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仙台高等裁判所 昭和30年(ツ)23号 判決 1955年12月27日

上告人 被告・控訴人 門馬力

訴訟代理人 今野佐内

被上告人 原告・被控訴人 木幡正治

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

本件上告理由は末尾添附別紙記載のとおりである。

当裁判所は右に対し次の如く判断する。

農地法第十九条は「農地の賃貸借について期間の定がある場合において、その当事者がその期間の満了の一年前から六箇月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知をしないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものとみなす」と規定して居り右の黙示の更新については民法(第六百十九条)の賃貸借の原則に従つて解釈すれば正に原判決の如く更新後の契約については期間の定めなきものとなるのであつて、上告人主張のような「同一の条件」と云う文字から存続期間も従前と同一なりと当然に解釈すべきものとは云い得ない。農地法が借地法のように法定更新の制度を作り上げたものとするならばその存続期間について借地法第六条第一項と同様特別に定めを為すべきであるのにこれが特別の規定のないことを考えれば結局前記農地法の規定は民法の賃貸借の原則に基いて解釈するを相当と認めるから原判決にはなんら法令の適用を誤つたとか若しくは理由にそごがあるという如き違法はなく、所論は総て理由がない。

従つて本件上告はこれを棄却すべきものとし民事訴訟法第四〇一条、第九十五条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 板垣市太郎 裁判官 檀崎喜作 裁判官 沼尻芳孝)

上告代理人今野佐内の上告理由

原判決には法令の適用を誤りたる理由あるか又は理由に齟齬がある。

原判決は、「期間の定めある農地の賃貸借が農地法第一九条の規定に基いて更新されたときは、期間の定めのない賃貸借となるのであり、賃貸人は、知事の許可を経て、その後何時でも解約の申入をすることができるのであるから、控訴人の主張は理由がなく」と判示した。尤も民法賃貸借の更新について、下級審の判決として、土地の賃貸借の期間経過後、引続き其地所を使用せしめ居りたるときは、土地所有者は、右期間経過後、更めて期間の定なき賃貸を為したるものと認むるを相当とす(大正七年(ワ)第一〇八一号同年一一月二八日東地民四判)との判例はあるが、此の解釈は本件の場合について適用さるべきでない。

農地法第一九条によれば、農地の賃貸借について期間の定がある場合に於て、その当事者が期間の満了前一年から六ケ月の間に於て、相手方に対し更新しない旨の通知をしないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸したものとみなされるのであるから、本件に於て、被上告人主張のように、昭和二十九年三月二十一日契約解除の通知が為されたとしても、本訴土地賃貸借は、昭和二十八年十二月三十一日の期間満了前に被上告人から何の通知もなかつたから、更に従前の契約と同一の条件(農地法には期間の点についてのみの除外規定は見当らぬ。)で更に満五年賃貸したものであり、従つて右賃貸借は昭和三十年十二月三十一日を以て終了するものである。

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