ることは、告訴をするか否かの意思決定に重要であるが、右の程度の認識があればその意思決定に差支ないものと考えられるからである。

しかるに、摂待ハナの告訴調書中のハナの供述の大要は、「昨年(昭和二十八年)三月末か四月初めと思うが、私が家に居ると、年齢二十五、六歳位で、肥つた人で赤ら顔な中背で、色はわからないが服を着た人が自転車をひいて来て、前川さんという人や摂待さん佐々木さんのことを尋ね、佐々木さんの家を教えて貰いたいというので、長女の数え年十三歳のミキに案内させたところが、三十分ほど経つた時泣いて帰つて来て、今の男に松山に連れ込まれ、首を締められて倒され、ズボンを脱されたが、その男が少し脇へ行つて小便している隙に逃げ帰つたという話であり、幸に未遂だつたからよかつたので、それで今迄届出でしなかつたが、被害者の母としてその男が判つたら厳重処罰を望む」というのであり、更に原審証人として「その男は背丈は五尺幾ら位と思うが、余り大きい方でなく、年齢は二十三、四歳、特徴は丸顔の赤い顔で眼が大きい男であつた」と述べ、被告人を示されて、「顔の形はこんなで眉と眼のあたりが似ていて、背丈もこの位であつたが、ただも少し肥つていたように思う」と述べているのである。

これによれば、被害者ミキの実母ハナは被害当時犯人を他の者と弁別し、告訴をする積りならばできる程度に認識していたものというべく、ただ未遂で実害がなかつたので告訴しなかつたが、その後前記昭和二十九年三月二十七日警察から呼出をうけて、右被害当時の認識をそのまま供述したものであつて、右呼出をうけた告訴当時にはじめて犯人を特定し得る程度に知つたものと認むべきではない。然らば、原判決は告訴者が犯人を知つた時から六個月を経過しているのに拘らず、然らざるものと誤認して不法に公訴を受理したものであるといわねばならない。そして、原判決は右原判示第一の事実と原判示第二の事実を併合罪として一個の刑を科しているのであるから、原判決は全部破棄を免れない。

(裁判長裁判官 鈴木禎次郎 裁判官 蓮見重治 裁判官 細野幸雄)

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