大判例

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仙台高等裁判所 昭和31年(う)163号 判決

一、論旨は、原判示の深谷和子は、被告人が同人に賄賂の申込をした原判示昭和二九年一一月二四日当時福島県石城郡好間村役場の臨時雇であつて、いわゆる公務員ではない旨主張する。

そこで、所論深谷和子が公務員であるか否かを考察するに、記録に徴すると、右深谷は、昭和二七年八月一日福島県石城郡好間村村長から二ケ月の期間を定めて臨時雇として任命され、右二ケ月の期間経過後も引続きそのまゝ臨時雇の身分で同役場の社会係に所属し、外国人の登録の申請を受理し、登録原簿を作成し、登録証明書を交付し、登録原簿及び登録証明書の記載事項を書き換え、登録証明書の返納を受理し、その他外国人の登録に関する事務を担当していたものであつて、給与も定期的に昇給し、これを受けていたものであるが、昭和三〇年一月一日から始めて本雇の待遇を受けるに至つたものであることが認められる。

ところで、地方自治法一七二条によれば、一項に「前一一条に定める者を除くの外、普通地方公共団体に吏員その他の職員を置く。」とあり、二項には「前項の職員は、普通地方公共団体の長がこれを任免する。」、四項に「第一項の職員に関する任用……に関しては、この法律に定めあるものを除くの外、地方公務員法の定めるところによる。と規定されて居り、更に、地方公務員法二二条には臨時的任用の場合も規定されているのであるが、地方公務員法は昭和二五年一二月一三日公布されたが、同法二二条は同法附則一項により、右公布の日から二年六月を経過した(同項所定のその他の地方公共団体につき)昭和二八年六月一三日から施行され、前記深谷が石城郡好間村村長から任命された昭和二七年八月一日当時はまだ施行をみなかつたので、右深谷は好間村村長から専ら右地方自治法一七二条一項、二項の規定によつて任命されたものであると解されるのである。

尤も、右地方自治法一七二条三項によれば、「第一項の職員の定数は、条例でこれを定める。但し、臨時又は非常勤の職については、この限りでない。」と規定され、これに基き、好間村職員定数条例が設けられ、同条例一条には、二ケ月以内の期間を定めて雇傭されるものを除くとあり、深谷は二ケ月以内の期間を定めて雇傭されたものに該当するので、好間村の職員定数から除外されていることが明かであるが、右は定数に含まれないというだけのことであつて、地方自治法一七二条一項の職員であることには変りないものと解するのを相当とする。

しからば右深谷和子は任用に当つては前掲のように法令の根拠にもとずくものであるから、その任用の当初は刑法七条にいう公務員の地位にあつたものであるものといわなければならない。

しかし、前記のように、地方公務員法二二条は、昭和二八年六月一三日から施行されたものであるところ、同条五項によると、臨時任用の場合、任命権者は六月をこえない期間で任用し、更にその任用は六月をこえない期間で更新することができるが、再度更新することはできない旨規定している(なお、同条二項には人事委員会を置く地方公共団体においては、任命権者は臨時的任用の場合も、更新の場合も人事委員会の承認を得ることを必要とする旨規定しているが、記録に徴するに、本件石城郡好間村は人事委員会を置かない地方公共団体であることが窺われる)ので、臨時的任用の場合の期間は更新しても一年を超えることが許されないことが明かである。しかるに、好間村村長は昭和二七年八月一日前記深谷和子を二ケ月の期間を定めて臨時雇として任用し、右地方公務員法二二条が施行された後も何等の手続を経ることなく、そのまゝ昭和三〇年一月一日本雇としての待遇を与えるまで臨時雇として前記のような外国人の登録に関する事務を担当せしめ、かつ、その間定期的に昇給を行い、給与を支給し来つたものであるから、深谷が原判示昭和二九年一一月二四日当時も公務員であつたか否かを更に検討しなければならない。

好間村村長の深谷に対する前認定の措置からすれば、同村長は深谷の任用に関し、黙示的に更新を重ねて来たものと解されるのであるが、右は地方公務員法二二条が施行された昭和二八年六月一三日以後は同法条の更新制限規定に反し、違法であることは明かである。しかし、任命権者が右法条に違反して任用期間を更新した場合、任用者は当然その地位を失うものと解せられない。けだし、地方公務員法は同法二二条二項、及び三項によつて、人事委員会を置く地方公共団体における臨時的任用、並びに任用期間の更新について規定し、同条四項によつて、「人事委員会は前二項の規定に違反する臨時的任用を取消すことができる。」旨規定しているのであつて、人事委員会を置かない地方公共団体においては同条五項の規定に違反した臨時的任用について取消の規定は設けていないが、この場合任命権者自らこれが取消をなし得るものと解すべきであり、右規定の趣旨からするも、取消その他何等かの手続を経ることなく当然失職するものとは解せられない。

果してしからば、前記深谷和子は任命権を有する好間村村長から地方自治法一七二条の規定によつて任命され、その後任用期間は更新されたのであつて、右更新が地方公務員法二二条の規定に反し違法ではあるが、任用を取消されることなく、原判示昭和二九年一一月二四日当時も好間村役場の外国人の登録に関する事務を担当していたものであるから、その地位は刑法七条にいわゆる「法令により公務に従事する職員」すなわち公務員であるといわなければならない。

なお考えるに、刑法が賄賂罪等の公務員に関する犯罪を定めているのは、公務の威信とその公正を維持することを目的とするもの、即ち公務に対する国民の信頼の侵害を内容とするものであるから、当初法令によつて任命する権限ある者により任用され公務に従事している者に在つては、偶々任用の手続が関係法令に違反し無効である場合においても、外部からみて何人もその公務乃至公務員たることに疑をいれる余地がないような場合には、その任用につき無効の有権的な宣言乃至はこれに準ずべき措置がとられるまでの間はその者の行う執務に対する公務としての威信と公正は維持さるべく、国民の公務に対する信頼は保護されなければならないから、刑罰法規の適用に関してはなおこれを法令により公務に従事する職員と解するのを相当とする。而して深谷和子に対する好間村長の任命、処遇、和子の執つた事務の内容、執務の情況に関する前叙の事実関係に徴すれば、右の理由によつても同人はなお刑法に所謂公務員というべきである。然らば被告人が右深谷の職務に関し賄賂の申込をした事実を認定し、これに対し刑法一九八条に問擬した原判決には所論のような違法ありとすることはできない。

二、論旨は、被告人は加藤順一及び原審相被告人李康烈の両名から外国人登録証明書の交付を受け得られると欺かれ、深谷和子に原判示の現金一九、〇〇〇円を交付した旨主張するが、仮に所論の如く欺されたとするも、右は単に犯行の動機たるに止まり、犯罪の成否に影響するものではない。而して、原判決挙示の証拠によれば、被告人は原審相被告人李康烈と共謀して、深谷和子に対し原判示趣旨の下に現金一九、〇〇〇円を交付し、同人の職務に関し賄賂の申込をしたものであることを認めるに十分である。

論旨はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官 板垣市太郎 裁判官 有路不二男 裁判官 杉本正雄)

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