仙台高等裁判所 昭和30年(う)377号 判決
しかし、欺罔手段による売買名義の代金が一括して不可分に定められている場合には、たとえその目的物の一部は実際に売却する権限があつたとしても、その代金の全額につき詐欺罪が成立するものと解するのが相当であつて、その目的物が可分であると否と、相手方においてその一部のみでは買受けなかつたであろうと否とは問うべきでない。けだし、売却権限のない部分とある部分との一括売却とこれに対する金員の交付とは共に不可分の関係において対立し、従つて又その間不可分的に因果関係の存するものと認められるからである。本件において、原判決挙示の証拠によれば、被告人は米里村青年団より売却方を依頼されていた原判示地内山林約七反歩に生立する同青年団所有の松立木と、これに隣接する同村所有の原判示山林約七反歩に生立する松立木とを一括して、その全部が同青年団所有の松立木で被告人が同青年団からその売却方を依頼されていると詐称して、両者を不可分的に十三万円で売却したものであることが認められ、欺罔手段による右両山林の一括売却とこれに対する代金として交付された右十三万円全額との間に不可分的に因果関係が認められるから、右十三万円全額につき詐欺罪の成立を肯認し得るのである。論旨は、適法な部分が僅少ならば格別、本件は被告人が同青年団から売却方を依頼された松立木の代価は九万円として同青年団に交付しており、被害者も適法部分のみならば買受けなかつたであろうと認められる事実もないから、目的物全体につき詐欺罪の成立を認めたのは違法である旨主張する。成程、青年団所有の松立木は九万円でその代金は被告人から同青年団に交付されたことが認められるが(同六四丁裏)、それは被告人と青年団との内部関係であつて、被告人と被害者たる原判示工場長代理鬼柳との関係においては、青年団所有松立木及び村所有松立木につき各別に売買契約を締結したのではなく、前叙の如く両松立木を一括して不可分的に代金十三万円と定めたものであつて、右両松立木一括売却と右代金十三万円交付との間には不可分的に因果関係があり、従つて又、仮令、所論のように、被害者鬼柳において被告人に処分権限のある青年団所有の松立木のみならば買受けなかつたであろうと認められる事実もないとしても(同一一五丁表)、右は交付代金十三万円全額につき許欺罪の成立することを何等妨げるものではない。されば、原判決には所論のような法律の解釈適用を誤つた違法は存しない。論旨は理由がない。
(中略)
次に、職権を以て調査するに、原判決は原判示第一の一個の詐欺罪と原判示確定判決を経た罪とを刑法第四十五条後段の併合罪として同法第五十条に則り処断するに当り、「同法第四十七条第十条により詐欺罪の刑に法定加重をした刑期範囲内で」被告人を懲役八月に処している。しかし、刑法第四十五条は単に併合罪の意義を定めたものであつて、併合罪の関係にある数罪は常に必ず同時に審判せねばならぬ旨を定めた趣旨ではなく、そして同法第四十七条により併合罪の加重を施す問題を生ずるのは、同一人につき二個以上の犯罪があつて且つ同時にその裁判をなす場合に限るのである。それ故、確定裁判を経た罪とその裁判確定前に犯した一個の罪とあるときは、両者の関係は同法第四十五条後段の併合罪であり、同法第五十条により未だ裁判を経ない右裁判確定前に犯した罪につき更に処断するわけであるが、右罪は一個であり、もとより右確定裁判を経た罪と同時に裁判するのではないから、同法第四十七条により右一個の罪につき併合罪の加重を施すの余地がないのである。されば、原判決は判決に影響を及ぼすことの明かな法律の解釈適用を誤つた違法をおかしたものといわざるを得ないのであつて、原判決中原判示第一の罪に関する部分は破棄を免れない。
(裁判長裁判官 鈴木禎次郎 裁判官 細野幸雄 裁判官 石井義彦)